©SAINT Mxxxxxx 細川雄太 & BerBerJin 藤原裕に訊く“古着以上に古着な!?”物作りへのこだわり
デニムを制作する上での難しさなど、コラボレーションの裏側に迫る











リアル過ぎるヴィンテージ感を武器に、2020年のデビューから瞬く間に日本を代表するブランドの1つに躍り出た、カリ・デウィット(Cali DeWitt)と細川雄太の手掛ける〈©SAINT Mxxxxxx(セント マイケル)〉。毎シーズン、話題性に富んだコラボレーションを仕掛けていくことでも知られる同ブランドであるが、中でもヴィンテージ界の最重要人物と言っても過言ではない『BerBerJin(ベルベルジン)』ディレクター 藤原裕との協業は激アツなプロジェクトとなった。2023年4月に発売されたTシャツを皮切りに、これまでに計5アイテムを制作。4月6日には、6着目となるデニムジャケットの新作もリリースした。いずれのピースもストリートウェア愛好家からヴィンテージ通まで幅広いファッション層の指示を得た。本稿では、そんな両者のスペシャル対談をお届け。細川氏いわく「全てが難しい」というデニムを制作する上での道のりなど、過去に実施されたコラボレーションの裏側に迫った。
Hypebeast:反響はいかがですか?©SAINT Mxxxxxxのファン層とBerBerJinのファン層は結構違うかと思いますが。
細川(以下、H):反響は凄まじいです(笑)。僕の感覚ですけど、ストリートやモードのファンも、今すごい古着に注目してるのかなって。
藤原(以下、F):自分のお客様も古着とミックスして着られたりとか、今まで©SAINT Mxxxxxxを知らなかったっていうお客様からも質問も受けたりしました。古着屋だけでない取り組みを見せることで、新しいお客様が増えてるという実感はありますね。
2人はいつぐらいからどうやって知り合ったのですか?
H:©SAINT Mxxxxxxの1stシーズンの展示会を藤原さんに見に来てもらって、そこからのお付き合いですね。
F:展示会場の外の喫煙所でいろいろとお話しさせていただいて、仲良くなりました(笑)。
©SAINT Mxxxxxxの過去のインタビュー読み返してたのですが、細川さんの仲良くなったエピソードってだいたい喫煙所な気がします(笑)。コラボレーションのアイテムは、どうやって制作しているのですか?
H:第1弾からデニムというのは少し抵抗があって、最初は僕らの得意なTシャツやスウェットからスタートして、3回目ぐらいにデニムをやりたいと藤原さんに相談しました(制作順とリリース順は前後している)。餅は餅屋みたいな感じで、とりあえず最強な人を呼ぼうみたいな(笑)。結局、自分がLevi’s®(リーバイス®)ばかり穿いてて、それを超えるものをまだ作れる気がしなくて、(501などに代表される)5ポケットはまだ作れてないんですよね。そういうザ・定番って手を出すのに1番躊躇するというか。最初はGジャンからスタートして、説得力あるようなデニムを作れる自信が付いたら、いつかは5ポケットもやりたいなと思ってます。
F:ヴィンテージ感を表現する技術が本当にすごいというのはわかっていたので、細川さんから「デニムを……」って言われた時は「待ってました」と(笑)。どういう形やダメージ感でやりたいかなどをヒアリングしつつ、オーバーサイズのティーバックなど自分のサンプル的なものを見てもらいました。僕が岡山に仕事で行ってる時に、インスタにあげたら、細川さんから「岡山にいらっしゃるんですか。ちょっと今から行っていいですか?」と連絡があり、突然大阪から来てくださって。「じゃあデニムの打ち合わせしますか」ということで、実際に加工をやっている現場で詳しくお話をして「これでいきましょう」という流れになりました。
デニムの生産は藤原さんのNew Manual(ニュー マニュアル)側でやっているのですか?
H:1stシーズンは僕らがカットソー類を生産して、最初のデニムは藤原さんにやってもらって。今回初めて©SAINT Mxxxxxxサイドでデニムを作りました。
デニムをやる上で難しさは?
H:デニムってレプリカブランドもすごい多いですし、デニムオタクの人たちを説得させるのがすごい難しくて。それで躊躇してたのですが、藤原さんに手伝ってもらいながら、説得力あるものを作れるよう努力しています。
何回ぐらいサンプルを作ったのですか?
H:もう果てしなくやりました(笑)。最初に筒サンプルというのものを作るのですが、どの糸を使ったらどれだけ加工で色が落ちるとかをチェックするもので。「これは絶対違うだろう」という糸も含めて、とりあえず一旦全部の筒サンプルを作って、そこから絞っていったのですが、それを合わせたら、10回ぐらいサンプル作ってるんじゃないですかね。
F:最初のデニムジャケットを作った時は、見本として、細川さんが好きそうなダメージ具合のものを3〜4着用意しました。その中から、ここはこのダメージ感で、ここはこのダメージ感という具合に、細川さんのアレンジでパーツ毎にそれぞれのサンプルからダメージを持ってきた感じです。今回は、No.2デニムと呼ばれる1920年代のGジャンをベースにしたのですが、細川さんに作ってもらった最初のサンプルから、僕らが今まで見てきたヴィンテージのステッチワークを元に、「実はここはこういう縫い方です」という感じでお戻しして、何回か作り直しながら完成させました。
こういう加工は、何が一番難しいんですか。
H:デニムって全部難しいんですよ。一部分おかしいだけで、全体的に違うなとなったりするので。全てがうまいこと調和した時はすごいいいんですけど、それがなかなか難しくて。(藤原さんのサンプルを指して)こういう自然な感じを表現するのが1番難しいですね。作られた加工とかは簡単ですけど、人が着て自然に落ちていった色やダメージの加工っていうのが、服として表現するのはすごい難しくて。でないと、デザイナーズっぽくなり過ぎるし。それも嫌なので。
加工デニムは、ありとあらゆるブランドがやっている感じもしますが、藤原さんから見て「これは違うな」みたいなのものは、結構ありますか?
F:「そこまでしかやらないのか」って思うことはあります。細川さんだったら、さらに1歩踏み込んで制作するだろうなって。加工については、僕らとやり取りしながら、突き詰めていく感じですが、形に関しては、今のストリートにハマるサイズ感で作っていて。1回目にこれやらしてもらった時も、僕が持ってるヴィンテージとはパターンと形が明らかに違う。細川さんオリジナルのパターンや形は、今までにないものを作ってるというか、自分も共感できる部分があります。
H:昔のものにできるだけ似せて、“下手くそ”に縫うのがすごい難しくて。藤原さんの本の中に出てくる1着をモデルにして今回作ったんですけど、本に載ってる写真を10倍ぐらいに拡大して、何針走っているのかなどを確認して、その形をスキャンしてパターンに落とし込んだり(笑)。日本人が考える・作る“下手くそ”と、当時のアメリカの“下手くそ”って、やっぱ感覚も全部違うと思うんで。日本の工場は雑でもうますぎるっていうか。それだったらその下手くそなのもスキャンして、この状態で縫ってくださいみたいな(笑)。
確かにその“下手くそ”感のお話はブランド発足時からされてましたね。藤原さんから見て©SAINT M××××××の加工技術はどう思いますか?
F:どんどん良くなっているというか、どんどん古着に近くなっていますよね。数年後にヴィンテージって言われるんじゃないかなって、最初の頃言ってたんですけど、もう既にその領域ですよね。細川さんらしい表現の仕方と、生地へのこだわりは群を抜いてるんじゃないですかね。
今までこれだけ作られてきて、個人的にお気に入りを1つ選ぶとしたら?
H:僕は後付けパーカーが好きです。これは藤原さんの私物をサンプリングして作ったんですけど、多分これが実物と横並びで見て、一番うまく作れたかな。プリントとかは、多少変えたりもしてるんですけど、ひび割れた粒の数も全部一緒なんですよ(笑)。
F:うちのお客様でも着てくる人がいますね。このアイテムが今のヴィンテージ市場の後付けパーカーの火付け役になったんじゃないかなって。値段が高騰し続けていて、10年前は15万8000円、19万8000円ぐらいだったんですけど、今150万。先日、地方のお店で280万で売れたとかも聞きました。
藤原さんのお気に入りは?
F:Tシャツやスウェットももちろん思い入れがあるのですが、今回のデニムですかね。自分は少し濃い方が好きだったりするんで、今回の出来栄えとサイズ感はすごくよくできてるなって感じてますし、1回目より2回目、2回目より3回目と進化している過程も楽しんでいます。ヴィンテージならではの当時の縫い方を再現してもらった雑さとか(笑)。さっき細川さんが言ってた本を拡大コピーした箇所です(笑)。
藤原さんと何回かコラボを重ねて、何が一番勉強になりました?他のコラボレーターとは少し毛色が違うのかなと。
H:なんかデニム教室みたいな感じでした(笑)。ジーンズは僕も学生の頃からずっと好きで、90年代のヴィンテージブームからずっとデニムは見てきたんすけど、藤原さんみたいに、何年の何々とかまでは追い切れてないので、そういうところを教えてもらいながら、やっています。
今後2人で作りたいアイテムは?
H:夢はやっぱり5ポケットですね。
F:僕はいつでも待ってます(笑)。細川さんがいよいよ……となれば、サンプルとして各年代をフルラインアップで用意しますぐらいな気持ちでいます。やっぱり本物を見て物作りをするかしないかって全然違うと思うんで。細川さんの見たことないものを持ってこれると思いますし、さっきのデニム教室じゃないですけど、そういうの取り組みできたらいいなっていう。
教材の価値がとんでもないですね(笑)。今日はありがとうございました。