Interviews:ただひたすらに上質な服づくりを追求するデザイナー ルーク・メイヤー

〈OAMC〉という唯一無二のプロジェクトを操るルーク・メイヤーの洋服に対する真摯な姿勢とメンズウェアの定義

ファッション 
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Luke Meier(ルーク・メイヤー)を知る者であれば、誰しもが一度は「“OAMC”とは何の略なのだろう?」と考えたことがあるだろう。しかし、“OAMC”には意味があって、意味がない。2018年秋冬は#OnceAMotherChild、2018年春夏は#OneAlwaysMoreConscious、これが答えである。そう、〈OAMC(オーエーエムシー)〉は常に変化し続けているのだ。

だが、〈OAMC〉において、カナダ人デザイナーである彼の仕立てる洋服だけは、その発売日から生涯、その価値が変わることもなければ、色褪せることもない。Lukeの洋服はこの業界で擦り切れるほど多用されてきた「着回しに富んだ」または「ワードローブのマストハブ」といった言葉で形容できるものではなく、まるで世界遺産や職人の熟練の技から漂うものに近い、恒久的な魅力が存在する。

読者の中には未だに、Luke Meier =〈Supreme(シュプリーム)〉の元ヘッドデザイナー、というイメージが色濃く残っている人も多いだろう。しかし、彼はストリートでもなく、ラグジュアリーやモードでもなく、そしてその溝を埋める時代の救世主でもない。ただひたすら服作りの全てと真摯に向き合い、上質な洋服のみを追求するインディペンデントな存在なのだ。

和のおもてなしを世界に発信する大手町の日本旅館『星のや東京』のご協力のもと、多忙を極めるLukeの旅の合間を縫って実現したLukeへのインタビューは、残念なことに、彼の全てを解き明かすまでには至っていない。だが、以下を読み進めていけば、きっと彼の言葉のひとつひとつから、Lukeが誠実な人間であることや、溢れ出る洋服への愛が伝わってくることだろう。

ー 今回は何の目的で日本に来日したのですか?

僕と妻が手がける〈Jil Sander(ジル サンダー)〉の表参道店のオープンに駆けつけたんだ。ちなみにだけど、日本は愛すべき国のひとつだよ。素晴らしい文化があって、ヴィンテージも貴重なものが豊富に揃っているからね。

ー お気に入りのヴィンテージストア、是非教えていただきたいです。

挙げたらキリがないけど……『TORO Vintage Clothing』や『JANTIQUES』はお気に入りだね。とにかく、日本は本当に全てが素晴らしくて、本当に来る度に刺激をもらっているんだ。日本に住む読者のみなさんにとっては当たり前のことでも、異国の地から来た僕にとっては全てが興味深いし、美しく感じるんだ。

ー 今回は始めに、2014年秋冬に立ち上げた〈OAMC〉のことをお伺いできればと思います。

もちろん。早速、最初の質問を聞かせてよ。

ー では。〈OAMC〉の設立後、デザイン面でのアプローチに何か変化はありましたか?

んー……正直、そんなに、だね。大きな変化はないよ。でも、〈OAMC〉というプロジェクトを立ち上げたことは誇りに思っている。より明確なコンセプトを持って洋服と向き合うことができるし、才能豊かで技術的にも優れたヨーロッパたちの職人とも仕事できるのはとても喜ばしいことだよ。例えば、何かにインスピレーションを受けて、僕の中にアイディアが生まれ、それをカタチにするために工場に赴くとしよう。でも、実際に素晴らしい素材を手に取ったり、最高の職人たちと話しをすると、僕の想像が増幅されるんだ。なぜなら、彼らは“現場”そのものだからね。僕の洋服はそんな人たちの結晶なんだよ。より直接的に人と働くことによって、新境地が開拓されるといっても過言ではないかもね。

ー テーラードの中に度々ミリタリーやワークウェアのスタイル、ディテールを落とし込んでますが、どのようにして1つのブランド、あるいは1枚の洋服の中に複数の服飾的要素を共存させているのですか?

僕はまず始めに“機能性”について考えるのだけど、ルーツは結局全てメンズウェアだ。ミリタリーウェアも、スポーツウェアも、ワークウェアもね。そうだと思わないかい? テーラリングもワークウェアと同じさ。目的は着飾るためではない。女性の場合は着飾ることを目的にデザインされた洋服も多数存在するけど、メンズウェアは第一に機能性、そして次にデコレーションだ。

その中でも、僕はミリタリーウェアが最も優れた洋服と考えている。ファッション性が一切必要なく、明確な目的のための機能を搭載してデザインされているにもかかわらず、完成形は本当にクールだよね。機能性から生まれる美しさ、あの美しさは他にはない唯一無二のものだと思う。

ー 日本も服飾文化が古くから根付く国ですが、日本のファッション史からインスパイアされることはありますか?

もちろんあるよ。コレクションには日本の素材もたくさん使っているしね。日本にあるものは、“テイスト”が違うんだ。技術的な面もそうだけど、僕の場合は用途も変わってくる。例えば、同じ繊維でウールを作ったとして、日本製のものとイタリア製のものを比較すると、仕上がりが全く異なるんだ。どちらが優れているとかいう話しではないよ。素材の話しは専門的過ぎるからこの辺りで留めておくけど、僕は洋服ひとつひとつに“意味を持って”ベストな素材を選択しているつもりだよ。

それに、日本には素晴らしいデザイナーもたくさんいる。山本耀司さんや川久保玲さんは、信じられない才能の持ち主だと思う。なぜなら、彼らの仕事はただハイレベルなだけでなく、それを何十年も継続しているから。2〜3年継続的に良質なものを作り続けることと、30年以上それを続けるのでは全てが大きく異なる。そういう意味で、僕は日本のデザイナーを心から尊敬していると言えるよ。

ー 最近はどのブランドも“トピック作り”を重要視しているように感じます。でも〈OAMC〉からは、そのような雰囲気や動きを感じません。

僕にとっては、クオリティー、デザイン、アイディアが重要なエッセンスなんだ。それはクイックにできるものではない。よく考え、プロダクトと真摯に向き合い、ビジュアルワークも大切にする。全ての工程において、そして完成形も満足のいくレベルに達しないといけない。だから、必然的にニュース性のあることをすればいい、という考えにはならないのかもね。僕は良い感触を持ちながら、ひとつひとつに“正しい”という感覚が欲しいんだ。僕は何事にも“真摯に向き合うこと”を大切にしている。スピード感をもって、ただ“こなす”わけではない。思慮深くなり、最良を見つけ出し、そして良いものを作りたいんだ。

ー トピックを作る上で欠かせない、コラボレーションという文化が主流になっていることについてはどう思いますか?

クールだと思うよ、理にかなっていればね。コラボレーションは異なる二者が一緒に新鮮なものを作る。ただ2つのレーベルで1つのプロダクトを作るってわけではない。だから、消費者は“違い”を感じることができるんだ。僕のコラボレーションの経験を振り返っても、それは1人でできるものではなかったね。

ー 少し服づくりからは話しが逸れてしまうのですが、SNSはファッションにも多大な影響を及ぼしていますよね。〈OAMC〉のチームはソーシャルメディアをコントロールする上で何か大切にしていることはありますか?

#hypebeastのハッシュタグをつけることだね(笑)。というのは冗談だけど、〈OAMC〉では、他とは違う“ツール”として使用している。ソーシャルメディアを良質なコミュニケーションの場にしたいんだ。僕たちはInstagramに投稿する写真一枚も、一生懸命、本気で作っていて、それを投稿している。それはセルフィーとかとは違う。僕たちはソーシャルメディアにおいても、良いクオリティーをキープしていきたいんだ。でも、SNSがとても重要なことも理解しているよ、現代ではすごい影響力があるからね。でも、セルフィーを投稿して、有名になろうとする人たちの姿ばかり見て、ユーザーたちには何か有益なことがあるかな? だから、僕たちはツールとして使用しているんだ。これは現代のコミュニケーション方法なんだよ。

ー 最後に、昨今はラグジュアリーストリートが主流ですが、2030年にはどうなっていると予想されますか?

ラグジュアリーストリートというアイディアは、マーケティングのためにビッグブランドが見つけた一つのワードに過ぎない。ラグジュアリーストリートという概念そのものは、これまでもずっとシーンにあった。偉大なデザイナーや格式高いラグジュアリーブランドは、いつの時代も若い人に影響を与えてきたよね。もし仮に彼らが若い人たちのためのマーケティングプランを用意してなかったとしても、彼らの若者へ対する影響力は変わらない。だから、正直僕はこれを新しいものだとは思わない。マーケティング面で新鮮さをもたらすためのワードみたいなものなんじゃないかな。これを現代を語る上でのひとつのコンセプトのように語る人もいるけど、僕にとってはそこまで新しいものではないんだ。未来のことはあくまで予想になるけど、ストリートブランド、ラグジュアリーブランドという垣根は完全に消滅するんじゃないかな。あの川久保玲さんからでさえ、いつの時代もストリートや若者の視点を感じた、いつもだ。それでいてハイデザインだ。僕はただクールだと感じられるものがしたいんだ。ストリートから来るアイディア、テーラリングから来るアイディア、ワークウェアから来るアイディア、そこに線引きはないよ。

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