Ferrari 12Cilindri には12気筒エンジンとフェラーリのプライドがのっている
きっと前期型のデイトナからインスピレーションを得たであろう、830馬力の2シーター
Ferrari 12 Cilindriとはナニモノ?
「Ferrari(フェラーリ)」が先ごろ発表したニューモデルは、その名を12 Cilindriという。どうやら日本では「ドーディチ・チリンドリ」と発音するようだけれど、すでに皆さんうすうすお気づきのとおり、これはイタリア語で12気筒を意味している。つまり12気筒エンジンを積んでいることが、このモデルの最大の特徴なのである。そう説明すると、「いやいや、12気筒エンジンを積んだスポーツカーこそがフェラーリでしょ?」と突っ込まれそうだけれど、いまどき、12気筒エンジン搭載のスポーツカーを作るのはそうそう簡単ではないのだ。
実は、ヨーロッパでは昨年の秋にも排ガス規制が強化されていて、ハイブリッド・システムを持たない自然吸気12気筒エンジンが生き延びるのはますます困難になっている。そして、この難しい排ガス規制を大排気量の12気筒エンジンでクリアしようとすれば、かなりの額の開発コストを投じなければいければならないのである。しかも、エコに対する意識が世界的に高まっているなか、12気筒エンジンを積むウルトラ・ラグジュアリーなスポーツカーがどれだけ売れるかなんて、まさに神のみぞ知る問題。たとえ天下のフェラーリでも、おいそれと手を出すわけにはいかない難問だったのである。
しかし、その困難を乗り越えて、この2024年の現代にドーディチ・チリンドリ(ちょっとしつこいので、ここからは12チリンドリと表記させていただく)を敢えて世に送り出したのは、先ほどもご説明したとおり「12気筒こそがフェラーリ」という強い自負があったから。つまり、これは「作る・作らない」「売れる・売れない」の問題ではなく、フェラーリのプライドをかけたチャレンジだったのだ。しかも、フェラーリはただ排ガス規制をクリアしただけでなく、先代にあたる812スーパーファストよりもパワーアップしてきたのだから恐れ入る。ちなみに最高出力は812スーパーファストを30psも上回る830ps。そんなスペックにも、フェラーリの意地とプライドが込められているような気がする。
デザインも見どころが多い
古くからのフェラーリ・ファンなら、12チリンドリのヘッドライト回りを見ただけで「あ、デイトナだ!」と思うだろう。1968年デビューのデイトナは一種のニックネームで、365GTB/4が正式なモデル名なのだけれど、ヘッドライトを透明なカバーで覆った外観はまさにデイトナとうりふたつ。そしてヘッドライトの間を黒いパネルでつないだところも前期型デイトナにそっくりだ。
いかにもスポーツカーらしい「ロングノーズ・ショートデッキ(ボンネットが長くて、リア回りがコンパクトなデザインのこと)」のプロポーションもどこか365GTB/4に似ているけれど、それ以上に目を惹くのが、12チリンドリの後姿をやや高い位置から見たときに浮かび上がってくる黒いグラフィックパターンだ。ルーフ部分とリアウィンドウ周りに設けられたこのデザイン、なんとなく凹と凸を組み合わせたような形にも見えるけれど、このうちの凸の部分を、チーフデザイナーのフラヴィオ・マンゾーニさんは「デルタウィング・コンセプト」と呼んでいた。要は超音速ジェット機の三角翼にヒントを得たデザインということだが、クルマにこんな大きなグラフィックが描かれるのは異例なこと。この辺、常に新しいデザインにチャレンジしようとするフェラーリの心意気が表れているような気がする。
もうひとつ注目したいのが、ルーフが固定されたクーペにくわえて、ボタンひとつでルーフを開閉できるコンバーティブルモデルの「12チリンドリ・スパイダー」が同時にデビューしたこと。12気筒フェラーリをオープンにしてゆったりと流すなんて、このうえなく優雅でぜいたくな感じがする。ちなみにお値段はクーペが39万5000ユーロ(約6600万円)で、スパイダーはおよそその10%増しと、こちらもかなりの“ぜいたくさ”。それでも、あっという間に売り切れてしまうのが最近のフェラーリの底力だったりするので、ピンときた方は早めに正規ディーラーを訪ねることをお勧めしておく。