EW.Pharmacy #106 ── edenworks と rocky’s matcha が差し出す、感性の処方箋 | Interviews
篠崎恵美とロッキー・シュウの出会いから生まれた、“花と抹茶の調剤薬局”とは
2026年3月13日(金)、東京・原宿のランドマーク『原宿クエスト』1階館内パサージュ(敷地内通路)に、静謐な空気を纏ったドライフラワーショップ『EW.Pharmacy #106(イーダブリューファーマシー #106)』が誕生した。グレーやシルバーを基調としたミニマルな店内は、さながら現代社会を生きる人々の感性を癒やすための“調剤薬局”だ。
このショップを手掛けたのは、花や植物を扱うクリエイティブスタジオ「edenworks(エデンワークス)」を主宰する篠崎恵美。彼女が空間を共有するパートナーとして選んだのは、ロサンゼルスを拠点に抹茶の新たなスタンダードを築くティーカンパニー『rocky’s matcha(ロッキーズ マッチャ)』のロッキー・シュウ(Rocky Xu)。“花を棄てずに繋げる”という篠崎の哲学と、日本の茶文化を現代のライフスタイルへと接続するロッキーの感性が、ここ原宿の地でひとつに溶け合う。自分だけのドライフラワーをセレクトし、オリジナルで制作されたオードトワレの香りに包まれ、丁寧に点てられた抹茶を嗜む。変化の激しい街の只中で、あえて「五感を研ぎ澄ます」という贅沢を差し出すその裏側には、二人が大切にするコミュニティへの想いと、未来への願いが込められている。
オープン当日、深い共鳴を見せる二人のクリエイターに、この場所から始まる新たな物語について話を訊いた。
東京は私にとって第二のホームのような場所。今回のプロジェクトは“フルサークル”な出来事だと感じています ── Rocky Xu
Hypebeast:お二人の最初の出会いから、一緒にお店を始めることになった経緯を教えてください。コラボレーションの話はどちらから持ちかけたのでしょうか?
篠崎恵美(以下、M):ロッキーとは共通の友人であるトモ・カワグチさんを介して知り合いました。抹茶は日本で生まれたものですが、その文化を丁寧に汲み取り、海を越えて繋げることはとても素晴らしいと感じています。私の花のクリエイションも、日本の古典的な手法ではなく、国境やジャンルのボーダーを超えてさまざまなことにインスピレーションを受け、自分なりのスタイルを形成してきました。ロッキーのスタイルや生み出すカルチャーが「原宿」という土地で生きると考えて、私からコラボレーションをお誘いしました。抹茶やほうじ茶は、葉っぱを丸ごと粉末にした植物由来のドリンク。花との親和性があり、ベストパートナーだと感じています。
ロッキー・シュウ(以下、R):先ほど恵美さんが言った通り、数年前に東京かパリでトモさんを通じて出会いました。以前から『Nonaka-Hill Gallery(ノナカ・ヒル ギャラリー)』を通して恵美さんの作品は知っていて、その活動にずっと惹かれていました。今回、彼女の新しいスペースでのコラボレーションのお話をいただいたとき、答えはとてもシンプルでした。「ぜひやりたい」と。また、ロサンゼルスにある私たちの新しいティーハウス『Circle House(サークル ハウス)』においても、恵美さんの作品を取り入れる形でご一緒しており、今回のプロジェクトはまさに“フルサークル(Full Circle)”な出来事だと感じています。
『rocky’s matcha』は、これまでイベントへの出店やオンライン販売のみに限定して展開してきましたが、今回はじめて実店舗をもつことになります。実店舗のオープンを決断した理由を教えてください。また、初のショップの場所に日本(原宿)を選んだのは何故でしょうか?
R:2022年に『rocky’s matcha』をスタートして以来、私たちは常に直感を大切にしてきました。そして4年目を迎える今、このタイミングでの実店舗は自然なステップだと感じています。また、恵美さんとトモさんのおかげで、とてもスムーズに物事が進み、私たちのビジョンを一緒に形にすることができました。
日本には年に数回、茶葉の生産者に会うために訪れていて、いつも東京を拠点にしています。東京は私にとって第二のホームのような場所です。親しい友人である『en one tokyo(エンワントウキョウ)』のマサ(西本将悠希)さんから、何年も前に原宿クエストのプロジェクトの話を聞き、『THE HALL(ザ・ホール)』や『THE TUNNEL(ザ・トンネル)』、そして『rocky’s matcha』も含めた仲間たちのスペースが一つの場所に集まるというビジョンにとても魅力を感じました。彼が描いていた原宿のクリエイティブなビジョンを私たちが引き継いでいきたいと思っています。
『EW.Pharmacy #106』を通して、花の新しい価値観を表現していきたい ── 篠崎恵美
『EW.Pharmacy #106』という店名に込めた意味やコンセプトを教えてください。
M:富ヶ谷の『EW.Pharmacy』は路面店でしたが、今回は施設の中に位置するため、区画ナンバーの「106号室」という意味で「#106」を加えました。
『EW.Pharmacy #106』のコンセプトは、富ヶ谷店舗の時と同じく調剤薬局の“調合”。店内カウンターの引き出しには季節ごとに変わる12種類のドライフラワーが並び、その中からお客様がセレクトした花をさまざまなメソッドでアレンジメントします。薬局でカウンセリングを受け、それぞれに寄り添って調合されたお薬を受け取るように、世界で一つだけのオーダーメイドアレンジメントを作ることができます。
『EW.Pharmacy #106』と従来の『EW.Pharmacy』との違いを教えてください。また、お店を富ヶ谷から原宿に移したのは何故でしょうか?
M:富ヶ谷店舗のオープン当初より、「Mobility(移動する)」の構想がありました。『EW.Pharmacy』は「edenworks」の“花を棄てずに繋げる”という理念を体現するドライフラワーショップなので、花をたくさん売るだけではなく、花の素晴らしさや大切にする思いを伝えるお店にしたいと考えました。途中コロナ禍があったため、富ヶ谷店舗は8年間営業しました。そしてこの施設(原宿クエスト)よりお声かけをいただき、移転を決断したんです。原宿は、次世代の方やそのまた次の世代の方々が訪れる街だと思います。未来にも花が身近な存在であることを願って、この場所に決めました。
従来の『EW.Pharmacy』との違いは、若い方々にも手に届くような価格帯のものを増やしたり、花をただ飾るだけのものにせず持ち運べるアイデアのアイテムを開発したり、植物の精油を調合しオリジナルで制作したオードトワレをローンチしたりと、新作アイテムを揃えている点です。また、オードトワレとドライフラワーを合わせてポプリを作れるため、お家で香りを楽しめます。もちろん、『rocky’s matcha』のドリンクも味わえますし、そのような全ての体験を通して、花の新しい価値観を表現していけたらと思っています。
お店の空間づくりでこだわったポイントを教えてください。
M:花の鮮やかさを引き立てるように、店内や什器をライトグレーやシルバーを基調にしています。細く長い物件を活かし、原宿の裏道ストリートのようなイメージの店内に設計しました。
実際に完成した店舗をご覧になった感想はいかがですか。
M:当初はこの細長い空間で私たちの世界観が表現できるか少し不安でしたが、原宿の裏通りと一体化しているようなお店になっていて、結果的に良かったと思っています。
R:このお店は、恵美さんのビジョンがいかに多くのことを実現しているかを示す証だと思います。とても小さな空間ですが、彼女はその中に驚くべき世界観を築き上げました。そして、その創り上げられた作品の一部になれることを、私たちは本当に嬉しく思っています。
今回ローンチしたオリジナル・オードトワレ(全6種類)について、それぞれの香りのストーリーを教えてください。
M:人の五感は、人の数ほどにさまざまだと思います。香りもそうです。多種多様な嗜好に応じるように、イメージの異なる6種類を作りました。植物の精油のみを使用して調香し調合したオリジナルレシピを、専門の資格を持った業者さんに量産していただきましたので、肌につけることができるオードトワレが誕生しました。
【No.01】 ── トップノートのシトロネラの爽やかさと、ミドルノートのフランキンセンスが思考を研ぎ澄まし、フレッシュな気持ちにさせてくれます。ほんのりと続くサンダルウッドの香りが落ち着きと安定感を与え、心がリラックスするバランスの良い調合です。
【No.02】 ── ほのかなフローラル感のベルガモットと、ブラックペッパーの軽やかなスパイシーさが気持ちをシャープに切り替え、シンプルな思考へと整えます。軽やかな集中の後に、鎮静効果のあるウッドノートとベンゾインが心を穏やかに整え、気分をリフレッシュさせてくれます。
【No.03】 ── 墨のような印象を持つパチュリが香り全体を大きく包み込み、深い集中と癒しを与えてくれます。ベルガモットとブラックペッパーが感覚を立ち上げ、心の揺らぎを鎮めます。ミドルノートのフランキンセンスが深い没入と集中へ誘う、凛とした香りです。
【No.04】 ── トップとミドルノートには甘く繊細なリンデンが香ります。ヒソップとローズウッドが心のバランスを整え、ベースノートのオークモスの香りが心身の緊張を和らげてくれます。疲れた時やなかなか寝つけない夜に、深い癒しと幸福感をもたらす華やかな香りです。
【No.05】 ── トップノートのベルガモットとカルダモンから、ネロリの華やかなミドルノートへと感覚を広げ、クローブやウッド系、パチュリの深いベースノートとジャスミンの残香が心の緊張を解きます。集中したい時、気分転換したい時、リラックスしたい時、どんな時にも寄り添う香りです。
【No.06】 ── ローズマリーとフェンネルのボタニカルなトップノートに、クローブとシダーウッドのスパイシーなアクセントが引き立ちます。ベースノートであるアンバーのオリエンタルな重厚感が心身を温かく包み込み、気持ち全体を明るくしてくれます。
今の世代はアルコールやコーヒーの代わりとなる選択肢を求めています。抹茶は健康的で、クリーンなエネルギーを与えてくれるのです ── Rocky Xu
『rocky’s matcha』のスペースで提供するドリンクの種類を教えてください。
R:ブランド初の実店舗ということもあり、メニューはシンプルに絞っています。現在は、“rocky’s matcha(抹茶+水)”、“抹茶ラテ(オーツミルクまたは牛乳)”、そして“ほうじ茶ラテ(オーツミルクまたは牛乳)”をご用意しています。今後はスペシャルメニューの展開も検討しています。
ちなみに、ロッキーさんのおすすめはどのフレーバーですか?
R:個人的には、“rocky’s matcha(抹茶+水)”がおすすめですね。
テイクアウト用のドリンクの他に、このお店で取り扱っている『rocky’s matcha』の商品を教えてください。
R:オリジナルの茶筅(ちゃせん)、セレモニアルブレンドの抹茶とほうじ茶の粉末(缶入り)、ステッカーを揃えました。あとは、伝統ある陶芸ブランドの朝日焼とのコラボ茶碗を世界先行でローンチしました。抹茶の種類は今後もっと増やしていきたいですね。
『rocky’s matcha』といえば、パッケージなどに使用されている鮮やかなブルーが印象的です。ブランドカラーにブルーを選んだ理由は?
R:多くの抹茶ブランドがグリーンを使っている中で、あえて違いを出したかったんです。ビジネスパートナーでありクリエイティブディレクターでもあるマックスがこのブルーを選び、それ以来ずっと大切にしています。
実は『rocky’s matcha』のデザインの多くは、日本で見た色からインスピレーションを受けてるんです。私もマックスも旅先ではよく街を歩き回り、気になったものを写真に撮っていて。看板や車の配色など、そういったところからアイデアを得たりしています。常にインスピレーションを探しているんです。
ロッキーさんはパンデミックの頃にシャーマンを訪ね、チャクラ・クレンズを勧められたことをきっかけに抹茶を飲むようになったそうですね。ロッキーさんが考える抹茶の最大の魅力とは何でしょう? また、近年は世界的な抹茶ブームですが、この現象をどのように捉えていますか? 人々はどうしてこんなにも抹茶を求めるのでしょう。
R:2020年にコーヒーをやめてお茶に切り替え、その頃から毎朝抹茶を点てる習慣を楽しむようになりました。当時アメリカでは抹茶や日本茶を専門的に扱う場所はまだ少なく、自分なりに抹茶を探し、味覚を磨いていきました。
今の世代は健康意識が高まっていて、アルコールやコーヒー、ジャンクフードの代わりとなる選択肢を求めています。抹茶は健康的で、コーヒーよりもクリーンなエネルギーを与えてくれるとも言われていますし、鮮やかな緑色やミルクと混ざった見た目も魅力の一つだと思います。
日本の生産者の方々が言うように、現在はまさに“抹茶ブーム”の真っ只中にあります。このタイミングでこの業界に関われていることはとても恵まれていると感じる一方で、ここ12〜18カ月の急成長が本当に持続可能なのかという点には懸念もあります。茶農家、製造者、バリスタなど、この業界に関わるすべての人々へのリスペクトを忘れてはいけないと思っています。
『rocky’s matcha』はこれまで多くのコラボレーションを行ってきましたが、その中で特に思い入れのあるプロジェクトを挙げるとすれば?
R:正直に言うと、全てのコラボレーションが私たちにとって特別で、世界中の才能あるクリエイターと仕事ができることをとても光栄に感じています。
『rocky’s matcha』は単なる抹茶ブランドに留まらず、コミュニティのプラットフォームとしての側面も持っています。ロッキーさんが『rocky’s matcha』を始めて以来、大切にしている価値観は何でしょう?
R:私たちは「クリエイティビティ」「コミュニティ」「クラフト」「品質」を大切にしています。お茶には長い歴史があり、特に日本茶には深い文化と伝統があります。その中で働く人々のストーリーを、私たちの視点を通してコミュニティに伝えていきたいと考えています。
お互いのプロジェクト(edenworks、rocky’s matcha)について、それぞれが魅力を感じている点、共感している点を教えてください。
M:ロッキーと私が共通する点としては、自分たちが楽しめることの追求ではなく、いつも「相手」のことを思う姿勢が似ていると感じています。人を喜ばせることを考えていたら、自然と自分たちも幸せになっているような。ロッキーの人柄に、人がどんどん集まってくるところが彼の魅力的なところです。
R:恵美さんが、『Nonaka-Hill Gallery』でのアート作品から「edenworks」のクリエイティブビジネス、各ショップのより身近なプロダクトまで、さまざまな世界観を生み出していることに驚かされています。その仕事に対する姿勢も本当に素晴らしく、彼女とチームとご一緒できることをとても光栄に思っています。
今後それぞれがやってみたいこと、計画しているプロジェクトがあれば、明かせる範囲で教えてください。また、お二人の新たなコラボレーションの可能性はありますか?
M:コラボレーションはこれからも機会があればしたいですが、まずはこのお店をたくさんの人に利用していただき、私たちの思いを感じていただきたいです。
R:もちろん、「edenworks」とはぜひ今後も継続してご一緒したいと考えています。新しいプロジェクトやプロダクトもいくつか進行中で、これからの1年がとても楽しみですね。
最後に、『EW.Pharmacy #106』を訪れるお客様へメッセージをお願いします。
M:『EW.Pharmacy』は、調剤薬局の調合をコンセプトにしたドライフラワーショップです。大切な方へのギフトの相談や、頑張った自分へのご褒美、疲れた時に花と香りで癒されたいなど、さまざまなご相談の際には、ぜひ『EW.Pharmacy #106』をご利用いただきたいです。
R:『rocky’s matcha』としては、皆さんがこの空間を楽しみながら、表参道の喧騒から少し離れてリラックスしていただけたら嬉しいです。ぜひ抹茶ドリンクを味わいながら、恵美さんとチームが手掛けたドライフラワーの香りも感じてみてください。
EW.Pharmacy #106/rocky’s matcha
住所:東京都渋谷区神宮前1-13-14 原宿クエスト 1F
営業時間:11:00-20:00(rocky’s matcha のラストオーダーは19:00まで)
定休日:なし(*施設営業時間に準ずる)
篠崎恵美(しのざき・めぐみ)
花や植物を扱うクリエイティブスタジオ「edenworks」主宰。「花を棄てずに未来に繋げる」を理念に掲げ、独自の感性で花の可能性を引き出し、花のロスを最大限に無くすクリエイションを行う。店内装飾からウィンドウ装花、雑誌、広告、CM、MVなど、花にまつわる創作を広く手がける。不定期で一般オープンするスタジオ『edenworks BEDROOM』、ドライフラワーショップ『EW.Pharmacy』、花と人を繋ぐフラワーショップ『ew.note』などさまざまなショップを展開。また、2017年にイタリア ミラノで紙の花プロジェクト「PAPER EDEN」を発表。ブランドとのコラボレーションやインスタレーションなど、アーティストとしても国内外で活動中。
ロッキー・シュウ(Rocky Xu)
セレモニアルグレードの抹茶を専門とする独立系ティーカンパニー『rocky’s matcha』創設者。同カンパニーは2022年に「最高の1杯をさまざまな人と場所に届ける」というシンプルなミッションのもと始動。ブランドはロサンゼルスやニューヨーク、パリ、ミラノなどのファッション、アート、ミュージックイベントに登場する“旅するティーハウス”として注目を集め、その後、抹茶やほうじ茶、茶器を消費者へ直接届けるとともに、全米の厳選されたコーヒーショップやグロサリーへも展開する、キュレーション性の高いティーカンパニーへと進化。日本茶のものづくりと伝統に対する深い敬意を礎に、品質、クラフトマン シップ、そして長期的な関係性を大切にする姿勢を一貫しつつもアップデートを試みる思想は、ロサンゼルスのアートギャラリー『Morán Morán』内に展開中の『Circle House』(コンテンポラリーアーティスト Oscar Tuazonによる常設の体験型インスタレーション)にも体現されている。




















