Interviews : 小木“Poggy”基史が案内する新感覚スタジオ 2G
『2G』第1弾プロジェクトは、ダニエル・アーシャム × 空山基によるコラボレーション展

2016年から約3年にわたってリニューアル工事をしていた『渋谷PARCO』。渋谷のファッションシーンにおけるランドマーク的存在なだけに、今年2019年11月22日(金)のリニューアルオープンにはさまざまな憶測も飛び交っていたが、ラグジュアリーからストリートを含めた最旬ファッションを軸に、フード関連含めて約192もの店舗が集まった複合施設になることが判明し、オープンへの期待感が高まっている。
“ファッション”を軸に、“アート&カルチャー”、“エンターテイメント”、“フード”、“テクノロジー”という5つのコンセプトでフロア編集されているが、中でも新生『渋谷PARCO』のアイデンティティを象徴する存在として注目をされているのが2Fにオープンするギャラリー併設型スタジオ『2G(ツージー)』だ。
『2G』は渋谷のコンテンポラリーアートギャラリー『NANZUKA(ナンヅカ)』がキュレーションを担当したギャラリー、「MEDICOM TOY(メディコム・トイ)」による限定BE@RBRICK(ベアブリック)を中心にしたアートトイ、そしてファッションキュレーターとして八面六臂の活躍を見せる小木“Poggy”基史を起用したアパレルセレクトがミックスされた空間になるということで、まさに“アート&カルチャー”を愛する『HYPEBEAST』リーダーにはマスト・ゴーなショップになりそうだ。その第1弾となる展示がDaniel Arsham(ダニエル・アーシャム) × 空山基のタッグに決定。奇しくもKim Jones(キム・ジョーンズ)のディレクションのもと、〈DIOR(ディオール)〉の2019年プレフォールコレクションでコラボレーションした空山基と、〈DIOR〉2020年春夏コレクションでコラボレーションしたDanielが奇跡のタッグを組むという、オープニングに相応しい期待の展開になっている。
前置きが長くなったが、ここから先は今回の『2G』の展示にも深く関わり、今後もこのショップでアパレルのディレクターを務めるPoggy氏に登場いただき、『2G』の見所について紹介いただこう。
Dr.Romanelli(ドクター・ロマネリ)から、「自分の友達が日本に行くから、Poggyよろしくね」と言われて会ったのが、ダニエル・アーシャムだったんです
『2G』の構想はいつ頃から始まっていたのですか?
1年前くらいに『PARCO』から『NANZUKA』さんに、「PARCOでアートをやらないか」という話があって。でもNANZUKAさん的にはそこに興味はなくて、「それよりもファッションとトイとアートの組み合わせだったらやってみたい」とPARCOに提案していたそうなんです。で、ある程度良い感触を得た段階で自分たちに話をしてくれました。
『2G』における小木さんの役割は?
特に区切りはないですけど、『NANZUKA』さんのギャラリー、「MEDICOM TOY」さんのパートがあって、今回みたくギャラリーで展開するエキシビションに合わせて自分たちが服に落とし込むという、ファッションのパートを自分と『DAYTONA INTERNATIONAL』さんとで担当させてもらっています。ひとつのチームみたいな感じですね。MEDICOM TOYの赤司竜彦社長も、「最初から色々決め過ぎると自由さがなくなってしまう」とおっしゃっていて。決め事がない大変さもありますけど、話し合いながらやることによって新しいやり方が生まれている気がします。

左からNANZUKAの南塚真史さん、MEDICOM TOYの赤司竜彦さん
小木さんとDaniel Arshamとの関係は?
2013年にDr.Romanelli(ドクター・ロマネリ)から、「自分の友達が日本に行くから、Poggyよろしくね」と言われて会ったのが、Daniel Arshamだったんです。その時に一緒にお茶して、翌年の来日時には色んな人とのディナーをセッティングしたりとかして。その時にDanielが日本で個展をやりたいと言っていたので、一緒に有名な美術館にも行ったんですけど、「2020年まで埋まっているし、あなたみたいなテイストは日本では難しい」と割と“門前払い”に近い感じで。
そんな感じだったんですね。
そういう状況の中で、Danielに「日本で個展をやろう」と言ったのが『NANZUKA』さんだったんです。その個展の時に自分は〈POGGYTHEMAN〉コラボでTシャツを作って『UNITED ARROWS & SONS(ユナイテッドアローズ アンド サンズ)』でも一部販売したりしました。
今回の『2G』は、内装をニューヨークのクリエイティブ・チーム「Snarkitecture(スナーキテクチャー)」が手がけていることも注目されています。
ちょうどそのくらいの時期から「Snarkitecture」はニューヨークファッションウィークで、〈STAMPD(スタンプド)〉のインスタレーションを手伝っていたり、マイアミのアートバーゼル中にお店でインスタレーションをやったり、ファッションとアートが絡んでいる中に「Snarkitecture」やダニエルがいるシーンが増えてきました。自分も2014年に『UNITED ARROWS&SONS』で「Snarkitecture」のシェルフを店舗什器に入れさせてもらったりしていたのですが、いつかお店の内装全てを一緒にやりたいと思っていました。渋谷のアイスクリーム・ショップ『KITH TREATS(キス・トリーツ)』は彼らが手がけていますが、こういう規模のお店を「Snarkitecture」が手がけるのは、日本では今回が初めてなので、自分としてもすごく嬉しいですね。

Photo by NANZUKA
アートはまだ自由さを保っているということに惹かれる
内装デザインはどのように詰めていったのですか?
最初『NANZUKA』さんの方から、「2001年宇宙の旅みたいな感じいいよね」という話があって、それを彼らに伝えたら、Danielたちから「入り口のスペースは“金庫を破ったような感じ”にしたい」という話が出てきました。やっぱり彼らはアーティスティックな面が強くて、素材にもこだわるので、もっと重い本格的な素材を使いたいと言っていたんですけど、実際使うとなると相当な重量になって、『PARCO』の床が抜けちゃうなと(笑)。「実用面では自分たちはこういう方がいい」とか、彼らとキャッチボールをしながら進めてきました。
近年、アートとファッションがかつてより密接になっているように感じます。
ここ数年で「ComplexCon(コンプレックスコン)」とか「HYPEFEST(ハイプフェスト)」のように、ファッション、トイ、アートや音楽がひとつになったフェスが増えていますよね。でも90年代からFutura(フューチュラ)やStash(スタッシュ)とかの流れもありましたし、2000年代頭から〈ISSEY MIYAKE(イッセイミヤケ)〉や〈Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)〉と村上隆さんとか、藤原ヒロシさんと村上さん、NIGO®️(ニゴー)さんとKAWS(カウズ)や〈UNDERCOVER(アンダーカバー)〉のコラボレーションなどを見てきているので、自分の中では自然にそういう中で育った部分もあります。
小木さんが思う現在の「ファッションとアートの親密性」や、ストリートとの関係についても教えてください。
ファッションってもともと自由なものだと思うんですけど、近年はコンプライアンスの問題があったり、制約が大きくなってきているようにも感じます。音楽にも多少そういう部分はあるのかもしれませんが、アートはまだ自由さを保っているということにすごく惹かれますね。
小木さんは頻繁に海外にも行っていますが、日本以上にアートとファッションの関係性は深まっていますよね。
今年香港のアートバーゼルに初めて行ったんですけど、以前はアートの関係者しか入れなかったらしいんです。その期間中にNIGO®さんが「Sotheby’s(サザビーズ)」のオークションに出品したのもあってか、僕が行った時はストリート系の人たちも多かったですね。「Sotheby’s」の人も「KAWSなどストリートアートの盛り上がりが見逃せなくなってきていて、ストリートアートのバイヤーを専属で雇ってその部門を強化している」と言っていました。5年前くらいからオークションにスケートボードが出るようになったり、BE@RBRICKもアートのオークションに出るようになって、アートの入り口が昔よりも寛容になってきていると感じます。ファッションにおいては、〈DIOR〉のショーでKim Jonesが大きなKAWSの作品を出した時に「これは時代が変わるな」と思いました。
〈HYSTERIC GLAMOUR〉〈寅壱〉などとの意外なコラボレーション
その次の〈DIOR〉のショーは空山基さんの作品でしたし、こうした流れの中での『2G』の登場は必然な気もしますね。
僕もファッションにアートを落とし込んだものをやりたいと思って色々やってきたんですけど、単発のことはできても、続けてやることって難しかったんです。なので、こうやってプロフェッショナルな方達と継続して組ませていただくというのは自分にとってもすごくチャンスだと思います。
今回小木さんが手がけた商品の中で、実現して嬉しかったものは?
〈1017 ALYX 9SM(テンセブンティーン アリクス ナインエスエム)〉のMatthew M. Williams(マシュー・ウィリアムズ)ときちんと話して扱わせてもらうことになったり、〈HYSTERIC GLAMOUR(ヒステリックグラマー)〉と一緒に出来たのは良かったですね。自分が知らなかっただけですが、実はヒスはKAWSとコラボレーションしていたりとか、そういう接点も新鮮に感じらましたし、展示会にお邪魔したら自分もすごく着たいものがたくさんありました。あとは10年くらい前に、『時計仕掛けのオレンジ』に出てくるTHE ROCKING MACHINEをヒスが別注カラーの黒で作っていたんです。そのデッドストックが見つかったので、今回個数限定で扱わせてもらいました。

時計仕掛けのオレンジで主人公アレックスが“武器”に使ったオブジェの黒バージョン。HYSTERIC GLAMOURが別注したもののデッドストックを2Gで販売。
『2G』において、『HYPEBEAST』読者に最も見てほしいものは?
僕が今日穿いてますけど、〈寅壱〉とのコラボは新鮮かもしれないです。アメリカのワークウェアはファションとしてスタンダードになっていますけど、〈寅壱〉って日本を代表するワークウェアなので、ちゃんと紹介したいと思っていました。実は以前にDaniel Arshamが日本に来た時に、「ローカルなホームセンターに行きたい」というので、豊洲の『スーパー・ビバホーム』に連れて行ったんですよ。ワークウェアのコーナーを見に行ったら、「そうだ、こういうパンツ探しているんだけど」と言われて、今度は新宿の定番、『萬年屋』に連れて行ったら、Danielが〈寅壱〉をすごく気に入って。僕も確かにこれは面白いなと思って穿くようになって、〈寅壱〉の本社に行って別注の話をさせてもらいました。シルエットもいじらずに『2G』のロゴを入れさせてもらっただけで、色も定番カラーです。その中でもモード的な感じにも見える色をセレクトしています。
実は僕も専門学校生のお金が無い頃、バイトして頑張って買った〈COMME des GARÇONS SHIRT(コム デ ギャルソン・シャツ)〉に、パンツまでブランド物を買うことができずシルエットが面白い〈寅壱〉を穿いて、〈Dr.Martens(ドクターマーチン)〉を合わせていたんです(笑)。そういう懐かしさもあるアイテムです。
KAWSの日本で初めての個展やスケシン(SKATETHING)さんも参加していたVersus展をやったのも実は『PARCO』なんです
他のアイテムも小木さんらしい新提案に溢れていますね。
上に着ているのは、〈AURALEE(オーラリー)〉に生地を別注した『5525gallery(ゴーゴーニーゴーギャラリー)』のジャケットです。あとはNYやLAの若手新進気鋭のデザイナーのブランドに別注していたり、僕が好きなイタリアの〈Mp Massimo Piombo(マッシモピオンボ)〉を仕入れていたりとか。テーラード系からストリート、古着、あとは〈BAMFORD(バンフォード)〉の時計とか、とにかく垣根を作らずに色々ミックスしています。
今後どんどんラインナップも入れ替えていく予定ですか?
常時展開する予定のものもありますし、ポップアップスペースは結構入れ替えます。アパレルはシーズンごとに入れ替えていく感じです。
『2G』の今後の展望について教えてください。
僕は今42歳ですけど、本当につい最近まで洋服しか買ってこなかったんです。もう全財産を洋服につぎ込んできて(笑)。最近は少しずつアートも買うようになって、自分の事務所にアートを飾るのがすごく楽しいんですよ。僕のアートデビューは遅かったけど、この楽しさを少しでも伝えられたらいいなと思っています。たとえば住宅展示場って結構面白い空間じゃないですか。そこでイベントをやったり、日本式の建売り住宅に大きなアートやBE@RBRICKの1000%が置けるようになっていたりする提案などを『2G』を通してやってみたいですね。
最後に、『2G』が東京にある意義とは?
それまでのギャラリーが取り上げてこなかったKAWSとかスケシン(SKATETHING)さんも参加していた“Versus展”をやったのも実は『PARCO』が最初なんです。特に“Versus展”は、既に活躍しているグラフィックデザイナーだけでなく、ストリート出身の日本のグラフィックデザイナーを初めて起用した、自分にとって衝撃的なエキシビションでした。『クアトロ』ではライブによる音楽カルチャーの発信を続けていたりする『PARCO』でこういうことをやらせてもらうというのは、僕にとっての意義も大きいですし、今回展示・販売しているものも日本発のものが多いですからね。アートを含めて、東京の感覚をミックスしながら届けていきたいです。

取材には2Gのキーパーソンが全員集合。(左)MEDICOM TOYの赤司竜彦さん「特にルール的なことは考えていないので、できるだけ定石ではないものを届けてビックリさせていきたい」。(中)NANZUKAの南塚真史さん「僕はこの場所でやりたいことは最初から決まっていて、とにかくアートの敷居を下げて、若い世代に届けたい。お二人の力を借りながら実現したいですね」