MARMOT ディレクター 菊乃がアウトドアウェアの歴史に添える“新たな色” | Interviews

ストリートカルチャーに造詣の深い菊乃氏が、本格アウトドアブランドのラインを手掛けるにあたり、新たに取り入れたデザイン要素に迫る

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1974年、アラスカで出会った2人の学生によって創業されて以降、アウトドアブランドとして初めてGORE-TEX®︎を採用するなど、業界に新たな息吹を吹き込み続けてきた米国発〈Marmot(マーモット)〉。極限の環境でも耐えられる高性能なダウンをはじめ、本格的な登山用品を扱うブランドとして、世界中の登山家から愛され続けている本ブランドが、創業50周年を目前にジャパンデザインラインを始動させ、新たなチャプターを迎える。

MARMOT(マーモット キャピタル)〉と名付けられた新ラインのディレクターを務めるのは、〈PURPLE THINGS(パープルシングス)〉のデザイナーであり、モデルとしても活躍する菊乃。トレンドに流されることのない独自のセンスで、ファッションアイコンとしても名高い彼女が、“COMFORT and FREEDOM”をコンセプトに、着る人々に選択肢を与えられる自由で新しいアウトドアアパレルラインをユニセックスで提案する。

このたび『Hypebeast』は、立ち上がり前より感度の高い人々から注目を浴びていた、2023年秋冬コレクションのローンチに合わせ、菊乃氏へのインタビューを敢行。ストリートカルチャーに造詣の深い菊乃氏が、歴史のある〈Marmot〉のジャパンデザインラインを手掛けるにあたって新たに取り入れたエッセンスや、アウトドアウェアのイメージを塗り替える、洗練された印象のカラーパレットを採用した経緯など、〈MARMOT〉を象るデザイン要素に関して伺った。

あまり自分の中では“アウトドアウェア”をデザインしているという認識はなくて、それよりももっと広い視点でクリエイションしているかなと思っています

Hypebeast : まず、MARMOT CAPITALというレーベル名は、菊乃さんが作られたのでしょうか?

菊乃 : そうです。1970年代から何十年も続いているブランドが枝分かれして行った先で、このようにすごく自由にやらせていただけるなんて、とてもありがたいお話で。でも、一方でそことの差別化も図りたかった。Marmotって頭文字のMだけが大文字で、あとは小文字なので、変化をつけたくて、全て大文字のMARMOTにしました。“通称大文字マーモット”みたいなイメージで、そのままレーベルの名前に。大文字は英語でCapital(キャピタル)なので、“マーモットキャピタル”にしました。ロゴは、自分が元々ボールドな感じが好きで、アイデンティティ的なところでもあると思っているので、デザイナーさんにとにかく無駄なものを削って作ってもらいましたね。

ストリートシーンに映えるアイテムを数多く展開するユニセックスブランド PURPLE THINGSを手掛けていらっしゃる菊乃さんですが、それとは異なる“アウトドア”というアプローチの中で気にかけたことはありますか?

これまでの自分にとって、アウトドア自体はそこまで身近なものではなかったんです。アウトドアウェアを着ることはあっても、デザインするなんて思いもつかなかった。でもだからこそMARMOTは、歴史のあるMarmotというブランドのアウトドアウェアを、自分が新たに解釈したような形になったかなと思っています。

デザイン面でいうと、最初からイメージが固まっていたわけではなく、かなり試行錯誤しながら自分の中でだんだん辻褄が合ってきた、という感じ。自分がMamotの新レーベルを手掛けていくにあたって、ストリートでも着用できるエッジの効いた感じをプラスすることが自分らしさでもあると思ったし、ディレクターとして関わる意味でもあると思ったんです。でも、最初からそこを意識していたかというと、そうであるようでそうではないというか……。実際に作り上げていってから(デザインアプローチに)気付いた感じですね(笑)。エッセンスとして、自分が心酔してきたストリートカルチャーやヒップホップ、メンズウェアのディテールに加えて、自分が幼少期に着ていたアウトドアウェアやテックウェアの色味なんかも思い出して、少しずつ取り入れながら作り上げていきましたね。

私は基本的にスタイルを提案したいという気持ちはあまりなくて、人々が好きなように服を選んで着たらいいと思っているんです。だからこそ、MARMOTでは、アウトドアシーンだけではなく、ストリートシーンでもフィットする、選択肢をいくつも持てるアイテムが作りたくて。自分自身、シェルジャケットとか、GORE-TEX®︎を使用したウェアをタウンユースで着用することがすごく多かったので、(コーディネイトの)選択肢に幅を持たせることは、自分がデザインする上で大事にしているポイントかなとは思っています。なので、あまり自分の中では“アウトドアウェア”をデザインしているという認識はなくて、それよりももっと広い視点でクリエイションしているかなと思っています。

Marmotのアーカイブにストリートウェアの要素を取り入れるにあたり、(デザイン面において)なかでも注力した部分はどちらでしょうか?

ストリートウェアにしたい!という気持ちで作ったわけではなくて。これはデザインのベースにもなっている“COMFORT”の部分ですが、私はあまりバッグを持って外出しないので、ポケットがいっぱいあると必需品を収納できて便利だとか、そういう視点で。あと、ロゴはわかりやすくフロントに入れるのではなく、後ろにさりげなく入れました。自分自身、ロゴものが好きではないというのもあるんですが、“実はこれってこのブランドなんだよね”という印象を持たせたかった。ストリートか、と言われたらそうではないと思うのですが、自分の好みなので(笑)。

パンツのデザインポイントに関しては、色んなスニーカーに合わせられるように、ドローコードを付属しました。フラットなスニーカーの時は裾を伸ばしたまま穿いてもいいし、ボリューム感のあるスニーカーを履きたいなという時は絞ってもいい。“裾にボリューム感は欲しいけど丈が長くなっちゃう”とか、そういうバランス感を調節できるよう工夫しています。あと、トップスもパンツ同様、大体ドローコードを付けているのと、全体的にどのサイズでも着用できるようにしていますね。タイト目に着るのか、オーバーサイズで着るのか、それも自由に選んでもらいたいなと思っています。

実は、アーカイブをベースにしているものは数型しかなくて、それ以外は自分のオリジナルなんです。2023年秋冬でいうと、アーカイブから引っ張ってきているものは3型ほど。それ以外は、新型として作らせていただいたものです。こんなに自由にやらせていただけると思っていなかったので、すごくありがたくて。

具体的にはどちらのアイテムがアーカイブをベースとしているのでしょうか?

パープルのダウンジャケットは、1990年代のニューヨークで、ラッパーたちが着用していたことから一世を風靡したマンモスダウンパーカをベースとしています。アウトドアウェアのアウターって、天候を考慮して工夫されていて、少し丈が長いんですけど、(MARMOTで展開するものは)あえて丈を短く作り変えたものとなっています。シェルジャケットもアーカイブなんですけど、胸元のディテールを開けると、ポケットが搭載されているので、小物が収納できます。さらに、このシェルジャケットはクロップド丈のものや、逆にロングのものもデザインしました。1980年代に騎兵隊が着用したフリーストップスは、割とアーカイブに忠実に作っていますね。そういうものもありつつ、ほとんどは新たにデザインしています。

オリジナルのアイテムも数多く製作されたとのことですが、デザインするにあたって、インスピレーション源となったものはありますか?

1990年代〜2000年代のCOMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)、Junya Watanabe(ジュンヤ ワタナベ)、自分が幼少期に着ていたGAP(ギャップ)のテッキーなディテールからアイデアをもらったりとか、インスピレーションを受けたり、それをいっぱいかき集めてきて、盛り込んだみたいな感じですね。

服を作っている時って、本当に感覚でしかなくて、自分がこれまでに見てきたものの蓄積によって生まれているものなので、言葉で説明しにくくて。それに、私はあまりトレンドを追う方ではないので、芯の部分でいつまでも着られるものがいいなという思いはあります。それこそ何年も着倒して、古着ぐらいボロボロになっても、かっこよく着れるもの。自分が10年後、20年後も着たいな、面白いなと思うものを作ったという感じですかね。

王道のアウトドアウェアより、自分だけが知っていればいいギミックがあるウェアが好きなので、1990年代後半~2000年代前半のものを古着で買ったりもするんです。当時のGAPとか、ギミックが結構入っていたりしてすごく面白い。実際、当時着ていたというのもあるので、そこに自分のルーツみたいなものを感じながらスタイリングを組んだりもしますね。

2023年秋冬シーズンのアイテムは、(他のアウトドアブランドでは見かけない)ミューテッドなカラーパレットが特に印象的だったのですが、この配色を採用することになった理由がありましたら教えてください。

自分が2015年に始めたPURPLE THINGSというブランドの名前にもある通り、私はパープルがすごく好きなので、そういうカラーをメインにした……というすごく単純な理由なんですけど(笑)。アイデンティティ的なところがあるので、パープルをメインカラーにしました。あとはそれに合うカラーを持ってきたっていう感じですね。

ブランドアイデンティティとして、2024年春夏も2024年秋冬もパープルをメインカラーとして残しています。先ほどもお伝えしましたが、自分は1990年代後半〜2000年代前半くらいのテックウェア、アウトドアウェア、スポーツウェアのテイストが好きなので、そこから色やディテールを拾ってきたりもして。その年代からインスピレーションを受けて作ったものは多いですね。

2023年秋冬では、PAJA STUDIO所属のアーティスト 渡邉太地さんのアートワークを反映したカラーもご用意されていましたね。

今回は、元々単純に作品が好きで、プライベートでも仲良くしている渡邉太地くんにお願いしました。太地くんの作品は、空をモチーフとしたものが多くて、今回も自然から派生するイメージでと伝えて描いてもらいました。

2024年春夏は、フランス在住のアーティストであるAlmostfreesurviceのマテュー・クービアー(Mathieu Courbier)さんにお願いしています。花や石、月とか、自然の中にあるものをモチーフに描いてもらったアートワークは、Tシャツやレギンス、ショートパンツにプリントで施していますね。2シーズンにわたって行っているアーティストとのコラボレーションは、今後もブランドの独自性として続けていけたらと思っています。太地くんをはじめ、依頼している人は自分もすごくリスペクトしているアーティストなので、このコラボによってアーティスト側にも関心がいってくれたら嬉しいですね。

こちらのアーティストも菊乃さんがキュレーションされたのでしょうか?

元々Instagramでフォローしていて、すごく合いそうだなと思って直接連絡しました。次シーズンにお願いするアーティストは全然決めていないのですが、自分が好きなアーティストや、コラボしてみたいなと思う人、それこそ若いアーティストでいいなと思う子は国内外問わずたくさんいるので、何かしらの形でやれたらいいなと思っています。

10年、20年と経った時に「Marmotって日本人の女性がやっていたレーベルがあるらしいよ、おもろいよね」みたいに語れていったらいいなと思っています

既にお披露目されている2023年秋冬と2024年春夏コレクションの中から、特に気に入っているアイテムがありましたら教えてください。

2023年秋冬では、先述した太地くんの柄も展開するフリースシリーズが結構気に入っています。あとはソフトシェルのパンツ。2024春夏シーズンで展開するPERTEX(パーテックス)のスカートは、自分の中でもかなりアガっていますね。もし自分がデザインしたものじゃなくて、純粋に街で見かけたら「ずるいな」と思うようなものになったので、すごく気に入っています。2023年秋冬も2024年春夏も、機能素材、ギミック、ある種余計なディテールとかを盛り込んでデザインしたので、どのアイテムも面白いものにできているかなと思います。

GORE-TEX®︎などの素材は、自分がブランドを続けていても使えるかどうかわからないものだから、それを使って服作りができるなんて、こんな贅沢はないと思って作っています。PERTEXや、Marmotのオリジナルの機能素材 Chimera(キメラ)を使ったり。自分自身、今まで触れたことのない新しい素材を使っての服作りは楽しいですね。アウトドアブランドに馴染みがない人も多いと思うので、“Polertec(ポーラーテック)って暖かいんだ”とか、“雨が降っている時にGORE-TEX®︎のウェアがあると便利”とか、そういう知識も与えていけるブランドになったらいいなと思っています。

本格的なアウトドアブランドだと、あまりアウトドアに馴染みがない人にとっては、触れにくいところもあるかと思うので、MARMOTのアイテムをカジュアルに取り入れてもらえたらいいのかな、と。それが自然に触れるきっかけにもなるかもしれないですし、その人の人生の選択肢の幅を広げてあげる部分にもなるのかなと思っています。

MARMOTでは、今後どのようなアイテムを製作予定でしょうか?

デビューコレクションがローンチしたばかりですが、もう既に3シーズン目である2024年秋冬コレクションの製作段階に差し掛かっているんです。2023年秋冬からマイナーチェンジしていくアイテムもあるので、そこのちょっとした違いを見つけてもらえたら面白いかもしれないですね。シェルパンツなどは定番で作っていく予定です。

どのようなブランドにしていきたいなど、今後の展望がありましたら教えてください。

例えばここから10年、20年と経った時に「Marmotって日本人の女性がやっていたレーベルがあるらしいよ、おもろいよね」みたいに語れていったらいいなと思っています。あとは、アウトドアが好きな人にも「これいいね」と言ってもらえたら本物かなと思うので、是非手に取ってみてほしいですね。

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