Vans と写真家 アティバ・ジェファーソンが見据えるスケートボードの未来 | Interviews
スケートフォトのパイオニアが伝える次世代へのメッセージ
Vans と写真家 アティバ・ジェファーソンが見据えるスケートボードの未来 | Interviews
スケートフォトのパイオニアが伝える次世代へのメッセージ
スケーターであれば、誰もが一度は手にとったことがある雑誌『Thrasher Magazine(スラッシャー マガジン)』。世界で最も有名なスケート雑誌の表紙を飾る奇跡的なショットの数々を30年以上にわたって手掛けてきたのが、写真家のアティバ・ジェファーソン(Atiba Jefferson)だ。スケートボードの世界に留まらず、さまざまな分野で国際的に活躍する彼は、2024年に〈Vans(ヴァンズ〉のブランド・キュレーターに就任。長年スケートボードとユースカルチャーを牽引してきた両者のパートナーシップは、まさに理想的と言える。
そして2025年秋、アティバ・ジェファーソンと〈Vans〉は共に創り上げた“United Through Skateboarding”コレクションを発表。本コレクションのローンチを記念したイベントが10月16日(木)・17日(金)の2日間にわたって東京で開催された。『Hypebeast』はこのイベントのために来日したアティバにインタビューを敢行。彼のスケートボードに対する想いから次世代へのアドバイス、〈Vans〉とのコラボレーションについて話を聞いた。
80年代のスケートカルチャーの盛り上がりが僕を夢中にさせた
Hypebeast:あなたがスケートボードを始めたのはいつ、何がきっかけでしたか?
アティバ・ジェファーソン(以下、A):1989年頃かな、双子の兄(ブライアン)がスケートボードを手に入れたことで、僕も興味を持った。その時期、スケートボードはちょっとしたブームになっていたんだ。Bones Brigade(ボーンズ・ブリゲード)のようなスケートチームがいて、映画『ポリスアカデミー 4』(原題『Police Academy 4: Citizens on Patrol』)にも彼らが登場していたし、自分の通っていた高校でもみんながやっていた。でもおかしいのは、その直後にスケートボードの人気が急落したこと。自分のスケートボードへの情熱が最高潮だったわけじゃないけど、80年代のスケートカルチャーの盛り上がりが僕を夢中にさせたんだ。
よく覚えているのが、当時見たデモ(デモンストレーション)。 そこには本当にすごいスケーターが2人いて、マット・ヘンズリー(Matt Hensley)とロン・アレン(Ron Allen)だった。たまたま彼らのデモを見て、「ああ、自分もスケートしたい!」って強く思ったんだ。特にロン・アレンが黒人のスケーターだったのは大きい。自分と似た見た目のスケーターが活躍しているのを見たことで、とてもクールで誇らしく感じたよ。もう一つ付け加えておきたいのは、僕が住んでいたのはコロラド州のコロラドスプリングスという決して小さくない街だったということ。ロサンゼルスみたいな大都市ではないけれど、スケートカルチャーに触れる機会は十分あったね。
スケート写真を撮り始めたのは何がきっかけでしたか?
A:色々あるんだけど、最も重要なことの一つは『Thrasher Magazine』のようなスケートボード雑誌を見ていたからだ思う。そのときは気づいていなかったけど、雑誌のページがカメラアングルやライティング、アイデアに影響を与えていたんだ。でも決定的だったのは、高校の写真の授業で暗室でプリントが現像されていくのを初めて見たとき。魔法のような瞬間に「これをやりたい」と確信した。写真もスケートボードも、非常にシンプルだ。学びの過程を繰り返し、結果が出るまでひたすら挑戦し続ける必要がある。だからスケートボードで学んだことを写真に応用しているんだ。結局のところ、僕は上手いスケーターじゃない。自分はスケートが上達することはないとわかっていたからこそ、写真を撮り続けることでスケーターたちと関わることができるんだ。
これまで数多くのスケーターを撮影してきたと思いますが、その中で特に印象に残っている人物を挙げるとすれば?
A:これまで本当にたくさんのスケーターを撮影してきたけど、面白いことに「一番印象に残っているスケーターは誰?」って質問はよく聞かれるんだ(笑)。毎回ちゃんとした答えを用意できたらいいのになと思うけど、正直ひとりに絞るのは難しい。いつも「今回は誰を挙げようかな?」って悩むんだよね。でも今日は、ディラン・リーダー(Dylan Rieder)を挙げようと思う。
ディランは本当に素晴らしいスケーターだったし、僕にとってとても大切な友人でもあった。彼がスケートボード界に残した影響は今も確かに感じられる。彼を失ってからもうすぐ9年になるなんて信じられないよ! ディランの存在がどれほど大きかったか、今でもみんなが恋しく思っている。だからこの質問の答えは、ディラン・リーダー。幸運にも、僕は今まで本当に最高のスケーターたちを撮る機会に恵まれた。彼だけじゃなく、これまで撮影したすべての素晴らしいスケーターたちを讃えたいんだ。
『Thrasher Magazine』の表紙を飾った自身の写真の中で、最も思い入れのある1枚は何でしょうか?
A:僕はたくさん『Thrasher Magazine』の表紙を撮ってきたけど、その中でも特に印象に残っている写真は3つある。まずはタイショーン・ジョーンズ(Tyshawn Jones)がハーレムの地下鉄の線路を飛び越えてキックフリップを決めている写真。あれは自分にとって“完璧なスケート写真”なんだ。何百万枚も撮ってきた中で、「完璧だ」と言える写真は本当に少ない。さっきも話したように、僕はいつも「もっと良くできたかも」と思うタイプなんだけど、あの瞬間だけは「よし、これで完璧だ」と思えたんだ。しかもあの写真は、スケーターじゃない人にも伝わる力がある。本当に全てがうまくいった1枚だと思う。
次に挙げたいのは、黒人スケーターたちのポートレートシリーズ。ブラックスケートボードカルチャーに焦点を当てた特集号で、あれはとても意義のある作品だった。そして最後は、クリス・ジョスリン(Chris Joslin)がエルトロで360フリップを決めてる写真。あれはみんなが話題にしていたよね? 最近は誰かのトリックが大きな話題になることって、昔ほど頻繁に起こることじゃない。だからタイショーンの時と同様、あの写真がネットで話題になった時は本当にうれしかった。スケートを撮り始めて30年以上経った今でも、まだ進化し続けているのはクレイジーだよね。
写真家にとって一番大切なのは「楽しむこと」
今回の滞在期間中には、スケートボードとデザインを専攻する専門学生に向けてレクチャーも行いますね。このことに関連して、写真家を目指す若い人たちへアドバイスをいただけますか? また、あなたはCanon(キヤノン)のアンバサダーを務めていますが、おすすめのカメラがあれば教えてください。
若い写真家にアドバイスがあるとすれば、とにかく楽しむことかな。成功は一夜にして訪れるものじゃないし、今は僕が写真を始めた頃とは時代もまったく違う。だから“完璧なアドバイス”はできないけど、一番大切なのは「楽しむこと」だと思う。それからもう一つは、人に優しくすること。僕の仕事の多くは、人と一緒にうまくやっていけること、そして忍耐強く接することで成り立っている。どんなに写真の腕が良くても、人付き合いが下手だと仕事は続かない。もし君が優れた人間関係を築けるなら、仕事は絶えないだろう。写真家は一人で全てをこなすことはできないし、常に人と関わる必要がある。だから人に親切であること、それが最も大切なことだ。カメラに関しては、Canon EOS R5 Mark IIがこれまで使った中で最高の一台。正直、これさえあれば一生このカメラだけで撮っていけると思うくらい、完璧なカメラなんだ。
良いスケート写真を撮る秘訣はありますか? 先ほど挙げてくれたような決定的な瞬間を撮るにはどうしたら良いでしょう?
A:一番大事なのは何より「タイミング」だと思う。良い写真とダメな写真の差って、ほんの一瞬 ── ミリ秒の違いだけなんだ。
あのタイショーンの写真は偶然撮れたんですか? それとも狙って?
A:狙っていたけど、あれこそまさにタイミングが生んだ1枚だ。実はタイショーンはあのトリックに3回トライしていて、最初の2回は上手くいかなかった。だから最後のトライ ── つまり成功した3回目が完璧な瞬間だったということさ。
今のスケートシーンについては、どのように感じていますか?
A:今のスケートボードの盛り上がりは本当にすごい。僕はずっとその流れを見てきたけど、ここまでスケートシーンが爆発的に進化して、しかもあんなに高いレベルにまで到達しているのには驚くよ。スケートボードがオリンピックの競技になったことが証明しているよね。それに日本のスケーターが世界の舞台で活躍しているのも印象的だし、10年前ではほとんど考えられなかったこと。スケーターたちの技術レベルは僕がこれまで経験してきたどの時代よりも、圧倒的に向上していると思う。
ストリートスケートはついてはどうですか?
A:ストリートもさらにクレイジーになってるよ。さっき話したクリス・ジョスリンの360フリップとか、そんなことが起こるなんて想像もしていなかった。あとユウト(堀米雄斗)はストリートでも活躍しているし、ダイキ(星野大喜)やトア(佐々木音憧)といった日本のスケーターたちも素晴らしい。あと女性のスケーターのレベルもどんどん上がっているよね。スケートボーディングのファンなら今は本当にエキサイティングな時期で、進化を目の当たりにするには最高のタイミングだよ。
今回のエキシビジョンでは、日本人スケーター3名(開心那、星野大喜、佐々木音憧)の写真も展示されていますね。日本のスケーターについては、どのように感じていますか?
A:素晴らしいよ。日本のスケーターたちは、アメリカのスケーターとは違う雰囲気があると思う。言葉の壁も大きいんじゃないかな。たとえば、ダイキは英語が一番うまいけど、ココナやトアはとても静かだし。一般的に、日本のスケーターはすごく静かで規律正しいところがある。これは日本文化の大きな特徴だよね? 一方で、アメリカのスケーターは結構だらしないし、騒がしい人が多い(笑)。この国特有の労働倫理に起因しているのか、日本人はすごく働き者で真面目なんだ。これは恒久的な強みになると思う。だってアメリカのスケート界にはない倫理観がそこにあるからさ。
次世代のスケーターたちへ、メッセージをお願いします。
A:次世代に伝えたいメッセージは、僕は君たちの大ファンだということ。特別なメッセージはないんだ。君たちはきっと、自分たちのやりたいように全てを成し遂げるだろうから。ただ一つ言えるのは、個性を大切にして、今のまま続けてほしいってこと。君たちのやり方は僕が今まで見たことのないものだから。
少しパーソナルな質問を。さまざまな人物のタトゥーを入れているようですが、それぞれのモチーフに意味はありますか?
A:まずボブ・マーリー(Bob Marley)には最も影響を受けた。それから、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)やジョン・コルトレーン(John Coltrane)、マルコムX(Malcolm X)の思想や教え…そうした人たちの存在が今の自分を形成していると思う。だからタトゥーは自分にとって大切な人たちへの敬意を込めて刻んでいるんだ。僕と娘、3人の友人たち。そしてもう1人、18歳で亡くなった友人も。
では、最近気になっているアーティストはいますか?
A:いま注目しているアーティストは、ローレン・ホールジー(Lauren Halsey)かな。彼女の仕事は建築から絵画、インスタレーション、マルチメディア作品まで多岐にわたっていて、ジャンルを定義することは難しい。信じられないくらい素晴らしいから、ぜひ作品をチェックしてほしい。チェイス・ホール(Chase Hall)も好きなアーティストの1人。もちろん、バリー・マッギー(Barry McGee)はオールタイム・フェイバリットだ。写真家ではタイラー・ミッチェル(Tyler Mitchell)、シャニクワ・ジャーヴィス(Shaniqwa Jarvis)など、大きなインスピレーションを与えてくれた人たちがたくさんいる。音楽の分野では、一緒に仕事もしているTurnstile(ターンスタイル)。彼らが新しいレコードや映像作品に取り組む姿に、とても刺激を受けているんだ。
Vans とのコラボレーションには自分の好きな世界観 ── スケートボード、写真、アート全てが詰まってる
ここからは、あなたとVansの関係について聞かせてください。最初に買ったVansのシューズは何のモデルでしたか?
A:僕が覚えている限り、最初期に手に入れたVansのスニーカーはChukka Boot(チャッカブーツ)とAuthentic(オーセンティック)、それからCaballero(キャバレロ)だね。当時はHalf Cab(ハーフキャブ)が登場する前で、Caballeroを自分でカットして履くのが流行っていたんだ。つまり、Half Cabの前身みたいなカスタムを自分たちでやってたわけ。あとは1991年頃にChukka Bootをカスタムオーダーで作ってもらっていた。だからChukka Bootは自分にとって本当に特別な一足だった。不思議なことに、Sk8-Hi(スケート ハイ)は大人になるまで履いたことがなかった。そうだ、レザーの靴を一切履かなかった時期があって、その時はAuthenticをずっと履いていたよ。
今回のVansとのコラボコレクションのコンセプトを教えてください。
A:コレクションのコンセプトは、“United Through Skateboarding”。Vansとのコラボは一度きりのチャンスだと思ったから、とにかく特別なものにしたかった。過去30年間で僕の世界は想像もしていなかった形で進化してきたけど、その中心には常にスケートボードがあった。わかるよね? 友人たちは今ではコメディアン、ミュージシャン、アスリートとさまざまな職業の人がいるけど、出会いの始まりはいつもスケートボードだった。自己紹介するときも、最初に「スケーターだ」と言っているくらい。撮影する時だってそうさ。
今回のコレクションでは、自分の本業である写真を主軸に置きたかった。僕は写真家だから、アパレルやシューズのどこかに必ず写真の要素を反映させたかったんだ。さらに、そこにアート的な要素も加えている。特にヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)から大きな影響を受けていて、彼がフューチュラ(Futura)のようなアーティストを起用したセンスにずっと共感していた。僕自身もグラフィティ・カルチャーが大好きで、特にエリック・ヘイズ(Eric Haze)の手描きのスタイルは最高だと思ってる。だから、彼のアートを取り入れることで、アパレルやシューズに付加価値が生まれると思った。写真やヘイズのアートがミックスされたアイテムを手に入れられるなんて、すごく贅沢でしょ? それに、もし僕のことを知らない人や、僕が撮ってきたスケーターたちを知らない人がこのコレクションを身に着けるのもすごくクールだと思う。だからこのコラボでは、自分の世界観をできる限り詰め込みたかった。スケートボード、写真、アート ── 全部がひとつにつながっているんだ。
コレクションの中で、特に気に入っているアイテムは何ですか?
A:今日履いているAuthentic(OTW by Vans X Atiba Jefferson)かな。まあ、これはOTW by Vans(オーティーダブリュー バイ ヴァンズ)ラインのアイテムで、今回のコレクションとはまた別枠なんだけど(笑)。でもこれが一番好きなんだ。OTW by Vansは本当に素晴らしい。これまでも写真を使ったシューズはあったけど、シューレースやソール全面に写真をプリントしていて、全く新しいアプローチができたと思う。今回のコレクションの中では、オレンジの靴(Skate Old Skool 36+)がお気に入りかな。意外にもこれがすごく売れているみたいで、驚いたよ。だって派手な色だし、みんなにはクレイジーすぎるかなと思ってたからね(笑)。
Vansとのパートナーシップは今後も継続していくと思いますが、現在進行中のプロジェクトなどを明かせる範囲で教えてください。
A:今まさに新しいコレクションに取り組んでいるところなんだ。もうすでにデザイン段階に入っていて、新しいアーティストがグラフィックを担当する予定。その発表が本当に楽しみだし、このプロジェクトを通してまたみんなに恩返しできるといいな。
最後の質問です。Vansとはあなたにとってどんなブランドですか?
A:まず最初に思いつくのは、Vansはオリジナルのスケートボードシューズを作ったブランド。そして何よりも、常にスケートボードのことを第一に考えているブランドなんだ。今の時代、この業界でスケートボードは後回しにされがちだけど、Vansの姿勢は本当に素晴らしいと思う。彼らはスケートボードの伝統とDNAを守りつつ、アートや音楽といった自分の大好きなカルチャーも根づいている。僕にとってのVansは、自分の好きなもの全てと共鳴するブランドなんだ。
アティバ・ジェファーソン(Atiba Jefferson)
1976年、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングス生まれ。フォトグラファー/スケートボーダー。30年以上にわたって『Thrasher Magazine』をはじめとする国際的なスケート雑誌に写真を発表し、現在は同誌の専属カメラマンとして活躍。NBA選手のポートレートや広告写真も撮影、『SLAM』誌史上最多となる単独カメラマンの表紙撮影記録を保持する。Canonのアンバサダー Explorer of LightおよびVansのブランド・キュレーターも兼任。映像制作も手掛け、数々のアーティストのミュージックビデオを発表。スティーヴ・ローレンスと共同監督を務めたESPNのドキュメンタリー『モノクローム』がエミー賞にノミネート、クリオ賞を受賞。主なクライアントにVans、Supreme、adidas、Nike、Converse、Reebok、ESPN、Gatorade、Mountain Dew、Jeep、Red Bull、Belvedere、Oakley、Pepsi、Canon、Netflix、Off-White™などが名を連ねる。




















