A Lifetime of Style: 南貴之
“セレクトショップの仕掛け人”が思い描く、完全にフラットなビジネススタイルとは
ファッションにおいて独自のスタイルを築いてきた日本では、ストリートの流行も去ることながら、シンプルなデザインや素材の品質、縫製技術などに象徴されるハイエンドなカジュアルウエアの人気も根強く、昨今では食、住まい、アートなど、カルチャーを多角的に捉えた総合的なライフスタイルの提案が必要不可欠だ。その中でも、ファッションベースでの提案を主とするセレクトショップの存在。「alpha.co.ltd」の代表兼クリエイティブ・ディレクターの「南貴之」氏は、細部にまで行き届いた革新的なアプローチにより、“セレクトショップの仕掛け人”として数々のストアディレクションを務め、成功に導くのみならず、世界の規範となる日本のファッションカルチャーを確立し、その発展の一翼を担ってきた。
千葉県出身の南氏は、1997年に「H.P.FRANCE」に入社。『cannnabis 原宿』、『FACTORY』、『sleeping forest』を立ち上げ、その全ての店舗のディレクションとバイイングに従事してきた。同グループに12年間在籍した南氏だが、「退社するにあたって、挨拶回りをしていました。12年間も勤務し、お店やメーカーさんにもたくさんお世話になったので。こういうところは自分でもしっかりしていると思っています(笑)。その際にお誘いを受けたり、手伝ってほしいなどと声をかけて頂いたことが、自分で(仕事を)やろうと決意したきっかけでした」と「alpha.co.ltd」創設の経緯を語る。「物件、設計、デザインを含むショップディレクションはもちろんですが、alphaではブランディング、PR、今ではアパレル・プロダクトもやっています。こういうことを総合してやっている会社ってないですよね。でも、PR部門を正式に設立したのは3年前。オフィスを設けた理由は、ショールームが必要になったからです。それまではノマドのようなワークスタイルでした。僕は1ヶ所に長時間滞在できないので、当初は渋々オフィスを作った記憶がありますね(笑)」。
南氏は「alpha.co.ltd」設立後、一躍その名を馳せるきっかけとなった『1LDK』の総合ディレクターとしての仕事をはじめ、旅をコンセプトとする『BEST PACKING STORE』、『nookSTORE』、『M.I.U.』、さらにはモバイル型セレクトショップ『FreshService』など、数多くのストアローンチを最前線で指揮してきた。また、ギャラリーとしての機能を持つキュレーション型セレクトショップ『Graphpaper』については、全てを並列化したシンメトリーな空間や、余計な視覚的要素を排除して内部に作品をディスプレイした壁面のキャンバスなど、南氏のマインドとこれまで培ってきたノウハウを凝縮したストアといえるだろう。
昨年11月に渋谷・松濤にオープンした『Need Supply Co.』も南氏がショップディレクターとして携わるストアの1つ(詳細はこちら)。今回のインタビューでは、そこで展開されているオリジナルブランド〈NSCO〉についても掘り下げてくれた。「〈NSCO〉は今までにない形での取り組みなので、とても新鮮ですね。生産などは僕たちが請け負うけど、まず企画の段階で僕とGabriel(Ricioppo)がアイデアを出し合う。それを形にした絵型や生地などはこちらが提案。その後はサンプル製作に移行して、最終チェックという段階に進むけど、撮影などはGabrielたちが担当です。つまり、プロダクションはalpha、ビジュアルディレクションはGabrielということです。Gabrielは日本の素材や縫製技術を手放しに賞賛しているし、僕は細かいから信用もしてもらっている。互いにリスペクトしながらスマートに仕事を進めるのは、とても気持ちがいいですね。パターンやクオリティは間違いないので、ハイエンドな位置付けで提案し、お客様に袖を通してもらいたいです」。
そんな南氏は「インターネットの普及により、国内/国外という概念がなくなり、フラットになった」という。だからこそ、次に目指すところは「価値観をフラットにしていく」ことだと感じているようだ。「キーパーソンは世界の至るところに存在するので、社内、社外を問わず、世界中の人や企業をコネクトして、完全にフラットなビジネススタイルを作りたい。これが僕が会社設立当時から思い描いてたビジョンで、今もそれに向かって仕事をしています。具体例をあげるのであれば、ものづくり。ニット、靴、レザーなど、プロダクトの種類はさまざまですが、そのプロダクトをイタリアで作るのが最良であれば、イタリアで作ることがベストですよね。made in … という素晴らしさは世界中に本質的に存在すると思います。同様に日本がベストであれば、日本で製造する。この思考はプロダクト生産に限らず、情報の発信や売り場の設置など、全てのことに当てはめることができます。だからこそ、価値観をフラットにして、インプット/アウトプットを世界中に拡大していきたい。この目標がalphaを動かす原動力になっています」。そう語る南氏自身は、キャリアを重ねるごとに自身が目指す理想に少しずつ近づいていることも実感している。「『Need Supply Co.』や今回のように『HYPEBEAST』からアプローチがあり、自分への焦点もグローバルなものになってきた。決して自分たちが発信するものは海外のそれに劣っていないし、Gabrielや他国の人たちと互いをリスペクトしながら仕事をすることができるという確かな手応えを掴みました。今後は今まで以上に相互作用で物事を進め、国境を越えた提案をしていきたいです」。
最後に南氏に自身の“スタイル”を尋ねてみた。「『cannnabis』には『cannnabis』のスタイル、『1LDK』には『1LDK』のスタイルがある。お店を作る際にはショップの色に合わせたディレクションをしてきました。なので、僕自身のスタイルは一貫しているから、強いて言うのであれば、あえてスタイルを設けない、これば僕のスタイルでしょうか」。柔軟性や環境への適応力、ディテールへの気配り、客観的に物事を捉える広い視野、そして懐の深さ。これら全てを兼ね備えてるからこそ、南氏のアンサーには確かな説得力があった。南氏を軸に次第に広がっていくグローバルでフラットなコミュニティーからは、今後も新たなプロジェクトがローンチしていくことになるだろう。是非、南氏が手がけた既存のショップやブランドから、色濃く反映された彼の哲学を体感してみてはいかがだろうか。