UNIQLO and White Mountaineering でみせた相澤陽介のサステナ境地
今回は真面目な6つの質問
〈UNIQLO(ユニクロ)〉が〈White Mountaineering(ホワイトマウンテニアリング)〉と三度チームアップし、リサイクルハイブリッドジャケット(7,990円、3色展開)を10月11日(金)に発売する。このアイテムは、立体的で腕が動かしやすい3Dカッティング構造になっていたり、耐久撥水素材で小雨程度の雨なら着用可能。また、デザイン性の高いグラデーションのダイヤ形キルトになっていたり、収納力の高いポケットが備わるのだが──それよりも何よりも、リサイクル素材を使い、性別や世代を問わず着用ができ、サーキュラーエコノミーも意識したアイテムに仕上がっている。時代がこう向かって欲しいという思いも込めてデザインしたであろうデザイナー 相澤陽介に、今回は真面目な6つの質問をぶつけてみた。
Hypebeast:2年連続でユニクロとリサイクルダウンを使用したジャケットを制作されました。相澤さんのなかでサステナブルな素材を使いたいという思いは強かったのでしょうか?
はい。ユニクロとの取り組みも3回目を迎え、ユニクロが掲げる大きなヴィジョンを含めお互いの理解度が増していくなかで、現在取り組んでいるサーキュレーションという考えをファッションデザイナーとして正面から取り組みたいという思いが大きくなっていました。
これは私が長年テキスタイルに重きを置いてブランドを続けてきたことにも大きく関係があります。テキスタイルの世界的な動きを踏まえると、合繊の未来に向けての変革のタイミングだと理解していました。そして、洋服を作る上で最も重要な要素がテキスタイルである、という私の哲学があるので、そういった意味でもリサイクルという考えは最も大切だと思っています。
また、現在のユニクロの取り組みである自社(のダウン)製品を回収し、(新しいダウン製品に)作り替えるというアプローチは、単に不要になった製品を作り替えるという行為ではなく、これからの新製品についても最終的に責任を持つという理念だと感じ、共感しています。
今季のリサイクルハイブリッドダウンジャケットのデザイン上のポイントはどこでしょうか?
まず今回のプロダクトのあり方として、サーキュレーションを使った洋服であることが重要でした。これはファッションデザインとしてのヴィジュアルやスタイルとは別に、取り組みの根源となっています。ただ、そういった素材、副資材(リサイクルダウン)を手にした時に考えたのが、リサイクルを感じさせないデザインのあり方でした。シンプルに言えばバージンナイロンやダウンを使った商品と差がないデザインが必要だと思いました。
そこで素材を生かした軽さに着目し、薄手のハイブリットダウンを作ることをイメージ。過去のコラボレーションでは展開していなかったリブブルゾン(ボンバージャケット)を作ろうと考え、ユニクロのコア商品にはない大胆なキルティングに合わせることを行いました。今回は、デザインのディテールとして私が得意としているハンティングの要素も組み合わせています。また軽さだけではなく、ややワイドなシルエットに対してダウン、中綿のボリュームを綿密に計算し、暖かさと軽快さを加えています。
そのため3Dカットのパターンメイキングを取り入れ立体的なシルエットになっています。このことで身体を動かした時のテンションの位置を計算し、様々なオケージョンで動きやすさにつながるデザインを心がけています。
これまでのユニクロとのコラボレーションを経てご自身の仕事に何か変化はありましたか?
私はこれまでアウトドアウェアの持つ可能性を突き詰め、ファッションの世界で変化、昇華させることを重要視してきました。パリファッションウィークに参加して10年が経ちますが、その思いはさらに強くなっています。
その反面、別の角度でファッションに携わりたいという考えも出てきて、より多くの人にデザインしたものを提供できたらデザイナーとしての可能性が広がっていくとも思っています。そうしたなかで、ひとつは企業の制服やスポーツウェアへの参入でした。
またもうひとつが、世界最大規模のブランドであるユニクロとの取り組みです。過去のコラボレーションを考えてみても今まで私がデザインした洋服に関わることがなかった方々に着用していただく。そんなことが実現できました。ある意味でファッションの民主化と捉えると、デザイナーとしての可能性を広げることにもなりました。
またUNIQLO:CやUniqlo Uのように様々なデザイナーが関わることにより、企業としてデザインに対する間口を積極的に広げている環境のなかで取り組みを行うのは刺激的でもあります。
私自身、多くの建築家やプロダクトデザイナーが取り組んできたマジョリティとマイノリティのバランスを感じながらのデザイン作業はとても興味深いものでありますし、逆にホワイトマウンテニアリングのプロダクトについてより深く考える時間にもなっています。
サーキュラーエコノミーを形成していく上で「いかにひとつの製品を長く使い続けられるか?」が重要です。物理的な耐久性だけではなく、愛着を持って使う(着る)ための「情緒的耐久性」も製品寿命を延ばすことに繋がると思います。普段、デザインをされるなかで、この点を意識することはありますか?
私にとってファッションとして最も影響を受けたのが、アウトドアやミリタリーウェア、アメリカントラッドが大好きだった父でした。トレンドが繰り返されるファッションのなかで今でも着用できる父の洋服が残っています。父はすでに亡くなっていますが、古風なレインジャケットやニットや靴は今でもしっかりと着用することができるのです。
また、当時の服は存在理由が明確。釣りに行く時には収納ポケットが使いやすいもの、ハンティングで山に入る時には目立つ配色のジャケットを。仕事に行く時にはトラッドマインドを感じる事ができるグレンチェックを、とその時代のなかで意味を見つけ、選んでいたことがわかります。
これは先ほどのユニクロが考えるプロダクトに対する未来像にも通ずることではないでしょうか? プロダクトを生み出す時には必ずそのものが何のために作られたのか? という意味を持たせることで着用する人に意志を伝達できると信じています。
そのためにまずは、ファッション的な装飾だけではなく袖を通した時に感じる快適さ、様々な動作に対応できる可動域、そしてデザインの差し引きが重要です。「あのジャケットを着ると自然と動きたくなる」というメッセージで、それが伝わることで「情緒的耐久性」につながっていくと考えます。
相澤さんの視点からみて、限りある資源を有効に使う意識は世の中に浸透してきたと思いますか? まだ足りていないと思いますか?
意識レベルではその需要性についての危機感は浸透していると思います。しかし、実際の生活のなかでどのように関わるのか? という実益レベルまで意識を押し上げ、一般社会の中で行動させることはとても大変だと思います。
まずは意識としての日常の中で何ができるのか? それは化石燃料に対する有限の期間やフードロス対策、仕事の環境など問題が多いなかで、やはり企業が英断し進めることは重要です。いわば今ユニクロが進めているこのプロジェクトが浸透し、会社として更に大きな動きとなることは一般的認知として重要だと考えています。
私は大学で教える身としてテキスタイルの世界もこの20年間で大きく変化してきました。今はただ単に面白いもの、ビジネスにつながる物だけではなく資源に対しての知識や動きを同時に伝達していくことも重要だと思っています。先ほど申し上げたように、マジョリティを課題、マイノリティとしてクリエイティブと置き換え、その両軸での教育にも興味があります。これを教えることで文化の継承にもつながっていくとも信じています。
相澤さん自身は、普段、着なくなってしまった服はどうしているのでしょうか?
デザイナーの立場としては、着用しなくなった洋服でもフィールドを変えてテストに使えるので、個人的にはあまり捨てることがないです。なので保管には困りますが、解体して新しい発見をすることもあります。
また、今住んでいる長野の山でワークウェア的な使い方に変わって使うことも多いです。使う場所、目的が変わっても意味をなす物を生み出したり、選んだりすることがデザインのなかでも大切です。またファッションに興味を持った息子達が私のクローゼットに入り、選んで着用することが多くなりました。私自身もそうやって父のクローゼットに忍び込み拝借してきたので、彼らが気に入ったものがあれば、長く持っていて欲しいとも思っています。
ありがとうございました!
相澤陽介
1977年10月25日生まれ。多摩美術大学デザイン科染織デザイン専攻を卒業後、2006年に〈White Mountaineering〉をスタート。これまでに〈Moncler W〉、〈BURTON THIRTEEN〉、〈LARDINI BY YOSUKEAIZAWA〉など様々なブランドのデザインを手掛ける。現在では、イタリアブランドの〈COLMAR〉にてデザイナーを務めるほか、サッカーJリーグ北海道コンサドーレ札幌の取締役兼ディレクターにも就任。その他、多摩美術⼤学、東北芸術⼯科⼤学の客員教授も務める。