アリシア・キーズに訊く──私たちは“自分でいること”のために戦わなければならない | Interviews
20年以上にわたって多くのアンセムを生み出してきた唯一無二のシンガー アリシア・キーズ。彼女のインスピレーションの源とは?
アリシア・キーズに訊く──私たちは“自分でいること”のために戦わなければならない | Interviews
20年以上にわたって多くのアンセムを生み出してきた唯一無二のシンガー アリシア・キーズ。彼女のインスピレーションの源とは?
今年、12年ぶりに来日し、「SUMMERSONIC 2025」のヘッドライナー、そして単独公演を成功させたアリシア・キーズ(Alicia Keys)。20年以上に及ぶキャリアのなかで、“No One”、“If I Ain’t Got You”、“Empire State of Mind”といったアンセムを次々と発表してきた。今回『Hypebeast Japan』は単独公演ライブ後のアリシアに話を聞き、そのエネルギーの源や彼女を成功へと導いてきたセオリー、そして普段のマインドのあり方など多岐にわたって語ってもらった。
日本の都市を廻り、彼女が得たインスピレーションとは? そして、混沌とした社会を生き延びるための信条とは?また、彼女自身がパートナーを務める“ヘネシー パラディ”のトピックにも触れ、それぞれに共通する職人的な美についても話を聞いた。
あの曲が、あの時期に、多くの人が感じていた気持ちをこんなにも代弁することになるなんて
Hypebeast:12年ぶりの来日公演となりました。今日は忙しい中、ライブ終演後にお時間をいただきありがとうございます。今回は日本のいろんな場所に滞在していましたよね? 来日中、特別なインスピレーションを受けたことがあれば教えてください。
そうなんです。富山や金沢、名古屋にも行きました。三重では大きな神社──伊勢神宮だったと思います──を訪れて、他の皆さんと一緒に参拝したんです。とても神聖な場所だと感じることができましたし、参拝に訪れた皆さんが一様にその場所に対して敬意を抱いているんだと伝わってきました。
とてもスピリチュアルな体験でした?
はい。鳥居をくぐるたびに一礼しながら進んでいく、というように、日本ならではの様式でそのスピリチュアリティを感じることができてとても嬉しかったし、特別な経験になりましたね。日本の文化をあらためて実感できる出来事でした。尊敬の念や畏怖の気持ち、感謝や寛大さ、そして謙虚さといった日本独特の雰囲気を感じたんです。こうした意識を胸に、自分の人生の一部にできるということ自体がとても大切なんだなと感じますね。
実際にお会いしてさらに感じたことですが、アリシアさんは常に素晴らしいエネルギーを放っていて、皆さんはそこに惹かれてやまないのだと思います。そのエネルギーはどこからやってくるものなのでしょうか?
きっと、感謝の気持ちでいっぱいだからかな? そして、心から楽しんでいて、今の私は本当にありがたいな、って思える場所にいる。それがエネルギーの源かもしれないです。例えば、これまで日本に来るときはスケジュールがぎっしり詰まっていて、3日間で東京と大阪を慌ただしく駆け廻るような旅だったの。パリに行った時もそうだし、どこに行っても同じ感じ。でも、今回はちゃんとその場所を感じて、一つ一つの瞬間を味わうことができた。そうすると、本当に大きな喜びが生まれるんです。もっと生産的かつ創造的になれるし、自分らしくいられる。今回の旅は、まさに“過程そのものを楽しむ”ということの象徴みたいな体験でした。もちろん仕事のためにここに来ているけれど、私にとっては仕事だけじゃなくて遊びであり喜びでもある。だからこそ、きっとみなさんもそれを感じてくださったんだと思います。だから、あなたたちが私にそのエネルギーを与えてくれたんだと思う。ありがとう!
2001年にアイコニックなデビューアルバム『Songs in A Minor』がリリースされました。当時は未来の自分をどのように描いていましたか?
もうそんなに時間が経ってるなんて信じられないよね……。正直に言うと、実は自分の未来をはっきりと思い描いていたわけじゃなかったんです。音楽を始めたばかりの頃は、すべてが怖くて、すべてが新しくて。ほとんどの時間、自分自身に追いつこうと必死でした。「自分は何をしているのか分かっている」ふりをしていたけど、実際はまったくそんなことはなくて。「これ、どうやってやるの?」「私はどうしたらいいの?」って、常にそんな気持ちでした。だから、すごく居心地が悪い部分もあったけど、一方で本当にワクワクしていたんです。だって、子どもの頃、4歳のときからずっと夢見てきたチャンスが目の前にあったわけだから。未来を具体的に思い描くことはできなかったけれど、「自分自身でいること」が何より大事だっていうのは、はっきり分かっていました。
そうしたはっきりとした信念を持っている、ということがすごいと感じます。
信じるものや目的を持たない人は、どうしても道を見失いやすい。そう感じていたので、私は常に「自分自身とつながっていたい」と思っていたんです。そういう純粋な部分に近づいていたい、と。でもそれ以上のことは、当時は全然分かっていなかったの。少なくとも、今こうしている自分の未来を想像することなんて、まったく出来なかった。
「自分自身とつながり続ける」ことは容易くないようにも思います。ブレることはありませんでしたか?
本当にその通り。私たちは“自分でいること”のために、戦わなければならないんです。特に今は、世界全体が、私たちを自分自身から引き離そうとしている気がしているの。自分をよく知ることを望まずに、むしろ簡単に操作されて、流されやすく、自分の考えや意見を持たないように仕向けているっていうか。私自身にとっては、瞑想や日記を書くこと、静かな時間を持つことがすごく助けになっています。常にまわりの声ばかりを聞いているんじゃなくて、静かにして、自分の内側の声を聴く。その積み重ねが、自分を見失わないための大事な時間になっているな、と思うの。
アルバム『Alicia』に収録された「Underdog」もアンセム的ですよね。最前線で闘う人からシングルマザー、ホームレス、いろいろな立場の視点に目配せした歌詞が素晴らしくて。
あの曲はコロナ前に書いたもので、制作していた時から、本当に大切で美しい曲だと感じてはいたんです。でも、その後に訪れることになる時代に、あんなにぴったりと重なるなんて、まったく想像もしていませんでした。みんなが「共感できる」と言ってくれて、あの曲が、あの時期に、多くの人が感じていた気持ちをこんなにも代弁することになるなんて。「誰が予想できた?」っていうくらい、時代とリンクしていたんです。
コロナ禍を経てもなお混沌とした社会情勢が続いていると思うのですが、世界は良くなってきていると感じますか?
正直に言うと、少しも良くなっているとは思いません。本当に健全とは言えないし、とても悲しい状況だと思います。特に、現代の私たちは皆つながっていて、すべてを目にできてしまうからこそ、その現実を知るたびに胸が痛むんです。でも私は信じているの。こんな時代においても、人間性そのものは生きていて、ちゃんと守られているって。そして、人は本当にそれぞれが世界で起きていることに、心を寄せているとも思う。ただ、古い仕組みがまだあまりにも多く残っていて、それが本当に必要な変化を起こすのを難しくしている。でも、それを壊していかなければならないと思うんです。それでも私は、人間は根本的に善い存在だと信じています。
アリシアさんは、260年の歴史を持つフランス発の老舗コニャックブランド Hennessyの最高峰ラインのひとつ“ヘネシー パラディ”のパートナーでもあります。この希少なコニャックとのコラボレーションについて、印象を聞かせてください。
信じられないくらい特別な体験だと思います。ヘネシー パラディはとてもエレガントで、並外れて美しい“作品”なんです。それは単なる飲み物ではなく、ひとつの職人技であり、芸術そのものだと感じています。
コニャックづくりと音楽づくりには、どんな共通点を感じますか?
とても似通っていると思いますね。完成までにかかる長い時間や、香りや味わいのひとつひとつが丁寧に引き出されていく過程は、ピアノの一音一音が異なる響きや感情を生み出していくのと本当に似ているんです。なので、自然と同じアーティスト性を感じています。
現在はどのようなモードにいらっしゃいますか? 新作も準備している?
まさに今、次作に向けて動いているところ。仕上がり具合で言うと、大体60%くらいかな。あと少しで完成、という感じ。今回の作品は本当にすごくて、これまで以上に素晴らしいものになっていると思います。さっきも友人に話していたんですけど、「日本で特別なリリース・イベントを絶対にやらなきゃいけない」って思っているところです。
楽しみにしています。本日は本当にありがとうございました。
Alicia Keys(アリシア・キーズ)
ニューヨーク出身のシンガーソングライター、ピアニスト、そしてプロデューサー。2001年のデビューアルバム『Songs in A Minor』で鮮烈に登場し、グラミー賞を含む数々の音楽賞を受賞。深みのあるソウルフルな歌声とメッセージ性の強いリリックで、現代R&Bの象徴的存在として世界的な支持を集める。社会的活動にも積極的で、ジェンダー平等や教育支援、アートの力を通じたコミュニティ支援などにも取り組む。フランスの老舗コニャックブランド〈Hennessy〉の最高峰ライン“ヘネシー パラディ”のパートナーとしても知られ、ラグジュアリーとアートの架け橋となる存在でもある。


















