Saint Michael
ヴィンテージというアートフォームを突き詰める究極の探究心〈READYMADE(レディメイド)〉の細川雄太とCali Thornhill DeWitt(カリ・ソーンヒル・デウィット)。日米を代表するシーンのキーパーソン2人がタッグを組み、海を越えて新たなブランドを世に送り出そうとしている。その名も〈SAINT MICHAEL(セント マイケル)〉。
細川雄太が2013年にスタートした〈READYMADE〉は、ヴィンテージアイテムを解体・リメイクするというコンセプトの元、トラックパンツからダウンジャケット、バッグまでブランドのシグネチャーといえるアイテムを数々生み出してきた。その圧倒的なクオリティと希少性の高さによって、瞬く間に世界中から熱視線を集める“HYPE”なブランドの仲間入りを果たす。しかしプロダクトの核をなすのは、あくまで反戦のメッセージや大量生産に対するアンチテーゼ。ストリートの熱狂とは一歩隔たった高みから唯一無二のマスターピースを発信し続けている。
一方のCali Thornhill DeWitt。『HYPEBEAST』読者の中にはKanye West(カニエ・ウェスト)のマーチャンダイズデザインを思い浮かべる方も多いかもしれないが、アメリカ・ロサンゼルスを拠点とする重鎮アーティスト。ある時は音楽レーベル「Teenage Teardrops(ティーンエイジ ティアドロップス)」のオーナー、ある時は〈Some Ware(サム ウェア)〉のデザイナー、ある時はファッションブランドへのグラフィック提供、ある時はミュージックビデオの監督、ある時はフォトグラファーなど、その活動形態を特定の肩書きで括ることは難しい。多数のプロジェクトを遂行するCaliは、アンダーグラウンドからメインストリームまでを自在に行き来する稀有な存在でもある。
そんな細川雄太とCaliは〈READYMADE〉において、既に幾度かのコラボレーションを経ているが、このタイミングで共同のブランドを設立した経緯、両者の関係性、モノ作りに込めた想いやこだわりなど、本稿では〈SAINT MICHAEL〉の初コレクションに先駆け、世界最速のレポートをお届けする。
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2人はどのようにして出会ったのですか?
Cali Thornhill DeWitt(以下、Cali):共通の知人であるGR8(グレイト)の久保さんを通じて知りました。そうやって出会ったよね?
細川雄太(以下、細川) : はい、何年前だったかな、3、4年前。
Cali:僕ら2人とも久保さんと仲が良かったので、こうなるのは当然といえば当然でしたね。
会う前からお互いを知っていましたか?
Cali:彼のブランドについては知っていたんですけど、それまで直接会ったことはなかったんですよ。どこで初めて会ったかまでは覚えてないのですが。
細川 : もちろん僕は知っていて「会いたい」って久保さんに言って、紹介してもらしてもらったのが3、4年前のことで。
Cali:良い思い出だね。
それが3、4年前で、お互いの第一印象は?
Cali:雄太の第一印象?とてもスイートだったね。彼のプロダクトの質は知っていたので、それを念頭に置いて彼と初めて対面した時「なんて素敵なやつなんだ」と思いましたよ。
細川 : 僕の第一印象は、優しいお兄ちゃんみたいな感じでした。
2人はREADYMADEのプロダクトで既にコラボレーションされていますよね。今回の共同でブランドを立ち上げた経緯を教えてください。
細川 : 「Caliさんと一緒になんかやってみない?」みたいな話がまず出て。それをCaliさんに会った際に持ちかけてみたら「やろう!」と乗ってきてくれたんです。最初は本当に軽い気持ちでやり始めて。それがきっかけですね。
それがいつぐらいだったんですか?
細川 : えっと、2019年の7月ぐらいですね。
そんな最近なんですか?
Cali:結構最近でしたよ。私たちはどうなるか想像もできなかったんですけど、READYMADEで既に一緒に作業した経験もあったので、私はとても楽しみでしたね。私たちはまさにこのテーブル(取材場所である細川氏のスタジオ)で打ち合わせをしました。私が大阪に来て、どうするか話し合い、そういった形でスタートしました。
細川 : 僕はREADYMADEでリメイクやリサイクルをずっとやってきたので、それとは相対するものを作りたかった。
Cali:私も彼と一緒に単発ではなく、継続した共同のプロジェクトをやりたくて。先ほど言ったように、私たちは2019年の7月になって初めてこのことについて話し始めたんですけど、すぐに自然となるようになっていった感じですね。
細川 : 「一点物のようなヴィンテージスタイルでブランドを始めたいな」って伝えたら、Caliさんも「そうしよう」と言ってくれたので、こういうスタイルになりました。
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素材を認めてもらえば、ブランドが長く続くイメージがあって、とりあえずは素材を大切にしていきたいなと思っています。
ブランド名の由来を教えていただけますか。
細川 : ブランド名を決めた時も面白くて。「どんなのがいいかな」って話始めたのですが、Caliさんの本名がMichael(マイケル)なんですよ。で、いろいろ文字っていったらミカエルっていう神様とマイケルのスペルが一緒で。それで、SAINT MICHAEL(セントマイケル)にしようって、本当笑い話から始まって。
そうだったのですね。今回コレクションを作るにあたって、ファーストシーズンのテーマは?
細川 : それもSAINT MICHAEL。
ずばりSAINT MICHAEL。
細川 : ミカエルをテーマにして、いろいろミカエルを調べて、本を読んだり掘っていったらいろんな都市伝説とかいっぱいあって。それにアダムとジーザスとかも絡んできて。それでキリスト教にもすごく興味を持って。とにかく研究して進めていった感じですね。
今回のコレクションの規模、アイテム数はどのぐらいですか?
細川 : ここに並んでる20型前後ですね。
それも特に決めていたわけではなくて?
細川 : そうなんですよ。僕の最初のなんとなくのイメージとしては、スウェット素材で作れるものでやりたいなって思っていて。そこからCaliさんと相談して、このブランドをどう成長させていくか。実際僕らもこれからどうなるか分かっていないのですが。どこまでどうやって広げていこうか2人で考え中って感じですね。
キーアイテムみたいなものはありますか?
細川 : アイテムというより、ファブリックがキーですね。全部オリジナルで作っているので。
Cali:ファブリックがキーか。いいね。
細川 : 素材をこれからもっと追求していきたいなって。READYMADEもそうなんですけど、同じ素材を使い続けるのは簡単そうで実は難しいんです。でも、素材を認めてもらえば、ブランドが長く続くイメージがあって、とりあえずは素材を大切にしていきたいなと思っています。
ちなみに、細川さんは昔から古着がお好きだった?
細川 : 昔、僕は古着屋の店員をしていたんですよ。今も仕事中は基本的に楽な格好が好きなので、スウェット上下が多いんですけど。
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それぞれのアイテムに元ネタがあって。まんまではないですけど、素材だったり色だったりというところですね。
(SAINT MICHAELのスウェットを指して)このプリントは抜染になりますか?
細川 : これ染み込みなんですよ。抜染とかじゃなくて染料でプリントしていて。
表情がすごいですね。これもペイントですか?
細川 : 全部手書きでペイントしています。一点一点手作業でダメージ入れたり(細部を指して)こういった汚しを入れたりしています。1950年代とか40年代のものを参考にしていて。iPadなどは使いますが、その当時はパソコンとかなかったと思うので、できるだけコンピュータに頼らずもの作りをしたいなって。色々な種類のペンを使って書いたりしています。
古着を参考にされているというお話ですが、全てのプロダクトに一点一点元ネタがあるのですか?
細川 : そうなんですよね。それぞれのアイテムに元ネタがあって。まんまではないですけど、素材だったり色だったりというところですね。そこにイメージのグラフィックを描いていたりしていますが、できるだけコンピューターに頼らずやっています。サンプル段階では、まだ上手くいっていない箇所もあるのですが。(グラフィック部分を指して)こういう“N”とか“Z”とかコンピューターを使わずに全部手書きで作っていて、できるだけ真っ直ぐな線じゃないように心がけています。古着でもそういうのが多いんですけど、ここの太さとここの太さが違ったり。出来上がった時に誰も気づかないと思うんですけど、全体的に“感じるもの”ってあるじゃないですか。
細川さんは日本の大阪にいらっしゃって、CaliさんはLAで、その作業のプロセスというか、まあどういう風に一緒に作業しているか教えていただきたいです。
Cali:私たちが主に会話し始める時間帯は西海岸の夜10時ぐらい。こっちの時間だと何時かはわからないんですけど、そのぐらいの時間です。よく考えやイメージなどメールを通じて送り合っています。私はベッドに横になりながら(笑)。横になって雄太と話してると、周りに「何やってるの?」って聞かれて「仕事しているんだ」って答えるんです。雄太にはその日に撮った写真を送ったり、それまで話していた仕事内容についてだったり、時間が許される限りそういうやり取りをしています。私も仕事のために朝早く起きることもあるので、その場合は(西海岸の)早朝6時に彼にメールや電話などをすることがあります。話し合うのはそういう時ですね。ロサンゼルスでの終始時間か起床時間に。
細川 : 僕はあまり英語が喋れないので、時差の関係上、ひとりの時は翻訳機を使ったり。アシスタントがいる時は彼が英語喋れるので、細かいことを伝えてもらったりしています。そうやってやりとりしていて、イメージ送って「これはどう?」「これは好き」とか。僕は英語の文章が苦手なのですが、Caliさんはもちろんそういうセンスが抜群なので、デザインに入れるテキストやメッセージの部分はお任せしています。
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アイデアを交換しつつ?
細川 : そうですね。そのふたつをひとつにしていくっていう。Caliさんのアイデアを僕が絵を描いて送って「ああしよう、こうしよう」って。
楽しそうですね。では、グラフィック自体も細川さんがやってるものとCaliさんがやっているものがあるのですか?
細川 : あります。Caliさんから送られてきたものを手書きに直したりします。ちょっとこの下手さがいいというか。
Cali:とても素晴らしいね。魔法がかけられる瞬間だ。
ファブリックとか技術的なところは全て日本ですか?
細川 : そうですね。日本で作っています。アイデアが色々膨らんでいったのですが、最初だからできるだけひとつのものに集中したいというか。ジャケット作って、パンツ作ってとかではなく、とりあえず何かひとつをマスターするという言い方もおかしいかもしれないですけど、勉強して、その後、違うものにいけるレベルになったら次にいきたいなって。僕はゆっくりゆっくり歩いていきたいと思う人間なんです。
毎シーズン、春夏/秋冬とリリースする感じですか?それともコレクションができたタイミングで?
細川 : 一応、ファッションウィークにあわせてやっていこうと思っているんですけど。
Cali:そこはクラシックなアプローチなんだよ。
では、既に次のコレクションに取り掛かっているわけですね?
Cali:そうそう。実は、今から次のコレクションについて話し合いを始めるところなんです。大体イメージは湧いているんですけど、それをこれからひとつにまとめるところですね。シーズン毎にテーマも変わってくるので、テーマが自由であるからこそ、まとめ上げることが重要だと思っています。
CaliさんといえばOld Englishのレタリングが代表的なデザインかと思うんですけど、 今回は使われていないのですか?
細川 : そうですね。でも、多少使っている物もありますよ。
Cali:少しだけ、個人的にはあまり使いたくなくて……。
細川 : その使った部分も全部ヴィンテージっぽく手書きにして、墨汁で描いたりしてデータを作ったり。
Cali:私は“人気があるから好き”とはなりたくないんですよ。雄太といろんな挑戦をしていきたいんです。なので、Old Englishのレタリングは好きなんですけど、たまにしか使用しないと思います。ただ自分の可能性を広げていきたいんです。いつも決まったひとつのことに捕われたくないんです。もちろん好きですけどね。Kobe Bryant(コービー・ブライアント)の訃報を受けて、自分のスタジオで彼をトリビュートするスウェットを作ったんですよ。元々はそういうものに使われるものだから。※Old Englishフォントを墓石型にレイアウトしたCaliのMemorial Crewneckは、1980~90年にLAのギャングが故人を弔うべく製作していたTシャツが着想源となっている。
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服を作ること自体って誰でもできると思うんですけど、“化粧”させるのがすごい難しくて。
色についても当時の古着を再現するために試行錯誤されているとか?
細川 : そうです。今ちょうどセカンドサンプルを作っているところで、加工もかなりこだわっています。(最初のサンプルを指して)この白茶けているのがすごい嫌で、もっと沈んだ色に直そうとしています。
古着好きも納得させる出来を目指しているわけですね。
細川 : そうなんですよ。とにかくヴィンテージにこだわっていて、昔の資料とか漁って読んだりすると色々と出てくるんですよ。今だと不思議に思えるパターンだったり。例えば(参照した古着を指して)袖の部分がTみたいな状態で直線になっていて、綺麗に見えるシルエットじゃなかったりするんです。SAINT MICHAELでは、当時のミシン使ったりして、細かい部分ですけどリブとかも均等にしてなかったり。誰もわかんないかもしれないんですけど、こういった細部のこだわりが積み重なると、“はい”って渡された時に(古着好きの方にも)違和感なくスッと入ってくる気がしています。
徹底的ですね。
細川 : ちゃんと人が着て年月が経って垢で変色したようなところも、いろんなスウェットをみて再現しています。
サイズ感にもこだわりが?
細川 : 古着って本当に着にくいサイズも多いので、ヴィンテージっぽい雰囲気を再現しつつ、それをもうちょっとストリートに落とし込めるようなシルエットにしています。
このブランドをやるにあたって様々な新しいことにチャレンジされていると思いますが、特に難しかったことや、ここが大変だったみたいなエピソードはありますか?
細川 : 服を作ること自体って誰でもできると思うんですけど、“化粧”させるのがすごい難しくて。経年劣化の雰囲気を出すのが本当に大変で、どこがどう破れていくのが多いとか、今も研究中です。色を出すのも同じで、こういう汚れもどうやったら、何を使ったら染み込んだように出るだろうとか。
なるほど、偽っぽくならないように自然な劣化を追うわけですね。参照している古着を掘っているのは日本ですか?それともアメリカ?
細川 : (今回の資料になった古着を指して)これは日本で。洗いを重ねた裏地とかも表現したくて、まだ研究途中ですね。
ここから毎シーズン磨き上げていくのですね。
細川 : 今は、量産に向けてもうちょっとクオリティーを上げていこうとしている最中ですね。この絶妙な下手くそ感を。
手作業感というか。
細川 : そう、それを表現できたらなと。
ブランドのタグもこだわりがありそうですね。
細川 : ネームタグのフォントとかも全部海外の資料から漁って、手書きで書いている物をみながら書いたり。日本人が書く英語って外国人っぽくないじゃないですか、綺麗すぎるんですよね。ペンの筆圧とか、例えばこの“J”を書く時に日本人だと初っ端に力を入れたりするじゃないですか。そういうところ。自分で書く時もそれが出ないように当時の資料とか見ながら書いているんですけど。
勉強というか資料集めだけでも膨大な時間がかかりそうですね。
細川 : そうですね、(ブランドタグの参照にしたデザインを指して)それは70sの資料から見つけたんですけど。
(コレクションを見回して)ブラックのアイテムがあまり見当たらないですが?
細川 : いや、今回のコレクションでも黒はあるにはあるのですが、難しいんですよね。黒って年月が経ってくると、太陽が当たったりして色落ちてくるんですけど。自然に落ちている色味と人が落としたらちょっと違うというか。今は色々な工場で加工してもらっていて。どういう加工がそれに一番近いかとかを探っています。ある程度であればお客さんにわからないと思いますが、それだとちょっと違うというか。自分が古着を見過ぎているのかもしれないですが、「これは違う」みたいな。本当に小さなことでも、脳に入ってくる感じが違うというか。
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古着を知っているからこそこだわれる部分ですね、そのこだわりがクオリティーに反映されるのだと思いますが。
細川 : ヴィンテージって一目見てかっこいいって思えるものはスッと入ってくるので、自分の商品でもそうあって欲しいです。そういったフィーリングというか、感じるものがあるかというところが重要になります。言葉では表現しにくいですが、作っているプロセスでも少し引っかかるところがあったりするんですよ。
SAINT MICHAELからやや話が逸れますが、2人とも今までに多くのコラボレーションをされていますよね。コラボの相手を選ぶ基準などはあったりしますか?
Cali:私にとっては、主に関係性ですかね。一緒に作品を大きくしていきたいし、同時にいろんな人とコラボすると、それぞれ違った結果が出るというように自分の中で一種の実験なんです。だけど、その人のファンじゃなかったらコラボしたいとは思わないですけどね。繋がっていない感じがあるので。その人のファンにはなれないと言っているのではなくて、ただ自分と繋がりを感じない人と一緒に何かをするということが想像できないんです。
細川 : 僕も同じ感じですね。尊敬している人とか。
Cali:だって自分が死ぬ時に考えることは、これまで買った素晴らしいものではなく、これまで積み重ねてきた関係性や友情関係についてだから。でしょ?あとでレコードは買いに行くけどね(笑)。でも私が言いたいことは理解できるでしょ?
細川さんはCaliさんとこれまでもコラボレーションされていますが、今回一緒にSAINT MICHAELをやってみていかがでしたか?
細川 : Caliさんは人としてすごい尊敬できるし、やっているアートも大好きで。一番話しやすいですし、僕が勝手に思っているだけかもしれないですが、とても気が合うというか、一緒にいて気持ちいいというか、やっていて気持ちいいというか。
やっぱり、その気持ちが服にも現れる?
細川 : 頑張ってやろうってなりますね。
Cali:ありがとう雄太。お互いに気兼ねなくコミュニケーションが取れる状態で、一緒に何かを取り組めば、それは良い結果を生むに決まってます。だから私たちはこうやって一緒にブランドをやれるのだと思います。
SAINT MICHAELは、今後どういった形で進んでいくのでしょうか?
細川 : Caliさんがよく言われるのは、何十年も続くようなブランドにしたいと。僕はクラシックな物をずっと出していきたいなって、あまりデザインデザインしていないというか。それこそLevi’s®(リーバイス®)じゃないですけど、ああゆう形になったらいいなって思っています。同じものをずっと出していく。Chrome Hearts(クロムハーツ)もすごい好きで、彼らのビジネスもずっと変わらない。流行り物とかで1年後に着たら、“それ1年前の”ってなるのがすごい嫌で。古着ってそういうのないじゃないですか。Chrome Heartsもないと思ってて、Levi’s®もそうですし。そういうブランドに育てたいですね。
今は物事が速く進んでしまい、速く速くトップに到達したいと思っている人が多いと思いますが、私は何かを長く続けるということの方に魅力を感じます。
タイムレスな感じですね。
Cali:目標は50年ですかね。私の97歳の誕生日にでっかいパーティーを開いて、雄太が車椅子に乗っている私を押してくれて、お祝いしたいです。SAINT MICHAELに捧げるためにアーカイブを燃やして炎を灯すとか(笑)。ブランドを長く維持することは目標のひとつです。今は物事が速く進んでしまい、速く速くトップに到達したいと思っている人が多いと思いますが、私は何かを長く続けるということの方に魅力を感じます。間違った動機で何かを急速に成し遂げ、10分間だけ喜びに浸るというより、一歩一歩確実に積み上げていき、継続することの方がより価値があると思います。時間の捉え方によりますが、理解できるんじゃないですかね。
細川 : それが一番嬉しいですね。
毎シーズン、コレクションを発表されるということで、元々やられているプロジェクトとの両立はどのようにされているのですか?
Cali:まあ、優先順位の問題ですよ。あと個人的には、それぞれ違ったプロジェクトでも、全て同じと捉えて取り組みます。例えば、他のプロジェクトであっても雄太とやっているプロジェクトをやっている感覚なんです。なんというか、いろんなアイデアをそれぞれのプロジェクトで生み出すことができるので私はあまり苦と感じないんですよね。それぞれのプロジェクトでそれぞれ違う風に取り組めるので。早朝に起きたら、たくさん時間があるように。でしょ?仕事を開始する前に雄太が電話をかけてきても大丈夫なんです。それに応答しますし、私たちが集中するべきことにも集中します。全て敬意があってのことですね。
細川 : 僕は一日SAINT MICHAELやるって決めたらSAINT MICHAELしかやらないです。どっちかに引っ張られて、頭の中が訳わからなくなってしまうので、SAINT MICHAELをやるとなれば、それだけに集中します。何にも思い浮かばない時は永遠と座っていますけど(笑)。そういう時は古着屋行ったり、ちょっとネタ探してみたり、人見たり、本読んだり。
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SAINT MICHAELでは、アナログがひとつのテーマになっているようですが、2人のアナログに対する考え方を教えてください。
Cali:私は本を触る、読むという感覚が好きなんです。毎日読書はしますけど、アナログの方が本物と感じるように、そういう触れる機会が少ないからこそそういう経験をすることがとても気持ちがいいんです。触る、感じるという動作はまた違った経験を与えてくれるんです。そして、全てデジタルで経験することに慣れてしまっているのが私たちの現状です。ですが、アナログのものを与えて喜ぶという別の世代もいます。雑誌か何か渡したら、何これ?ってなるんですけど。私は今でもコーヒーショップや家で作ったZineを人に配っていますが、有形のものであるからこそ人は気に入ります。でしょ?
細川 : 僕も同じですね。これ(iPad)で漫画読んだことないですもん。やっぱりめくりたいというか、
Cali:わかる。紙の方がいいよね。
細川 : 要するにめくるとか書くとかそういう行動が無くなったらやばいですよね。全部がデジタルになったら、人じゃなくなりそう。
Cali:私たちには、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という五感が与えられています。それを使うのはとても気持ちがいいです。もしデジタルで育ってきて、24時間で注文した商品が配達され、実物にちゃんと触れなかったがために、オンラインで見た商品と実物が異なるということに残念がっている人の気持ちは理解できます。
細川 : 人って、例えば全部手で書いたり、古臭いことに魅力を感じたりするじゃないですか。でも、その逆に最先端なことも魅力的ですよね。でもその真ん中に位置する、今のその時代のある物にはあまり魅力を感じないというか、洋服も同じかなと思って。
Cali:テクノロジーは好きですけど、全てが速すぎます。あるところまできたら、そこから加速度的に発展していくでしょうね。ある意味、人々を狂わせるでしょう。なんだろう、だからある程度アナログとデジタルのバランスを保つ、統合させることはいいことだと思います。
細川:先程も言いましたが、僕は昔、古着屋で働いていて今でも行くんですよ。古着屋の匂いも好きだし。古着の中でも同じ商品ってあるじゃないですか。ここで売っている古着と、あそこで売っている古着、一緒な物でも色落ちが違ったり、そういうところがすごい楽しいというか。古着のいいところはそういった点かなと思っているので。その楽しみは残しときたいというか、ネットで買ったら“イメージと違う”というのが嫌で。
どのような人たちにSAINT MICHAELを着てほしいですか?
Cali:その辺りは私の担当分野外ですね(笑)。でも、“誰々が着ているから”という理由でその商品を購入するより、心の底から気に入り、何か通じる部分を感じ、購入してくれる方が私たちのお客さんであって欲しいですね。それが理想です。そうあるべきだと思います。一般的にはそうではないと思いますが。本来であれば、ファンというものはそういうものです。個人的に好きだからファンなわけです。パーソナルコネクション。
核心をつきますね。
Cali:ショールームに立ち寄ってくれた自分の友人たちがコレクションに惹きつけられていたのを目にした時、とても嬉しかったです。私の本当の友人たちであるからこそ彼らが惹き付けられているのが分かりました。でも、私の他の作品を、彼らがいつも欲しがるわけではありません。言いたいこと分かります?今回は多くの友人たちからの熱意が伝わりました。これはいいサインです。
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生きている上で何かを考える際、中間にいれば魔法は生み出されると思うんです。
最近は、ポスト・ストリートファッションの議論が盛んですが、その辺りとご自身のスタンスについてどのようにお考えですか?
Cali:全てが発展し、進化していくものだと思っています。ですが、それを十分に考えるために時間を割いたこともなければ、次に何が来るか?といったことを深く考えることもないです。私は立ち止まって考えるよりただ前に進むという方が自分にあっていると思います。先ほど、誰が自分のお客さんであって欲しいか?とおっしゃっていましたが、それも同じようなことです。私の目標は、自分自身と私と近い関係にある人々を喜ばせるものを創り出すことであり、それ以上のことは期待していません。なので、それ以上のことがあるのであれば、それがなんであれ感謝します。
細川 : 僕もCaliさんと同じような感覚ですね。自分のチームは3、4人しかいないから、あれもこれもやるのはなかなか難しくて。例えば、デニムと決めたらデニムをひたすらやるとか、スウェットと決めたらひたすらスウェットをやるとか、ひとつのことを突き詰める形にしたいですね。誰にも真似できないようなボディを作るというか。SAINT MICHAELは“上手に下手くそ”に作りたいんですよ。ヴィンテージの雰囲気って、絶妙な“下手くそ感”だと思っていて。日本人って作るのが上手すぎるんですよね。1940年代のアメリカ人は絶対めちゃくちゃに作っていたと思いますよ(笑)。ただ、その“めちゃくちゃ”がすごい難しくて、縫子さんには「目つむって真っ直ぐ縫って」とか、そういう感じで伝えているんですけど、彼女たちは、いわゆる大阪のおばちゃんだったりするので「目つむって縫われへんわ」とか(笑)。日本人はうまいから、例えば縫代5ミリだけで、縫ったりするじゃないですか。でも昔のアメリカ人とかって、それが2センチだったりするわけですよ。そんなに上手くなかったから。でもその2センチが、洗っていったらアタリが出て、いい感じになるんですよ。
Cali:上手と下手っていう、その“中間”にこそ魔法が存在するんです。
細川 : (サンプル段階のプロダクトを持ち出し)触ったらわかると思うんですけど、ちょっとヌメっとしているでしょ?(元ネタになった古着を持ち出し)これは乾燥しているでしょ。わかります?今これを表現しようとしていて。タッチが違うというか。多分乾燥することによって、目も開いてきて(古着ならではの)こういう雰囲気が出たり。50年代とかそれぐらい古いスウェットでも、この値段で今でも売れるわけですよ。しかも、タグが取れているから、どこのブランドかもわからないし。僕はレギュラーで綺麗な物を作るより、古着のようにスッっと入ってくるものを大切にしたいなって。
Cali:先程の上手と下手の中間についての話に戻りますが、生きている上で何かを考える際、中間にいれば魔法は生み出されると思うんです。こっち側から遠すぎたりあっち側から遠すぎると、なんだろう、結果を自分でコントロールしてしまっているとき、物事が悪化するのだと思います。中間には前進するスペースがあります。それはより大きな規模でのことだと思いますけど。
2人の感覚が合っているからこそSAINT MICHAELが成り立つのでしょうね。
細川 : そう思います。アートの部分をCaliさんが、クオリティーの部分を僕が担保して、他では真似できないようなことをしていきたいです。
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テキスト
Yuki Abeフォトグラファー
Christina Paik, Toshiyuki TogashiQRコードを読み取り、手元のデバイスもしくはHypebeastのアプリケーション内から記事を表示