Sole-Searching : Air Max 180 特集
発売30周年を迎えるAir Max 180の歴史を深堀り
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先月よりスタートした、毎月1足、歴代の名作スニーカーの歴史を紐解く新企画 “Sole-Searching”。第2回目は毎年3月26日に開催される“Air Max Day”にちなみ、名作揃いの〈Nike(ナイキ)〉Air Maxシリーズの中から、今年で発売30周年を迎えるAir Max 180にフォーカスする。
Air Maxシリーズは、1987年春に発表されたAir Max 1から始まった。クッショニングシステムのAIRを可視化した斬新なビジブルAIRを初搭載した同モデルは、本来のランニング用から街履きまで幅広い用途で支持を得た。その4年後となる1991年に、伝説的なデザイナー Tinker Hatfield(ティンカー・ハットフィールド)とBruce Kilgore(ブルース・キルゴア)の手によって本稿の主役であるAir Max 180、当時の名でAir 180が誕生。Air Maxの名を冠してないのは、当時このシューズはMAXシリーズとは異なるプロダクトラインとして扱われていたため(後年、復刻の際にAir Max 180に名称が変更される)。Air 180のデザインにあたり、従来のモデルよりもAIRを露出させることを目標とし、馬蹄にヒントを得てかかとの周りを囲むような180度のビジブルAIRユニットの開発に成功。
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Nike
このAIRバッグは1990年にリリースされたAir Max 90に比べてAIRの容量が50%増量し、クッション性も飛躍的に向上している。また、ウレタン製のアウトソールを初採用し、ソックスのような伸縮性を持つインナースリーブを搭載。こうして、ソーラーレッド/ホワイト/ブルーのOGカラー “Ultramarine”が1991年春にリリースされた。ビジブルAIRが初搭載されたモデルはAir Max 1だが、それをさらに発展させるきっかけとなったのは、Air 180だと言われている。Air 180のリリース後も、〈Nike〉のデザイナー陣はさらなる可能性を追求。現在までのAir Maxシリーズの進化の歩みは『HYPEBEAST』読者には説明不要かもしれない。
そんなAir 180だが、発売当初の売れ行きや世間の反応はいまひとつだったようだ。その理由の1つとして、ソールは新しくてユニークだったが、アッパーのデザインがクラシカル過ぎたからという意見がある。また、当時〈Nike〉は世界中の著名なグラフィックデザイナーや映像作家を起用して、このシューズのキャンペーンCMを製作。大規模なプロモーションを行った。その映像をディレクションしたうちの1人は、2020年11月から2021年2月にかけて『東京都現代美術館』で大規模な回顧展が行われた日本を代表するアートディレクター/デザイナーの故・石岡瑛子。しかし、この芸術的なプロモーションも売り上げにはあまり結び付かなかったようだ。スニーカーのCMというより現代アートのショートフィルムといった方がふさわしいこの映像は、今となってはあまりにも時代を先取りし過ぎていたと言えるだろう(下のプレーヤー参照)。
また、1992年のバルセロナオリンピック開催にあわせて発表されたキャンペーンでは、ドリームチーム(バスケットボール男子アメリカ合衆国代表チーム)のユニフォーム姿のMichael Jordan(マイケル・ジョーダン)が、同シューズの“Concord”と呼ばれるホワイト/ブルー/ゴールドのカラーウェイを着用。オリンピック期間中、JordanはAir 180をコート外で好んで履いていた。ちなみに同代表チームのチームメイトであるCharles Barkley(チャールズ・バークレー)が着用したのは、Air 180と同じAIRユニットを搭載したAir Force 180というのは有名な話。しかしMJの着用でもAir 180はそれほど評価されることなく、結果的に市場に流通したのはわずか1年ほどだった。このモデルが世間の注目を浴びるのはその後長い時間を要することになる。
時は流れて2004年、デビューソロアルバム『The College Dropout(ザ・カレッジ・ドロップアウト)』をリリースしたばかりのKanye West(カニエ・ウェスト)は、アルバムの発売を記念して自身初の〈Nike〉とのコラボスニーカーとなるAir Max 180 “College Dropout”を製作。その1年後の2005年、イギリスのグライムシーンのパイオニアである Dizzee Rascal(ディジー・ラスカル)が〈Nike〉とのコラボレーションにより60足限定のAir Max 180 “Dirtee Stank”を発表。さらに、2006年には“ラップゴッド”ことEminem(エミネム)がAir Max 180 “Shady 45”をチャリティーオークションに出品するなど、音楽シーンにおけるAir Max 180の存在感が高まることに。
時代をリードする先鋭的なアーティストから再評価され始めたAir Max 180は、コアなスニーカーフリークの間では少しずつ人気が広まってく。2009年にはOGカラーの“Ultramarine”が復刻。その後も同モデルは、2018年にもリイシューされている。2013年には、ウィメンズのOGカラー(ホワイト/クリムゾン/マゼンダ)モデルが復刻。また同年には、イギリス発のスニーカーショップ『size?』の別注シリーズ“Urban Safari”内で、Air Max 180が2つのカラーウェイで発売されるなど、その後もさまざまなカラーバリエーションがリリースされるようになる。
2017年6月、川久保玲が手がける〈COMME des GARÇONS Homme Plus(コム デ ギャルソン・オム プリュス)〉が発表した2018年春夏コレクションのランウェイでピンクを基調とした3色のコラボモデルがお披露目される。翌年の2018年1〜2月にリリースされたこのコラボレーションモデルが大きな話題となり、ファッション業界でもAir Max 180が注目されるきっかけに。さらに、2019年4月にはYOON(ユン)がクリエイティブディレクターを務める〈AMBUSH®(アンブッシュ)〉とのコラボにより、Air Max 180をベースにAir Zoom Flight The Gloveの要素を取り入れたハイブリッドモデル Air Max 180 High “AMBUSH®”が発売されている。
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Takahiro Kikuchi/Hypebeast
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Nike/Ambush®
オリジナル発売当初はあまり評価されず、長い間スポットライトが当たらなかったAir Max 180だが、今ではAir Maxシリーズの中でも屈指の名作モデルとして評価が定着することとなった。最初のキャンペーンを手がけた伝説的アートディレクターの石岡瑛子からはじまり、MJ、Kanye、Eminemを経て川久保玲に至るまで、振り返ると時代を創ってきたキーパーソンがこのモデルに引き寄せられており、近年の再評価は必然の流れだったかもしれない。今後もさらなるコラボモデルなどが発表されることを期待したい。