Interviews : 小木“Poggy”基史が語る “Heron Preston for Calvin Klein” の魅力
デザイナー Heron Preston 本人にオンライン上でインタビューも実施

発表されるや否や、世界中で大きな反響を巻き起こした〈Calvin Klein(カルバン・クライン)〉と、ファッションデザイナー Heron Preston(ヘロン・プレストン)によるカプセルコレクション。シンプルでありながらもデザイナーとしてのHeronのスタイルを反映したアイテムの数々は、コロナ禍というタイミングもあり、よりエッセンシャルなものを求める世の中のムードにもマッチしている。そんな今コレクションの魅力を、Heronとは旧知の間柄である『渋谷PARCO』のスタジオ『2G(ツージー)』のファッションキュレーターを務める小木“Poggy”基史に深掘りしてもらった。
第1部では〈Calvin Klein〉のショールームにてコレクションのサンプルを手に取ってもらいながら小木氏に話を伺い、第2部では、小木氏がHeron本人にオンライン上でインタビューを行ない、本コレクションの裏側に迫る。
〜第1部〜
HYPEBEAST(以下:H)まずは今回のHeron PrestonとCalvin Kleinのコレクションに対する感想から伺えますか?
小木“Poggy”基史(以下、P):1980年代から1990年代にかけてCalvin Kleinが作っていたアーカイブを元にしているということですが、リアルさと、Heronらしさと、後はこれからの時代の雰囲気が混ざっているなと思いました。こういう服が新しいベーシックになれば良いなと思いました。
P:こういうパーカーとかも、アメリカ・ニューヨークのスタイルでリアルですよね。ニューヨークって冬が寒いんで、皆パーカーの首元の紐を閉めて、首を空けないっていうのがニューヨーカーのスタイルなんですよね。普通、これだけ身幅が広くて丈が短いとネックが空いているようなデザインが多いんですけど、そこはやっぱりちゃんとニューヨークらしさが取り入れられていますね。洋服以外のサングラスもとても面白いですね。
H:これまでのHeronのクリエイションから考えると、今回のコレクションは彼の今のムードだという“keep it simple”という姿勢がより現れていますよね。
P:自分が初めてHeronに会ったのは、多分2013年とか2014年くらいに、Nike(ナイキ)の本社に招待されて行ったときなんですよね。各国から色々な人が招待されていたイベントで、そのときはイタリアだとMarcelo Burlon(マルセロ・ブロン)とか、アメリカは確かAleali May(アレイリ・メイ)だったり、今はadidas(アディダス)とコラボをしていますけど、424(フォートゥーフォー)〉のGuillermo Andrade(ギレルモ・アンドラーデ)がいたのかな。そういうメンバーのツアーガイドみたいな感じでHeronがいて。多分、そのとき彼はNikeで働いていて。そのときは滅茶苦茶シンプルなスタイルというか、彼は格好良いんで、凄いシンプルなスタイルが逆に映えていて。その後にHeron Prestonという自身の名前を冠にしたコレクションブランドを始めるんですけど、2018年にもDSNY(ニューヨーク市衛生局)とコラボをしたりしていて、あの時のコンセプトもリメイクっぽい感じで、今考えてみると、そのときから常に新しいものを作り出すっていうのとは違うビジョンをHeronは持っていたんじゃないですかね。
H:なるほど。ある種の原点回帰的なニュアンスを感じ取られたということですね。
P:ラグジュアリーストリートっていう流れを作ったイタリアのニューガーズグループ、Palm Angels(パーム・エンジェルス)とか、Marcelo Burlonとかの中では、Heron Prestonはシンプルなスタイルだし、本来のHeronに戻った印象はありますね。それに、Calvin Kleinが昔から提唱している“effortless”な感じも彼とピッタリ合いますね。あと、Calvin Kleinといったら、メッセージ性が込められた格好良いキャンペーンを1980年代から打っていましたが、今回のも凄くニューヨークらしくて良いですよね。このタイミングでNas(ナズ)大先生を引っ張ってくるっていうところも良いし、写真自体の抜け感もとても格好良いと思います。シンプルなスタイルって、トラッドなものに近いというか、誰が着るかや、着方によって見え方が変わるものなので、Heronがこのスタイルを作り上げているというのが、個人的には重要な気がしますね。
H:Calvin Kleinはブランドとしてもサスティナビリティについてしっかりと取り組んでいるブランドなのですが、Poggyさんは普段からサスティナビリティについて意識をしていますか?
P:自分は考え過ぎないし、考えなさ過ぎないようにしています。自分の息子が小学校のときにサッカーをやっていて、自分はサッカー経験が無かったんですけど、コーチのお手伝いをしていて(笑)。で、当時は朝まで呑んだりっていうことも多かったので、朝まで呑んだ後に自転車でお手伝いに行かなくちゃいけないのが滅茶苦茶辛くて(笑)。今もそれにちょっと近いというか、子供に対することじゃないけど、やらなくてはいけないことですよね。洋服ってやっぱり環境に良くないことが多いので、息子のサッカーの為に頑張っていた自分のような感じで、これからの為にちゃんとやりたいなっていう気持ちを持っています。ただ、考え過ぎると疲れちゃうし(笑)、考えなさ過ぎるのは絶対にダメだし、ちゃんと良いバランスで取り組めたらなと思っています。
Calvin Klein MD(以下:C):今回のコレクションで言いますと、ボディに関してはオーガニックの素材を使用していたりとか、インディゴもリサイクルの素材を使用しています。
P:染め方も環境に配慮されているんですか?
C:そうですね。それは通常のインラインの商品もそうなんですけど、極力染色のときに環境に被害が出ないようにっていうのは意識した染色をしています。
P:デニムジャケットの着丈が短めで良いですよね。パンツのシルエットは、通常のものとは違うんですか?
C:いや、通常のラインとは完全に異なるものですね。本当に過去のアーカイブを原点に置いているので、いわゆる1980年代や1990年代にCalvin Kleinが作っていたアイテムのシルエットに忠実に作っていますね。良くも悪くも野暮ったいシルエットですね。
P:それこそ、当時のスケーターやラッパーが履いてそうなシルエットですよね。
C:そうなんですよ。比較的リラックスフィットで、股上も深くて。ベルトループの付き方も敢えてラフな雰囲気を出していて。必要最低限の縫製で作っていますね。
P:ソックスがかなり履き心地気持ち良さそうですね。これも生地にこだわりがあるんですか?
C:これもオーガニックですね。ボクサーブリーフなど、アクセサリーも全てオーガニック素材ですね。全ての工程に環境に配慮した工程がとられています。
H:Poggyさんは最初に「こういう服が新しいベーシックになれば良いなと思いました」とおっしゃられていましたが、新しいベーシックというのは、コロナ以降のベーシックということになりますよね。Poggyさん的に、コロナ禍になってからファッションシーンにおいて変わったなと思うことはどのようなことでしょうか?
P:やっぱりコレクションとかを見ていても、新しいものだけではなく過去のものを混ぜながらスタイリングを組んだりするようになっていますよね。それってクリエイティブじゃないんじゃないか?って言う人もいるかもしれないですけど、やっぱりトータルルックを組まなくてはいけないから、本来作る必要の無いものまで作っちゃったりすることもあると思うんですよ。ファッションの流れとしてはそういうスタイルとは反対の方向にいってると思います。
H:過剰に物を作らないという流れは、どんな業界でもスタンダードな志向になっていきそうですよね。
P:この春、日本ではフィジカルのショーが沢山開催されましたが、パリとかはまたロックダウンになっていたことで、ショーもデジタルになっていましたよね。そうやって、デジタルに移行していくところはどんどんデジタルに移行して、5Gの時代になりデジタルでしか出来ないショーみたいなものが増えていきそうですよね。CGを駆使したり、アニメとコラボしたらそのアニメのキャラクターが洋服を着て歩いてるみたいなことが実現したり。そうなると、アニメや漫画の作家さんとかがデザイナーになる日も来るんじゃないかと自分は思っていて。その反面、デジタルで配信するショーでも、洋服をしっかり見せたいということで、シンプルな表現できちんと洋服が見えるようなやり方を選ぶブランドもあって。ちゃんと洋服を見せるシンプルに昔ながらのこだわったショーか、デジタルで究極のエンターテイメントかっていう風にどんどん別れていくんじゃないかなと思います。で、Heronが向いている方向っていうのは、明らかにローテクで昔ながらのシンプルな表現なんでしょうね。以前、試写会でSpike Lee(スパイク・リー)の新しい映画American Utopia(アメリカン・ユートピア)を観たんですが、まさにコロナになる前にコロナを予感していたような作品で。凄いシンプルな作りなんですが、大切なメッセージが込められていて。それと同じような匂いを、今日このHeronとCalvin Kleinのコレクションを見て感じました。Heronが作るこのシンプルさっていうのが、とても良いんですよね。
〜第2部〜
小木“Poggy”基史(以下、P):久しぶりだね!コレクション、とても良かったよ。まずはHeronとCalvin Kleinというブランドの出会いから教えてもらえますか?
Heron Preston(以下:H):最初にこのプロジェクトのオファーを聞いた時、とても驚いたよ。全く予想していなかったことだったし、Calvin Kleinというブランドがどれくらいアイコニックなものかを考えたときに、とても興奮したんだ。世界でも最も認識されているブランドのひとつだし、自分はCalvin Kleinというブランドと共に育ったようなものだから。お父さんはCalvin Kleinの香水を使っていたし、僕はボクサーブリーフを愛用していたし、気付いたら生活の中にあったっていう感じかな。それと、ニューヨークの中でもアイコニックなビルボードが、僕がニューヨークに引っ越して来て最初に住んだアパートメントのすぐ近くのコーナーにあって、常にキャンペーンを目にしていたんだ。20年以上ニューヨークに住んでいるけど、そういった思い出は僕の人生の一部なんだ。だから、このプロジェクトに取り掛かった時、色んな思い出を思い出して、とてもスペシャルで特別なプロジェクトなんだって改めて思ったんだ。この1年以上の間、週に一度はオフィスに行かせてもらって、アーカイブを見せて貰ったり、ブランドのDNAについて学ばせて貰ったんだ。そういった過去のDNAが未来に繋がるようなコレクションにしたかったから、先ずはブランドのことを理解し、そしてCalvin Kleinという人物について理解したんだ。どうやって彼がカルチャーを動かしたのか、どうやって彼がカルチャーを形作ったのか。白Tにブルージーンズという、シンプルでカジュアルなアメリカのファッションスタイルを、もう一段階上のファッションとしてエレガントに確立したんだ。今回のコレクションのデザインは全て彼がやってきたことからインスピレーションを受けているんだけど、自分たちがいつも着ているようなスタンダードなものをより高いレベルで表現したかったんだ。とても美しく、完璧に行うことができたと思う。マテリアルやディテールを追求出来たし、とても楽しかったよ。このプロジェクトに取り組むことで、自分もレガシーの一部になれたと思う。
P:ラッパーのNasやスケーターのStevie Williams(スティービー ウィリアムス)などもモデルとして参加している、今回のキャンペーンについても教えてもらえるかな?
H:Calvin Kleinはフレッシュな顔ぶれや、カルチャーの中で注目を集めてきているような人材をキャンペーンのモデルに起用し続けているから、そのスタンスはキープしながらも同時に、僕はCalvin Kleinのヘリテージやレガシーもリスペクトしているから、そういった要素もこのキャンペーンで表現したかったんだ。フレッシュな顔ぶれやアップカミングなメンツだけでなく、垣根を取り払うようなアイコニックな存在の人たち、自分のパーソナルな関係性の人たちをキャスティングしたんだ。僕はスケートボードのメッカとして知られているサンフランシスコ出身なんだけど、20年以上前にStevie Williamsが街でスケボーをしているところを見たんだ。その時の僕は小さなキッズで、彼が誰かも分かっていなくて、彼もまだプロスケーターではなくアマチュアの頃だったんだ。けど、彼は流れるようにスケートしていて、完璧に滑っていたんだ。それで、彼が誰なのかとても興味を持ったんだ。翌日に学校で読んだスケボーの雑誌 Transworld(トランスワールド)とかThrasher(スラッシャー)だと思うけど、でStevie Williamsのことを知ったんだ。そこから彼のキャリアはずっと追っているよ。彼はアフリカン・アメリカンとしてプロスケーターになったことで、業界に風穴を開けた一人なんだ。だから、このキャンペーンのキャスティングをするとき、彼には絶対参加してもらいたいと思ったんだ。僕が一人のスケーターでスケートボードを愛しているからってだけではなく、Calvin Kleinはスケーターにとても適したブランドだと思っているからね。そして、Nasをキャスティングした理由は、Calvin Kleinというのはニューヨークを代表するブランドだから、ニューヨークという街をリスペクトし、セレブレートするような存在を考えたときに、Nasのことが最初に思い浮かんだんだ。僕は彼の音楽を聴いて育ったし、常にインスパイアされてきたし、サンフランシスコからニューヨークに引っ越した理由の一つも、彼の音楽やアートに触れてきたからなんだ。だから、ニューヨークのアイコンが誰かって考えた時に、Nasのことが思い浮かんだんだ。そういう感じで、今回のキャスティングには自分のパーソナルな思いが反映されているんだ。昨今のキャンペーンでお馴染みのメンツを使うのではなく、ちょっと意外性があっても自分にとってのパーソナルなムードを反映させたかったんだ。とても楽しかったよ。
P:9.11以降のニューヨークのアートやファッションシーンでは、ストリートファッションとハイファッションが手を取り合って当時の現状を打破しようとするようなムーブメントが起きはじめましたが、このコロナ禍でも同じような動きがあると思いますか?
H:このパンデミックになったことで、僕たちは多分、そんなに沢山のものが要らないってことに気付いてしまったと思うんだ。少ない方が豊かであるっていうことに。そういうムードや考えがこのコレクションには忠実に現れているから、このコレクションはとても大きなものではなく、本当に厳選されたアイテムだけが作られているんだ。このパンデミックによって、消費者はどのように人間として生きるべきかということを学んだと思う。例えば、家にいることが多くなって、同じスウェットパンツを穿き続けたりすると、膝が伸びちゃったりするよね。けど、今回のコレクションのアイテムは、素材のクオリティーやシルエットを追求したことで、もっと永く着れる様になったんだ。単に伸びてしまったものではなく、自分自身のストーリーが表現出来る、使い捨てではなく、この洋服と一緒に生きていくことが出来るような、必要不可欠なものとしてね。何が本当に必要なものかっていうことを考えたコレクションなんだ。
P:必要不可欠なもの、エッセンシャルなものを作り出すという考え方はコロナ禍の前から持っていたものなの?
H:コロナが流行る前からだね。このプロジェクト自体もパンデミック前からスタートしているものだしね。サステナビリティっていうところは、自分のブランドでも最初からしっかりと意識して取り組んでいる問題だし。例えばデニムだったら、Poggyはデニムのことをとてもよく知っているだろ?デニムは触れば触るほど変化があるけど、自分は特別なことをせずに素材本来の生の状態のままにしたかったんだ。それを何度も穿くことで経年変化が起きていくのがクールなんだ。今回のコレクションのTシャツもデザインがプリントされたりしていないブランクなのは、本当だったら大きなロゴで主張したって良いんだけど、施されているデザインは背中のボックス型のステッチくらいなんだ。いつの日かこのTシャツにシルクスクリーンでプリントしたくなるかもしれないだろ?そういう時にブランクのボディとしてこのTシャツが使えたら、とてもクールだと思うんだ。何がエッセンシャルなものかっていうことを考えていたけど、それはパンデミックが起こったからとか、そういうことではないんだ。元々僕が持っていた考えなんだよ。
P:Been Trill(ビーン・トリル)のように、有りもののボディにプリントだけしたような物作りをしていた時代があり、その後イタリアのニューガーズグループと一緒にハイファッションの世界でファッションショーなどをやっていたHeronが作るシンプルな世界観、というのが僕はとても意味があると思っていて、これからも楽しみにしています。この先の予定でもし話せるものがあれば教えて貰えますか?
H:スクリーンプリントでTシャツにプリントをしていた頃から、カルチャーを愛しているんだ。服だけではなく、服を通してのストーリーテリングだったり、服を通してカルチャーを作るっていうことが今も大好きだし、ずっと自分の芯にある部分なんだ。自分は期待されている以上のものを常に形にしていきたいと思っているんだけど、自分はファッション業界の中心にいて、自分の発言で何かが変わるかもしれない場所にいると自覚しているからこそ、ミニマルでベーシックなものを作っていきたいと思っている。Calvin Kleinのような、昔からエッセンシャルなものを作ってきた、嘘のない、本当のベーシックを追い続けるブランドがあるからこそ、僕らやユースが新たなカルチャーを生み出すことが出来るんだと思うんだ。だから、次に何をやるとかはまだ決まっていないけど、カルチャーの芯になるようなアイディアを生み続けたいと思っているよ。
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