PHILEO 創設者 フィレオ・ランドウスキが提案するアウトドアとファッションの境界線 ── PHILEO x KEEN の協業を追う | Interviews

異なる文脈をつなぐ、シューズという共通言語

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アウトドアとファッション、その境界はすでに曖昧になりつつある。しかし、その融合が“機能の拡張”にとどまるのか、それとも“構造そのものの再解釈”へと踏み込むのかによって、プロダクトの意味は大きく変わる。

アメリカ・ポートランド発のアウトドア・フットウェアブランド〈KEEN(キーン)〉が掲げてきたのは、実用性と環境配慮を両立させる現実的なイノベーション。一方、パリを拠点とする〈PHILEO(フィレオ)〉は、構造やフォルムを通して靴の存在意義そのものを問い直す、よりコンセプチュアルなアプローチで注目を集めてきた。異なる文脈から進化してきた両者の交差は、単なるコラボレーションという枠を超え、新たなプロダクトデザインの地平を示唆している。

今回ローンチされるTargher PHILEOは、〈KEEN〉の象徴的モデルを再構築しながら、構造を露出させる“インサイドアウト”の手法によって、機能と美学の関係性を可視化した1足だ。それは装飾ではなく、フットウェアに内在するロジックそのものを表現として引き上げる試みでもある。

なぜ今、この両者は手を組んだのか。そして、アウトドアと前衛的デザインが交差する地点において、フットウェアはどのような進化を遂げようとしているのか。本稿では、〈PHILEO〉の創設者 フィレオ・ランドウスキ(Philéo Landowski)にメールインタビューを実施し、その思想とプロセスに迫る。


従来のアウトドア的なイメージにはあまり関心がありませんでした

Hypebeast:まず最初に、今回のコラボレーションの経緯について教えてください。アウトドアブランドのKEENとPHILEOがコラボレーションすることになった背景には、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

Philéo Landowski:最初にコンタクトを取ったのは私の方ですが、その流れはとても自然なものでした。KEENは極めて実用的な領域に根ざしながら、フットウェアに対して独自の姿勢を持っているブランドです。そうしたスタンスは、現代においてむしろ稀有なものだと感じています。今回のコラボレーションについても、最初からしっくりくる感覚がありました。私たちは同じ“靴”という共通言語を扱いながらも、その表現にはそれぞれ異なるニュアンスがあります。だからこそ、時には互いの意図をすり合わせる“翻訳”のようなプロセスも必要でしたが、その緊張感こそが対話に深みを与えてくれました。最初に強く惹かれたのはJasperでしたが、リサーチを重ねる中で、KEENのデザインが持つ多層性や予測不可能な広がりに気づかされました。一見しただけでは捉えきれない、アイデアの密度の高さがこのブランドの本質だと感じています。

KEENにはどのような印象や魅⼒を感じていましたか?

KEENは本質的には“シューズメーカー”でありながら、スニーカーを中心とした現代の文脈の中で独自の立ち位置を築いている点に強く惹かれていました。その立ち位置が、パフォーマンスでもライフスタイルでもない、独特なハイブリッドなDNAを生み出していて、そこに大きな可能性を感じています。彼らの構造や基準、設計におけるロジックは、表層的なスタイリングへと安易に流れることを許さず、常にプロダクトの本質へと立ち返らせる力を持っています。同時に、生産背景に対する高い透明性とコントロールも印象的でした。それらがプロダクトに確かな重みを与え、単なるビジュアルにとどまらない、地に足のついたデザインとして成立させているのだと思います。

今回のモデル Targher PHILEOは、KEENのTargheeとJasperという2つのアイコンをベースにしているとのことですが、この組み合わせのアイデアはどのように⽣まれましたか?

ブランドへの理解を深めていく中で、特にユーティリティラインに強く惹かれるようになりました。中でもセキュリティシューズは、数多くの技術的制約を内包しながら、それでもなお一貫性と魅力を両立させなければならない、非常に極端なプロダクトです。その文脈をルーツに持つTargheeには、強く惹かれました。一方で、Jasperはほぼ対極にある存在です。非常にコントロールされた設計と効率性を備え、表現としては極めてミニマルに近い。今回のアイデアは、この2つを単純に“混ぜる”ことではなく、あくまでシューズメーカーとしての視点から両者を橋渡しすることにありました。つまり、技術的な背景を持ちながらも、その構造自体が視覚的に伝わるような、どこかクラフト的なニュアンスを備えたプロダクトを目指したのです。また、通常は隠されている要素、例えばヒールカウンターの補強といった部分をあえて可視化するなど、“見える技術”を取り入れることにも関心がありました。これは靴の内部にあるロジックを部分的に可視化し、プロダクトとしての理解をより立体的にするための試みでもあります。

PHILEOの特徴でもある、有機的で未来的なフォルムは今回のシューズにも反映されています。今回特にこだわったデザインディテールがあれば教えてください。

バランスの問題でした。形式的な靴を装った“フェイクなドレスシューズ”にもしたくなかったですし、スニーカーを偽装したようなものにもしたくなかった。そのどちらからも一定の距離を保ちながら、中間に存在するプロダクトである必要がありました。全体のラインは比較的ミニマルですが、その分、すべてのディテールが重要になります。ジグザグのステッチやエンボス、プロポーションに至るまで、装飾的な要素は一切なく、すべてが全体のバランスに寄与しています。これは削ぎ落としていくプロセスではありますが、その中でも構造はしっかりと存在し続けています。

KEENは機能性の⾼いアウトドアシューズとして知られていますが、今回のモデルではどのような機能⾯が特徴になっていますか?

技術的なディテールについては、KEEN自身が最も適切に語るべき領域だと思っています。あくまで彼らの専門性に基づく部分ですから。その前提のうえで、私が意識していたのは、既存の機能的な価値を損なわないこと、そしてそれがどのように知覚されるかをわずかにシフトさせることでした。機能を過剰に“演出”するのではなく、あくまで自然に内在させる。そうしたバランスを重視しています。そのうえでTarghee PHILEOには、つま先にゆとりを持たせたKEEN独自のフィット設計をはじめ、4mmの多方向ラグを備えた高トラクションのアウトソール、さらに天然プロバイオティクスを用いた防臭加工 Eco Anti-Odorなど、ブランドが培ってきた機能的要素がしっかりと組み込まれています。そうした性能は前面に押し出されるというよりも、あくまでプロダクトの中に静かに組み込まれている、という感覚に近いかもしれません。

今回のシューズはアウトドアとファッションの両⽅の⽂脈を感じさせます。どのようなシーンやスタイルで履いてほしいと考えていますか?

私にとって、このコラボレーションシューズはあくまで“道具”として捉えています。想定しているのは、ものづくりに携わる人々、アーティストや職人、あるいは身体的・知的な構築のプロセスに関わる人たちです。これまでスタジオや工房、インスタレーションの現場に関わる中で、非常に洗練されたアウトプットを生み出す人々が、足元に関しては驚くほど無頓着であるというギャップに、強い印象を受けてきました。だからこそ今回のプロダクトでは、その断絶にアプローチしたいと考えています。すでに他の領域で高い意識と精度をもって創造している人たちに対して、同じレベルの意図や思考を足元にももたらすこと。それがこのシューズの役割だと捉えています。

PHILEOのシグネチャーである⾚いフラッグなど、ブランドらしさも随所に⾒られます。コラボレーションの中で“PHILEOらしさ”をどのように表現しましたか?

“PHILEOらしさ”は、見た目の記号的な要素というよりも、そのアプローチの中に宿っていると考えています。重要だったのはボリュームのコントロールです。機能的な要素をあえて露出させながらも、全体としては精度高く、整った状態を保つことを意識しました。装飾のための要素は一切なく、すべてのパーツが機能的かつ視覚的な役割を持っています。レッドフラッグも存在していますが、それが主張の中心ではありません。このシューズを定義しているのは、ひとつのオブジェクトとしてどのように成立しているか、そのまとまり方にあると考えています。

アイテムのルックがとてもインダストリアルで、アウトドアとは違った⽂脈を感じ取れました。ビジュアルにおいてこだわった点はありますか?

従来のアウトドア的なイメージにはあまり関心がありませんでした。このプロジェクトにおいて想定していたのは、自然環境というよりも、むしろ工事現場やバックステージ、あるいは生産のための空間といった“作業の現場”に近いコンテクストです。私自身、現代アートに近い環境で育ってきたこともあり、その視点からビジュアルにアプローチしたいと考えていました。理想化されたシチュエーションではなく、より現実的で具体的な作業の文脈の中にシューズを置くこと。それによって、プロダクトの意味や存在感をより明確に提示できるのではないかと考えています。そうした文脈において、クロード・カトゥラン(Claude Cattelain)との協働は非常に重要な要素でした。彼の実践は、身体的な関与や反復、そしてジェスチャーの狭間にある領域で展開されており、本プロダクトの思想とも自然に共鳴しています。このキャンペーンは、単にシューズを見せることが目的ではなく、それが使われる“システム”の中に位置づけることに重きを置いています。

今回のコラボレーションを通して⾒えてきた可能性もあると思います。今後、KEENとさらに挑戦してみたいアイデアや⽅向性があれば教えてください。

今回の取り組みは、あくまで出発点であり、いわばウォームアップのような位置づけだと捉えています。この関係性が興味深いのは、単なる美的な共鳴ではなく、構造に基づいた対話によって成り立っている点にあると思います。まだまだ探求できる余地は多く、ユーティリティをさらに突き詰めることもできますし、逆により削ぎ落としていく方向も考えられます。面白さは、その両者のあいだ。制約と抽象のあいだに生まれる緊張関係の中にあると感じています。


〈KEEN〉x〈PHILEO〉Targher PHILEOは、3月27日(金)より〈KEEN〉公式オンラインストア、『DOVER STREET MARKET GINZA』公式オンラインストア、ならびに〈PHILEO〉公式オンラインストアを含む取扱各店舗にて順次発売。また、『DOVER STREET MARKET GINZA』では、3月28日(土)よりインスタレーションの開催および販売が行われる。

 

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