Interviews:ARC’TERYX のアーバンライン VEILANCE チームが語るデザインプロセスや今後のビジョンについて

〈VEILANCE〉チームのTakanori KasugaとTurner Heidiが語るブランド哲学

ファッション 
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カナダ・バンクーバーを拠点とするアウトドアブランド〈ARC’TERYX(アークテリクス)〉のアーバンラインとして、2009年に誕生した〈VEILANCE(ヴェイランス)〉。〈ARC’TERYX〉がアウトドアの過酷な環境で培った技術を都市生活に落とし込んだ同ブランドは、発足以来、革新的な素材、構造とミニマルなデザインが融合したプロダクトを生み出し、世界中で着実に支持者を増やし続けている。近年のファッションの潮流のひとつとして、“サステイナブル(持続可能な)”や“エシカル(倫理的)”といったキーワードが話題になっているが、〈VEILANCE〉は設立当初からそういった理念を体現してきた稀有なブランド。機能的でありながらも、モードやハイファッションにも通じる美学を持つアプローチは、他に類を見ない、都市生活者のためのラグジュアリーなテクニカルウェアを創出する。

今回、〈VEILANCE〉の2020年春夏コレクションのローンチに際し、同ブランドの拠点であるカナダより、デザインディレクター Takanori Kasuga(タカノリ・カスガ)とマーケティングマネージャー Turner Heidi(ターナー・ハイディ)の両名が来日。我々『HYPEBEAST』は両者への貴重なインタビューの機会に恵まれた。以下のインタビューから、ブランドの哲学を感じ取り、実際にそのプロダクトを是非手にとってみて欲しい。

まずはVEILANCEというブランドについて簡単に説明してもらえますか?

Turner Heidi(以下、Heidi):VEILANCEのマーケティングマネージャーのHeidiです。VEILANCEは約10年前に、ARC’TERYXによって設立されました。ARC’TERYXは世界的なアウトドアカンパニーのひとつで、スノーやクライミング用のウェアをメインに製作しています。ARC’TERYXの持つすべての技術、独自の開発と専門知識を集結して、新たなコンシューマー向けのラインとしてVEILANCEが始まりました。現在は冬季のコレクションだけでなく、春夏のコレクションも展開しています。

2020年春夏コレクションのコンセプトについて説明してください。

Takanori Kasuga(以下、Taka):Takaと申します。VEILANCEではデザインディレクターを務めています。今シーズンは、まず長期間での新しいテクノロジーの開発がありました。テーマとしては、“Light”というコンセプトです。“Light”には、2つの視点があります。一つは、素材とプロダクトの重量を削減する意味の“Light(軽い)”ということで、ライトウェイトな素材を取り入れたりするなどのコンストラクションでコレクションを展開しています。元々はアウトドアの素材のトレンドとして、テクノロジーがより良くなって、様々な素材がすごく軽量化されてきているので、そういったものを日常着に起用すると、もうちょっと日常でも色々なことができるのではないかと。今まで知らなかったことも出来るようになるっていう感じで、日常生活を進展させるという目標でやっています。もう一つは、表現というか、まあ色も含めてですけど、ちょっと違うことやっていきたいなと思って、Vincent Fournier(ヴィンセント・フルニエ)というフランス人のファインアートのフォトグラファーとコラボレーションしました。元々僕は彼の写真のファンで、実際にパリで会う機会があって、その時にこういうこと(VEILANCEのデザインディレクター)をしているんだって言ったら、じゃあ一緒に何かやろうかという話になりました。そこで彼の作品から実際にカラーパレットを出してもらって、それを使って今季のコレクションを作りました。また、シーズンのキャンペーンビジュアルの撮影も彼にお願いしました。ユタ州のMDRS(Mars Desert Research Station:火星砂漠研究基地)で撮影したんですけど、夕暮れと明け方の“Light(光)”で地形の色がすごく変わるので、そういった事が色的に面白いかなって思いました。

今シーズンの新しい素材や、キーアイテムはありますか?

Taka:うちは基本的にはGORE-TEXとTerra Tex™が中心の生地でやっているんですけども、GORE-TEXでもかなりライトウェイトな物を出してきて、前シーズンからGORE-TEX SHAKEDRY™という新しい生地を使っています。普通のゴアの生地は多分100g/m²っていう感じなんですけど、これはその半分くらいの50g弱/m²の重量です。あとは、デニムの生地ですね。横糸がHollow Core Polyester(中空ポリエステル)になっているデニムの生地で、とても軽量化されています。また、うちの定番でPARTITION COATという商品があるんですけど、それをさらに軽量化してPARTITION LT COATというのを作りました。それは、30d(デニール)のナイロンを使ったGORE-TEX 3L with C-Knit™ Backer Technologyという生地を使っています。今挙げた中でも、特に新しいかなって思うのは、やはりデニムのプロダクトですね。VEILANCEとしては、革新的なテクニカルなファブリック、先ほど挙げたGORE-TEX SHAKEDRY™とかを使ったアイテムから、逆に良く知られている、デニムといったようなベーシックなアイテムまで、プロダクトのレンジを増やしていきたいと思います。

デザインのインスピレーションはどう言ったところから受けますか?例えば、映画や音楽とか。

Taka:そうですね、一応日常の生活ですとか、あとは出張で色々なところに行くんですけども、一番のインスピレーションは、パリに行ったらとかではなくて、バンクーバー本社のデザインセンターで、毎日働いている中で発想する事が多いです。例えば、みんなで物作りしているんですけど、一緒に働いている人が新しいテクノロジーやプロジェクトを考えている。オープンスペースになっているので、僕は結構、いろいろ見るんですけど、そこでこんなすごいテクノロジーを考えているんだと。彼らはアウトドア用にそういったテクノロジーを考えているんですけども、それを見た時に、僕の中で視点を変えたら、日常的にも活用できて面白いんじゃないかなって発想が生まれます。だから、実はデザインセンターのフロアで、そういった事が日々行われていることが一番のインスピレーションになっています。

VEILANCEのターゲットというか、どういった層の方に着てもらいたいですか?ACRONYM®(アクロニウム)とか、ハイテク素材を使って、モード寄りのブランドがあると思いますけど、そういったところは意識していますか?

Heidi:VEILANCE発足当初の約10年前は、私たちのようなアプローチのブランドは、Errolson Hugh(エロルソン・ヒュー)が手がけているACRONYM®Stone Island(ストーン・アイランド)のShadow Project(シャドウ・プロジェクト)くらいしかありませんでした。近年では、THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)がsacai(サカイ)やHYKE(ハイク)といったブランドとコラボレーションをしたり、ハイファッションとテクニカルなウェアが融合したようなアプローチは広がってきています。

Taka:そういった事もあるんですけど、僕らとしては、もうちょっとトラディショナルなファッションのスペースにいるコンシューマーをもっと入れ込んでいきたいなって。例えば2つの商品があって、一つは機能的ではないトラディショナルなもの、一方はうちみたいなパフォーマンスがあるもの。そういったように、形的には両方とも面白いものがあって、消費者がどちらを選ばれますかってなったら、多分機能的な方を選ぶようになると思います。そういうメッセージというか考え方で、人を呼び込めるようなブランドに将来的にはなっていければと思っています。で、そうですね、ACRONYM®のテックウェアなプロダクトもそうなんですけども、ああいったアプローチのテックウェアというよりかは、VEILANCEはパフォーマンスのデザインで売るみたいな感じですかね。でも、そういったものを好む方全員をターゲットにしているわけではなくて、デザインの価値観が優先している方、それがやっぱり共通の意図としてあります。だからVEILANCEの顧客の中には、結構色々な職種の方がいるんですけど、やっぱり何をやられていても、自分自身のライフスタイルをかなりキュレーションされている方が多いですね。

近年、ファッション業界でも環境問題についての意識が高まっていて、“サステイナブル”というワードが話題になっていると思いますが、VEILANCEのプロダクトはそういったことを意識していますか?

Taka:はい、もちろん。うちはアウトドアのブランドなので、将来的にはどこのブランドでもそれが有効できないと駄目だと思うので、そういった事がこれからは普通になると思うんです。あと今やっぱりそういう意識が高まっていると思うのが、“グリーンウォッシング”。なんかマーケティングで過剰に、“サステイナブル”と掲げられると、こちらからすると、なんか“サステイナブル”でもないな…、みたいな。でもARC’TERYXは、エンジニアリングの会社なので、数字だとか、数値化されたものを基本に色々見て、方向性としてはどうやって環境に対するダメージを削減するものを作るか、という方法でやるという形を取っています。素材のイノベーションも、パフォーマンスを追求するのと同じで、うちのブランドとしては継続するんですけれども、それをどうやって“サステイナブル”に、どういったものが“サステイナブル”なのか、を考えてやっています。例えば、DWR(耐久性撥水)加工も、カーボンフリーなものにしたりとか。あとは、ダイイングメソッド(染色技法)でドープダイというものがあって。通常はナイロンの生地を作るときに、ナイロンの糸を抽出してから色を染めるっていう感じなんですけど、ドープダイというのはポリマーの段階で色をつけて、それを抽出する。そうすると染めるときに水を使わなくて良かったりだとか。そういった感じで、それぞれのプロダクトが出来上がっています。それが最近のコレクションですね。そのようなイニシアティブはどんどん全体的に広まってきています。

Takaさんの経歴についてお聞きします。以前、Junya Watanabe(ジュンヤ ワタナベ)で働かれていたと伺ったのですが、当時の経験は現在に繋がっていますか。

Taka:Junya Watanabeに関しては、デザイナーという職業はJunyaさんだけで、あとの人は企画とパターンメーカーとサンプルメーカーみたいな、僕は全然そっち(後者)の方でしたけども。でもその当時、Junya Watanabe MAN(ジュンヤ ワタナベ マン)が、THE NORTH FACEやLevi’s®(リーバイス®)といったブランドとのコラボレーションを始めた時期だったんですね。その時はコラボレーションっていう概念自体が一般的ではなくて、そんな名称すらなかったんですけど。今はコラボレーション自体が普通になってしまいましたが、当時はとても新鮮で、ブランドがそんな面白いことをやる勢いがあったんです。その時に、アメリカの機能的な服だとか、Tシャツやジーンズみたいなトラディショナルなアイテムを見て、自分はヨーロッパとかのファッションよりは、アメリカで次の革新的な物づくりに携わって行きたいなと思って。それがきっかけでアメリカに移住することになりました。自分の中では、結構働くことに対しての“discipline(規律)”になっているんですけど、働くなかで面白いことをして、それが機能的な部分だとか、そういうものに繋がっていくんです。

最後に、VEILANCEの今後のビジョンを教えてください。

Taka:そうですね、次は2021年の春夏コレクションになるんですけれども、その段階でメンズのコレクションを今以上に進化させて展開します。色々な生地も、もうちょっと種類が増えます。その次の秋冬になると、ウィメンズが始まります。ウィメンズをやるヴィジョンとしては、自分たちARC’TERYXのテクノロジーを生かしたプロダクトで、女性のトラディショナルなコンシューマーのスペースを、他と線引きしてリードする、そういう感じですね。あとは、VEILANCEのフラッグシップストアが今は香港にあるのですが、2021年を目処に、北米と日本とヨーロッパでも展開したいと思っています。

インタビュー:アークテリクス・ヴェイランス Interviews:ARC’TERYX のハイエンドライン VEILANCE チームが語るデザインプロセスや今後のビジョンについて

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テキスト
インタビュアー
Takeshi Kikuchi/Hypebeast
フォトグラファー
Toshiyuki Togashi/Hypebeast
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