リサーチとアーカイブを起点に構築されるエド・デイヴィスの表現 | Interivews

〈Brain Dead〉のメイングラフィックを務めていた彼が新たに〈Ecstatic Research〉というプロジェクトを始動

ファッション
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ファッションにおけるグラフィックは、単なる装飾として存在してきたわけではない。それは常に、時代の空気を封じ込め、カルチャーの断層を可視化し、そして作り手の視点を刻み込むための“記録装置”として機能してきた。1970年代のロンドンにおいて、ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)とマルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)が生み出したパンクのヴィジュアルは、既存のファッションの価値体系を破壊し、衣服を思想のメディアへと変貌させた。その衝動は1980年代に入り、より洗練された視覚言語として定着していく。ピーター・サヴィル(Peter Saville)が手がけた伝説的ポストパンク・バンド Joy Division(ジョイ・ディヴィジョン)の作品群は、グラフィックが単なる付随物ではなく、文化そのもののアイデンティティを形成し得ることを証明した。そして2010年代には、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)がファッションとグラフィックの関係性を再定義し、その境界を拡張したことで、視覚表現は再び大きな転換点を迎えることになる。

Brain Dead(ブレイン デッド)〉の共同創設者でありメイングラフィックを務めていたエド・デイヴィス(Ed Davis)。彼も近年のグラフィックカルチャーを牽引してきた世界的なアーティストの1人であることは間違いない。彼の実践は、アカデミックなファッションの系譜とは一線を画し、スケートボードやパンク、そしてインディペンデントな出版文化といったアンダーグラウンドの文脈の中で育まれてきた。そうした環境の中で培われたのは、既存のイメージを収集し、解体し、再構築するという独自のアプローチであり、それは単なる装飾を超えて、視覚文化そのものを再編集する行為でもある。その実践的なアプローチは、アパレルにおけるグラフィックデザインやコラージュに留まらず、『DRAIN PUBLISHING』名義で展開される出版物、息子のマイロ・デイヴィス(Milo Davis)とアーティストのアーロン・ウッド(Aaron Wood)らと共に手がける〈AGARIC FLY SMALL SUPPLIES(アガリック・フライ・スモール・サプライズ)〉に至るまで、多様なメディウムを横断しながら拡張されてきた。

そして現在、彼は新たなプロジェクト〈Ecstatic Research(エクスタティック リサーチ)〉を始動した。“リサーチ”と“アーカイブ”をブランドの中核に据え、グラフィックと衣服の関係性を改めて再考するこの試みは、単なる新ブランドの立ち上げに留まらない。過去のグラフィック文化を掘り下げ、その断片を再解釈し、現代という文脈の中で新たな意味を与える。そこには、これまで一貫してイメージと向き合ってきた彼ならではの思考とプロセスが反映されている。

本稿では、エド・デイヴィスという肩書きに収まらないクリエイターの現在地を、〈Ecstatic Research〉というプロジェクトを起点に紐解いていく。グラフィックというフィルターを通して世界を観察し続けてきた彼が、何を見つめ、何を再構築しようとしているのか。その実験的な実践の背景にある思考を辿る。


あらかじめ方向性を固定するのではなく、リサーチや観察を重ねながら、流動的に進化していくブランドでありたい
リサーチとアーカイブを起点に構築されるエド・デイヴィスの表現 | Interivews ed davis ecstatic research interviews

Hypebeast:Ecstatic Researchを立ち上げた理由について教えて下さい。

Ed Davis:Brain Deadを離れてしばらく経ち、改めて服作りに向き合いたいと思うようになったのが大きな理由です。それと同時に、友人やさまざまなクリエイターたちと一緒にものを作るプロセスが、自分にとっていかに重要だったかを再認識しました。Ecstatic Researchは、そうした人との繋がりの中で、新しいものづくりを再び始めるためのプロジェクトだと考えております。

Ecstatic Researchでは、どういったコンセプトをもとに服作りを行なっているのでしょうか?

Ecstatic Researchはメンズウェアをベースにしていますが、そのルーツにはストリートカルチャーがあります。ただし、ストリートウェアという枠に限定するつもりはありません。その時々のインスピレーションや自分を取り巻く環境、影響によって、ブランドの表現や服のあり方も自然と変化していくものだと思っています。あらかじめ方向性を固定するのではなく、リサーチや観察を重ねながら、流動的に進化していくブランドでありたいと考えています。

リサーチとアーカイブを起点に構築されるエド・デイヴィスの表現 | Interivews ed davis ecstatic research interviews

このブランドを通して、どのような新しいアイデアや表現を探求していきたいと考えていますか?

Ecstatic Researchでは、シーズンごとに、自分がその時にリサーチしていることや関心を持っていることをベースに、新しいアイデアや表現を形にしていきたいと考えています。僕自身、歴史やさまざまな文化的背景、アートやデザインについて常に学び続けているので、その中で得た気づきや発見が自然とクリエイションに反映されていくはずです。ひとつの明確な方向性に限定するというよりは、木の枝が広がっていくように、複数のアイデアが有機的に派生していくようなイメージですね。Ecstatic Researchは、そうした継続的な探求の中で、少しずつ広がりながら進化していくプロジェクトになると思います。

ブランドの軸に“リサーチ”や“アーカイブ”を据えたのはなぜですか?

僕自身、昔からコレクター気質で、常に何かを調べたり、学び続けたりしてきました。リサーチは特別な行為というより、自分の中ではごく自然なプロセスなんです。そして服作りも、その延長線上にあるひとつの実験であり、リサーチの一形態だと捉えています。衣服の外側にある歴史や文化、アート、さまざまな領域から得たアイデアを服という形に落とし込むことで、新しい表現が生まれると考えています。

また、アーカイブという考え方は、過去を参照するための重要な手がかりでもあります。これまでに存在してきた視覚や文化の蓄積を見つめ直し、それを現在の文脈の中で再解釈することが、Ecstatic Researchの重要な軸になっています。

日常の中で見たり、学んだりするすべてのことが、自然と自分のクリエイションへと繋がっていく
リサーチとアーカイブを起点に構築されるエド・デイヴィスの表現 | Interivews ed davis ecstatic research interviews

Brain Deadについてもお聞きしたいです。立ち上げた当時は、どのようなビジョンを持っていましたか?

最初から明確なビジョンがあったわけではなく、実験的なプロジェクトとしてスタートしたのが始まりでした。ファーストシーズンを試験的に制作してみたところ、予想以上に良いフィードバックを得ることができて、それがきっかけで継続していくことになりました。

Brain Deadでの経験は、Ecstatic Researchにおけるクリエイティブにどのような影響を与えましたか?

Brain Deadでの経験を通して、自分自身の明確なビジョンを持つことの重要性を強く意識するようになりました。Brain Deadはパートナーと共に築き上げたブランドであり、必ずしも自分ひとりの視点だけで成り立っていたわけではありません。Ecstatic Researchでは、自分自身のリサーチや関心、そして個人的なビジョンをより純粋な形で反映させたクリエイションを追求しています。

エド・デイヴィスさんのグラフィックは、既存のイメージを再構築する点が特徴的ですが、このアプローチはいかにして生まれたのでしょうか?

意図的に作り上げたというよりも、自然な流れの中で生まれたものだと思います。これまで多くのアーティストやデザイナーの作品を調べ、学びながら、実際に手を動かして制作を続けてきました。そうしたプロセスの中で、既存のイメージに自分なりの解釈や視点を加え、新しい形へと再構築していくという方法が、次第に自分自身の表現として定着していきました。

エド・デイヴィスさんのグラフィックやクリエイティブにおけるインスピレーション源は、どこから生まれるのでしょうか?

インスピレーション源は本当にあらゆる場所に存在しています。街を歩きながら人々の服装を観察することもそうですし、本を読んだり、過去の出版物やアーカイブに触れることもその一部です。特別な瞬間というよりも、日常の中で見たり、学んだりするすべてのことが、自然と自分のクリエイションへと繋がっていく感覚ですね。

DRAIN PUBLISHINGでの出版活動から、息子のマイロ・デイヴィスとミュージシャンのアーロン・ウッドの3人で手がけるAGARIC FLY SMALL SUPPLIESまで、枠にとらわれない幅広いクリエイティブが印象的ですが、なぜそうした活動を並行しているのでしょうか?

単純に、自分の中にやりたいことやアイデアが常にたくさんあるからだと思います。僕はリサーチすること自体が好きで、さまざまなことを調べていく中で、新しい興味や表現したいことが自然と生まれてきて。そうした探求の延長線上に、DRAIN PUBLISHINGでの出版やAGARIC FLY SMALL SUPPLIESのようなプロジェクトがあります。それぞれは独立しているようでいて、自分の中ではすべて同じリサーチと実験のプロセスから生まれたものなんです。

 

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東京はエド・デイヴィスさんの活動においてどのような場所でしょうか?

東京は、自分にとってとても特別な場所です。人々が互いを尊重し合い、礼儀や思いやりを大切にしている文化に、強い魅力を感じています。ここには長年の友人も多く、彼らは単なる友人というより、家族のような存在です。また、東京はクリエイティブの面でも常に刺激を与えてくれる都市だと感じています。カルチャーの奥行きや感性の豊かさはもちろん、日常の中にある細やかな美意識からも多くのインスピレーションを受けています。それに加えて、食文化も含め、個人的には世界で最も魅力的な都市のひとつだと思っています。

日本のグラフィックやカルチャーに対してどういった印象をお持ちですか?

日本には、本当に素晴らしいグラフィックアーティストが数多く存在していると思います。たとえば横尾忠則のようなレジェンドから、Chokkanさんのような世代まで、それぞれが独自の視点と強い個性を持って活動しています。世代を超えて優れた表現者が継続的に生まれている点は、とても特別なことだと感じています。個人的にも、日本は世界の中でも特に優れたグラフィックカルチャーが根付いている場所のひとつだと思っていて、常に大きな刺激とインスピレーションを与えてくれる存在です。

最後に、Ecstatic Researchを通して、これからどのようなものを作っていきたいですか?

Ecstatic Researchでは、常に新しい挑戦を続けながら、より良い服作りを追求していきたいと考えています。シーズンごとに自分自身の理解や技術を深めながら、一歩ずつアップデートされたものを形にしていきたいですね。このプロジェクトは、自分にとってクリエイションであると同時に、学びのプロセスでもあります。リサーチと実験を重ねながら、自分自身も成長し、その積み重ねの中で、より完成度の高いものを世の中に届けていきたい。それがEcstatic Researchを通して目指していることです。

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Ed Davis
オーストラリア・メルボルン出身のグラフィックアーティスト/パブリッシャー/クリエイティブディレクター。2014年にカイル・イン(Kyle Ng)と共にBrain Deadを共同設立。ポストパンクやスケートボード、アンダーグラウンドコミックなどのサブカルチャーからインスピレーションを得たブランドとして人気を博した。個人の活動においては、これまでに出版プロジェクト『DRAIN PUBLISHING』や、息子のミロ・デイビス、ミュージシャンのアーロン・ウッドらと共に展開するAGARIC FLY SMALL SUPPLIESなど、多様な活動を行っている。現在は、新たなプロジェクト Ecstatic Researchを始動し、リサーチとアーカイブを軸に、グラフィックと衣服の関係性を再考するクリエイションを展開している。

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