Interviews: 野村訓市 x アンドリュー・リチャードソン特別対談

20年来の友人である両者のスペシャルインタビュー

ファッション 
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David Sims(デイビッド・シムズ)との最新TシャツおよびZINEのローンチに際して、約2年ぶりに東京の地を踏んだAndrew Richardson(アンドリュー・リチャードソン)。その経歴は非常にユニークで、スタイリスト→編集者→デザイナー/クリエイティブディレクターと、まるでカメレオンのようにさまざまな肩書きを行き来している。

自身の名を冠したブランド〈Richardson〉は、1998年にアート、セックス、カルチャーを探求する過激なマガジンとしてスタートした。現在も不定期で発刊されており、2018年にはKim Kardashian(キム・カーダシアン)を表紙とした『A9』を、2021年9月には、トランスジェンダーモデルのDominique Silver(ドミニク・シルバー)を表紙とした最新号『A10: The Morality Issue』を発表している。アパレルラインは、2003年にリリースされた〈Supreme(シュプリーム)〉とのコラボレーションによるTシャツを皮切りに本格ローンチ。デニム、スウェット、Tシャツ、ワークウェア、アウターウェア、アクセサリーなどのユニセックスアイテムを展開しており、2020年3月には東京・原宿に旗艦店をオープンした。

今回『HYPEBEAST』では、そんなAndrewの久方ぶりの来日を記念して、彼と旧知の仲である野村訓市を迎えたスペシャル対談を実施。Andrewの来日初日であり、野村氏がニューヨークへ旅立つ前日夜という、やや強引なスケジュールの中、コロナ禍以来初めて顔を合わせた両者。昔話に花を咲かせつつ、クリエィティブの根幹やDavid Simsと取り組んだ新たなコラボレーションついて大いに語ってもらった。

野村訓市(以下、N):そもそも僕らの出会いは、2002年か2003年頃?

Andrew Richardson(以下、R):そうだったと思う。

N:僕がSupremeのファッションページ組んでるときで、キッズ以外のものも何か欲しいと、君とDamian Loeb(ダミアン・ローブ)、彼覚えてる?あとは、Norman Reedus(ノーマン・リーダス)に連絡して、君のところを訪ねたけど、確か……。

R:カナルストリートのロフトのときだね、83カナルの。

N:そうそう、僕のニューヨークの親友で以前にSupremeの広告撮影してたShadi Perez(シャディ・ぺリッツ)とね。彼がラファイエットの店の下にオフィスを構えてた時期があって。Supreme Films(シュプリーム フィルム)だよ。House of Pains(ハウス・オブ・ペイン)とかヒップホップのフィルムを中心に作ってた頃だね、James Jabbia(ジェームス・ジェビア)が支援してさ。

R:ああ、そっか。俺はHex Films(ヘックス フィルム)をやってたKevin Blaze(ケビン・ブレイズ)っていうやつを通してShadiを知ったんだよ。ニューヨークでヒップホップミュージックビデオを撮り始めた連中だ。そこにShadiがいて、それが1989年か1990年だ。

N:今何歳?

R:55だよ。

N:じゃあだいぶ若くてフレッシュな頃だったんだね(笑)。ニューヨークに引っ越してきたばっかで。

R:そうだよ(笑)、何も知らない頃だよ。89年がニューヨークに来た年だから、引っ越したのは90か91年かな。Kevin Blazeの彼女と仲良かったんだ(笑)

N:89年か90年からずっと同じエリアに住んでるの?カナル辺りに?

R:俺がバワリーに引っ越したのは確か、ソーホーにいた頃は121ウースターSt.のSupreme事務所のビルの最上階に住んでたんだよ、向かいにCOMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)のお店があって。

N:Shadiもその辺に住んでたよ。

R:ああ、あの頃のソーホーは高額な場所もあったけど古くて安いアパートもあって最高だったよ。それでトライベッカに引越し、バワリーとスプリングSt.に引っ越してきてそれっきり。1996年からこの5ブロック界隈にいる。

N:ずっと変わらないんだね。

R:住みやすいんだ。チャイナタウンも好きだし、誰も人のこと干渉してこないでしょ。すごいリアルなネイバーフッドなんだよ。ニューヨークでジェントリフィケーションがどんどん進んで変わっていく中、チャイナタウンはそのままなんだ。

N:すごいよな、僕が初めてAndrewに会いに行ったときは、マガジンの存在は知ってて、アツいスタイリストだってことも知ってたけど写真とか見たことなかったから全然想像つかなくて。だから、できるスタイリストでアートなポルノマガジン作ってるって、一体どんな人間だ?って思ったけど、会ってスキンヘッドで、すごくガタイ良くて「鍛えてんの?」って聞いたらあれが好きだって、えーと、あれはなんだっけ?

R:テコンドー。

N:そうそう。だから結局、ファッションスタイリスト、David Simsと仕事してて、テコンドーやって、アートポルノマガジン作ってる、なんなんだ?(笑)って思ったよね。それでイギリス人だって知って、ようやく納得できた感じ(笑)。単にバリバリのイギリス人だったのね。

R:Davidもキックボクシングしてて、俺らは全員David Carradine(デビッド・キャラダイン)主演のテレビドラマ Kung Fu(燃えよ!カンフー)見て育ったから何かしらの特技が欲しかったんだろうな(笑)。

N:うん、だからそれが第一印象だったから。ハイファッション界にはいないタイプの連中だなってすごく驚いた覚えがある。

R:あれが俺の素の姿なんだろうな。David Sims、Terry Richardson(テリー・リチャードソン)と俺はあの頃は本当に人生をありのまま楽しんでた若者だったし、雑誌のエディトリアルの仕事は最高に面白い時代だった。例えば気に入った映画のワンシーンがあったらそのアイディアを手元にある雑誌のプロジェクトに注ぎ込むだけでよかった。クライアントの顔色伺う必要もなければ広告主もいないから好きなことだけやってたよ。

N:その頃は予算ももっとあって行動範囲が広かったって前言ってたよね。

R:それもそうだし、圧倒的に行動する自由があった。何かいいアイディアがあればそれを実行する方法を考えればいいだけで、それは本当に贅沢なことだったと思うよ。今の若者にはそれは難しいだろうね、かわいそうだよ。

N:ちなみに今までやった中で1番クレイジーな撮影は?

R:SISLEY(シスレー)のキャンペーンとか結構ヤバかったね。Terryがキャンペーンやってて。テキサス州のダラスに行って、1人のプロデューサーがかなりクレイジーな奴で。素晴らしい写真は撮れたけど。あと、Madonna(マドンナ)の写真集 SEXもすごかった。2ヶ月かけて作ったよ。

N:あれ関係あったんだ。2カ月ってツアーとか?どういう形で?

R:いや、あの本の撮影に2カ月かかったんだよ。ニューヨークで撮影したり、マイアミでロケしたり。

N:そうだったんだ。すごい経験だっただろうね。

R:Richardson Magazineは、それが原型っていうか。Steven Meisel(スティーブン・マイゼル)と俺が撮影したものではあったけど、考えたこともなかった方向性で。だって、Madonnaがコリンズ・アベニューの真ん中を裸で歩いてるんだぜ。それに衝撃を受けて、魅了され、興味を持つようになったんだ。当時は、ヘロインシック、グランジといったものばかりで、俺たちは飽き飽きしてきてたところだったんだ。そこで、似たようなローファイなものだけどセクシュアリティをテーマに持ってくることにしたというわけだ、MadonnaのSexを担当した経験を生かしてね。そこで俺たちが作り出したのが、新しい、後にAmerican Apparel(アメリカン アパレル)になったりして行くような流れ、つまり“親しみやすい女子”のイメージを保ちながら、性的主体性があるような、そんな女性像だよね。モデルとかじゃない、もっとリアルな感じ。それがRichardsonになったんだ。Charlie Brown(チャーリー・ブラウン)こと林文浩が手掛けたDUNE(デューン)は、他では誰も載せないようなとんでもない記事を載せてくれる雑誌だった。Mario Sorrenti(マリオ・ソレンティ)と一緒にエクアドルに行ったりしてとんでもない写真を撮って載せてたり。なにしろ、ぶっ飛んでて優秀で、彼はとても特別な人間だったわけなんだけど、そのCharlieに当時俺が作ってたスクラップブックを見せたんだ。そうしたら「おお、ポルノ雑誌作れば?ていうか始めよう」って言われてRichardsonが生まれたんだ。

N:出版社はどこだっけ?

R:Little More(リトル モア)ていう出版社だよ。でも検閲関係の問題があって、日本とヨーロッパでは検閲のルールが違うから、俺はなるべく面倒なものには興味なかったからイタリアで刷り始めたんだ。雑誌を創刊したときは、毎月発行して、Larry Flynt(ラリー・フリント)になる気分ですごい冒険になるんだ、と思ってたけど。それが2年に1回になっちゃった。

N:第1号と2号で結構間が空いてたね。

R:そう、少なくとも2年に1回だった。1作目と2作目の間は1年、2年だったかな。3作目と4作目の間は、7〜8年というところかな。その後はマシになって、毎年1本ずつ4年くらいやって、ちょっと休んで、そしたらBlac Chyna(ブラック・チャイナ)とかKim Kardashianとかと仕事をするようになったんだ。突然、大物セレブと仕事することになってますます複雑で難しくなって、ある意味雑誌の本質から遠ざかってしまったんだ。それで、A10では原点に帰ってポルノ業界の人たちを撮ることに戻ることにした。

N:最新版には取り組んでるの?

R:ああ少しずつね。

N:どんなアイディアが浮かんでる?

R:雑誌には必ず1つ中心になるテーマの“言葉”があるんだ。その言葉は思いついてる。

N:このご時世性的な表現をするのはなかなか難しいことになってしまったからな。

R:文化的な面で?

N:それもそうだし、コロナ禍で。

R:確かに。日本のSMを撮影したかったんだけど。京都には大きなSMシーンがあるらしいから、そのクラブで撮りたかったんだ。本物のクラブでね。

N:いつまでここにいるの?見に行ってみれば?

R:9月に戻ってくるから、一緒に見に行かない?

N:オッケー。パーティーしに行こう。

R:(笑)。

N:2002年か03年頃に会ったんだけど、話してて気づいたのは君はストリートウェアが好きだよね。というのも、君はイギリス人でこの業界に長い間いるから、そこに意外性を感じた。日本のストリートカルチャーや、アメリカのワークウェア、Made in USAにすごく純粋に興味持ってて。それはどこから来ているの?どうやってそういったファッションに興味を持つようになったの?

R:そうだね、元々ハイファッションの背景からきてるから意外かもね。

N:撮影はいつも大物カメラマンと一緒だし。

R:でもそれは正直、君やJamesのような人たちのおかげだと思う。Jamesはいつも東京旅行からお土産を持って帰ってきてくれてたし、君はよくWTAPS(ダブルタップス)のもの送ってくれるし。それがきっかけで、Army Navy Store(アーミーネイビーストア)とかで売っている服よりもいいものを作る、西山徹というアーミー服の天才が東京にいるって知ったり。

N:タイムズスクエアにあったKaufman’s Army Navy Store(カウフマン アーミーネイビー ストア)のこと?

R:それそれ。彼の服はフィット感が全然違って、高級感あるようなミリタリー服のようでずっと愛用してた。

N:ミリタリー服は前から好きだったの?

R:ニューヨークではいつもコンバットパンツを履いてた。何でもいいんだけど、いつも少しだけ何かしら取り入れてる。COMME des GARÇONSのジャケットにコンバットパンツを合わせるような、ハイとローのミックスとか。でもTET(西山徹)は今まで見たことないことをやったことに気付いた。TETはまさに自分の世界を作り上げた。そのライフスタイルに沿ったユニフォームのようなものを。それで自分もそういうことを考えるようになった。ブランドとして服を作ることになった時はTETにすごくインスパイアされて、彼ほどにはなれないけど、とにかくすごく影響を受けて、目標としては。とにかくTETとWTAPSにすごくインスパイアされたね。あとHYSTERIC GLAMOUR(ヒステリックグラマー)にも。1990年に初めて東京に来てノブ(北村信彦)と出会って、彼のオフィスの地下でエアソフトガンを撃ったりして楽しかったんだけど。俺はある意味それまで政治的なグラフィックTシャツ、社会批判的であったり、ただカッコイイだけじゃないTシャツって見たことがなかったんだ。一昔前にVivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)やMalcolm McLaren(マルコム・マクラーレン)がやってたようなパンク風のスタイル。それがHYSTERICの魅力で、なんとなく子供の頃の記憶とリンクしているものがそこにあったんだ。Vivienneらの時代は俺は11歳とかだからそんな服は1度も持ったことなかった。彼が作ったものはパンクのような、つまりストリートウェアなんだけど、その当時はまだストリートウェアというカテゴリー化されてなかった頃の話だ。でもグラフィック入りのロンTとか、Tシャツやジャケットを取り入れてた。この雑誌は日本とのつながりを持っていたから、アパレルに移る頃には日本ですでに雑誌を知ってくれている人が多かったよね。当時はbonjour records(ボンジュールレコード)で扱ってくれてて、若者が服を買うのに並んでるのを見て「ああ、これは現実で起こっていることなんだ」って実感が湧いたよね。それが続ける気合いに繋がったよ。

N:雑誌の新刊が出ると毎回Tシャツ作ってたね。必ず1枚くれたよね。あのSupremeのやつまだ持ってるよ。

R:そうだったね。アパレルのきっかけは2002年に第3号を発行したとき、Jamesが「Tシャツを4枚作ろう」と言い出したんだ。それに俺はなんとなく「いいよ」って言ってJamesが作った。それから8年間雑誌を発行しなかったけど、また発行することになったとき思い出して「そういえばTシャツの話いいアイディアだな。Tシャツを作ろう」と思って。

N:進化していったんだ。どんどん生産し始めた時は驚いたよ。自分でも思った?

R:そうだね。俺もそう思った。

N:本当に真剣になっているのが見えるし、常に新しいこと、例えばワークウェアとかを作り続けようとしてるよね。

R:そうだね。Moleskin(モールスキン)みたいなヨーロッパのワークウェアの生地を使ったりもするけど、それはいつも実用的な哲学から生まれているんだ。今はもう少し装飾的なものを作っているわけだけど、基本的な土台はそのようなものだと思う。

N:君にとってMade in USAの魅力とは何?俺が高校生の頃、東京でおしゃれであるためには、Made in USAのものを着ることが1番大切だったよ。何の疑問も持たなかった。日本製のものを着ていたら相手にもされなかった。アメリカのユニオンメイドとかじゃないと決まらなかった。

R:確かに、アメリカにはマニュファクチャの文化ってものがある。俺がニューヨークからロサンゼルスに引っ越したのは、工場がすべてロサンゼルスにあるからなんだ。だから服を作りたいならLAにいるべきだよ。素晴らしいところだと思う。工場に行くのが好きなんだ。従業員たちはみんな素晴らしいし、彼らを見ているだけでも学ぶことが多い。問題を解決してくれたり、時には提案もしてくれる。記憶に残ってるのは、デザイナーでもない従業員が「このポケットはメンズのデニムジャケットには小さすぎる」って指摘してくれて、みんな「あ、はい」ってなって(笑)。デザイナーじゃないのに気にかけてくれてアドバイスをくれたんだ。

N:すべてのメーカーや工場を常に自分の周りに置いておきたいということ?

R:ああ、もちろん。工場に足運んで、作っている人たちに会うのが好きなんだ。

N:工場を持っている会社に発注するとか、中国にいる人を知っているとかいうのとは違うね。

R:まあ俺らも中国で製造しているが、彼らもすごく素晴らしい仕事をしてくれるよ。彼らは本当にプロだしとてもありがたく思ってるよ。ただロサンゼルスでは、みんなと一緒に座って喋れるのがいいんだ。彼らは朝6時に始まり、16時に終わるのを週6でやってる。服作りのノウハウもある。あと打ち解けると「こんな生地があるよ、ここで半額で買えるよ」とか、そういうことも教えてくれる。工場のほとんどはメキシコ人で、ちゃんと相手をリスペクトすれば同じく返してくれる、すごくいい奴らだ。あとちゃんと給料払うこと。

N:ニューヨークには戻らないの?

R:ロフトを売ったばっかだ。

N:売ったの?あの美しいところ?

R:そう。でも面白いのがもちろん、いよいよ売却契約の時に最後にNYに行って、ご飯食べにThe Odeon(オデオン)に行ったんだ。その日に限って誰も携帯いじってないし、ひどい整形を施した人も見かけない、みんな普通でいい人ばかりで、すごく気持ちの良いニューヨークの日だった。春だったし。それに、ニューヨークはすごく歩きやすいからどこまでも歩いていけるし。似てる感覚としては、結婚生活の後の離婚が成立したとき、君にはわからないか(笑)、そのとき一瞬でその人の好きだったところを全部思い出して……ふと気づくんだ。

N:突然気づくよね。

R:もうこれ以上2人の関係を保つプレッシャーと敵意がないことに突然気付いて「素敵な人だな」って思うんだよね。

N:すごいな。The Odeonはまだある?

R:ああ、もちろんあるよ。どこよりもやっぱりThe Odeonが最高だね、うん、生き残ってるよ。The OdeonにはNYに行ったら絶対に行った方がいいよ。あれこそがニューヨークだよ。

N:最後に行ったのがいつだったか思い出せない。とにかくニューヨークは最高だよ。他にはない。いつでも会いに行ける人がいてよかった。アパレルを始めたのはニューヨークだったよね。

R:ああ。

N:ニューヨークは全部が圧縮されてるんだ、住まいも職場もお気に入りの外食先も。いつも近所ではキッズが遊んでるし。

R:そうだな、どこを見てもインスピレーションで溢れてるよね。

N:うん、インスピレーションだね。いつもなんとなくどこからインスピレーション引いてるのかがわかる。LAでは出会いとか機会を作るのがものすごく難しい。

R:そうだね。でもニューヨークで長い時間を過ごした後の多くの人たちは、ロサンゼルスに引っ越したり、ロサンゼルスに行ったりすると、クールじゃなくなるんじゃないかって思う奴も多いと思うんだけど、そんなことはない。今はなんでもYouTubeから得られる。

N:まるで10代みたいなこと言うね(笑)。

R:要するに今の時代はイメージに囲まれているから、以前はニューヨークのストリートから得ていた視覚的刺激が、今ではあらゆる種類のメディアチャンネルから得られるということ。俺はYouTubeを常に見てる(笑)。

N:そうなんだ。LAではあまり人と会わない?ぶらぶらする?お気に入りのエリアは?

R:今マウントワシントンに家を買おうとしてるんだ。東側。シルバーレイク、ロス・フェリズの方。

N:どこ?イーグルロックあたり?

R:その辺。イーグルロックやハイランドパークほどではないけど、ロス・フェリズとイーグルロックとハイランドパークの間くらいかな。高い山で景色もいいし騒音もない所だ。

N:老後生活みたいだな(笑)。

R:そんなところだよ(笑)。アート・ディストリクトにオフィスがあるから、作業する日はほとんどそっちにいるよ。

N:今は運転してるの?

R:してるよ。

N:その変化はでかいよね。毎日車を運転して会社に行くなんて、想像もつかないよ。君はどこでも歩くイメージだから。

R:でも車は好きだよ。今4台持ってる。

N:そんなに?

R:中毒だね(笑)。それは置いておいて、本題に入ろう。

N:ああ、そうだな。キリないもんな。

R:先程から話しているように、Davidはよく一緒に仕事をしているけど、プライベートでも昔から仲が良いんだ。表紙の子はDavidの息子、美しいNed(ネッド)。もし俺にも息子ができたら、Nedのような子を育てたいと思う。とにかくロンドンに行ったときとか、Davidは突然「はい、この服」と言って、「いいアイディアが浮かんだよ。駐車場で何かやろうと思うんだ。でも心配しないで、光で何か面白くやるから。きっと気に入るよ」って。それで彼が動き始めると本当に天才の輝きを目の前で見ているようなんだ。本物なんだ。俺は良い写真家と共に育ってきたが彼は全く別物だ。

N:前にも言ったように、一緒に仕事をしたアーティストやフォトグラファーを含めて君のプロフィールはとにかく長い。これというDavidの特徴は何だったの?彼はハイファッションの世界ではもちろん有名なフォトグラファーだが、彼の名前を聞いたことがあるだけの子や、彼が長年何をしてきたか知らない人もいると思うんだ。

R:世の中には素晴らしい美学を持っていて、ストーリーを作ったり、被写体を撮影して、その被写体を何かに変身させたりするフォトグラファーがいると思う。彼らの写真は被写体が中心の場合が多いと思うんだ。一方Davidはまるでサヴァン症候群のような才能の持ち主だ。被写体はとても魅力的でとても興味深いもの。彼は90年代前半にすべてのルールを破り倒し、今あるフォトグラフィーのシーンを一変させた。以来彼のような人はまだ出てきてない。でも同時に、彼は技術的にも照明の天才なんだ。彼は光を使って素晴らしいものを作ることができ、とても貴重な才能を持っている。William Burroughs(ウィリアム・バロウズ)のように、技術的に優れたものを作ることができれば、それを美しい方法で破ることができる。

N:ピカソみたいなね。

R:そうそう。彼は友人だけど絶対面と向かってはこんなこと言わないよ(笑)。でも自分が作った服を彼のような人が撮ると、彼の視線から自分のブランドを見ることができて正直圧倒される。そして今までなかった要素が入り込んで、全体の質が上がるんだ。俺たちが苦労して作った服を、彼は簡単にクールに見せてくれるなと感じたね。

N:この写真撮影はいつ行われたの?

R:2カ月くらい前にロンドンで。とにかくNedを撮影したかった。Davidはキャスティングのセンスに長けているんだ。美しい写真を撮る方法を知っているし、何か面白いことをやりたいという野心もある。それで彼のスタジオの横にある駐車場とスタジオでも撮影したんだ。彼にはいつも感謝している。お互い似た者同士だと理解し合ってる。同い年で、同じような環境で育ち、同じような音楽を聴いている。だから、なんとなくわかるんだ。

N:何年経っても、一緒に仕事を続けているのは最高だね。ただの友達というわけではなく、お互いに好きなことをやっているからこそ、一緒に仕事ができる感じだね。

R:そうだね、本当に素晴らしいよ。それに、面白いし。君も友達の半分くらいは天才だろう。Wesley Anderson(ウェス・アンダーソン)と一緒に仕事をするとなると、最高でしょう。

N:そうだね。

R:脚本も書いているし、友達と一緒に楽しく仕事をするのはいいことだ。前にスタイリストとしてDavidと仕事をしたときは、プレッシャーを感じることが多かったけど、Richardsonで一緒に仕事をする時は、ずっと笑顔で歩き回ってるんだよ。緊張感なしで楽しく会話しながらアイディアを生み出して改善していくプロセスが本当に楽しいよ。

N:これからもDavidとこのようなプロジェクトを続けていくの?

R:そうだね、Davidがやってくれる限り、ずっとやっていくつもりだよ。彼はとても忙しくて。この本の出版記念に来る予定だったし、息子も連れてくる予定だったんだけど。

N:あまりに忙しすぎた?

R:撮影ラッシュだからあまり現実的じゃなかったんだ。でも、そうしたいと思ってる。毎シーズンとまではいかなくても、隔年とかで。David Bowie(デヴィッド・ボウイ)がやっていたことで、名前は忘れたけど、プロモーション用の新聞みたいなのを作っていて、良いアイディアだからやってみたいと思ってたんだ。

N:ポスターにすることもできるから良いよね。

R:そうなんだよ。

N:見開きのページが好きなら、自分の好きなように作れるし。

R:というか、そうなるようにデザインされているから、何枚もポスターにできるんだ。だから、またやるよ多分。とにかく尊敬する友人と一緒になって、お互いの意見を交換し合えるのは素晴らしいことだよ。

N:それが本当のコラボレーションだね。今は偽のコラボが多いけど、これは2つのアイディアが本当に一緒になっているんだ。ただ両方の名前を並べるだけじゃないんだ、わかる?

R:そうなんだよ。正直に言うと、この写真を撮ってInstagram(インスタグラム)にアップすることだってできたし、そうしたらこれを作ることもなかっただろうと思う。時々思うんだけど、今の写真の問題はなんでも使い捨てが多いこと。だからわざわざこの選んだ写真たちをデジタルな界隈から離して、敢えて紙に残すことにしたんだ。そうすることによって本当に価値を生み出すことができたと感じてる。

N:今後予定している他のアーティストとのコラボレーションは?

R:今のところRob Pruitt(ロブ・プルイット)との話があるな。彼のGlittery Pandas(※グリッターを施したパンダの作品)覚えてる?

N:わかるわかる。

R:パンダが世界野生動物絶滅危惧種リストから外れたから。パンダはもう絶滅の危機に瀕していないんだ。だからそれをやろうと思って。それから、Jordan Wolfson(ジョーダン・ウルフソン)と一緒に何かやる予定なんだ。彼は親友で、別の種類の天才なんだけど。

N:今、君はファッションデザイナーであり、少なくともブランドのオーナーであるわけだけど、すべてのアーティストと仕事をしてきた稀有な存在な気がする。だから他のブランドとは違って、ただ単に「David Simsはクールな写真家だから、一緒にTシャツを作らないか」というノリじゃない、違う視点を持っているんだ。

R:そうそう。このTシャツの切り抜きも、Davidのアイデアなんだ。これを並べて見てたら、Davidが「これならどうだろう」って試しにDavidは自分の写真を1枚切り取って、そのアイディアを生み出したんだ。これは彼が撮った手すりの上のTシャツの写真なんだけど、いいエネルギーを持っていると思うと言って、それに対して彼は、切り取った方がいいんじゃない?ってなってこのデザインになった。

N:いい感じだね。面白い。

R:Nedは本当に親切で今まで出会った青年の中でも最も優しくて素晴らしい若者の1人なんだ。

N:Supremeがパリで店を開いた時のことを思い出したよ。

R:Davidの奥さんに会ったとき?

N:そうそう、彼女は「オープニングのTシャツをちょうだい!」とドアでセキュリティに止められながら彼女は叫んでいたよ(笑)。だから僕は「何かできることはありますか?」と聞いたら、彼女は「私はDavis Simsの妻で、ロンドンからわざわざTシャツを取りに来たのよ!」って言うから。

R:そう息子のために取りに行ったんだよ。

N:そう。「Tシャツなしじゃ家には帰れないって言ってるのに誰も相手にしてくれないんだ」って叫ぶから、「David Simsの奥さんが外で困っている。Tシャツをあげて帰らせてあげよう」って言って彼女を店に入れてあげたんだ。

R:それは素敵なことをしたね。

N:だって君がDavidと仲良いって知ってたから。

R:SupremeやSTÜSSY(ステューシー)のような、アメリカで土台を作ったブランドにはもちろんリスペクトがあるよね。DavidはハイファッションフォトグラファーだけどSupremeと一緒に仕事したりするのが大好きなんだ。いつも楽しんでる。

N:Sean Pablo(ショーン・パブロ)の写真を撮ったときとかね。

R:そうそう。

N:あれはよかったね。今後ブランドはどういう方向でやっていくつもり?コロナのせいであまり新しい企画の話とか聞いてないけど。

R:もちろんまた日本に戻ってきたいよね。9月に大きなパーティーをやる予定で、面白いスポンサーもつきそうだから9月に大きなパーティーをやる予定で、もちろんMild Bunch(マイルドバンチ)も。本来予定してた、去年9月に日本で創刊された雑誌を祝えなかったから。今回はストリッパーやセクシー女優大勢呼んで盛大にやるよ。

N:さっき話にあったように、新刊の雑誌も1つの言葉を中心に作ってるんだね。

R:そうだね。

N:今の若い子たちはRichardsonが本当は何なのか知らない子も多いと思う。ブランドのアイデンティティをね。

R:ああ、そうだね。それは“Provocation(挑発させること)”だよね、純粋に。

N:もしあなたに若い連中が「Richardsonって何?スケートブランドなのか、何なのか。ニューヨークやLAから来たのか?どんなテーマなのか、どんな言葉で表現するのか?」と聞かれた時は、なんて答える?

R:雑誌もブランドも、俺たちがやってきたことはすべて挑発がテーマであり続けた。思考を刺激すること。今周りを見渡すと、挑発的なものがあまりないように思うんだ。

N:まるでBobby Brown(ボビー・ブラウン)みたいだな(笑)。

R:おい、それはまずいだろ(笑)。まあでもブランドのコンセプトはそんな感じ。

N:その表現はいいと思うし、キッズはそう言う答えが聞きたかったと思う。

R:うん、そうだね、俺だけじゃないからさ。俺がいて、さらにアイディアをたくさん生み出すチームもいるんだ。若いメンバーもいる。だからそれぞれのフィルターを1回通ってるというか、ブランドの目的としては答えを与えるより、問い続けることかな。それが主な点だとも思う。

N:今日はどうもありがとう。

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