Maison Margiela 2026年春夏コレクション──グレン・マーティンスが奏でた“未完成の美”
7歳から15歳の子どもたちが奏でる不完全な交響曲と、匿名の亡霊たち
グレン・マーテンス(Glenn Martens)が手がける〈Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)〉による初のレディ・トゥ・ウェア・コレクションが、パリ・ファッションウィークで発表された。まず、映像を見てほしい。ショーのBGMを担ったのは、7歳から15歳までの若き音楽家61名によるオーケストラ。リヒャルト・シュトラウス『ツァラトゥストラはかく語りき』やチャイコフスキー『白鳥の湖』、ベートーヴェン『月光』などが演奏されたが、その響きはどこか不揃いで、拙く、しかし美しかった。マーテンスは、この“未完成の音”を通して、人間の不完全さに宿る詩情を映し出していた。
ショーは、タキシードのウエストコートを想起させるカットアウェイのジャケットから始まる。肩の丸みに沿って描かれたダーツや、アトリエスタッフの白衣を思わせる腰紐のディテールが、精密な構造の中に親密な温度を宿す。この新たなテーラリングのアプローチは、ウールやレザーだけでなくデニムにも応用され、素材の階層を取り払うように展開された。会場を漂うのは、まるで過ぎ去った季節の亡霊。透けるようなガウンやペイントされた花柄、レースやプルタイが重なり合い、光に包まれた衣服は“記憶の残像”のように揺らめく。構築的なブレザーの上に重ねられたシアーガウンは、灰色の幻影がランウェイを浮遊しているかのようであり、赤い石膏のようなボディス(上身頃)にブルーの花柄を合わせたルックは、甘さと不穏さを同時に孕んでいた。クラシックな構造を土台にしながら、〈Maison Margiela〉の歴史と現代のリアリティが交差しているかのよう。
モデルたちの口元には、4本ステッチを模した白いマウスピースが装着されている。唇を半開きに固定するその装置は、個の存在を消し去り、メゾンの象徴である“匿名性”を現代的に再定義するものだった。統一された表情と異質な静寂。マーテンスはジョン・ガリアーノ(John Galliano)が築いた耽美的な世界を引き継ぎつつも、より構造的で内省的なアプローチによって、メゾンの“精神性”を再び呼び覚ました。新〈Maison Margiela〉は、ロマンティックな装飾を削ぎ落とし、リアリティの中に潜む歪さを肯定する。
ブランド:Maison Margiela
シーズン:2026年春夏






















