THE NORTH FACE はファッション界でどのようにして確固たる地位を築いたのか?
Nuptse、Mountain Jacket、Denaliの人気の根源を紐解く

今更説明不要かもしれないが、山での使用を第1に考えてデザインされている〈THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)〉のプロダクトは、第2のホームと呼べるほどストリートでも圧倒的な支持を得ている。
それは、スケートボーダーたちがこぞって〈Carhartt(カーハート)〉を着始めたことに通じるものがある。作り手が意図していない用途で使用したり、またはターゲット層以外が好んで着用したり、そうすることで新たな意味を見出すプロダクトは少なくない。登山家や探検家にとっての絶対的なブランド〈THE NORTH FACE〉に関しても、時代の流れに左右されることなく数十年にわたって高い人気を博すプロダクトがある。登山や探検のためでなく、スタイル重視な人たちにも受け入れられているのだ。もちろん、スキーを楽しんだあとに着るという意味ではない。イギリス・ロンドンや東京など世界中の大都市において、Nuptse(ヌプシ)やMountain Jacket(マウンテンジャケット)といったタフなアウターウェアはある種のステータスになっている。とはいえ、〈THE NORTH FACE〉がストリートで爆発するキッカケを作ったのは、間違いなくアメリカ・ニューヨークだろう。
これまでもNuptes、Mountain Jacket、Denali(デナリ)については様々な記事で取り扱ってきたが、今回『HYPEBEAST』は〈THE NORTH FACE〉ヨーロッパ支社のデザインディレクター、Darren Shooter(ダレン・シューター)に話を聞いた。プロダクトについてはもちろんのこと、ブランドを代表する3モデルがストリートで確固たる地位を築くまでの道のりなど、ぜひインタビューをご覧いただきたい。
Nuptes、Denali、Mountain Jacketは、どれも同時期に誕生したようですが、詳しく聞かせてもらえますか?
Mountain Jacketは、私たちがエクスペディションシステムと呼ぶものをベースにデザインされました。80年代のことですが、当時のデザインディレクター、Sally McCoy(サリー・マッコイ)という女性は、数名の契約アスリートとともにエベレストのベースキャンプへ調査に行ったんです。デザインディレクターをエベレストに送り込むって正気とは思えないですよね。そのミッションから戻ってきた彼女とチームによって考案されたのがエクスペディションシステムなんです。ジップでレイヤーを取り付けられるシステムで、状況の応じてベストな組み合わせを作れるというものです。
Mountain Jacketをはじめ、NuptseやDenaliもこのミッションから生まれたんです。ブランドの象徴的プロダクトの多くは、この調査ミッションがキッカケなんです。すごいことですよ。
NuptseもDenaliも、Mountain JacketやMountain Lightにジップで取り付けることができます。ジャケットほど注目されているわけではありませんが、Mountain Pantも展開していますし、Denali Pantもあります。今ではアイコニックと呼ばれるアイテムですが、元々はエクスペディションシステムの一環として作られたんですよ。
“1991年頃に始まり、93年までには真のアイコンとして確立されたと考えています。”
Nuptse、DenaliやMountain Jacketは、その機能面だけでなく、スタイリッシュなアイテムとしも認知されています。どのような流れでそうなったのでしょうか?
90年代初頭のニューヨークでは、狭いアパートに住んでいた人たちが多く、彼らは長い時間を外で過ごしていました。そんななか、高品質&高機能でリアルなプロダクトに目をつけたわけです。ニューヨークのストリートはとても寒く、雨風から身を守るためのアウターウェアが必要だったんですね。そこからですよ、Nuptseがスタイルアイコンとして認知されるようになったのは。同じタイミングで、Timberland(ティンバーランド)のブーツも履くようになったんでしょう。人々が街でのNuptseを受け入れ始めたと同時に、似たような理由でMountain Jacketも着始めたんだと思います。
90年代、ヒップホップ、ニューヨークという3つの要素がキーなんですね。世の中には、THE NORTH FACEを崇拝するようなクルーもいます。Polo Ralph Lauren(ポロ ラルフ ローレン)で言うところのLo Lifeみたいなものですが。
1991年頃に始まり、93年までには真のアイコンとして確立されたと考えています。つまり、私たちの本格派ギアが都市部で着用されるようになったのがあの頃だったんです。その後、ミュージックビデオや映画の影響力が増していきます。The Notorious B.I.G.(ザ・ノートリアス・B.I.G.)やWu-Tang Clan(ウータン・クラン)をはじめ、当時多くの有名人があのストリートスタイルをフォローしていましたね。
もちろん、世界中にそういったクルーがいることは認識しています。ニューヨークシティには巨大なクルーがいますね。なぜ、彼らが私たちのプロダクトを着るのか? それは、彼らのライフスタイルを表しているからだと思います。普段のコーディネートには、その人のライフスタイルが現れるものです。つまりアイデンティティなんですよ。そういったクルーのみんなは驚くほどに影響力が大きく、なかには30年もブランドを情熱を注いでくれている人もいますよ。
Mountain Jacketが爆発的人気を得た背景には、あの黄色と黒の切り返しがあると思うんです。ブランド側から見ても、あれは最も象徴的な色の組み合わせだと思いますか? あれを真似しているブランドもあるくらいです。
おそらくそうでしょうね。黄色に加え、赤や青もブランドを代表する色です。黒とのコントラストなカラーブロックがなければ、きっとありきたりのものになっていたでしょう。私がTHE NORTH FACEで働くようになってから、創設者の1人であるHap Klopp(ハップ・クロップ)と仕事をする機会がありました。彼が黒のコントラストとその誕生秘話を話してくれたことがあったんです。あのカラーブロック、実はデザイン性によるものでもなく、THE NORTH FACEのブランドDNAとも関係ないんです。生地の最低発注量をクリアしなくてはならず、結果として黒を選んで、NuptseやMountain Jacketの全カラーに使うことになったんですよ。まぁ、黒は妥当な選択でしたね。
Mountain Jacketの右肩にあるロゴは、実は撮影の段階で追加することが決まったんです。背後から見てもロゴが目に入るようにという理由で。
では、最近のコラボレーションについて聞かせてください。MM6 Maison Margiela(エムエム6 メゾン マルジェラ)とは、どういった経緯でコラボすることになったんですか?
MM6 Maison Margielaとのコレクションは見事なものですよ。とても誇りに思っています。誰とパートナーになるか、私たちは細心の注意を払います。彼らとのコラボレーションでは、2つのデザインチームが生み出す相乗効果が素晴らしかったですよ。Mountain Jacketは、コラボレーションするうえでこれ以上ないアイテムです。最初にコンセプトを見た瞬間から、すでにパーフェクトでしたね。ショーでの演出も興奮しましたよ。
私たちの象徴的カラーを使いながら、彼らのスタイルを明確に表現していました。シルエットを見ればわかると思いますが、MM6 Maison Margiela特有の丸みを帯びたものになっていますよ。
では、デザインの視点から見て、Supreme(シュプリーム)とのコラボはどうですか?
Supremeの人たちは、私たちのアーカイブについて膨大な量の知識を持っているんです。なので、新しいシルエットや新しいスタイルを選ぶとき、彼らの提案にはいつも驚かされますよ。もちろん、いつだってプロダクトはフレッシュなので、私たちもあーだこーだ言わないようにしています。デザインや見せ方を提案してもらう感じです。SupremeにしてもMM6 Maison Margielaにしても、私たちのブランドをどう解釈し、どうデザインするのかを見るのはとてもエキサイティングなことですよ。
もう10年以上もSupremeとコラボレーションしています。クレイジーですよね。彼らはMountain Jacketが大好きなんです。だから何度もコラボアイテムを出しているんです。私たちのアイコンに独自のテイストを落とし込むのが上手いんでしょう。彼らの提案には、私たちもオープンなんです。
アウトドアブランドはファッションシーンにおいても非常に大きな存在です。日常生活においてパフォーマンスブランドが居場所を確保したというだけでなく、消費者もGORE-TEXやCorduraといったメーカーへの意識が高くなっているような気がします。
あまり哲学的なことは言いたくないんですが、不安定な時代になると、人々は守ることと逃げることの必要性を感じるんだと思います。だからこそ、テクニカルなプロダクトやアウトドアブランドが高く評価されているのではないでしょうか。ハードシェルやテクニカルジャケットが存在感が増しているのは、そういった理由があるのかもしれません。人々は、私たちのプロダクトをプロテクションとして見ているんでしょう。こういったアウトドアプロダクトは、人々が自由になることをあと押しするんです。以前は行かなかったような場所に行けるようになるんです。自然へ、山へ、ハイキングをする人は増えています。多くの人が自由を求めて遠くへ行きたいと思っているんです。保護と現実逃避のコンビネーションこそ、現在のトレンドの要因だと思っています。
そもそも納得がいくんです。国際政治、環境汚染、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など、今の世の中は混沌としています。そん状況のなか、人々は身を守るプロダクトを望み、どこかへ逃避し、冒険することを望んでいるんでしょう。
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