野口強が lucien pellat-finet に注入する「リアル」と「反逆」── Interviews
スカル控えめ、ダブルライダース、家紋入りTシャツ──レジェンドがあの“キング・オブ・カシミア”を着替えさせる
野口強が lucien pellat-finet に注入する「リアル」と「反逆」── Interviews
スカル控えめ、ダブルライダース、家紋入りTシャツ──レジェンドがあの“キング・オブ・カシミア”を着替えさせる
2000年代初頭、「スーパー」という形容がスタイリストの肩書きに初めて与えられた。その主役のひとりが、野口強である。彼の存在なくして、今日の日本ファッションシーンは語れない。日本史上最高峰の“あのファッションアイコン”のスタイリングは、ほとんどがスーパースタイリスト 野口強によるものだったし、いっぽうで裏原からヨーロッパの新ブランドまで、数々のブランドを流行らせた張本人、と言っても過言ではない。単に、コレクションのルックをそのままスタイリングせず、時には洋服を洗って、モデルに着せ込み、超絶リアルなスタイリングで、ファッション感度の高い人々を熱狂させてきた。2016年には自身のブランド〈MINEDENIM(マインデニム)〉を立ち上げ、デニムデザインの才能を惜しみなく発揮。そして今、新たな挑戦の舞台として彼が選んだのは、ラグジュアリーカシミアの代名詞として知られる〈lucien pellat-finet(ルシアン・ペラフィネ)〉だ。
そう、2025年秋冬シーズンより、野口強は同ブランドのアーティスティック・ディレクターに就任する。スカルのモチーフ、最高級カシミア、そして時に過剰なまでのラグジュアリー感。その独自のスタイルで一世を風靡したフランス発のブランドを、なぜいま、野口強が率いるのか?
本稿では、野口強が語る〈lucien pellat-finet〉再始動の舞台裏、カシミアへの新たなアプローチ、そして、あえて“スカル”は前面に出さないという象徴的な決断に迫る。
もちろんカシミアは高価だけど
もうちょっと身近に感じてもらえる提案をしていきたい
Hypebeast:2025年秋冬デビューコレクションに込めた、全体のストーリーやコンセプトについて教えてください。時間がない中での制作だったとのことですが、どのようなイメージを表現したかったのでしょうか?
野口強:言い訳はしたくないんだけど、本当に時間はタイトでしたね(笑)。でも、その中でも僕が一番表現したかったのは、『アンディ・ウォーホルが着ていた普段着』という裏テーマです。ウォーホルって、すごくカジュアルなんだけど、どこかアートを感じさせる独特のスタイルがあるじゃないですか。あの、気負いのないけど洗練された雰囲気。それをルシアン・ペラフィネで表現したかったんです。ラグジュアリーなんだけど、あくまでデイリーに着られるリアルクローズ。そこを目指しました。
今回、〈lucien pellat-finet〉の代名詞ともいえる“スカル”モチーフをあえて抑えたと伺いました。その真意はどこにあるのでしょうか?
そうですね、スカルはルシアン・ペラフィネを象徴するアイコンであることは間違いないですし、僕たちの世代や40代以上の方々にとっては、その認知度も非常に高いと思います。ただ、今の若い世代、特にインターネットで様々な情報に触れている彼らにとって、スカルというモチーフが必ずしも響くとは限らない。むしろ、全く新しいアプローチでブランドを知ってもらうほうが、これからのルシアン・ペラフィネにとっては重要だと考えました。だから、今回はあえてスカルを外させてもらいました。新しい顔を作る、という気持ちですね。
野口強さんといえば、Tシャツのイメージが非常に強いです。今回のコレクションで発表されたTシャツには、どのような“野口強らしさ”が宿っているのでしょうか?
“らしさ”というよりは、素材感が肝ですね。今回こだわったのは、上質なコットンでありながら、肌触りの良いスムースな質感、そしてほんのり光沢のある、少し厚手の生地です。そこに、ルシアン・ペラフィネの新しい『家紋』とでも言うべき、オリジナルの刺繍をさりげなくネック裏に施しました。これはもう、今後の定番にしていきたいと思っています。シンプルながらも、素材の良さと上質な佇まいを感じられるTシャツに仕上がったと思いますよ。
今シーズン発表されたレザージャケットには、何か特別な仕掛けや遊び心が込められていると聞きました。詳しく教えてください。
今回は、僕が長年信頼しているアディクトクローズにコラボレーションをお願いしました。通常のレザージャケットではまずあり得ない、贅沢なカシミアの裏地を全面に使ってもらって、そこにルシアン・ペラフィネの新しい家紋の刺繍を入れています。外からは見えない部分ですが、袖を通した時の肌触りや、内側に潜むラグジュアリー感を楽しんでほしい。そして今回は、武骨なダブルライダースをセレクトしました。アディクトクローズの持つ、本物のクオリティとルシアン・ペラフィネのエッセンスが融合した、かなり自信作です。
数あるレザージャケットブランドの中から、〈ADDICT CLOTHES(アディクトクローズ)〉をピックアップした理由は?
アディクトクローズとは、もう長いお付き合いをさせてもらっていますからね。ルイスレザーやショットといった名だたるブランドももちろん素晴らしいですが、今回は“MADE IN JAPAN”という点に強く惹かれました。日本の職人技が光る、上質なレザーウェアをルシアン・ペラフィネで表現したいという思いが強かったんです。
今回のコレクションでは、〈HYSTERIC GLAMOUR(ヒステリックグラマー)〉との協業も実現しています。その背景には何があったのでしょうか?
やっぱり、若い世代への認知度を上げていくためには、彼らの力を借りるのが一番だと考えました。ヒステリックグラマーは、常にストリートの最前線で支持され続けているブランドですし、その発信力は絶大です。彼らと組むことで、これまでルシアン・ペラフィネに馴染みがなかった層にも、アプローチできると考えました。もちろん、ヒステリックグラマーに限らず、今後は様々なブランドやクリエイターと積極的にコラボレーションしていくことで、ルシアン・ペラフィネの新しい可能性を広げていきたいと思っています。
そもそも、ルシアン・ペラフィネのアーティスティック・ディレクターという大役を引き受けた一番の理由は何だったのでしょうか?
引き受けた理由ですか……難しい質問ですね(笑)。でも、率直に言うと、ルシアン・ペラフィネには個人的な深い思い入れがあったんです。もともと、僕と(スタイリスト仲間の)祐真君は、ブランドが立ち上がった頃からよくルシアン・ペラフィネの展示会に通っていました。そこで別注したり、個人的に購入したりと、ずっと愛着があったんです。それが、2024年にデザイナーご本人が亡くなられて、本当に悲しかった。そんな時に、アーティスティック・ディレクターの話をいただいたんです。一瞬、正直悩みました。でも、90年代から僕らが買ってきて、その魅力に触れてきたブランドが、最近少し元気がないように感じていて。もし僕に何かできることがあるのなら、お手伝いしたいという気持ちが強く芽生えたんです。純粋に、好きなブランドをもう一度盛り上げたい、という気持ちでしたね。
他のラグジュアリーブランドからも同様のオファーがあったのでは、と想像してしまいますが、いかがでしょうか?
まさか(笑)。そんなことはないですよ。ルシアン・ペラフィネ以外から、具体的なオファーがあったということはありませんでした。
〈lucien pellat-finet〉といえば、カシミアのラグジュアリーパンク……というイメージが非常に強いです。この既存のイメージ像に対して、野口さんはどのように一石を投じたいとお考えですか?
根本的なブランドのコードを変えようとは思っていません。ルシアン・ペラフィネには、長年培われてきた確固たるDNAがありますから。いきなりぶっ飛んだことをするつもりはありません。ただ、かつての時代のサイズ感と今の時代のサイズ感には、若干のズレがあると感じています。昔はタイトフィットが主流でしたが、現代のニーズに合わせてそこは調整していく。もちろん、モチーフもスカルだけでなく、新しいアイコンとなるようなものを作り出せればと思っています。僕が目指すのは、これまでのラグジュアリー感はそのままに、より現代的でリアルな、そして何よりも着る人が楽しめる感じかな。
野口さんにとって、〈lucien pellat-finet〉はどのような存在ですか?
もともと、僕はそんなにニットやシャツを着る人間ではなかったんですよ。でも、当時祐真君とミラノコレクションやパリコレクションに通い始めた頃、イタリアブランドの半袖ニットがすごく気に入って。よく着ていたんですが、冬場だとさすがに寒い。そんな時にルシアン・ペラフィネと出会って、『カシミアで半袖のニットを作ってくれないか』と頼んだら、本当に作ってくれたんです。冬でも暖かく半袖が着られる。その衝撃は大きかったですね。そこからハマりました。
〈lucien pellat-finet〉の代名詞である“カシミア”という素材に対して、今後どのようなアプローチを考えていますか?
現状、ルシアン・ペラフィネのカシミヤは、ロングスリーブで切りっぱなしのものが定番になっていますが、それも変えていきたいですね。例えば、リブをつけてカシミアなのにスウェットシャツのようなデザインにするとか。先日、パリコレの帰りにスコットランドの工場に行かせてもらったんですが、まさにその相談をしてきました。まだ協議中なので、どこまで実現できるかは分かりませんが、カシミアという素材の可能性を、もっと多様な形で引き出していきたいと思っています。
最後に、“野口強のペラフィネ”を一言で表すなら?
“若い子たちに届くペラフィネ”。もちろんカシミアは高価だけど、もうちょっと身近に感じてもらえる提案をしていきたい。大人はもう知ってるからね。
野口強(スタイリスト)
90年代より、ファッション誌や広告、ミュージシャンのスタイリングを手がける。2016年にはディレクターとして〈MINEDENIM〉を始動。2025年秋冬シーズンより〈lucien pellat-finet〉のアーティスティック・ディレクターに就任。無骨さと品格を兼ね備えたスタイルで、さらなる注目を集めている。
























