Nike が発表した4つの最新イノベーション:電動フットウェアから神経科学シューズまで
“スポーツの未来を創る”というミッションのもと、〈Nike〉が打ち出した4つの革新的テクノロジー。 電動フットウェア、神経科学を応用したシューズ、リアルタイムで温度を変えるジャケット、そして新世代のクーリングアパレル。そのすべてが“アスリート中心のイノベーション”を体現している
およそ1年前にエリオット・ヒル(Elliott Hill)がジョン・ドナホー(John Donahoe)の後任として〈Nike(ナイキ)〉のCEOに就任して以来、同ブランドは“アスリート”と“イノベーション”を中心に据えたブランド戦略を加速させてきた。その動きが具体化し始めた今、〈Nike〉は新たな1歩として「Nike, Inc. Sport Offense」を発表した。
この新体制は〈Nike〉本体だけでなく、〈Jordan Brand(ジョーダン ブランド)〉や〈Converse(コンバース)〉を含むデザイン、プロダクト、イノベーションの各チームを横断的に統合するもので、“アスリートのための創造エンジン”として機能することを目指している。〈Nike〉によれば、これにより「世界中のアスリートに向けた、より画期的なプロダクトの創出」を実現していくという。チーフ・イノベーション・デザイン・プロダクト オフィサーのフィル・マッカートニー(Phil McCartney)は「Nike、Jordan、Converseのクリエイション組織を統合することで、私たちは進化のスピードを加速させ、アスリートをより高みへ導くエピックなプロダクトを届けるための強みを最大限に発揮できるようになりました。Nikeのイノベーション、デザイン、プロダクトに新たな時代が始まります」とコメントしている。
また〈Nike〉は、アスリートの課題解決を目的とした4つの新技術プラットフォームを同時に発表した。それが以下に紹介する“Project Amplify(プロジェクト・アンプリファイ)”、“Therma-FIT Therma-FIT Air Milano Jacket(エア ミラノ ジャケット)”、“Aero-FIT”、そして“Mind 001”と“Mind 002”だ。
Project Amplify
その4つの技術プラットフォームの筆頭として発表されたのが、“Project Amplify(プロジェクト・アンプリファイ)”だ。これは〈Nike〉が開発した世界初のランニングとウォーキングのための電動フットウェアシステムで、一般のアスリート──つまり「身体さえあれば誰もがアスリートである」というブランド哲学のもと、日常的に走ったり歩いたりする人々をサポートすることを目的としている。
軽量かつ高出力のモーターと駆動ベルト、ふくらはぎに装着する充電式バッテリー、そしてカーボンファイバープレートを備えたランニングシューズが一体となっており、下肢と足首の自然な動きを増幅して推進力を生み出す仕組みだ。このシューズは、ロボティクスシステムの有無にかかわらず着用可能で、ユーザーの動作にあわせて“ひと押しのパワー”を加えてくれる。
〈Nike〉によれば、このシステムを使用することで、これまで1マイル(約1.6km)を12分で走っていた人が10分で走れるようになるケースも確認されているという。まるで電動自転車が都市の移動を変えたように、歩行やジョギングをより軽やかにすることを目指した新しいアプローチだ。本プロジェクトはロボティクス企業「Dephy(デフィー)」との共同開発によって進められており、現段階ではテスト段階にあるものの、〈Nike〉は今後数年以内に一般向けの展開を予定している。モーションアルゴリズムやテクノロジーの進化を取り入れながら、“スポーツの未来を足元から変える”壮大な試みが、すでに始まっている。
Therma-FIT Air Milano Jacket
続いて紹介するのは、“Therma-FIT Air Milano Jacket(Therma-FIT エア ミラノ ジャケット)”。〈Nike〉を象徴する“Air”テクノロジーを大胆に進化させた、ブランド史上もっとも技術的に精巧なアパレルだ。50年近くにわたる〈Nike Air〉のイノベーションを背景に、A.I.R.(Adapt. Inflate. Regulate.)テクノロジーを搭載した新構造を採用。ジャケット内部のバッフル(空気層)が数秒で膨張・収縮し、脱ぎ着をせずに温度をリアルタイムで調整できる。その暖かさは、軽めのフーディーから中厚のパファージャケットに相当するほどだ。
このテクノロジーの中核にあるのは、「NSRL(ナイキ スポーツ研究所)」のデータを活用したコンピュテーショナルデザイン。エア テクノロジーと革新的な2層ラミネート素材を融合させることで、軽量ながらも耐久性と柔らかさを両立させた。結果、アスリートの動きや体温変化に応じて「呼吸するように変化するウェア」が誕生したのである。
本作は今冬、2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピックでのチームUSAの公式メダル授与ジャケットとしても採用される予定だ。各ジャケットには立体的なデザインライン、特注のACGポンプ、そしてコロラドスプリングスを象徴する「Garden of the Gods」のグラフィックが施されている。また、パラアスリートへの配慮として、裾内側のサムループやマグネットジッパーなど、アクセシビリティ面にも工夫が施されている。
エアによる断熱という〈Nike〉ならではの発想を、アパレルにまで拡張した“Therma-FIT Air Milano Jacket”は、スポーツウェアの機能とデザインを再定義する1着といえるだろう。
Aero-FIT
気温と湿度の上昇がアスリートのパフォーマンスを左右する現代において、〈Nike〉が次に提示したのが“Aero-FIT(エアロフィット)”だ。これはブランド史上もっとも高性能なクーリングテクノロジーとされ、既存の〈Nike〉アパレル素材と比べて2倍以上の通気性を実現している。
この新素材は、肌と生地の間に空気を通す構造を最適化し、発汗効率を高めることでアスリートの体を常にドライな状態に保つ。楕円形のメッシュゾーンが特徴的なデザインシグネチャーとなっており、特に体温が上がりやすい部位に的確に気流を届けることで、過酷な環境下でも長時間のプレーをサポートする。
Aero-FITのもうひとつの革新は、〈Nike〉初の「100%繊維廃棄物」から作られたエリートパフォーマンスアパレルである点だ。高度なケミカルリサイクル技術を用いることで、バージン素材と同等の品質を持つ再生ポリエステル糸を生産し、環境負荷を抑えながらもトップレベルのパフォーマンスを実現した。
デザイン開発には、スポーツ科学・コンピュテーショナルデザイン・先端生産技術が融合。アスリートのヒートマップデータや動作解析に基づき、糸のテンションやメッシュ配置が緻密に設計されている。まさに科学的根拠に裏打ちされた“空気をデザインするウェア”と言えるだろう。
“Aero-FIT”は、2026年に開催される「FIFAワールドカップ」で各国代表チームの公式キットとして世界デビューを果たす予定。その後は、〈Nike〉のグローバルプロダクト戦略の中核として、あらゆる競技カテゴリーへと展開されていく。
Mind 001 と Mind 002
4つ目のイノベーションとして発表されたのが、〈Nike〉初の神経科学に基づくフットウェア“Nike Mind(ナイキ マインド)”シリーズだ。10年以上にわたる研究開発の末に誕生した“Mind 001(マインド 001)”と“Mind 002(マインド 002)”は、アスリートが競技の前後に「心のスイッチを入れる」ためのシューズとして設計されている。
両モデルの最大の特徴は、片足につき22個配置された独立型フォームノード。このノードが足裏を刺激することで脳内の感覚領域を活性化し、「今この瞬間」に意識を集中させる感覚を生み出す仕組みだ。素材には柔軟で防水性のあるコンパウンドを採用し、動きに合わせてピストンやジンバルのように反応。まるで地面の感触をより鮮明に「感じる」ような新しい履き心地を実現している。
この2モデルは、「NSRL(ナイキ スポーツ研究所)」内に新設されたマインドサイエンス部門(Mind Science Department)による初のプロジェクト。脳と身体の連動に焦点を当て、アスリートの神経活動や認知プロセスを解析する最先端の研究を背景に生み出された。〈Nike〉のチーフ・サイエンス・オフィサーであるマシュー・ナース博士は「私たちは45年間にわたって身体の動きを研究してきました。今、その対象は“心”へと広がっています。知覚や集中、回復力の探求こそ、次なるパフォーマンスの最前線なのです」と語っている。
“Mind 001”は着脱が容易なミュールタイプで、リラックスした移行時間に最適。一方の“Mind 002”は足をしっかりと固定するスニーカー仕様で、トレーニング前後の精神集中をサポートするよう設計されている。いずれのモデルも、単なる履物ではなく「感覚を起動するプロダクト」としての新たな価値を提示している。
〈Nike〉“Mind 001”と“Mind 002”は、2026年1月に〈Nike〉の公式サイト、および一部〈Nike〉取扱店にて発売予定。アスリートの心と身体を結ぶ“新しい感覚のスタートライン”が、まもなく足元から始まる。

















