野村訓市と ANCHOR INC. らの手掛ける異色のアプリ THE NORTH FACE EXPLORER の魅力

ディレクターの野村訓市と現在コンテンツ周りの製作を担っている「ANCHOR INC.」の山下丸郎に話を聞いた

ファッション 

去る4月にローンチされた〈THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)〉の新アプリ『THE NORTH FACE EXPLORER(ザ・ノース・フェイス エクスプローラー)』。“探求者”を意味する“EXPLORER”をテーマに掲げた同アプリは、“EXPLORER”、“MY TNF”、“SNAPS”、“PODCAST”、“TRIP”、“PLAYLIST”という6つのコンテンツで構成され、ディレクターは野村訓市が務めている。野村氏といえば、2010年4月に誕生した東京・原宿の路面店『THE NORTH FACE STANDARD(ザ・ノース・フェイス スタンダード)』の立ち上げに携わっているなど、超がつくほど〈TNF〉と縁の深い人物。そこに『THE NEW ORDER MAGAZINE(ザ ニューオーダー マガジン)』でも知られるアートディレクターの菅谷幸生、多くのプロジェクトでクリエイティブおよび編集をリードする「ANCHOR INC.(アンカー)」が加わり、アプリ内のコンテンツが製作されているわけだ。

実際にアプリをダウンロードしている方はご存知かと思うが、異なるフィールドの求道者たちを紹介するインタビュー企画の“EXPLORER”、ファッション/カルチャー面から〈TNF〉プロダクトを紹介する“MY TNF”、各界の音楽好きたちが独自の視点で選曲する“PLAYLIST”には、VERDY(ヴェルディ)、MURO(ムロ)、Licaxxx(リカックス)、IO(イオ)、THA BLUE HERB(ザ・ブルーハーブ)のILL-BOSSTINO(イル・ボスティーノ)、TOYA HORIUCHI(トーヤ・ホリウチ)、小畑多丘らも登場し、非常に読み応えのある濃い〜内容に。ローンチにあわせて、野村氏の別注コートが、9月にはフォトグラファー 小浪次郎の手掛けたカメラバックがリリースされているが、一見すると〈THE NORTH FACE〉に関係ないような特集も多く、ブランドが運営しているとは思えないぐらい(良い意味で)商売っ気のないのが本アプリの特徴。そこで本稿では、どういった意図や背景を持って、このような設計となったのか、野村訓市と現在コンテンツ周りの製作を担っている「ANCHOR INC.」の山下丸郎に話を聞いた。

Hypebeast : 訓市さんとTNFの関係性について教えていただけますか?
野村(以下、N):何がきっかけだったかは忘れてしまったけど、プレス向けの展示会用に何かを作ったのが最初の仕事だったと思う。その後はNORTHのお店でかけるBGMの選曲だったりを頼まれたのかな。一緒に仕事をやってるうちに「うちについてやけに詳しいね」って言われて。なぜ詳しかったかって思い返すと、90年代のバックパッカー時代からNORTHにはシンパシーを感じてて、でも昔は興味があっても、高くて買えなかったから。そうするとすごい調べるじゃん。カバンが何度か壊れたことがあって。カバンが壊れるとすごい大変なんだよね。ストラップが切れたりすると、片腕で45kgの荷物を背負ったりして。バスターミナルとかで寝る時も盗まれないように背負ったまま寝たりするから、とにかくリュックはすごい大事で。だから、ブランドものは何も持ってなかったけど、カバンだけは一番ちゃんとしたものが欲しいと思って。結局、渋谷かどこかの並行輸入のお店で、タイの航空券よりも高い値段でNORTHのバッグを買って、その時はすごい嬉しかったな。いわゆる登山用のリュックで、80Lとかだったと思う。パンパンにしなくてもいいけど余力が欲しいと思って。それを背負って、いろんなところ行ったけど、日本帰って来て、腰を据えて何かやるかって時に、その決意を込めて、人に譲っちゃったんだよね。ヤドカリの貝殻みたいだったからさ。そこに全部入ってて。いつの頃からかニューヨークの冬のユニフォームみたいになってたけど、それが自分にとってのNORTHの入り口だった。そうやっていろいろやっていく中で、新しいコンセプトのお店を一緒にやれないかって相談があって、それで作ったのがTHE NORTH FACE STANDARD。設計もそうだしロゴとかもやったからそれでより詳しくなった。

アプリを作ることになった経緯は?
N:最初は確か本かカタログを作るって話だった。紙の仕事は長くやってるから、見栄えの良いものはもちろん作れると思うけど、顧客さんに送るだけで終わってしまう。それはそれで大事なんだけど、もっと外に知ってもらうために発信した方がいいんじゃないかと。個人的には紙媒体が好きだけど、より多くの人に見せるんだったら、今はみんな携帯でしょ。ラップトップ持ってない人もいるし。自分はどっちかといえばアナログ人間だから「デジタルがいい」って言った時はみんな「あれ」って思ったかもしれないけど。

いろんな形で接点があって、みんなNORTHを知ってると思うわけ。自分が関わってからもブランドが日本でどんどん大きくなって、俺がカバンを買った時は、絶対壊れないとか“信頼の証”だったNORTHのロゴが、人気が出ていくうちにあのロゴがかっこいいって思う若い子が増えたなっていうの肌感で感じてた。“信頼の証”が“かっこいい”になったこと自体は良いことだと思うし、ラッパーだったりスケーターが着てるの見て知ったり、入り口は何でもいいけど、そこから先に何があるっていうの伝える手段を持った方がいいんじゃないかっていうのがスタートだった。それで進めていくうちにコロナ禍になって、お店での体験が物理的にできなくなってしまった。お店に行けば、製品のスペックだけじゃなくて、背景とかも紹介してくれるでしょ。その代わりをできるオウンドメディアがあれば、もし世の中がストップした時でも止まらずに、コミュニケーションツールとして、自ら発信できるんじゃないかと思って。

TNFには既にアプリがありましたが、それをアップデートっていう発想はなかったのですか?
N:あれは会社のメインとしてのアプリだから、スペックやルックを紹介したり、アウトドアをフィールドとしているブランドとして、ブレてはいけないものがあると思うんだよね。僕らがやってるのは、それとは違っていて。ちょうどNORTHがアウトドアブランドから、“EXPLORING”ブランドになって。“EXPLORING”って何も前人未到のところに行くとかだけじゃなくて、突き詰めることだと思う。NORTHも完成された商品でも毎年アップデートされていく。それも“EXPLORING”なんじゃないかって。なので、探求をやめない人たちと一緒にアプリのいろんなコンテンツを作りながら、自分はこういう意味でEXPLORERだなとか、こういうEXPLORERになりたいなとか、それに寄り添うプロダクトがあってもいいし、なくてもブランドへのシンパシーを感じてもらいたい。ANCHORと一緒にやってるけど、アウトドアメディアとかと違う角度で語れたら面白いんじゃないかっていう意図でこういう座組みなってる。

何名ぐらいでやってるのですか?
山下(以下、Y):主に編集兼ライターが7名ぐらいで回していますね。各編集からそれぞれアイデアを出してもらって進めています。地方に行くこともあるのですが、そういう場合はまとめて取材をしたり。分かりやすいカルチャー感も大切だし、普通のファッション系のメディアが取り上げないところもフィーチャーしたいので、その辺りのバランス感は大切にしています。プレイリストなどの音楽ネタは、自分の周りだと反響が大きいですね。

では、訓市さんの今の役割は全体の監修みたいな感じですか?
N:そうだね。自分もどっか行って何か書こうかなと思いつつ、まだやれてなくて。何でもかんでも自分が口を出すっていうのも違うので、ある程度は彼らに任せている。

コンテンツが多岐にわたってる理由を教えていただけますか?
N:もともとすごいハイスペックなものを作ってるけど、NORTHのプロダクトはもはや日常的なものになってるじゃん。だから、キャンプに行くから久しぶりにアプリを開くとかじゃなくて、もっとデイリーにいろんな角度で見れるものを目指した。1つの型でブランドを語らないというか、どんな人が読んでも、自分にあった角度からNORTHとリレーションが持てる。その人たちのシチュエーションにあったコンテンツがアップデートされて、それがアーカイブされていけばいいなと。例えば雑誌でも特集が好きで買ったけど、すごい良いコラムを見つけたり、何かしら引っかかるものを探すのが雑誌で、だから雑って書いてあると思うんだけど。ブランドのアプリやオウンドメディアって、どうしてももっとブランドブランドするじゃん?いろんな人が出てきても、よいしょ記事みたいになってしまうこともある。もっとカジュアルにやりたいなっていうのがあって。それは自分が雑誌をやっていた時に、ベタベタのタイアップ記事にそそられなかったのも理由の1つにある。そのブランドや商品が本当に好きな人が書いてれば違ったりするけど、そうじゃないことも多い。このアプリでは、プロのライターさんに書いてもらってるけど、仕事だからやるんじゃなくて、これだったらやりたいとか、こういうのだったら面白いっていうのを一緒にできたら、すごい良いんじゃないかなと思う。

特集でフィーチャーする人選はどのように進めたのですか?
N:最初は自分で選んで「この辺に声かけて散らしましょう」って感じで、全部が一辺倒にならないように心がけた。例えば、ANAN Coffeeのアナンくんは北海道の洞爺湖で8歳の頃からコーヒーを淹れてて、今は20歳そこそこだと思うけど。それをずっとやり続けてるのも個人的にはEXPLORERだと思うし。“EXPLORING”って何となく聞こえの良いイメージじゃなくて、好きなことをひたすら突き詰めているところに引っかかって欲しい。例え話でしてたけど、昔うちの近所にもあった40年やってるお豆腐屋さんとか。種類はお豆腐と油揚げのみだけど、その日の気温とかを考慮しながら、微調整っていうの毎日やってる。これもEXPLORERだと思う。NORTHが機能性や世の中も流れを考えたりしながら、定番商品を毎年アップデートさせてるのと同じだと。最初にGhetto Hollywood(ゲットーハリウッド)さんにNORTHの紹介をしてもらったのも、ニューヨークで火がついたのは何となく知ってる人も多いと思うけど、なぜそこまで普及したか知らない人も多いと思ったから。こういう理由でみんな着てたんだとか、いろんなきっかけを表すことができたらなと。冒険家や登山家と並列でミュージシャンがいてもいいと思う。

Y:現状はアーティスト、ミュージシャン、ファッション関係の人などが多く、本当はもっと幅広く、職人や料理人とか、例えば、町中華で長年鍋を振っている方とか、そういった人に話を聞けるなら面白いなと思っています。長く続けているのが、1つのキーではあるのですが、とはいえ若い子たちも取り上げないと媒体として偏りが出てしまうので、バランスの取り方が難しいところではありますよね。若くても信念や注ぎ込んでいる熱量などを判断材料に、そういった方たちであれば、キャリアが浅くても話を聞くべきEXPLORERだと判断して進行しています。取材対象の皆さんは、もともと知っている場合もありますし、リサーチして見つける場合もあります。人によっては「なんでTHE NORTH FACEさんが?」「アウトドアの話しなくていいですか?」など聞かれることもあるのですが、ブランドの標語の“NEVER STOP EXPLORING”などを説明して、ご納得いただいています。いわゆるユースカルチャーに属する人も、そうでない方も平たく見てEXPLORERとして取り上げられたらと思っています。個人的には、こういった機会がないと普段は話を聞けない人たちにも、話を聞けるのがやり甲斐になっていますね。

更新の頻度はどれぐらいですか?
Y:基本的に週2回です。
N:週に1回は見て、読んでる人が気になるものがあったらいいなと思ってる。それぞれの興味あるコンテンツがアーカイブ化されていくし。

THE NORTH FACEぐらいメジャーになると本質的なものを伝えていくのが難しくなりますが、訓市さんの考えるTNFとは、どういう存在ですか?
N:僕が考えるのは、自分の普段の行動のリミットを少し押してくれるブランド。街着にしてる人も多いと思うけど、雨だからチャリンコ乗るのやめようかとか、寒いから行くのやめようかなって時に「いやNORTHあるから大丈夫か」って、自分の世界をちょっとだけ押してくれる。自分の限界を知ってるとして、そのリミットを少し広げるためのサポートをしてくれるのがNORTHかなって俺は理解している。だから、EXPLORERカンパニーだし、自分の限界を設定しないで広げていこうっていう人たちを、アプリでフィーチャーしていきたい。

アプリでは訓市さんのコートだったり、小浪次郎さんのカメラバックとかの別注をリリースされてますが。
N:もともとNORTHのカメラバックってなかったんだけど。小浪は売れっ子カメラマンで、スタジオでバシバシ撮るときもあれば、外に出て夜の街で撮影する時もある。そうなると結局カメラバックに全部を持ってないといけないでしょ。必要な機材が全て入る・プロテクトしてくれるっていうのはもちろんのこと、ロケでいきなり雨が降ってきたりした時に守ってくれたり、耐久性も必要だったりする。でもそういうのがないから、NORTHで作ったらどうなるかなっていうのが出発点。普通は他のブランドとのコラボとかが多いと思うけど、このアプリではそういったEXPLORERさんたちの行動範囲を少し広げてくれるものをリリースしていこうと思ってる。


『THE NORTH FACE EXPLORER』のダウンロードはこちらから。

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Presented by THE NORTH FACE
インタビュアー
Yuki Abe / Hypebeast
テキスト
Yuki Abe / Hypebeast
Video Editor
Peace Gates / Hypebeast
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