OMEGA スピードマスターに関する5つのトリビア──機械式時計ヘッズになるための薀蓄コラム
月に行った名作時計は火星も目指す!?
多くの男が憧れるクロノグラフはこの世にいくつか存在する。その中でもズバ抜けたスター性を備えるのが、名門〈OMEGA(オメガ)〉の看板モデル“SPEEDMASTER(スピードマスター)”だ。
誕生したのは1957年。名称からイメージできるように、もともとはモータースポーツでの着用を意識して開発されたクロノグラフであり、速度を計測できるようベゼルにタキメーターを初めて刻んだ腕時計でもあった。搭載する高性能なムーブメントをインナーケース付きの二重シールド構造ケースで守る堅牢な構造も極めて画期的で、精度面においても耐久性においても当時最高峰のクロノグラフとして、レーサーのみならずたちまち多くの時計ファンを魅了するに至った。
しかしそれが2024年の今日までブランドの不動のフラッグシップコレクションとして君臨するとは、オメガの経営陣も想定していなかったのではないだろうか。とくに初代から続く伝統の手巻きモデルは、常に別格的な人気を博し続けている。
スピードマスターがタイムレスな存在となり得たのは、完成されたデザインの魅力や、着実に性能面を進化させ続けてきたことはもちろんのこと、人類の宇宙開発を支えた“ムーンウォッチ”という痺れるストーリーを備えていることも大きいだろう。以下ではそんな傑作クロノグラフにまつわる、5つのトリビアをまとめてみた。これを読めば、スピードマスターとはどういう時計なのか、さらに理解を深めることができるはずだ。
①過酷なテストを乗り越えNASAの公式装備品に
「1960年代の終わりまでに人類を月に送る」。宇宙開発競争でのソ連に対する遅れを一気に取り戻すべく、当時のアメリカ大統領ジョン・F・ケネディは61年の一般教書演説でそんな無謀とも言える計画をブチ上げた。ここからNASAは未曾有の国家プロジェクトを急ピッチで遂行していくわけだが、ひとつ自分たちでは解決できない大きな問題が立ちはだかっていた。
船外活動を行う宇宙飛行士たちにとって、腕で正確な時を刻む時計は重要なギア。当然、月面着陸においても大切な役割を果たすことは想定できた。しかし、宇宙空間に耐える腕時計を独自開発する時間的な余裕はまったくない。そこでNASAは、時計メーカーの既存モデルから選ぶべく、10社に注文を入れたのだ。
その要請にこたえた4社のうち、サイズなどの条件を満たしたのはオメガを含む3社のモデルだった。NASAはこれら3モデルに対して、気温(摂氏93度からマイナス18度まで)、衝撃、振動、真空状態での耐久性、湿度、腐食、加速、加圧など、11項目に及ぶ非常に過酷なテストを実施。すべてに見事耐えきったのが、唯一オメガのスピードマスターだけだったのだ。
こうして1965年3月1日、スピードマスターはNASAの公式装備品として正式に採用された。これが伝説の序章だ。
②“ムーンウォッチ”と呼ばれるに相応しい数々の輝かしい活躍
1969年7月21日(日本時間)、NASAはついにアポロ11号にて人類初の月面着陸に成功した。このときスピードマスターは宇宙飛行士の腕元に寄り添い、ミッションの遂行をしっかりサポートした。だからこそムーンウォッチの称号をほしいままにしているのだが、じつはこの時計は、アポロ11号を含む計6度の月面着陸以外にもNASAの宇宙計画を支えた熱いストーリーを数多く秘める。
まず1962年のマーキュリー計画の「シグマ7」ミッションおいて、宇宙飛行士ウォルター・シラーが自身で購入したスピードマスターを携帯。これこそが宇宙を旅した最初のオメガウォッチだ。また先述の通り、スピードマスターは1965年3月にNASA公式装備品となるが、同年9月のジェミニ計画では、エド・ホワイトがスピードマスターを着用してアメリカ人宇宙飛行士として初めて宇宙遊泳を成功させている。
しかしスピードマスターが最も実力を発揮したのは、1970年のアポロ13号ミッションだろう。月に向かっていたアポロ13号は予備酸素タンクの爆発により計器障害が発生。月面着陸を断念し、月の引力を利用した自由帰還軌道により地球に帰還する緊急対策が取られた。正しい姿勢と角度で再突入コースに乗るには、NASAが指定した時間に14秒間だけマニュアルでエンジンを噴射することが求められたが、クルーはスビードマスターを使って正確に実行。これにより地球に無事帰還できたのだ。
こうした数々の実績により、現在でもスピードマスターは、国際宇宙ミッションプログラムにおけるNASAの有人宇宙ミッションのすべてに使用される。宇宙で活躍した時計は他ブランドにも存在するが、このクロノグラフ以上に、人類の宇宙探査の歴史と深く結びついたものは他にない。
③アーム・ストロング船長はスピマスを付けていなかった!?
世界中の人がブラウン管の前で固唾をのんで見守ったアポロ11号の月面着陸。まずニール・アームストロング船長が月面に降り立ち、その後バズ・オルドリン隊員が続いた。このとき両者ともスピードマスターをつけていたと思われがちだが、着用していたのはバズ・オルドリンのみだったということはご存知だろうか。じつはこのクロノグラフには任務時間をトラックするなどの重要な役割が与えられていたため、宇宙空間で着用して両方とも壊れてしまうリスクを避けるべく、ニール・アームストロングは船内に置いてきたのだ。
④OMEGAとスヌーピーの素敵な真実
2000年の『銀河鉄道999』モデルや、2021年の『帰ってきたウルトラマン』モデルなど、オメガは過去様々な人気キャラクターとコラボした特別仕様のスピードマスターを発表してきた。中でもとりわけ縁が深いキャラクターが「スヌーピー」だ。2003年、2015年、2020年と3度もコラボモデルを発表している。
じつはオメガとスヌーピーの関係は、アポロ13号のクルーが無事生還した1970年に、NASAからオメガに「シルバー・スヌーピー・アワード」が贈られたことに始まる。同賞はNASAの有人宇宙飛行ミッションに貢献した人物や団体に与えられるもの。権威ある賞がなぜスヌーピーの名を冠するのかというと、どんな状況でもユーモアを忘れない彼を、NASA は計画の成功を見守る番犬として選び、同賞が創設された1968年以来シンボルとしているのだ。
つまりスヌーピーは、宇宙開発を支え続けてきたスピードマスターに対する、NASAの感謝の象徴。過去のコラボモデルは、いずれも宇宙服を着た愛らしいスヌーピーが盤面を飾っているが、そこにはオメガとNASAの宇宙に対する熱い情熱が詰まっているのだ。
⑤月の次は火星を目指す
THE FIRST WATCH WORN ON THE MOON(月に行った最初の時計)という、絶対的な栄誉に輝くスピードマスターだが、けっしてその地位にあぐらをかいていない。この傑作コレクションは、現在も月の遥か先を目指して技術革新を続けている。
その象徴がご覧の「スピードマスター X33 マーズタイマー」だ。こちらはESA(欧州宇宙機関)と共同開発されたモデルで、軽量かつ頑丈なグレードチタンケースには、地球と火星の時間を示す画期的なムーブメントを搭載する。具体的には、MTC(調整火星時間)機能を備えており、1日が地球より39分長い火星日の日時を、本初子午線を使って表示できるのだ。さらに太陽コンパス機能も搭載され、地球上および火星で、北の方角を正確に示すこともできる。
スピードマスターが、近い将来ムーンウォッチを超えてマーズウォッチと呼ばれる日が来ることを予感させる、ロマンあふれるモデルと言えるだろう。