COGNOMEN 大江マイケル仁に訊く、ブラジルで撮影したフォトブックの誕生秘話

南米でのエピソードや〈COGNOMEN〉の将来像について

ファッション 
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2019年に立ち上がった日本のファッションブランド〈COGNOMEN(コグノーメン)〉が、ブラジルで2024年秋冬コレクションの撮影をおこなったフォトブック『OUTRO LADO』を発売する。

大江マイケル仁がデザイナーを務める〈COGNOMEN〉はイギリスやフットボールなど、自身のルーツを服作りに取り入れているファッションブランドで、2020年秋冬シーズンにデビューを果たした。大江マイケル仁は、1992年に日本人の父とイギリス人の母のもとにうまれ、高校生まではサッカー漬けの日々を送る。プロサッカー選手への道を諦めたことを機にファッションへ進み、2015年に文化服装学院ファッション高度専門士科を卒業。国内ブランドで経験を積んだのち、2019年に自身のブランド〈COGNOMEN〉を立ち上げた。2023年には東京・大井ホッケー競技場で24SSのファッションショーを成功させた彼だが、そのときの経験が今回のブラジル行きに繋がり、フォトブックの制作に至ったという。

今回『Hypebeast』では、フォトブックの発売に至った経緯や現地でのエピソードについて、大江マイケル仁に話を訊いた。

Hypebeast:まずはCOGNOMENというブランドのコンセプトについて教えてください。

COGNOMENのキーワードには『多文化共生』があります。文字通り、多くの文化がお互い影響しあって共に生きているような服作り・チーム作りを目指していて、たとえばファーストコレクションで作ったアランニットは、背面にサッカーユニフォームの背番号を表現するにあたって、プリントではなく、編み込みで数字の”11”を立体的に浮かび上がらせることで、できあがった製品に加工するのではなくて、生地のなかに共存させています。

ブラジルで撮影をおこなった経緯は?

2024年春夏のショーで、Caetano Veloso(カエターノ・ヴェローゾ)というブラジル人歌手の曲をフィナーレに選んだのですが、選曲にあたってヴェローゾを深堀りしたときに、彼が「トロピカリア」という、1960年代後半に起こったムーブメントの中心人物だったことを知ったことがきっかけです。トロピカリアとは、音楽を中心に、美術や演劇、映画などに他国の文化を積極的に取り入れようとする芸術運動で、それがCOGNOMENの目指す多文化共生というコンセプトにマッチしていることを知って、トロピカリアの精神に仲間入りしたいと感じたんです。ただ、それを軽い気持ちで表現するのはちょっと無責任だな、と。なので、トロピカリアに影響を受けた24AWの服をブラジルに持っていって、トロピカリアを表現した撮影をするためにブラジルに行きました。トロピカリアが起こった背景には、1964年から始まった軍事政権による情報統制や抑圧があり、その抵抗として作曲家や詩人、演劇作家などの芸術家が外の文化を取り入れて、新しい表現が盛り上がっていったのですが、僕たちもその精神にならってブラジルに入り、文化を吸収して、血肉にして表現しよう、と。そんな考えに至って、ムーブメントの中心地であったリオデジャネイロへ行きました。

じっさいの撮影はどのようにおこなったのですか?

とりあえずリオ行きのチケットだけ買って、それからモデル、コーディネーター、ドライバーなどを探していきました。あとボディガードも(笑)。2023年秋冬のショーでランウェイを歩いてくれたブラジル人のモデルがいたので、そこから芋づる式につてを辿って、あらゆる人の力を借りながら進めていった感じですね。滞在期間は6泊7日で、メンバーはカメラマンの西川(元基)君と僕と、友だち2人。なんで友だちが来たのかはわからないですけど(笑)、自腹で来てくれたんですよ。とても力になってくれました。ほかには現地のコーディネーターやボディガード、モデル4人など含めて総勢12人くらいでしょうか。

フォトブックというアウトプット形式を選んだ理由は?

もともと決めていたわけではなかったのですが、現地に着くなり西川くんが「これは絶対写真集にした方がいいよ」と言ったんです。まだ1度もシャッターを切っていないのに。たしかに、僕も着いた瞬間から感じたエネルギーがあって、この感覚を紙ベースの作品に残したいと思いました。その場で「白い立体」というデザイン事務所の吉田昌平さんに「いまブラジルにいるんですが……」と電話すると、笑いながらも協力していただきました。

現地に到着してからはどのように進行しましたか?

着いたらまずブラジルで最も“リアル”な場所で撮りたいと思っていたので、「ファベーラ」に行くことを決めていました。ファベーラとは、リオデジャネイロの人口の4分の1が住んでいると言われている、簡単に言ってしまえばスラムのような場所なのですが、深くまで入るのはガイドなしでは危険な場所で、だからこそブラジルのリアルが詰まっているはずだと思っていました。また、ここでの撮影をやり切ればもう怖いものはないし、その後も絶対に良い写真が撮れるだろう、という狙いもありました。これ(上の見開き左の写真)はファベーラで撮ったものです。小さい家屋が密集しているなかに、ポツンとフットサルコートが佇んでいるところがブラジルらしいですよね。

ファベーラはどんな場所でしたか?

最終的には3つのファベーラで撮影をしたのですが、まず入った所で案内してくれたガードマンが「BOPE(ボッピ)」という軍警察の特殊部隊から派遣された人でした。つまりは国に従事する人なんですけど、道行くおじさんや子供に挨拶をされていて、なぜかを聞いたら、そのファベーラは国が管理していて、彼らがインフラを整えたり、治安を維持しているからだそうです。ロケについても管理されていて、僕たちも例外なく撮影費を数十万円ほど支払いました。かなり高いですが、それは公費に充てられるそうです。詳細については教えてもらえませんでしたが(笑)。なのでさっき“スラム”という表現をしましたが、正確にはただの貧民街ではなく、秩序が存在していて下町のような雰囲気がある。じっさい、ファベーラに住んでいる人たちはファベーラとは言わず「コミュニダージ」、ポルトガル語でコミュニティと呼んでいます。

それ以外では、車を走らせながら1日中あらゆるところを回って、路上、公園、ビーチ、美術館など、最終的に20ロケーションくらいで撮りました。

写真には現地の人もたくさん写っているのが印象的です。

撮影してると勝手にみんな入ってきて、むしろモデルがちょっと引いてた(笑)。撮影は今年の1月末で、2月にリオのカーニバルが始まるので、そこに向かっていくエネルギーがすごかった。朝7時くらいになると、街のどこかから音楽が聞こえはじめる。みんな朝からお酒を飲んで、夜まで騒ぐ。そんななかで僕らは真面目に撮影してる、異様な光景だったと思います。

撮影を通してトロピカリアを感じられた瞬間はありましたか?

時代がまったく違うので直接感じるということは難しかったですが、トロピカリアの精神をリオデジャネイロは受け継いでいるなと思いました。サンパウロではテクノとかハウスのような近代的な音楽が盛んですが、リオではボサノバとロックが掛け合わさったようなサウンドとか、あとは「ファンキ」っていうファベーラのヒップホップとか。それもブラジル独特のリズムで成り立っていて、マイアミのヒップホップをブラジルなりに消化している。トロピカリアに通ずる“文化の吸収”が当たり前におこなわれて、街のカルチャーに反映されていると解釈しました。

フォトブックの中で最も印象に残っている1枚を教えてください。

もちろんすべて印象に残っていますけど、どうしても選ばなきゃいけないならこれ(上の写真)ですね。左に写っているのは現地の人なんですが、COGNOMENを着たモデルの表情とのコントラストもあって、すごく気に入っています。よくあるファッションシュートとは違って、これは現地に行かないと絶対に撮ることができない。街のエネルギーが1番よく現れている写真だと思います。

これからCOGNOMENをどんなブランドに育てていくつもりですか?

この写真集を作って改めて感じたことは、よい作品を作るためには、たくさんの関係者が、お互いに考えていることを隅々まで共有しあわなければいけないということです。いまの時代は簡単になんでも作れてしまいますが、議論を重ねてアイデアをブラッシュアップして、最終的にひとつのブランドとして丁寧に伝えていく作業には時間が必要です。今回はひとつの撮影を通じて、カメラマンやコーディネーターとの連携、写真製作所との打ち合わせ、リリースイベント、書店でのトークイベントなど、たくさんの人と関わり合ってCOGNOMENを表現しました。そういう細かいコミュニケーション、小さい挑戦を共有し合うことが、「COGNOMENとはなにか」ということを伝えることであり、この積み重ねの先に大きな挑戦があるのだと思います。だからいまは、目の前にある小さなことにひとつひとつ対峙しているところです。

COGNOMENは、フォトブック『OUTRO LADO』の発売を記念したリリースイベントを、2024年5月10日から「ギャラリー月極」で開催する。イベントでは、フォトブックの写真を使用した限定ニットTシャツも発売される。デザイナーの大江はニットTシャツについて「フォトブックに全力をかけたからこそ、ただのプリントTシャツは作りたくなかった。あえてニット地を使用して画像に“かすれ感”がでることで、より現地の雰囲気が伝わる1枚になった」と語った。

リリースイベント
会場:ギャラリー月極
住所:東京都目黒区中央町1-3-2
会期:5月10日(金)〜5月12日(日)

フォトブック
タイトル:『OUTRO LADO』
著書:COGNOMEN
写真:西川元基
価格:¥5,500
デザイン:吉田昌平(白い立体)

PHOTO KNIT TEE
定価:3万7400円
素材:綿100%
サイズ:M、L
カラー:ブラック

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テキスト
Writer
Go Yonenaga
フォトグラファー
Ko Tsuchiya
エディター
Noriaki Moriguchi / Hypebeast
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