松山智一に改めて聞く──10万円のうまい棒誕生の舞台裏 | Interivews
東京初の大規模個展『FIRST LAST』を開催中の現代アーティストに直撃!
松山智一に改めて聞く──10万円のうまい棒誕生の舞台裏 | Interivews
東京初の大規模個展『FIRST LAST』を開催中の現代アーティストに直撃!
「10万円のうまい棒」が発売された。仕掛けたのは、現代アーティストの松山智一だ。彼の個展『松山智一展 FIRST LAST』の開催前にこのニュースが報じられると、テレビでも大きく取り上げられた。発売前夜には、10万円のうまい棒を求めて約200人が列を成したという。(ちなみに、ラッパーのYZERR(BAD HOP)も反応し、松山氏に連絡を取ったそうだ。)
想像を超える反響を受け、当初運営側が予定していた1日10本限定の販売は取りやめに。すべて初日に売り切る抽選販売に切り替えられ、10万円のうまい棒50本は即完売。価格は、うまい棒発売当初の1万倍にも関わらず、その勢いは止まらなかった。
売り切れ後も、室町時代に創業した高級和菓子屋さん「とらや」と協創した羊羹とともに、このうまい棒がミュージアムショップで隣に並んでいたという“奇跡”も話題に。
だが、この10万円という価格設定には、単なる話題作りを超えた意図があるはずだ。東京に滞在中の松山智一に、改めてその背景を聞いた。
もしかすると親が子に「これは家宝だ」と受け継ぐ未来もあるかもしれない
そんな“物語が続いていくこと”こそが、このプロジェクトの最大の意味
Hypebeast:なぜ「10万円」だったのでしょう?
アートを買う時の“最小単位”って、いくらぐらいかを考えたんです。だいたいギャラリーで売っている版画が10万円前後。それで、「アートを買う」という行為のエントリーポイントって、10万円なのかな、と。
僕の作品は今ではそれなりに高額になっているけど、それでも10万円という金額が、アートとして安く感じるのか、それとも(発売当初)10円のお菓子が10万円になったら高すぎると感じるのか。その“対比”こそが問いなんです。
みんな、10万円という価格にばかり注目するけど、これは現代美術の問いかけでもある。たとえば、マルセル・デュシャンが男性用小便器を『噴水(泉)』として発表したように、“何が芸術か?”という思考のきっかけを提示したかった。単なるモノの美しさではなく、アートを通じた思考のトリガーとして提示したんです。
なぜ「うまい棒」だったのでしょうか?
誰もが知っていて、誰もが1度は食べたことのあるもので表現をしたかったんです。うまい棒は1979年に登場して以来、世代を超えて愛されている。初期は「とんかつソース味」や「サラミ味」でしたが、そこから「チーズ味」「めんたい味」「チョコ味」など、たくさんのフレーバーが出ていますよね。
それぞれの味に、その人の記憶やアイデンティティが宿っている。たとえば、「時計はロレックス派? パテック派?」「車はベンツ派? BMW派?」みたいに、味で自分を語れる感覚ってあると思うんです。それを現代美術的に“味付け”し、鑑賞者の原体験と結びつけることで、新しい物語を生み出したかった。
つまり、うまい棒じゃなきゃダメだった?
そうなんです。キャベツ太郎でも、どんどん焼でもダメだった。うまい棒でなければ成立しなかったんですよ。
発売元であるやおきんへのアプローチはどのように?
最初は完全にNGでした。むしろ、お怒りのメールまでいただいて。でも僕は引き下がれなかった。ファッションでいう“ラグジュアリー・ストリート(ラグスト)”のように、アートにもストリートと高級の融合はあるべきだと考えていて。誰しもが買ったことのある10円のうまい棒を使って、個性を乗せていくという体験は、とても現代的なアートの形で、アートの“ラグスト”のある種の究極だと思ったんです。
やおきんさんは、2022年に13円、2024年には15円へと値上げしていて、それだけでも批判が出たくらい。そんな中で「10万円」という提案は到底受け入れられなかった。でもどうしても諦めきれず、最終的には社長さんに直接プレゼンしました。伝えたのは、「この国民食をアートに昇華させたい」という強い思いでした。
デザインは既存のうまい棒から要素を削ぎ落としたものでしたが?
そう。うまい棒のパッケージにある線しか描かれていないシンプルなデザインにしました。パッケージも元の銀色のまま。これはこれで大きな問いなんです。僕がニューヨークでアートを始めた頃、5000円で売られていた作品が、今や数百万〜数千万円にもなる。(発売当初)10円のうまい棒が10万円になり、そこからまた価値が上がっていくかもしれない。もしかすると、親が子に「これは家宝だ」と受け継ぐ未来もあるかもしれない。そんな“物語が続いていくこと”こそが、このプロジェクトの最大の意味だったんですよ。
私たちの記憶や価値観に、静かに揺さぶりをかける一打でした。ありがとうございました!
松山智一展 FIRST LAST
会場:麻布台ヒルズ ギャラリー(麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階)
会期:2025年3月8日(土)〜5月11日(日)
開館時間:月・火・水・木・日 10:00~18:00(最終入館 17:30)
金・土・祝前日 10:00~19:00(最終入館 18:30)
入場料:一般 2400円、大学生・専門学生・高校生 1900円、4歳〜中学生 1300円、4歳未満 無料
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