独自のセンスで道を切り拓く新鋭アーティスト xiangyu | On The Rise
ユニークな楽曲を引っ提げ2018年の音楽シーンに突如現れた個性派シンガーの探究心に迫る
次代を切り拓くデザイナーやアーティスト、ミュージシャンといった若きクリエイターたちにスポットライトを当てる連載企画 “On The Rise”。第6回目となる今回は、2018年の音楽シーンに突如として現れたアーティスト xiangyu(シャンユー)にフォーカスする。
水曜日のカンパネラのサウンドプロデューサー ケンモチヒデフミ、マネージャーのDir.Fこと福永泰朋がバックアップしていることでも知られ、タイ料理屋の店名をひたすらに連呼する“プーパッポンカリー”や、入浴できないまま次の日の昼を迎える“風呂に入らず寝ちまった”など、そのユニークな歌詞で音楽シーンを賑わせているxiangyu。福永氏によってその個性を見出された彼女は今、音楽にとどまることなく、“xiangyu”そのものを象る新たな挑戦を続けている。今回は、そんな探究心に溢れる彼女の頭の中を少し覗き見できるようなインタビューを敢行。音楽制作に関してはもちろん、〈PERMINUTE(パーミニット)〉とタッグを組んだ洋服作りのプロジェクト RIVERSIDE STORY、映画『ほとぼりメルトサウンズ』への出演など、最近のxiangyuとしての活動から、今後目指している人物像まで、思いのままに語ってもらった。
HYPEBEAST:まず、とてもユニークなアーティスト名だと思うんですが、お名前の由来がありましたら教えてください。
xiangyu:xiangyuって漢語だと魚の鮎っていう意味で、私は本名がアユミなので親しいなと思って。あと、あまり“x”から始まるアーティストって他にいないところもいいなと思ってこの名前にしてます。
音楽活動をしてみようと思ったきっかけはありますか?
私は文化服装学院の卒業生なんですけど、入学する前からものづくり全般がすごく好きで。もともとはファッション業界とか、洋服を作ることに携わりたいなと思ってたんです。それで、卒業してからもアパレル会社に勤めたりとか、コスチュームデザイナーのアシスタントをやったりとか、フリーで衣装を作ったりとかをしていて。ずっと1人でものづくりをしてきたんですが、一旦1人じゃなくて、他の人との制作をもっとやってみたいなってちょうど4年くらい前に思ったんです。
じゃあ何ができるかなって思った時に、そういえばなぜか昔から「一緒に音楽作ろう」って言ってくれてる人がいたなって思い出して。その人が今のマネージャーなんですけど、私が文化に入学したくらいの時に、デザインフェスタで軍手やブルーシートで作った服を展示していたら、「一緒に音楽やろう」って(福永さんから)声をかけてくれたんです。当時、私は音楽っていうより洋服を作りたいと思っていたのでその誘いを断ったんですけど、何か別のことをやりたい!って思ったタイミングで声かけてもらっていたことを思い出して。ずっと言ってくれているし、音楽って自分の人生の選択肢にはなかったけど、「別にやっても死ぬわけじゃないしやってみるか」みたいな、割と軽い気持ちで始めた記憶はありますね。
そうだったんですね。その間は、福永(泰朋)さんからのご連絡はコンスタントにあったんですか?
出会った当初が18歳くらいの時だったんですけど、そこから「最近何作っているの」とか「最近何に興味があるの?」っていうのを3カ月に1回くらいの頻度で気にして連絡してくれる人ではいて。だから忘れずに自分の中にその存在があったって感じです。今は一緒に音楽をメインとした活動をしてますけど、声かけていただいてから6年くらい経って急に「やる」って言ったから、多分彼もそこに着地するとは思っていなかっただろうなって(笑)。
(福永さんは)その間も気になり続けたのには何か理由が?
福永:6年も経ってたっけ(笑)。そうですね、最初に出会った時に、その軍手とかブルーシートとかの作品を通して何かしら面白いなって思ったんで。自分ができるのって音楽のマネジメントとかプロデュースしかないんでそれを言っていたんですけど、当時は(xiangyuさんが音楽に)全く興味なかったので、何かできないかなって自分の知り合いを紹介してみて、可能性を探ろうって思っていました。その中でやっぱり軍手とかゴミで服作るのを雑誌の企画でやってみたりっていうのを続けていた感じですね。
xiangyuさんは、急に音楽をやられることになって抵抗などはありましたか?
めちゃくちゃありましたよ。私は自分の作品を作って展示会とかに出してるわけだから、作品自体が知られて欲しい気持ちはもちろんあって。でもそれって私自身が注目されるのとはちょっと別の感覚だったんですよね。私自身にはスポットライトが当たらなくていいけど、作品が世に出て欲しいみたいな気持ちでいたから。だけど音楽をやることになり、曲を作るのもステージに立って歌うのも自分になったから、かなりハードルが高すぎるというか。
もともとカラオケに友達と行ったことがなかったくらい、人前で歌うことにすごく苦手意識があったので、そんな苦手すぎることを選択するっていうのが自分でも結構意味わかんなかったですね。だけど新しく何かがやりたいって思って一歩踏み出してるし、腹くくんなきゃとは思ったけど……。思ったけど、みたいな。最初はその葛藤がすごくありましたね。どんな顔して人の前に立ったらいいんだろうとか、そこは割とずっと慣れない部分ではありました。
もともと音楽を聴くのは好きだったんですか?
全く興味がなかった……(笑)。国内で流行っている音楽をミュージックステーションで知るくらいのレベルで。だからフェスとかも行ったことなかった。学生の時は、友達がDJするからってクラブに遊びに行ったことはあったけど、じゃあそこでかかってる曲を後日探して自分でダウンロードして聴くかっていうと別の話で。クラブではその場が楽しいのであって、そこでかかってる音楽に興味もあんまりなかったし、マジですいませんっていうくらい知らなかったです。
ということは、それまで特に音楽を聴かずに無音で過ごしていらっしゃった?
全然無音で生きてました(笑)!文化に通ってる頃とかも、地元が横浜なので通学時間1時間半とかあったんですけど全然無音で平気でした。
そうだったんですね!もともとどんなことが趣味だったんですか?
高校生の頃からやってた、軍手やブルーシートを使う服作りって文化の課題では封印しないといけなくて。学校はやっぱり型紙がこうとか、この生地でどうシルエットを綺麗に出すとか、そういう課題になっちゃうので、自分が興味を持っていた布以外を使う服作りは学校の時間以外でやっていたんです。だから本当にそれが趣味みたいな感じ。あとは山登りに行ったりとかサーフィンしたりとか、割と自然の中で遊ぶというか。そういうことばっかりやってましたね。
すごくアウトドア派なんですね。
超アウトドア派です。文化を卒業した後はアウトドア系アパレルの会社にも就職してますし、もともとそういうタイプなんです。ソロ登山とかソロキャンプとか全然ガッツリ行きます。でも、ソロすぎて写真に残せなくて(笑)。近くに人がいたら写真を撮ってもらってInstagramとかにアップできるけど、本当に1人でずっと行動しているから(笑)。
ソロキャンプはすごいです……!
でもそれもキャンプがメインというよりかは、登山に行って必要に応じてやるとか。本当に登山がメインですね。なので、基本山の中でキャンプしてます。本当にそういう遊びがすごく好きですね。
面白いです。音楽も拝聴させていただいたんですが、民族音楽っぽいトラックにラップが乗っている感じが特徴的ですよね。
いつもトラックを作ってくれているプロデューサーの方が何人かいるんですけど、「音楽をじゃあ一緒にやろう」って始めた時に、私は全然何も知らなかったから、「こういう音楽があるよ」「こういう人がいるよ」とかを、日本のアーティストに限らず教えてもらって。その中で自分が興味を示したというか「これ結構好きかも」ってなったのが割と民族系だったのかも。それで、そういう雰囲気の音楽を作りたいと思って、色んな人に依頼して作ってもらっている感じですね。めちゃくちゃ理由があって民族ぽいのをやってるっていうより、単純にすごく好きなだけなんですが。
もともと無音で過ごされてきたとのことですが、その中で民族音楽を聴く機会っていうのはありましたか?
どっかで出会ってる気はするんですが、それが民族系だったり、こういうジャンルに入るんだっていう意識はなかったのでわかりません。でも、色んな音楽のジャンルを知らなかったからこそ、今でも出会う音楽が全部新鮮で。「こんな曲あるんだ」「こんなアーティストいるんだ」っていつもフレッシュな感覚で自分に入ってきます。そして、Aメロ・Bメロ・サビなどの曲の構成に関しては未だによくわかってないので(笑)、それにあまり囚われずに作れているのかなとも思いますね。
なるほど。面白いです。曲作りもされているとのことなんですが。
トラックは自分がタッグを組みたいプロデューサー陣にお願いしているんですが、歌詞とラップは自分のやりたいフロウがあるのでいつも自分で作っています。そしてまだ挑戦している段階ではあるんですが、曲の構成から考えて、メロディも作ることに今はトライしていってます。
歌詞はどういうシーンにインスパイアされているんですか?
主に日本語の組み合わせで面白く聞こえたり、心地よく聞こえるものが好きなのでそういう観点で歌詞を書いてます。言葉の持つ意味は割とどうでもよくて、言葉を音として捉えて心地よく聞こえる曲にしたいと思って作ってますね。あと、自分がその時にハマってる言葉があったら、その言葉をメインに歌詞を広げることも多いです。
生活感のある歌詞が印象に残っています。
そうですね。生活の中にあるすごくちっちゃいものを、壮大なトラックに乗せて曲を作っていくっていうやり方が割と好きですね。
Jordan Brand(ジョーダン ブランド)のキャンペーンにも出演されていたと思うんですけど、どういった経緯なんでしょうか?
2年間くらい前からJordanのキャンペーンにはずっと参加させてもらっていて。多分本当コロナが始まったくらいのタイミングから参加させていただくことになったと思うんですが、それからずっとご縁があります。
もともとJordanはお好きだったんですか?
もともと靴が好きで、その中でも特にスニーカーが好きで。なのでJordan Brandさんに自分の活動を応援して頂けてすごく嬉しいですね。今履いているのが、JordanとFACETASMのコラボなんですが、これが1番最初に頂いたモデルですごく思い入れがあります。
私は普段、ハンサムなスタイリングを組むことが多くて、キーアイテムとして最後にスニーカーで締めるっていうのが自分的ポイントです。ライブの時もパフォーマンスしやすいので、大体いつもJordanのスニーカーを履いています。
今着用されているコラボAir Jordan 1のお気に入りポイントがあれば教えてください。
だいぶ履き込んでいますが、このくすんだブルーのカラーリングが気に入ってます。多分他のJordanのモデルではこのカラーが使われてないんですが、くすみカラーどんな服にも合うし良いですね。あとこのヒールタブのオレンジもすごく可愛いですよね。
音楽活動以外に、ライフワークとして服作りのプロジェクトを継続している理由はありますか?
私は今音楽がメインのアーティストではあるけれど、別にそれだけに注力しなきゃとは思ってなくて。音楽も好きだけど、絵を描くことや服作りなど、すごく色んなことがずっと好き。音楽を始めたばかりの頃は、音楽以外のことに手を出す余裕が無くて正直服を作ってる場合ではなかったです。でも今は、前よりも曲作りを深くやっているので、余計に全然別の制作をしていた方が自分自身が豊かになって沢山アイディアが湧いてきます。自分の容量が大きくなったのが、今洋服のことを再開できてる1番の要因かなと思います。
現在、文化服装学院とのコラボレーションで、川の周辺に落ちているゴミを拾って服を作るプロジェクト “RIVERSIDE STORY”を、文化の同級生でもあるPERMINUTEのデザイナー半澤慶樹くんと一緒に行なっているんですが、このプロジェクトは私がもともと行っていた、軍手やブルーシート等、服の為に作られたわけじゃない素材で服を作るクリエイションの派生から生まれました。昔から服以外でも、ゴミ捨て場に廃棄されていた大量の木の枠でライトを作ったりもしてましたね。
川沿いを歩いてる中で、落ちているゴミからその周辺を行き来する人たちの動きや街の成り立ち、つまりその土地の輪郭が見えてくるのかも?と考えるようになって。例えば渋谷の駅周辺だったら、コンビニに売ってる小さいお酒の瓶やコーヒーのカップがたくさん落ちているんだけど、駅からちょっと離れると、お弁当のゴミが増えてきたりして。そういうゴミから、その土地に住んでいる人やその都市の成り立ちなどが見えてきたら面白いと思ったんです。
なので“RIVERSIDE STORY”では、川沿いでゴミを拾い、持ち帰ってひとつひとつ洗浄し、それらを分類・記録する。そういったプロセスの積み重ねの中で、おもしろい形や色を持った魅力的なゴミがあることに気がつき、こういったものが持つ独特な美しさは、文字を並べたレポート形式ではどうしても伝え切れないと思い、そこでゴミたちに手を加え素材化させ、服にすることにしました。
なるほど。ゴミをテキスタイルにするっていうのは、ファブリックに昇華するということですか?
いわゆるファブリックにまでは自分達の技術では中々難しいけれど、熱を加えたりとことん細かくしたりして、ゴミから素材を作るさまざまな可能性を実験しながら探っています。
瓶とかもくっつけたりしているんですか?
瓶は砕いたりしています。特にたくさん落ちていたタバコは、全部重曹に浸けて匂いや汚れを落とし、それを羊毛に混ぜ込みながら繋げていったり。そうやって加工方法を研究しながら、形にしていっています。
面白いと思うものが結局SDGsに繋がるっていうのがいいですよね。
そうですね。私たちは「ゴミから土地を知りたい」と思って活動していますが、文化の学生たちとゴミ拾いに行った時に「実際こんなに落ちてるんだね」「タバコ多いね」「こんな場所にまで落ちてるんだ」と、普段だったら誘われない限りやらないかもしれないことに興味関心を持って楽しんでくれている姿が印象的でした。
純粋に音楽活動もやられていて、ご自身でもやられているとなると、かなりお忙しそうです。
ばり忙しいですね(笑)。でも、この活動が音楽を作ることにもすごくプラスにはなっていて。例えばずっとパソコンだけに向き合っていると、視野が狭くなったり、頭が凝り固まったりするじゃないですか。だけど全然別のことをやってると、脳の他の部分を使えて、結局自分のメインのクリエイションに返ってくるものが大きいというか。自分とは違う世代や分野の人と話して気付くこともたくさんありますね。時間だけで言うと“RIVERSIDE STORY”をやってない方が、音楽に多くの時間を費やせるから楽にはなるかもしれませんが、このプロジェクトを始めてからの方が自分自身がより豊かになっている感じがするので、やり始めてよかったなと思いますね。
相乗効果でどっちも良くなっていくっていうのはすごく素敵なことだと思います。最近はお洋服を作られたりする時に音楽を聴かれますか?
今は音楽を聴くようになりました(笑)!
何を聴かれるんですか?
今は半澤くんと2人で作業していることが割と多いんですけど、彼もめちゃくちゃラップが好きなんですよ。だから、どっちかのおすすめを聞いたり。最近だとプロデューサーのKM(ケーエム)さんが手掛けた曲を全曲入れたプレイリストを作ってそれを聴きながらやっています(笑)。あとはSpotifyの“New Music Friday”などのプレイリストを聴きつつ、「え、今の誰?」って話しながら作業していて。そういう新しい音楽を掘る時間って、前は電車移動の時間だったけど、コロナになって電車移動が減り、そういう時間が取りにくくなってたんですが、ここ最近はずっと2人で作業しつつ、私にとっては新しい音楽を知る時間にもなっています。
1人じゃないところもいいですね。
そうですね。一緒にやる人がいるので、頑張れます。
映画『ほとぼりメルトサウンズ』では主演を務めているとのことですが、演技に挑戦してみようと思ったきっかけはありますか?
映画『ほとぼりメルトサウンズ』は、私が別の媒体で連載しているエッセイを読んだ監督さんとプロデューサーの方が、「ぜひこのエッセイを原案に映画を作りたいんですけど」という風に言ってくださって。その映画を発表する場が、アーティストと新鋭の映画監督がコラボレーションするMOOSIC LAB(ムージックラボ)で。最初は主題歌だけを担当するっていうお話だったんですが、xiangyuっていうキャラクターを気に入ってくださって、出演もってお声がけ頂いたんです。しかも、ちょい役かなって思っていたらまさかの主役で(笑)。でも、割といつも通りの私のようなキャラクターを描いてくださっていたので、これだったら挑戦できるかなと思って。俳優として声をかけて頂いたのも、きっと何かのご縁だろうなと思ったし、表現方法の1つだなと考えたので挑戦することにしました。
色んな方面に目を向けていくことってすごく大事なことですよね。
そうですね。1つのことに集中した方が楽だったりするし、私もそうなっちゃいがちなんですけど、ここ最近は、多分私は色んなことに挑戦していた方が全部バランス取れて取り組めるタイプなんだろうなって思っています。だから、タイミングが合えば結構なんでもやりたい(笑)。その時々でどう自分の力加減のパーセンテージを分配するかは変わってきますけど、割と興味あることは全てやった方が全部に還元できるなと思っています。
最後に、今後の展望ですとか、目指している人物像があれば教えてください。
音楽の畑に足を踏み入れて4年。その間モデルや俳優、執筆など色々させてもらったり、前よりもクラブやライブハウスなど色んな遊び場を覚えました。服しかやってなかった頃より、音楽を通して色んな土地でさまざまな人に出会えて、音楽を始めてからの自分の方が前よりもっと好きになりました。だから毎年“今の自分最高”を更新できています。東京で遊んでいると、自分と同世代やもっと若い人たちで面白いことやってる人がたくさんいるなと思います。そんなみんなともっとこの“東京の街”や、シーンを盛り上げていきたいですね。自分個人としては作曲を沢山やれるようにしていきたいです。私が尊敬するアーティストの人達はみんな自分で制作をガッツリしているので、私もまだ自分の頭の中にしかないやりたいことをどんどん放出したいです。
RIVERSIDE STORY 渋谷川編
会場:恵比寿KATA
住所:東京都渋谷区東3-16-6 LIQUIDROOM 2F
会期:9月2日(金)〜9月6日(火)
時間:13:00-20:30
※初日17:00-18:30、最終日13:00-18:30
※初日、最終日トークイベントあり
入場料:無料
主催:RIVERSIDE STORY
協力:文化服装学院、KATA
トークイベント
会場:恵比寿KATA
住所:東京都渋谷区東3-16-6 LIQUIDROOM 2F
日程:9月2日(金)、6日(火)
時間:19:30-20:30
※トークイベントへの参加はこちらから。