ASICS が国内を代表するタトゥーアーティスト3名を招聘したアートプロジェクトを実施
12月18日(月)に開催された『Hypebeast』プロデュースによる『アシックス大阪心斎橋』リニューアルイベントのレポートに加え、本プロジェクトに参加した「THREE TIDES TATTOO」所属のMUTSUO、濵本祐介、三巴 彫ひろへのインタビューを敢行
日本発のスポーツウェアブランド〈ASICS(アシックス)〉は、大阪に位置する旗艦店『アシックス大阪心斎橋』のリニューアルオープンを記念したスペシャルイベントを、去る12月18日(月)に開催した。“One Asics”会員限定で招待されたゲストのみが来場できた本イベントは、グローバルカルチャーメディアである我々『Hypebeast』が全面的にプロデュースを担当し、〈ASICS〉の展開する“ASICS Piece to Art Project”の一環として実施。本稿では、プロジェクトの全容とともに、イベント当日のレポート、そして参加アーティストへのインタビューをお届けする。
“ASICS Piece to Art Project”とは、開発過程で廃棄されてしまう予定のシューズをアップサイクルしてアートピースへと昇華するプロジェクト。〈ASICS〉が近年取り組んでいるこの実験的なプロジェクトでは、これまでデンマーク発のファッションブランド〈Cecilie Bahnsen(セシリー・バンセン)〉や、アメリカ・ロサンゼルス発の〈GALLERY DEPT.(ギャラリー デプト)〉といったデザイナー/ブランドとコラボレーションしたプロダクトが発表されている。
今回『アシックス大阪心斎橋』のリニューアルに際し、『Hypebeast』プロデュースによる“ASICS Piece to Art Project”が実現。タトゥーアートや肉筆浮世絵、現代浮世絵を日本からグローバルに発信する“混成芸術集団”「THREE TIDES TATTOO(スリータイズタトゥー)」のメンバーであるMUTSUO、濵本祐介、三巴 彫ひろという3名の作家を招聘し、〈ASICS〉のシューズをキャンパスにみたて、それぞれのアーティストが独自のコンセプトで作品を制作。各アーティスト1作品ずつに加え、3名の合作である“ASICS合作刺青画”を含む全4作品が、このたび『アシックス大阪心斎橋』のリニューアルオープン記念イベントで初披露された。
オープニングイベントでお披露目された4作品は、キャンバスに〈ASICS〉のシューズを分解したパーツを貼り付け、その上から各作家が独自のペイントを施している。ユニークなコンセプトで制作されたこれらの作品は、間近で見ると表面のテクスチャーとそれぞれの作家の活き活きとした筆使いが感じられる、唯一無二のアートピースに仕上がっている。また、イベント当日はこれらの作品の展示のほか、直営店限定となるGEL-SONOMA 15-50の先行販売や2024年発売モデルの先行展示も実施。さらに、日本を代表するDJコレクティブ CYKのメンバーであり、現在は京都を中心に活動するKotsu、そして同じく京都を拠点とするDJ ntankによるDJセットも披露された。以前から〈ASICS〉のファンだという2人による選曲は、近年ストリートシーンで熱い支持を得る〈ASICS SportStyle (アシックススポーツスタイル)〉の世界観とも共鳴し、独自の空間を創出。
今回のイベント全体を通してスポーツ、スニーカー、アート、音楽の融合を実現し、〈ASICS〉のもつエネルギッシュなイメージを新たな角度から表現した画期的な一夜となった。
今回展示された4作品の紹介および各作家へのインタビューは、以下よりご確認を。
MUTSUO & 濵本祐介, 三巴 彫ひろ
タイトル:ASICS合作刺青画
MUTSUO
タイトル:Enter The Dragon
コンセプト:Don’t think, feel.
Hypebeast:今回ASICSのシューズのプロジェクトで作品を制作するということに対して、最初どのようなアプローチで取り組みましたか?
MUTSUO:ASICSと聞いて最初に思い浮かんだのが、俳優 ブルース・リーが個人的に愛用していたOnitsuka Tiger(オニツカタイガー)のシューズですね(笑)。確かMEXICO 66(メキシコ 66)というモデルだったと思います。今回の作品で龍をモチーフにしたのは彼の主演作の一つである『燃えよドラゴン(原題:Enter The Dragon)』から着想しました。ですので、今回の作品のタイトルもそのまま“Enter The Dragon”と名付けています(笑)。このように、ブランドをイメージさせるものを、自分が過去に見てきたものの中から引っ張ってきて取り入れることはよくありますね。
MUTSUOさんはタトゥーアーティストとして多くのデザインを生み出してきたと思いますが、今回はシューズを絡めたデザインということで、普段と違う点はありましたか?
そうですね、お題が「デザインをシューズに落とし込む」のではなくて、「シューズにちなんだ作品を創る」ことでしたので、アートワークとして面白いものを考えて制作しました。先ほどもお伝えしたように、今回のプロジェクトの依頼を受けたときに、自分の中にASICSの過去の印象が強く刷り込まれていることに気付いたんです。僕が子どもの頃って、日本のナショナルブランドといえばASICSというイメージでした。確か小学校5・6年の時、担任の先生にミニバスに誘われて、バスケットボールシューズを商店街に探しに行ったんです。
当時はバッシュという略語もなかったんですか?
バッシュなんて僕の周りでは聞いたことなかったね(笑)で、商店街のスポーツ店に唯一置かれていたバスケットボールシューズが、シルバータイガーというキャンバス地のモデルだったんです。もちろん、当時はモデル名は知らなかったのですが。それが僕にとってASICSとの最初の出合いですね。そのような思い出もあって、今回は“達磨(だるま)”をモチーフにした作品も制作しました。
御三方の合作のことですね。あの作品はなぜ“達磨”をモチーフに使用したんですか?
“達磨”は縁起物のひとつですし、今は日本でもバスケットボールが盛り上がってますから、それも兼ねて取り入れました。
タトゥーは個性やアイデンティティを表現する手段として広く受け入れられていると思いますが、これらのコラボ作品を通して、個性や自己表現がどのように伝わってほしいと思いますか?
うーん、難しい質問ですね。自分自身に関していうと、今まで作品で個性を出そうとか特に考えたことはないんですよ。個性って自分が過去に見てきたこと、経験したことから自然と発生するものだと思うので、「何があなたの個性ですか」とあらためて問われても、答えられないですね。作品には自分がそれまでインプットしたものが、無意識に反映されていると思います。
では今の質問を少し咀嚼した問いになりますが、MUTSUOさんは今回の作品を観た人にどのように感じてもらいたいですか?
僕の作品の名前やコンセプトは自分で決めたものですけど、受け取り方は観た人が自由に感じてくれればいいと思います。ブルース・リーからの引用になりますが、「Don’t think, feel.」と言いますか(笑)まさにそれがコンセプトですね。僕の作品に限らず、絵を観たときに何を感じるかは自由なので、それぞれの捉え方があって良いと思います。単純に「面白い」とか、「何か意味があるのかな?」と深読みしてくれても良いですし。
コラボレーションのプロセスにおいて、印象に残った瞬間やエピソードはありますか?
普段は人の肌に(作品を)彫るということを生業にしているので、お客様の要望の中でやらせてもらっている部分はあります。でも今回はアートワークなので、ロゴなどの制限はあるにせよ、表現自体はある程度自由にやらせてもらえました。あと普段のタトゥーの仕事の注文ではなかなかないような挑戦的なことを絵の中でやらせてもらえたので、楽しかったですね。
今回のコラボレーション作品の制作を終えて得た教訓みたいなものはありますか?
自分は作品を制作する際にコンセプトを決めるのですが、今回ASICSさんとコラボレーションをやらせていただいて、ひとつひとつのスニーカーやウェアにもそれぞれコンセプトがあることを理解しました。背景を知って、あらためてASICSのプロダクトへの興味が深まったので、今後も製品をそのような視点から色々と見ていきたいなと思いましたね。
今回のプロジェクトに参加された他の2人の作品をご覧になっての感想を聞かせてください。
もちろん2人とも個性の強いアーティストなので、それぞれの色が出てて良い作品になっていたと思います。
3人の合作についてはいかがでしょう?
それぞれ特色の違う絵がひとつの総柄にまとまっていて、面白い作品に仕上がったと思います。ああいった総柄のプリントをまたやれたらいいですね。
では最後の質問です。今回の作品を観てMUTSUOさんの作品に興味を持った方に向けて、何かメッセージをいただけますか。
うーん、あんまり自分から人に対して何かメッセージを押し付けるようなことはないのですが……まあ「心のままに」みたいな感じじゃないでしょうか(笑)
濵本祐介
タイトル:ASICS盆栽画
コンセプト:ASICSをイメージした盆栽集
今回はASICSのシューズのプロジェクトで作品を作るということに対して、最初どのようなアプローチで取り組みましたか?
濵本祐介:単刀直入にいうと、僕が描ける絵の書き方やスタイルは変わらないので、いつも通り自分らしく描きましたね。
普段タトゥー作家として多くのデザインを生んできていると思いますが、今回はシューズと絡めたところで、普段と違う点はありましたか?
そこに関しても、普段通り自分のスタイルで絵を描きました。やはり自分にできることしかできないので、コラボするプロダクトやブランドに合わせて絵を描くということはないですね。
今回の作品を観た人には、何を感じてほしいですか?
特にこれを伝えたいとかはなくて、そのままありのままを観て、それぞれが自由にいろんなことを感じてくれればいいですね。受け取り方は皆さんの自由でいいんじゃないかな。
濵本さんの代表的なモチーフである、“亀”や“盆栽”などを描き出したきっかけなどはあるんでしょうか?
結果論ですが、好きだから続いていたということが事実です。多くのものは飽きて(描くのを)やめちゃうんですが、自分なりの絵を描くということは好きだから続いてた。それだけなんですよね。
絵が好きでいろんなものを描いている中で、“亀”や“盆栽”を描くようになっていったんでしょうか? それとも、“亀”や“盆栽”がもともと好きで、それを描くということを後から発想したんでしょうか?
後者ですね。もともと“亀”や“盆栽”が好きで、好きなものを表現する手段として絵が後からついてきた感じです。
このコラボレーションのプロセスで印象に残った瞬間やエピソードはありますか? さまざまなコラボレーションを過去にされてるので、共同作業にあたる部分もあったと思うんですけど、その中で楽しい瞬間とかってあったりしますか?
自分が描いたものというよりは、自分以外の、MUTSUOさん、彫ひろさんがどのような絵を描くのか、どういったものが出来上がるのか気になりました。
3人の合作についての感想を聞かせてください。
僕は、紙で描いて提出していわけだけど、パソコンで出力してくれて、これがアートピースになるのはすごいなと思った。僕は紙に描くことしかできませんから。
基本的には見た人が自由に感じてくれればいいということだとは思うのですが、このコラボ作品に興味を持った人々に向けてあえて、何かメッセージや期待を伝えたいことがありますか?
特にないです。あえていうならば、作品を観て、感じてほしい。
三巴 彫ひろ
タイトル:アシックス美人。
コンセプト:「江戸時代にアシックスがあったら」をイメージした、履き物をスニーカーに履き変えた美人画。現代と古典の融合がコンセプト
先にインタビューしたお二方とも同じようなことをおっしゃってましたが、ご自身の作品ついてはやはり感覚的に制作していくものなのでしょうか?
三巴 彫ひろ:自分の作品は自身の感覚に従って自由に描くんですけど、人から頼まれた絵は依頼主の要望に忠実に描くから、あまり考えないというのはありますよね。相手が自分に求めているものを創るというか。デザインってそういう仕事ですから。
今回は“アシックス美人。”というタイトルでGT-2160™を履いた美人画を描いていただきましたけど、あれもそのようなオファーがあったんでしょうか?
実は元々ああいった絵をいくつか描いてたんですよね。その作品を誰がか見て、ASICSでも同じような作風で描いてほしいという依頼があったんです。
なるほどです。“アシックス美人。”は基本的に彫ひろさんの今までの作風を踏襲したものになっていると思いますが、あえて今回少し変えた部分があれば教えてください。
技法的な部分はいつも通りですが、今回描いたスニーカー(GT-2160™)のサンプルを事前にもらって、それに合うように着物の色を決めたりしましたね。
基本的には見た人が自由に感じてくれればいいということだとは思うのですが、この作品を観た人にどのように感じてもらえたら嬉しいですか?
そうですね……昔の浮世絵に見えてくれたら嬉しいです。パッと見は昔の浮世絵なんだけど、よく見たらASICSのスニーカーを履いてた、みたいな。
彫ひろさんのルーツ的な部分をお伺いしたいのですが、ます彫師になろうと思ったきっかけはなんだったんでしょうか。また、現在の作風にはどのように辿り着きましたか?
自分の周りの人、先輩たちが入れていたのがきっかけで、まずタトゥーに興味を持ちました。それで特に自分が惹かれた和彫の技術を勉強していく中で、浮世絵を参考に描いていくうちに今のようなスタイルになったかな。
なるほど。今ではもう作風が確立された上で、そこにさまざまな要素を肉付けしていく感じですか?
和彫って何なのかいうのを勉強していくうちに、だんだん過去の歴史を掘り下げていくようになりますよね。和彫って古い時代に生まれたものだから、ルーツを知るために時代を遡っていく。いかにそこまで辿り着けるか、みたいな。“進化”ではなくて“退化”していくというか。自分に関しては新しいものを追い求めているわけではなくて、いかに当時のものを再現できるかが目標ですね。一般的には「進化した」と言われている今の和彫と、100年前の和彫を比べると、全然違います。もちろん良い点もあるんだけど、昔より全然良くない点もたくさんありますよ。和彫の原点って実際には見れないじゃないですか? だから自分の頭を膨らませて、いかにそこに辿り着けるかに注力して作品を創ってます。おそらく現在浮世絵に取り組んでいる作家さんも、同じような考えだと思いますよ。
彫ひろさんにとって、和彫の一番の魅力って何でしょうか。デザインだったり、色使いですか?
海外の要素が入ってないところですね。日本で鎖国が終わって以降、海外の文化が入って来るようになると、それまで独自に形成されていた文化がだんだん侵食されていって、変わってしまいましたよね。自分は海外の文化に侵食される前の、純粋な状態の和彫が好きなんですよ。当時の資料ってほとんど残っていないんですが、今でも常に100年前の資料を探し求めていますね。
過去の資料を参考に作品を創られているとのことですが、逆にそれ以外でインスパイアされるものはありますか?
まあ過去のものって、結局衰退してしまったわけじゃないですか。本当に良いものだったら現在も残ってるはずですよね? だから古いものをベースにしつつ、新しいものでも良い部分は取り入れるようにしていますね。過去と現在を行き来しながら、両方の良い部分を抽出している感じです。
ASICSのスタンスと通ずるところはありますね。過去モデルを復刻する際に、デザインは昔のものをベースにしつつ、ソールや機能性をアップデートしたり。
同じだね。確かに全く昔と一緒のものを今出しても売れなかったりするだろうから、やっぱりそこに何か新しい要素がないとダメなんだよね。
今回のプロジェクトは今までありそうでなかった斬新なものになっていると思います。最後に、何か一言いただければ。
そうですね。今回のプロジェクトを通して、世の中の人のタトゥーに対する認識が少しでも変わってほしいですね。タトゥーっていまだに一般的なイメージは良くないですから(笑)。音楽や他のアートと同じように、作品を受け入れてもらえるようになればといいなと思います。
今回ご紹介した4作品は、『アシックス大阪心斎橋』にて常設展示中。ぜひとも生まれ変わった同ショップへと足を運び、各作品が放つエネルギーに直に触れてほしい。また本プロジェクトについてTHREE TIDES TATTOOに語ってもらったインタビュー動画もあるので、下記の投稿をチェック。
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