佐藤可士和 x 河村康輔スペシャル対談 - 前代未聞のプロジェクト “WITH UT” とは
佐藤可士和と河村康輔の両名が、“WITH UT”の製作秘話や今後の展開などを語る
Andy Warhol(アンディ・ウォーホル)のTシャツからスタートした〈UNIQLO(ユニクロ)〉のTシャツブランド〈UT(ユーティー)〉は、20年間にわたり、Tシャツを通して、さまざまカルチャーを伝達してきた。約1年前にアーティストの河村康輔をクリエイティブ・ディレクターに迎え、ブランドの根っこは変わらずとも、新たなフェーズへと移行。河村康輔にとって初の春夏コレクションとなる今季を境に〈UT〉は“WITH UT(ウィズ ユーティー)”と称する新たなプロジェクトを打ち出す。これに際して〈UT〉の発起人でもある佐藤可士和がクリエイティブに参画。ご存知の方も多いと思うが〈UNIQLO〉のロゴを手掛けたのも佐藤可士和であり、ブランドの特性を知り尽くした人物と言えるだろう。佐藤可士和がクリエイティブを直接手掛けたのは、2021年に『国立新美術館』で開催された“佐藤可士和展”でのTシャツコレクションとなり、約2年ぶりの協業に。今回の取り組みでは、佐藤氏の手掛けた“WITH UT”のメッセージを体現するロゴとキャンペーンビジュアルが、東京、札幌、名古屋、大阪、博多の街に、屋外・交通広告として順次展開されていく。下記で本人たちも述べているが、そのビジュアルはこれまで・これからリリースされていく幅広いコラボレーターの作品を1つのアートワークに収めるという、ジャンルや版権元の垣根を超えた“前代未聞”というべき作品に仕上がっている。
今回『Hypebeast』では、そんな“WITH UT”に込めたメッセージを紐解くべく、佐藤可士和と河村康輔の対談を実施。製作秘話や今後の展開などを中心に語ってもらった。
Hypebeast:“WITH UT”のコンセプトについて、背景やメッセージなど教えてください。
佐藤:UTはもともとTシャツのプラットフォームとして立ち上げました。Tシャツはメディアであり、そこにさまざまなカルチャーが載る形になるのですが、カルチャーをリスペクトしているという意思を改めて表明したくて。カルチャーと共にありたい。共にあるものをお届けするという意味を込めて“WITH UT”。
“WITH UT”のロゴデザインについてご解説いただけますか。
佐藤:上のボックスの中には何が入ってもいいと思っています。日本語でも英語でも他の言語でもいいのですが、自由に書いてもらえるようなコンセプト。これからもそこが無限に拡張するようなイメージ。
河村:ボックスにハマるものが入れ替わっていくような感じですよね。
佐藤:UTは日本発のブランドとして考えているのですが、それはサブカルチャーもメインカルチャーも、マイナーもメジャーも全てフラットに扱うっていうのが日本ぽいと思っていて。
UTのコラボレーターは本当に幅広いですよね。
河村:僕も入ってからその幅の広さにはびっくりしました。普通だとどちらかに偏りがちなものですが、全てのジャンルや上下が均等にあるというか。
佐藤:そこはUNIQLOならではなのかなって。他のファッションブランドだと狙っている層がもっと狭いというか、はっきりしているでしょ。UNIQLOは“MADE FOR ALL”だからね。それをTシャツというメディアで体現しているのがUTなんだよね。
UNIQLOやUTの記事はサイト内でも反響が高いのですが、やはり興味のある母数が多いのかなっていつも思います。
河村:そうですよね、どこからでもアクセスできるというか。ピンポイントだと引っ掛からなければ確実にスルーされますが、例えば100人いたら、そこのどこかしらにアピールできる。
コラボレーターのアイコニックなビジュアルが使われていますが、どのように製作されたのですか?
佐藤:“WITH UT”をそのまま可視化しました。巨人がUTの壁を掴んでたり、UTロゴが仮面ライダーのマフラーになっていたり、ゴジラの崩れたビルになってたり、ビジュアルにロゴをくっ付けてるのではなく、ロゴを作品内に入れ込んで、“WITH UT”をビジュアライズしたものです。こちらでラフを作って、仕上げをコラボレーター側にやってもらっている場合もあれば、進撃の巨人は素材をもらって、壁にかかっている手はこちらでデザインしたりと、そのカルチャーに寄り添って一緒に作り上げるという、まさに協業でしたね。1箇所とだったら、そういうやり方もあるかと思いますが、これだけの数をいっぺんにやっていますからね。去年の年末ぐらいからスタートしたのですが、作品ごとに全てのビジュアルを1つずつデザインしてるので、量が多いからすごい大変でした。
河村:ラフを最初に見た時に、権利だったりいろいろなレギュレーション上「これ通るのか?」と思ったのですが、ラフの段階からそこまで変更なく、ほぼそのまま形になりましたよね。僕は作り手側なので、製作サイドの苦労がよくわかるから「本当に実現したんだ」と感動しました。UNIQLOやUTじゃないと、絶対にできなかったと思いますし、ビジュアルが公開された時に、世の中にどう受け止められるか楽しみです。
佐藤:こういうコンセプトのキャンペーンだから一緒にやりましょうっていう提案を各所にしようと。プロジェクトの趣旨と全体感がわかると、皆さん納得いただけて、普通でもやらないようなプロジェクトにご協力いただけました。
河村:僕もまだTシャツのことで一杯一杯な時に、このプロジェクトが入ってきて(笑)。Tシャツを作っていても、横の並びは重要で、それ次第で可否が変わったり、時期が少しズレれば可能になるという状況を見ている中で、これだけの作品を一斉に全部並べるって……。僕もいろいろなプロジェクトを経験していますが、見たことないレベルでした。
佐藤:それも今回こだわった点で、“WITH UT”っていう全体コンセプトを明確に打ち出したかったのです。発売時期に合わせて、コンテンツのビジュアルを出していくのは今までもやっていましたが、それだと全体感が最初に伝わらない。シーズンが終わった頃には理解してもらえるかもしれませんが、それだと遅いと思っていて。「WITH UTとはこういうことなんです」というメッセージを最初にしっかり伝えないと意味がない。
河村:最初に「こういうことなんだ」っていうコンセプトを伝えて、そこからそこに紐づくプロジェクトがリリースされていく。これがプロモーションの一番正しいやり方なのではと思っています。
交通広告、屋外広告は今後世界にも展開されていきますか?
佐藤:世界4カ国で屋外広告が予定されていて、あとは全世界の店舗で店内の装飾として展開されていきます。
河村さんは、クリエイティブディレクター就任から1年が経ちましたが、これまでを振り返っての所感など教えてください。
河村:最初の1年は本当にバタバタでした。これまでもTシャツ自体は作ってきましたが、それとは全く別物でしたね。ジャンルの広さもそうですが、今までは自分でデザインしてたものが、いろいろなデザイナーが手掛けたものを見て、判断して、修正してなど、そういったルーティンを自分の体と頭に叩き込む1年だったなと。今年の1月ぐらいから自分で手掛けたTシャツが店頭に並び始めたのですが、これは売れて、これは難しかったなどの結果を見て、今は自分の中で答え合わせ+今後の勉強している感覚です。思った以上にやらないといけない・吸収しないといけないことの量が多かったですね。1年が早いってよく言われるじゃないですか、僕の去年の速度は異常でしたね(笑)。発売された!って噛み締める前に次のプロジェクトが来るので、そこに向かって修正もしていかないといけないし、ずっと進み続けている感覚です、
佐藤:それがまた大変なんだよね、発売の余韻に浸れない(笑)。UTが面白いのが、国によって売れるものが違うんですよ。同じコンテンツでも、柄とか色の売れ筋が全然違う。逆にどの国でも共通して売れるものもあるから、面白いんですよね。なかなか完全には読み切れない。
河村:僕もそれは衝撃でした。海外の方がイケるでしょって思ったものが肩透かしを喰らって、逆に国内で売れたり。あとは発売されるまでのタイムラグでトレンドが変わってたり。それが他のブランドと違う点。他のブランドだと3カ月後とか半年後には発売されていますが、UTは基本1年後なので、そこの先読みやタイムラグを埋める感覚を身に付けていかないといけないと、この1年で実感しました。
佐藤さん、UTが誕生してから、20年が経ちましたが、河村さんを迎えて今後どのような動きを期待されますか?
佐藤:河村くんが入って、UTに尖った部分が戻ってきたのはすごく良かったなって思っています。深いカルチャーに対するリスペクトなど、もともとUTが持っていた要素が、河村くんの加入でリマインドされたというか。河村くんがあまり馴染みのないカルチャーに対しても、河村くんの得意とする深い視点から見ることで、また新しいものが生まれるんじゃないかなと思います。
“WITH UT”のメッセージのもと、どういったアイテムを展開していきますか?
河村:去年までも広くやっていたつもりなのですが、自分の得意な部分にフォーカスしていた部分もあるので、それを活かしつつ、“WITH UT”のロゴに四角には何が入ってもいいとお話ししましたが、もっと広い目でトライしていけたらいいなって。ロゴに忠実に。