Skepta が語る MAINS の哲学 ── “生き方”の思想、DIY精神、そして『PNG STORE』との共鳴 | Interviews
ポップアップイベントを記念したSkepta x 『PNG STORE』のスペシャル鼎談
UKグライムを世界的カルチャーへ押し上げた立役者 Skepta(スケプタ)にとって、音楽とファッションは常に地続きのものだった。2000年代初頭、イーストロンドンのパイレートラジオで築き上げられたグライムは、単なる音楽ジャンルではない。限られた機材を持ち寄り、自分たちの手で電波を飛ばし、それぞれのコミュニティへ届けていく──そこには、ロンドンの若者たちによるDIY精神と“生き方”そのものが刻まれていた。そして、そのシーンを最前線で更新し続けてきたSkeptaは、この感覚をそのまま洋服へと落とし込み、2017年に自身のブランド〈MAINS(メインズ)〉をスタートさせる。そこに宿るのは、いわゆる“アーティストブランド”とは異なる、ロンドンのリアルな空気感と“Way Of Life”としての思想だ。
現在、〈MAINS〉を正式に取り扱うのは、ロンドンの百貨店『Selfridges』と、日本のセレクトショップ『PNG STORE』のみ。この『PNG STORE』主催による〈MAINS〉のポップアップイベントが東京・原宿で開催され、Skepta本人も来日を果たした。これを記念して『Hypebeast Japan』では、Skeptaと『PNG STORE』の共同創業者 吉田およびバイヤー 阿部による鼎談を実施。〈MAINS〉の設立理由から、グライムシーンに根付くDIY精神、そしてロンドンローカルから生まれたブランドが、海を越えた先でも支持を集めるワケまで。その背景には、SNS時代の単なる消費とは異なる、グライムカルチャーらしい“コミュニティから派生する伝播力”を思い起こさせるものがあった。
Hypebeast:ようこそ日本へ!久々の来日かと思いますが、いつぶりですか?
Skepta(以下S):おそらく2年前かな?これまで『Konnichiwa』(2016年発表の4thアルバム)をリリースした時にBoiler Room(ボイラールーム)へ出演したり、PUMA(プーマ)の仕事の関係で訪れたり、リサーチのために訪れたり、4〜5回は日本を訪れているな。
ちなみに、今回は何日程度の滞在予定ですか?
S:約5日間で、『PNG STORE』とのイベントやショッピング、日本食を楽しむ予定さ。
それでは、ここからインタビューを始めたいと思います。まずは、グライムMCとして活躍する中で、ファッションブランドのMAINSを立ち上げた理由をお伺いできますか?
S:グライム、ハウス、ミュージックビデオ、アンダーグラウンドなクラブのどれもが、ファッションとつながったひとつのものなんだよ。音楽とファッションは、どうやったって切り離せない。その中で、どうせお金を使ってマーチャンダイズをデザインするくらいなら、いっそのこと自らのブランドを立ち上げた方が良いことに気付いたんだ。同時に、マーチャンダイズの域に収まらないほどラインアップの幅が広がり、自分の好きなMoschino(モスキーノ)やIceberg (アイスバーグ)、VERSACE(ヴェルサーチェ)などのテイストをよりミックスしたいと思ったし、世界中のファンがコレクション感覚で買ってくれるようになったのも大きいな。
思うに、トラヴィス・スコット(Travis Scott)やDrake(ドレイク)、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)など、アメリカで活躍するアーティストはブランドを立ち上げることが多いイメージですが、UKアーティストでは珍しい気がします。
S:確かに、ブランドを持っているUKアーティストは少ないな。パッと思い付くのは、セントラル・シー(Central Cee)くらいだ。
やはり、グライムシーンの根底にあるDIY精神がブランド設立の原点でしょうか?
S:まさに。若い頃は、誰かの家に機材を持ち寄って作業し、屋根に登ってアンテナを立て、キッチンをラジオステーション代わりにし、自分たちの手で音楽を届けていた(ラジオの海賊放送)。要するに、俺たちの音楽はDIY精神から広がっていったわけだ。だから今でも自分たちで完結できる少数精鋭が好きで、MAINSのチームは6人ほどしかいない。君が思っていたより、ずっと少ないだろ? チームは小さければ小さいほど、情熱を持って動けるし、互いに誰が何をやっているかを把握できる。とにかく、DIYが性に合っているんだ。
となると、チーフデザイナーのマイキー・ピアース(Mikey Pearce)には絶大なる信頼を置いていると。
S:もちろん!MAINSは一時の中断を経て3年前に再スタートを切ったんだが、それからマイキーとはずっと一緒さ。あいつは、学校でファッションの勉強していたから技術的な目線での服作りができて、俺とのバランスを取ってくれる。俺は、その辺りのことは一切ダメだからな(笑)。
その一方で少数精鋭の小さなチームでは、困難に直面することもあるのではないでしょうか?
S:もちろん、ビジネスとしてチームを拡大することが必要になる場合もあるだろうが、これ以上メンバーが増えすぎると、俺のメッセージが完璧に伝わらずに途切れることが増えるはずだ。それよりも、俺が一人一人と対話できる体制と、それぞれが会話しやすい環境を整えたい。ライブも20,000人以上を集めることは可能だが、7,000〜10,000人ほどに抑えた方が濃い内容になるんだ。
また、グライムでは“リアルであること”が重要視されますが、これはファッションにおいても同列に語られるのでしょうか?
S:“リアルか、フェイクか”よりも、“アップデートされているか、止まっているか”という考えの方が近いかもしれないな。
それはアイテムが“新品か、ヴィンテージか”のニュアンスですか?
S:いや、運営や販売方法といったところかな。ストリートブランドは、ドロップ形式での発売をはじめ、従来のファッションシーンにおけるルールをいくつも打ち破ってきた。だから、たとえBurberry(バーバリー)のようなハイブランドのデザインだったとしても、古臭い固定概念にとらわれず、ストリートブランドらしい動き方をしたい。顧客に商品を届ける方法すらも、常に新鮮さを求めないといけないんだよ。
それこそ新しい視点ですね、ありがとうございます。それでは、『PNG STORE』の阿部さんにお聞きしたいのですが、MAINSを取り扱うことになったきっかけとは?
阿部優樹(以下A):そもそも僕が10年以上前からSkeptaのファンで、MAINSが立ち上がった当時は他のお店で働いていたのですが、その頃から「いつか取り扱いたい」と思っていたんです。その後、『PNG STORE』に入社したタイミングで最初に何を買い付けるか考えた時、真っ先にMAINSが頭に浮かびコンタクトを取ったところ、“Season 2”(2024年9月発表)より販売させていただくことになったんです。また、キャッチーなデザインと今のトレンドとの相性の良さに惹かれましたし、“Clothes don’t make the man, the man makes the clothes(服が人を作るのではなく、人が服を作る)”という思想にも共感して、それが洋服にも落とし込まれていた点にも魅力を感じました。プロダクトとバックグラウンド、その両方に惹かれたことが大きいですね。
S:『PNG STORE』の『Instagram』を見て、洋服をクールに着こなしているし、(同様にMAINSも)着こなしてくれるとも感じたんだ。
MAINSは現在、『PNG STORE』とロンドンの『Selfridges』のみの取り扱いとなっていますが、この理由は?
S:個人的な話をすると、初めてMoschinoを知った時、クラブやMVでは見かけるのに売り場も買い方も分からず、それが「いつか手に入れたい」という気持ちに拍車をかけた。同じように、MAINSを初めて見た人が「どうやったら買えるんだろう」と、夢を見るような感情になってほしい。だから、どこでも購入できるようなことを避け、卸先をギリギリまで絞っているんだよ。
A:取り扱いできて光栄です……!
S:世界2店舗のうちの1店舗だからな!(笑)。まぁ、卸売自体はファッションシーンの時代遅れな部分ではあるよ。例えば、月に1回だけしかオープンしなかったり、博物館やギャラリーのような大きいドアのある建物で売ってみたり、他とは違う新しい方法は常に模索しているんだ。
今はSNSを通じて断片的に情報が流通する時代だからこそ、ブランドの背景やカルチャーを理解せずに洋服を購入する機会が増えていますが、『PNG STORE』としてはどう捉えていますか?
吉田祐旗(以下Y):それが今のリアルではありますよね。もちろん、背景やカルチャーを理解したうえで洋服を選んでいただけるのは嬉しいですが、必ずしもそこが門戸である必要はないと思っています。極端な言い方をすると、洋服は“カッコいいか、ダサいか”の2択だと考えているので、まずは素直にデザインや空気感に惹かれて手に取っていただき、それに対して『PNG STORE』が丁寧に説明できるのがベスト。その後、お客様自身がSNSやインターネットを通じて理解を深める流れが自然だと感じています。一方で、我々としてもお客様と素直に話すことで、全体の学びにもなるんですよね。
A:スタッフには、Skeptaとマイキーの関係性から、ショーで使用していた音楽、現地での盛り上がり方まで徹底して教え込み、存じ上げないお客様に対して説明できるようにしています。まだ規模の大きいショップではないからこそ、一人一人のお客様と密にコミュニケーションが取れることは強みですね。会話や体験を通して少しずつ興味を持っていただく、その入口になれたらと考えています。
S:そんなことまでしてくれているのかい?『PNG STORE』のためにTVを買って、ショーを流せるようにしなくちゃな(笑)。
私個人としては、Skeptaが手掛けていると知らずにMAINSが購入されることは、とてもポジティブな動きだと思います。
S:購入者は3層に分かれている──何も知らずに購入する層、MAINSを認知している層、Skeptaが手掛けていることまで理解している層だ。俺としては、MAINSを単なるアーティストブランドにカテゴライズしてほしくないし、“Skeptaのブランド”というイメージも強くは打ち出したくないから、何も知らずに購入する層は嬉しいね。実は、さっき少数精鋭を力説したが、2人の新しいデザイナーを招いたから今後ブランドが大きくなることは間違いない。その成長スピードに負けないように、俺はブランドの物語を紡ぐことに注力したいんだ。
A:Skeptaは知っているけどMAINSを知らない場合も、その逆もありますが、特に静岡店では何も知らずに購入する層の方々が大半の印象です。デザインからSkeptaまで辿り着いてくださる方がいらっしゃると、色眼鏡なく広まっていく感覚を覚えますし、もともとファンだった自分としては嬉しいです(笑)。最近だと、Fred again..(フレッド・アゲイン)との共作曲“Victory Lap”を聴いていただくと、「あ、これ!」となる方は多いですね。
S:あの頃は半年ほど楽曲を発表できていなかったし、彼とのコラボで大きな影響を与えられたなら良かったよ!今年はアルバムをリリースする予定だから、その時にジャパンツアーで戻って来たいね。
そもそも今回のSkepta来日はポップアップイベントのためですが、どのように実現したのでしょうか?
A:MAINSのチームと話すため2025年6月に『PNG STORE』(のメンバー)でパリに行ったのですが、当時は東京のストアがオープンしていなかったとはいえ、もっと多くのお客様にMAINSを知っていただきたかったので、「日本でポップアップイベントを開催したい」と伝えました。なかなか日程が決まらず座礁に乗り上げかけもしたのですが、約1年かけて無事に開催できましたし、当初は予定していなかったSkeptaの来日も実現できて、いまだに夢のようです(笑)。
S:こちらこそ来日の機会をありがとな!
ポップアップイベントを記念して限定アイテムも発表されていましたが、制作にまつわるエピソードがあれば教えていただけますか?
Y:「日本らしいアイディアを出してほしい」からスタートし、『PNG STORE』のチーム全体で大喜利のように案を練っていた中で、航空会社のロゴモチーフが生まれてデザインの方向性が固まりました。“生き方”のタイポグラフィは、MAINSのチームスローガンである“A Way Of Life”が由来ですね。日本人は、“人生”という言葉は日常的に使いますが、“生き方”にはあまり馴染みがないと思います。だからこそ、デザインに昇華するのがおもしろいと考えたし、漢字のデザインはSkepta本人の強い希望だったんです。
他にも、街並みや神社を希望されていたものの、日本人としては着づらい面があると伝えました。そこで、日本のピラミッド的存在である古墳を提案し、シルエットが鍵穴を連想させるところにヒントを得て、そこからMAINSと『PNG STORE』が関わり合う意味を込めたグラフィックが出来上がったんです。
S:鍵穴のグラフィックは、マイキーの弟がデザインしてくれたこともあって気に入っているよ。
最後に、多くのデザイナーやアーティストから、来日時に何かしらのインスピレーションを得て帰国すると耳にします。今回の滞在が、今後のMAINSのデザインに影響するようなことはありましたか?
S:次のシーズンに向けて動き始めているし、すぐにはインスピレーションになるかは分からないが、何かしらの形にはなるはずだ。とりあえず今日は、仮にデザインに影響がないとしても買い物を楽しむよ(笑)。
Skepta
1982年9月19日生まれ、イギリス・ノースロンドンのトッテナム出身。2000年代初頭、海賊ラジオや団地文化を背景に誕生したグライムシーンの中心人物として頭角を現し、実弟JMEらと共にクルー/レーベル「Boy Better Know(ボーイ ベター ノウ)」を結成。2014年発表の楽曲“Shutdown”と2015年発表の楽曲“That’s Not Me”、そして2016年発表のアルバム『Konnichiwa』で世界的な評価を獲得。同作では英国最高峰の音楽賞「Mercury Prize」を受賞し、ローカルな音楽だったグライムをグローバルカルチャーへ押し上げた。また、音楽だけでなくファッションシーンにおいても、ロンドン発ユースカルチャーの象徴的存在として強い存在感を放っている。
MAINS
イギリス系ナイジェリア人ラッパー/プロデューサー/フィルムメーカーであるSkeptaが手がけるファッションプロジェクト。2017年にローンチ後、一時休止を経て、2023年9月のロンドン・ファッション・ウィークにて本格的なカムバックを果たした。彼の出身地ロンドンから着想を得た全40ルックのコレクションは、洗練されたデザインと日常に根ざした実用性を融合し、グローバルなオーディエンスに響くエッセンシャルピースを提示している。
PNG STORE
静岡初のセレクトショップで、2026年3月には東京・原宿に新店舗をオープン。PNGは“People Nexus Gather”の略で、「人が集い、つながり、新しい流れが生まれる場所」という想いのもと、多様なカルチャーが交差する空間の中で、人と服、人と文化がつながる場所となっている。





















