エリカ・バドゥが東京で語る「即興」という生き方 | Interviews
ネオ・ソウルの伝説的アーティストが『Hypebeast Japan』に初登場
エリカ・バドゥが東京で語る「即興」という生き方 | Interviews
ネオ・ソウルの伝説的アーティストが『Hypebeast Japan』に初登場
約1年ぶりに来日を果たしたネオ・ソウルの伝説的アーティスト エリカ・バドゥ(Erykah Badu)。自身の新たなライブプロジェクト「IMEHO」の世界ツアーのキックオフとして、「SOUL CAMP」への出演、そして『Billboard Live』3都市での公演と多彩なパフォーマンスを披露した。今後も10月からはヨーロッパツアー、そして世界各地での公演を予定している。
ピアノとパーカッションのみを従えた“One Human Show”と題された本公演は、セットリストこそ用意されているものの、その行方はすべて即興に委ねられる。観客やミュージシャンとのエネルギーを受け止めながら、その場限りの音楽を紡いでいく──それこそが、現在のバドゥが追求する表現だ。
今回、『Hypebeast Japan』では来日中のバドゥにインタビューを実施。パフォーマンスの核にある哲学から、東京のクリエイターたちとのコラボレーション、そして何度もこの街へ足を運ぶ理由まで話を聞いた。
私は「その瞬間」に生きるアーティストなんです
Hypebeast:今回のツアーのコンセプトについて教えてください。パフォーマンスを通じて、どのようなアイデアやメッセージを表現したいと考えていますか?
エリカ・バドゥ:今回のツアーのパフォーマンスは“One Human Show”と呼んでいて、普段行っているパフォーマンスとは少し違い、私とピアノ、そしてパーカッションだけという構成でとてもミニマルで削ぎ落とされたものになっています。それに即興です。セットリストはありますが、それがどう展開するか、それぞれの曲がどれくらいの長さになるか、各ショーで何をするかは全く分かりません。
『Billboard Live』では1晩に2回のショーがありますが、それは毎回まったく異なる体験を生み出せるということでもありました。私が目指したのは、私と観客が一緒に「体験」をつくり上げる、その日、その瞬間にしか存在しないライブです。同じショーは2度と生まれません。なぜなら、公演ごとに観客がもたらすエネルギーがまったく違うから。そのエネルギーに身を委ねながら、その場限りの体験を生み出すことが、私にとって最も大切なことなんです。
毎回異なるショーを生み出す即興演奏は、今回のライブの大きな見どころでもありました。即興だからこそ、最も大切にしていることは何ですか?
私は「その瞬間」に生きるアーティストなんです。信じられないかもしれませんが、この30年間、1年のうち約8カ月は旅をしながら過ごしてきました。その間に何か言いたいことができたり、十分に生きたと感じたときにレコード(アルバム)を作りますが、何よりも私はパフォーマンスアーティストなんです。
観客と直接つながり、私たちが1つの呼吸する有機体になったとき、何が起こるかは誰にも分かりません。先ほど言ったように一応セットリストという「ガードレール」はありますが、それはミュージシャンが迷子にならないためのもの。
今回一緒に演奏したRC・ウィリアムズとは長年のパートナーで、お互いの「音楽的な文章」を最後まで補い合えるような関係です。周りからは何度もリハーサルを重ねたように見えるかもしれませんが、実際はそうではありません。彼には自由に演奏してほしいですし、今回のライブでは初めて共演するパーカッショニスト カンも加わり、その場で音楽をクリエイトしていきました。そして観客もその大きな一部です。彼らがくれるエネルギーが、私に異なる方向へ進む機会を与えてくれます。だから必要であれば、セットリストからどんどん逸脱していきます。
それこそが私にとって音楽の本質です。そして、何にも縛られることなく、その瞬間に感じたものを演奏すること。それが即興で大切にしていることでもあります。30年経った今でも、こうして自分の中にある最高のクリエイティビティを引き出し続けられることに、本当に感謝しています。
あなたはライブパフォーマンスにおいて、予期せぬサウンドやリファレンスを「即興」的に織り交ぜることがよくありますよね。今夜のショーでも、人々がすぐには気づかないような仕掛けは埋め込まれていましたか?
どうでしょうね。正直、ステージで何をしたのか自分でもあまり覚えていないんです(笑)。たくさんのショーを重ねていると、後から振り返ろうとしても記憶がぼやけてしまう。それくらい私は、その瞬間を生きているんです。
それは衣装を選ぶときも同じです。私のために用意されたラックがあって、一緒に作品をつくりたいデザイナーや学校は事前に選んでいます。でも、最終的に何を着て、どんなショーになるのかは、その場になるまで自分でもわかりません。メイクをして──それも毎回違いますが──ラックの前に立ち、その瞬間の感覚で選んでいくんです。
そんなふうに即興で動くから、うまくいくこともあれば、思いがけない発見が生まれることもあるし、大失敗することだってあります。でも、それもすべて「その瞬間」の一部。だから気にしないんです。その瞬間は、決して複製することも、繰り返すことも、誰かに押し付けることもできない、かけがえのないものですから。
ライブプロジェクトの「IMEHO」という名前の背景には、どのような意味があるのでしょうか?
気になりますか?「IMEHO」は私のクリエイティブ・ペルソナ(オルターエゴ)の1つで、私が誰であるかを説明しています。「I’m me, ho」って言いたいわけです。私は私。周りが「あなたはこういう人だ」ってたくさんの意見を持っているこのタイミングで、それを表現することが私にとって重要だったんだと思います。だからみんなにその言葉を残そうと思ったんです。
衣装についてお伺いします。今回、「SOUP CAMP」と『Billboard Live』でのパフォーマンスでは『東京モード学園』の学生たちによる衣装を着用されました。このような衣装はどのようにして知り、選ぶことになったのでしょうか?
スタイリストであり、とても良い友人でもあるアキコを通じて知りました。アキコが「東京モード学園の学生たちの作品がとても素晴らしいので気にいると思う」と教えてくれたんです。それで学校へ行って学生たちに会い、すべての学科を見学しました。そして、ヘアの学科からピースを提供してもらったり、メイクアップアーティストの学生たちが実際にショーに同行してくれたりしました。もちろん、素晴らしいデザイナーたちにも出会いました。
普段、私はあまりスタイリストをつけません。自分自身がスタイリストであり、自分だけのスタイルを持っているからです。ファッションにおいて私が一緒に仕事をするのは、服を単なる衣服ではなく「彫刻」のように捉えているアーティストたち。今回も、そうしたアーティストでもある学生たちがたくさんの作品を用意してくれて、その中から私自身が自由に組み合わせてスタイリングしました。
ミキト(Mikito Urushi)は、これまでに見たこともないような“相撲ドレス”(スライド3枚目)を作ってくれました。「SOUL CAMP」で着用しましたが、本当に特別で素晴らしい作品だと思ったから、どうしても着たかったんです。
今着ているこのドレスも『東京モード学園』の学生が作ったものです(スライド1枚目)。本当に素晴らしく見事に作られています。ドレープの入れ方やレイヤーの重ね方……ちょっとトマトソースをこぼしちゃったんですけど(笑)。でも、本当に美しくて軽やかな素晴らしいピースで、今では私のお気に入りのピースになっています。もう3日連続で着ているくらいです(笑)。
また、友人のVIVIANO(ヴィヴィアーノ)の作品と、東京でフリルを重ねたレイヤリングでとても有名なTomo Koizumi(トモ・コイズミ)のピース(スライド2枚目)も今日の『Billboard Live Tokyo』での公演で着用しました。
この先もツアーは続きますが、その中でもいくつかのピースは絶対に持ち帰りたいと思っています。みんなにも見せたいですし、何より東京の学生やデザイナーたちの作品をサポートしたいからです。彼らはファッションの世界で、常に時代の一歩先を行っていると思います。そして、そのクリエイションは私のパフォーマンスとも本当によく響き合うんです。なぜなら、ひとつひとつのピースがまるで独自の生命を宿しているように見えるから。ラックに掛かっている状態でさえ、すでに彫刻作品なんです。
そんな彼らの作品を身にまとい、東京で表現できたことをとても誇りに思っています。本当にありがとう。
そうして私たちは、1つの呼吸をする生き物のようになっていくんです
あなたのライブパフォーマンスにおいては、衣装そのものがパフォーマンスの一部のように感じられます。服を変えることは、ステージでの自分自身の見せ方や、音楽の表現方法にも変化を与えますか?
ええ、衣装は、ショーのプロセスの大きな一部だと思います。先ほど言った通り、私は次に何を着るかを事前に決めることは絶対にしません。「着る可能性のあるもの」として選んだラックは用意されていますが、ショーの本当に直前になってから、それらを組み合わせます。ピースを組み合わせていくのは、ビジョンの一部ですから。次に何が起こるか分からない状態こそが、私が即興で行う“One Human Show”の楽しさなんです。即興性が鍵であり、それは衣装においても同じです。だから私は通常、最初はたくさん着込んだ状態からスタートして、ショーが進むにつれてレイヤーを脱いでいきます。ショーが進むにつれて私の緊張がほぐれてリラックスしていくのと同じようにね。
あなたは90年代後半から日本に来ていて、フェスティバル出演やバンドでのショー、そして今夜のような親密な空間で行われるライブまで経験されています。今回は世界ツアーのキックオフとして日本を選ばれましたが、あなたを惹きつけ、何度も戻ってこさせる日本とのつながりは何なのでしょうか?
それなら、はっきり答えられます。私はいつも、新しい表現を磨くために日本、そして東京へ来るんです。そして、それを観客との距離が近い、親密な環境で試したい。だから『Billboard Live』が本当に大好きなんですよ。
先ほども言ったように、ここでは1晩に2回ショーがありますよね。私にとっては、本番でありながら2回のリハーサルができるような感覚なんです。客席も300席ほどとコンパクトで、とても親密な空間です。日本の観客は驚くほど集中して音楽を聴いてくれるし、誰もスマートフォンを取り出さない。とても温かく迎えてくれて、私と一緒に音楽を体験することを心から楽しんでくれます。そして私も、彼らを体験している。そうして私たちは、1つの呼吸をする生き物のようになっていくんです。
レコーディングアーティストであることと、ライブパフォーマーであることはまったく別のものです。レコーディングでは、一瞬を”完璧”な形に仕上げるために何度でもやり直すことができます。でもライブは違う。同じ瞬間は2度と訪れません。私は、その1度きりの瞬間を必要としているんです。だからこそ、この仕事を30年続けてきても、まるで昨日始めたばかりのような気持ちでいられるんですよ。
そんな日本はあなたにとってどのような場所ですか?
私にとって、日本、特に東京のすべてがスピリチュアルです。木々や太陽、そよ風、鳥たち──そのすべてが好き。特にカラスが大好きなんです。とても賢くて、彼らとコミュニケーションを取るのは本当に楽しいですね。植物や松の木にも惹かれます。古くからそこに佇み、まるで盆栽のような美しい造形を持っている。その姿にとても魅力を感じます。
街を歩くことも大好きです。歩いていると、いつも思いがけない発見があります。木々に色とりどりの紙が結ばれ、人々が自分や誰かの幸せを願っている光景(七夕の短冊)も印象的でした。素足で感じる芝生の柔らかさ、街の美しさや清潔さ、そして人々が自分たちの街を大切にしていることにも心を動かされます。
古い建築も大好きです。数こそ多くありませんが、街に残されている建物はどれも美しく、建てられた当時の姿を今も保っています。屋根に使われている金や銅も好きで、私はそれを建物の”ジュエリー”と呼んでいるんです(笑)。
そして、ファッションというよりも”スタイル”に惹かれます。着物の文化もそうですし、この街には本当に美しいものがたくさんある。人々を眺めるのも好きです。年配の方々が背筋を伸ばして凛と歩く姿も、若い人たちが幸せそうに過ごしている様子も、本当に素敵だと思います。
最後に少し話を切り替えて、近年あなたは「サウンド・メディテーション(音の瞑想)」などのプロジェクトを通じて、芸術的な実践を広げています。このように将来挑戦したい新しい取り組みや、計画し始めている新しいプロジェクトはありますか?
私はアーティストとして30年間活動してきました。来年(2027年)には、デビューアルバム『Baduizm』のリリースから30周年を迎えます。本当に小さな頃から歌い続けてきましたし、演技もずっと続けてきました。音楽でも演技でも、どんな表現であっても、クリエイトすることそのものが大好きなんです。そして、自分の最高傑作はまだこれから生まれると信じています。世界と分かち合いたいものが、私の中にはまだたくさんある。それを形にできる日が待ちきれません。そして、不思議なことに、東京にいるときが1番、その創作への自由を感じられるんです。
東京は、私にとって特別な場所です。ここへ来るたびに、自分もこの街の一部になれたような気持ちになりますし、いつも温かく迎え入れてもらえていると感じます。本当にありがとうございます。
エリカ・バドゥ(Erykah Badu)
1997年、デビューアルバム『Baduizm』で鮮烈なデビューを飾り、ネオ・ソウルというジャンルを世界的に確立。これまでに5度のグラミー賞を受賞し、2025年の「Billboard Women in Music Awards」では、音楽界への多大な功績が称えられ「Icon Award」を受賞した。
シンガー、ソングライター、プロデューサーとしてだけでなく、俳優、ファッションアイコン、そしてサウンド・ヒーラーとしても活動し、音楽、アート、ファッション、スピリチュアリティを横断しながら、常に新たな表現を探求し続ける存在として、世界中のクリエイターやアーティストに影響を与え続けている。





















