サンダーキャットが語る、新アルバム『Distracted』と日本アニメカルチャーへの愛 | Interviews
約6年ぶりとなる最新アルバムを携え来日したサンダーキャットに、『Hypebeast Japan』がインタビュー。作品制作の裏側から日本カルチャーへの愛まで、その現在地を聞いた
サンダーキャットが語る、新アルバム『Distracted』と日本アニメカルチャーへの愛 | Interviews
約6年ぶりとなる最新アルバムを携え来日したサンダーキャットに、『Hypebeast Japan』がインタビュー。作品制作の裏側から日本カルチャーへの愛まで、その現在地を聞いた
約6年ぶりとなるニューアルバム『Distracted』をリリースし、日本ツアーも終えたばかりのサンダーキャット(Thundercat)。ジャズ、ファンク、ヒップホップなどジャンルを横断しながら、ベーシスト、シンガー、プロデューサーとして独自のキャリアを築いてきた彼は、いまや現代音楽シーンにおける唯一無二の存在となっている。
Flying Lotus(フライング・ロータス)率いるレーベル「Brainfeeder」を象徴するアーティストのひとりとして知られる一方で、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の『To Pimp a Butterfly』への参加や、マック・ミラー(Mac Miller)、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)、チャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)らとのコラボレーションを通じ、ジャンルを超えてその名を広げてきた。超絶技巧の6弦ベース、ユーモアと哀愁が同居する歌詞、そしてインターネット的感覚をまとった独特の世界観は、多くのアーティストやリスナーを惹きつけ続けている。
そんなサンダーキャットの最新作『Distracted』は、約6年ぶりとなるフルアルバムでありながら、これまで以上にパーソナルな作品でもある。自身を取り巻く環境の変化、情報過多な現代社会への感覚──彼自身が「今の人生のリアル」と語るように、本作には現在進行形の心境や生活が色濃く反映されている。
また、彼を語る上で欠かせないのが、日本カルチャーから受けた影響だ。『北斗の拳』、『新世紀エヴァンゲリオン』、『ガンダム』、『犬夜叉』など、幼少期から触れてきたアニメやマンガは、単なる趣味を超えて彼のクリエイティブの核となっている。実際に今回の来日で『北斗の拳』の作者 原哲夫とも対面を果たしたという彼は、その作品群が自身の人生や音楽制作にどれだけ大きな影響を与えてきたかを熱量たっぷりに語ってくれた。
本稿で『Hypebeast Japan』は、最新アルバム『Distracted』についてはもちろん、日本ツアーを終えた直後の率直な感想、インターネットとの向き合い方、影響を受けた日本作品、そして最近ハマっているアニメまで、多岐にわたって話を聞いた。
Hypebeast:『Distracted』は『It Is What It Is』以来、約6年ぶりのアルバムになりました。今回の作品では、どんな自分を表現したかったのでしょうか?
サンダーキャット:今回のアルバム制作の過程は自分にとって本当に新しい経験だったと思う。これまでの自分の音楽って、長い間ずっと違う状態で書いてきた気がするんだ。特にアルコールは、自分の音楽に大きな影響を与えていた。でも、新作『Distracted』の制作時は、お酒を飲まないという選択をしたことですぐに何かが変わった感覚があった。人生のいろんな変化がこのアルバムに影響していると思うし、楽曲が生まれた背景にも色々なストーリーがある。ただ、そういう瞬間については、あまり多くを語りたくない時もあるんだ。すごく個人的な体験だからね。
でも全体を通して言えるのは、このアルバムは“今の自分の人生”が強く反映された作品だということ。『Distracted』というタイトルですら、ある意味では本当にそのままなんだよね。これが今の自分にとっての人生のリアルなんだ。
タイトルの『Distracted』は、今の情報過多な時代ともリンクしている気がしました。SNSやインターネットのノイズは、クリエイティブにとって刺激ですか? それとも妨げですか?
インターネット自体は昔からずっと存在していたものだと思うし、それによって“情報が多すぎる”状態が普通になってしまっているんだよね。でも、それが人々に与えている影響は決して普通じゃないと思う。
自分は昔からインターネットの中にインスピレーションを見つけてきたし、今でもそう。基本的には、インターネットを楽しもうとしているんだ。もちろん、世の中には落ち込むようなことも多いし、全部が楽しいわけじゃない。でも時々、本当に面白い瞬間もある。
ただ今は、インターネットが人間の思考プロセスそのものに深く入り込みすぎていて、自分でもその影響に気づかない時があると思う。「スマホを置かなきゃいけない瞬間がある」っていう意識は常にある。でも、もうそれ自体が日常の機能の一部になってしまっているんだよね。それでも、自分はまだ“ジョーク”をインターネットに見つけられると思ってる。そこに面白さを感じられる限り、インターネットは自分にとってインスピレーション源であり続ける。笑えるものを見つけられるなら、それは創作の刺激になる。でも同時に、情報が多すぎることで圧倒される瞬間があるのも事実だよ。
エイサップ・ロッキー、リル・ヨッティ、マック・ミラーなど、今回のアルバムでは、多彩なコラボレーターたちも話題になりました。コラボ相手を選ぶときに大切にしていることは?
自分にとって一番大事なのは、まずその人の音楽のファンであるかどうかだと思う。相手のやっていることに対して、“本当に好きだ”と思える部分があること。それってすごく重要なんだ。あと、単純にその人がいい人だったら最高だよね(笑)。
LAで暮らして、たくさんのアーティストと仕事をしていると、本当にいろんなタイプの人間に出会うんだ。自分が何者かについて強いイメージを持っている人も多いし、そういうこと自体が、ある意味では“情報過多”だったりもする。でも結局、自分は“心が反応するかどうか”を大切にしていると思う。自分の気持ちが自然についていく相手なら、そのコラボレーションに対して純粋にワクワクできるんだ。
アルバムの中で特に印象深い曲はありますか?
普段は“お気に入りの曲”ってあまり作らないんだけど、今回はマック・ミラー(Mac Miller)との曲が最初に頭に浮かぶかな。
マック・ミラーとの関係性は、今もあなたの中で生き続けていますか?
マックは、自分にとって最高のコラボレーターの1人であり、大切な友人だった。一緒に過ごした時間には本当に感謝しているし、彼がどんな人だったのか、その記憶は今も毎日自分の中に生き続けている。いつも彼のことを考えているんだ。
それでは、今回の日本ツアーを終えた感想を教えてください。都市ごとに空気感の違いも感じましたか?
もちろん!大阪も名古屋も最高だったし、東京での公演も本当に素晴らしかったよ。前回来た時からきっといろんなことが変わっていると思うから、どんなふうになるのか自分でもわからない部分もあったんだけど、どの場所でもちゃんとエネルギーが噛み合っている感覚があった。お互いのバイブスが自然にマッチしている感じで、それがすごくエキサイティングだったよ。特に東京公演は本当に特別だった。
あと今回は、ソニックのベースを日本に持って来られたことがすごく嬉しかったんだ。自分にとって本当に大切なベースだから、一緒にここへ来られたことがすごく意味のあることだった。
『Distracted』をリリースしてから初のライブでもありました。スタジオ制作時と、ライブで披露した時とでは、楽曲の感じ方は変わりましたか?
ライブで音楽を演奏することは、昔からずっと自分の1番好きなことのひとつなんだ。それに、歌詞って後からその“面白さ”に気づくことがあるんだよね。レコーディングしてる時より、実際にライブで歌ってみると「これめっちゃ笑えるな」って感じたりするんだ。だから、曲をライブで歌うこと自体がすごく楽しいんだよね。
あなたはアニメやゲームなど、日本カルチャーへの深い愛でも知られています。それらは音楽や人生にどんな影響を与えていますか?
物心ついた頃から、アニメはずっと自分にとって大きな影響を与えてきた存在なんだ。それに、日本のカルチャーについて感じるのは、本当に細部までこだわりと情熱が込められているということ。特に昔の作品を振り返ると、心も魂も、そして血さえ注ぎ込まれているように感じるんだよね。音楽、色彩、線の描き方、ストーリー、そのすべてが本当に特別なんだ。しかも、それらが長い年月を経ても大切に受け継がれている。そのこと自体がすごく美しいと思うし、自分の音楽にものすごく深い影響を与えている。
人生で1番好きなアニメのひとつは『北斗の拳』なんだ。最近、作者の原哲夫先生に実際に会うことができて、自分の人生のあらゆる音楽制作の瞬間で『北斗の拳』がどれだけ大きなインスピレーションだったかを直接伝えられた。あと、自分が20代の頃に亡くなった友人 オースティン・ペラルタ(Austin Peralta)のことも話したんだ。彼の死が自分の音楽にどれだけ大きな影響を与えたかを。
そして、人生の重要な音楽制作の瞬間には、いつも『北斗の拳』があった。Flying Lotus(フライングロータス)の『You’re Dead!』を作っていた時も、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の『To Pimp a Butterfly』に関わっていた時も、自分のソロ作品を作っていた時も、デンゼル・カリー(Denzel Curry)と制作していた時も。そういう作品の根底には、常に『北斗の拳』みたいな存在が流れていたんだよね。
あと、自分でも嬉しいのは、アニメやマンガへの純粋な熱量が、子供の頃からまったく変わっていないこと。長い人生の中で、いろんな浮き沈みを経験してきたけど、『新世紀エヴァンゲリオン』や『ガンダム』、『犬夜叉』みたいな作品に触れた時間は、自分の人生の中でも本当に大切な瞬間として残っている。そういう記憶や感情が、今の自分を作っているんだと思う。
最近ハマっているキャラクターや作品はありますか?
ゲームなら、やっぱり永遠に『ソニック』(笑)。最近だとゲームはSwitch 2の『マリオカート』以外はあまりやっていないかな。アニメだと『チェンソーマン』のデンジが好き。彼は本当に面白いキャラクターだよね。あと、新しい『ガンダム』シリーズもめちゃくちゃ楽しみ。昔の“戦争を描くガンダム”の感じがすごく好きなんだ。『新世紀エヴァンゲリオン』の新しい映画も制作発表されたけどそれについては複雑な心境かな。オリジナルの物語からどれだけ変わるんだろうとは思うけど、これも楽しみにしてる。
『ドラゴンボール』も好きなんですよね?
もちろん。一番好きなキャラクターはベジータ。最近の映画で、最後のクレジットのシーンでベジータがついに悟空に勝つ描写があったんだけど……あれは泣いたよ(笑)。
今後、日本のアーティストやクリエイターとコラボしてみたいですか?
ぜひやってみたい。音楽だと、ジャズ・ピアニストの上原ひろみが本当に大好きで、彼女がライブをやってたら絶対観に行くくらい。彼女の夫のミハラ・ヤスヒロも好きだよ。日本のファッションも好きで、TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.やYohji Yamamotoも大好きなんだ。音楽でもファッションでもたくさんのコラボの可能性があると思ってて、その中で特別なものを作りたいと思う。特にイラストレーションやアニメーションの分野にはすごく興味があるからコラボの機会があったら嬉しい。
最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
素晴らしいアートを作り続けてほしい。そして、常に心を込めてほしい。長年サポートしてくれて本当にありがとう。みんながいてくれるから、自分も成長し続けたいと思えるんだ。いつもインスピレーションをありがとう。
Thundercat
アメリカ・ロサンゼルス出身のベーシスト、シンガー、音楽プロデューサー。音楽一家に生まれ、5歳からベースを始める。バンド Suicidal Tendenciesのメンバーとして活動しながら、多くの著名アーティストのバックバンドも務めた後、2011年にソロデビュー。同年発表したデビューアルバム『The Golden Age of Apocalypse』は、Flying Lotusが全面プロデュースを担当し、エリカ・バドゥら豪華ゲストが参加したことでも大きな話題を呼んだ。その後はソロ活動に専念し、2015年にはケンドリック・ラマーの名作『To Pimp a Butterfly』に参加。同作でグラミー賞を受賞したことをきっかけに、世界的アーティストとしての地位を確立した。ジャズ、ファンク、ヒップホップなどジャンルを横断する唯一無二のサウンドに加え、アニメやゲームなど日本カルチャーへの深い造詣でも知られる。2026年には約6年ぶりとなる最新アルバム『Distracted』をリリースし、さらなる進化を見せている。





















