野村訓市が偏愛する Vans Authentic のタイムレスな魅力と TRIPSTER コラボの裏側 | Sole Mates

「初めて作るスニーカーだから、自分が普段履いているAuthenticじゃないとダメだと思って」

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野村訓市のトレードマークといえば、サングラスと並び、履き込まれた〈Vans(ヴァンズ)〉を思い浮かべる人も少なくないだろう。しばしば行動を共にさせてもらう筆者が知る限り、同ブランドのComfyCush Authentic(コンフィクッシュ オーセンティック)を国内外問わず、ほぼ毎日着用している野村氏。そんな折に「TRIPSTER(トリップスター)」とのコラボレーションモデルがリリースされるのだから、世の中的にも筆者個人的にも一大事なわけである。

リリースのたびに即完する〈Dickies(ディッキーズ)〉のスーツが良い例だが、本人が望まざるとも、日本一HYPEなプロダクトを作り出してしまう(と言っても過言ではない)野村訓市。直近では〈Carhartt WIP(カーハート WIP)〉〈THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)〉などが記憶に新しいが、こういった業界のトップランナーが特定のブランドやラインを持たない個人とコラボもしくは別注を実施するのは極めて珍しい(※大半の物が意図的に「TRIPSTER」名義にはなっている)。しかも今回は、インタビューでも述べられている通り、野村訓市が手掛ける初のシューズとなるので、輪をかけて一大事なわけである。

本稿では、シーンのキーパーソンたちに生涯の1足を紹介してもらう企画 “Sole Mates(ソールメイト)”において、野村訓市の偏愛する〈Vans〉Authenticのタイムレスな魅力や発売までに3年半を要した「TRIPSTER」コラボの裏側についてを深掘り。最終のプロダクトが野村氏の手元に届いた当日に事務所にお邪魔し、実際に店頭に並ぶ現物を手に取りながら説明してもらった。

野村訓市が偏愛する Vans Authentic のタイムレスな魅力と TRIPSTER コラボの裏側  | Sole Mates

Hypebeast:Vansを初めて履いたのはいつなんですか?

一番最初を思い返すと、BMX乗っている頃に新代田にあったWildcat(ワイルドキャット)っていうお店に行ってたんだけど、そにBMX用のスニーカーが売ってて、Slip-On(スリッポン)とかがドル高で14,000円ぐらいだったかな。でも吉祥寺のスニーカー屋で叩き売りしてることがあって、それで買ったのが最初だと思う。

何歳ぐらいですか?

10歳。1984年とかじゃないかな。

その時点でスニーカーに興味があったのですか?

スニーカーに興味があったんじゃなくて、それを履いたらうまくなるんじゃないかって思って欲しかった。結構早いと思う。

相当早いです(笑)。Vansで最初に履いたのはSlip-Onだったことですね。

だったと思う。その後、中1の時にLA行って、ハンティントンビーチにVansの直営店があったんだよね。そこ行くと自分でパーツごとに注文できるの。例えば右足と左足をカラーとか柄を変えたりね。80年代のまだアメリカ製の時。そこでSK8 Hi(スケート ハイ)とかオーダーしたね。1カ月ぐらいで出来るんだけど。

スケートをよくやっていた時代にVans以外のスケートブランドのシューズは履いてたんですか?

履かない。中学の時は周りも含めてVansかAir Jordan 1(エアジョーダン 1)かConverse(コンバース)とか。個人的にはちょっとボテッとしたシルエットが苦手なんだよね。Vansも昔はそういうのも作ってたけど、基本的にシンプルなのが多いよね。シグネチャーで一番ゴツいのでも、Steve Caballero(スティーブ・キャバレロ)とかじゃないかな。

他のブランドと比較して、Vansの魅力は?

安い・どこでも売ってる。Hanes(ヘインズ)の白Tみたいなもんで、Authenticの黒とかいつでも履くから。履き潰してもどこでも売ってるし、Vansは定番色が今季は出ないとかないじゃん。特にABC-MART(ABCマート)で売るようになってから、安く買えるようになったし、ジーンズメイトでDickies(ディッキーズ)を買ってるような感覚かな。ABCがライセンスを取って、自社で作るようになる前までは、高いのに壊れるっていう、すごい靴だったんだよ(笑)。オーリーの練習とかすると、すぐ穴開いちゃうから、みんなダクトデープとか貼ってた。もったいなくて(笑)。憧れたプロたちはスポンサーを受けてて毎日新しいのもらってるとか、俺たちは知らなくて。上手いから穴開かないのかとか言ってたけど、全然そんなことはない(笑)。

Authenticばかりを履き続ける理由は?

他のモデルも履くよ。昔はSK8 Hiの方が履いてたし。この15年ぐらいはAuthenticだけど。ほぼ装飾がなくて、プレーンな革靴みたいなもんじゃん。アメリカで買っても(Vansの中では)一番安いんじゃないかな。Tシャツとか501とかネルシャツみたいなもんだね。スラックスとかでもなんでも合うしね。

Vansだとヴィンテージを探している人もいますが、シルエットの変化は気にならないですか?

なるけどならない。利便性が勝つね。要は消耗品だから靴って。昔の方がラストが尖ってて良いとかあるけど、俺は毎日コーディネートとか組んでるわけでもないから、普通に履けることを優先してる。

年に何足買うんですか?

Authenticは年に3回履き潰す。ソールが壊れちゃって。

前に履いてたのも「えっこんなところに穴空いてるんだ」みたいになってましたよね。

ハードに履くからね。酒をこぼして、毎日酔っ払って歩いてると、ああなるんだよ(笑)。

今回のコラボは、どういったきっかけで作ることになったんですか?

話を始めたのは2019年。アメリカのSyndicate(シンジゲート)とかやってた奴らと仲良くて、仕事も昔手伝ってたし。「日本でVans作ろうかな」って彼らに言ってたら、「お前がやりたいのはアメリカモデルだから、日本規格だとできないぞ。こっちでやるから」って。それで、サンプルが次の春に届くはずが、コロナになっちゃったのよ。遅れて届いたサンプルが全然指示通りになってなくて、もう1回作ってくれって言ったんだけど、その時点で2021年ぐらいになってたんだよね。Vansのアジア本社が香港から上海に移転するタイミングと重なって、人が辞めちゃったりして、引き継ぎがうまくいってなかったみたいで。半年ぐらい次のサンプルが来ないから、確認してみたら動いてなかったりとか、そういうのを繰り返して、ここまで引っ張ったというか3年半ぐらいかかったな。本当は2020年の冬ぐらいに出そうとしてたんだけど(笑)。

Vansとはいつから一緒に仕事してたんですか?

2000年代かな。なんか知り合って、いろんなことやってたけど、Shawn Stussy(ショーン・ステューシー)とかコラボ相手を繋げて一緒にやったり。

ちなみにシューズを作るのは初ですよね?

初。だから自分が普段履いてるAuthenticじゃないとダメだと思って。

2019年当初のアイデアから変わってないんですか?

そうだね、グラフィッカーじゃないから派手なグラフィック物とかは作らないし。スーツでも短パンでも履ける、要は自分の普段の格好でも履けるっていうと、何もしないのが一番なんだけど(笑)、それだと話が終わっちゃうから。例えば現場用だとすると、作業靴とかスエードは傷が付きづらいとか水が跳ねても大丈夫とかあるから、つま先はスエードにして、70〜80年代のナイロン製ランニングシューズが好きだったから、アッパーはナイロンにしたんだ。夏に陽が当たると光沢が出ていいんだよね。シュータンもペラペラだと痛いから、これも昔のランニングシューズをモチーフにしてる。ウレタンを貼って、わざと切りっぱなしにして。あとは、内装やると中入って外出る時って、踵をついつい踏んじゃうだけど、Authenticってホールドが弱いから、見た目的な部分もあるけど、同じく昔のランニングモデルによくあったスタビライザーを付けてみた。結構、試行錯誤したんだよ。とにかく余計なグラフィックは入れたくなかったから、ロゴとか入ってるのはシュータンとピスネームぐらい。昔のLA気分を出したかったから、裏面には“ASK THE DUST”って俺の一番好きなLAの人が書いた小説のタイトルが入ってるんだ。あとはシューレースのメジャーかな。前に肘までメジャーを描いたロンTを作ったこともあるんだけど、黄色くなってる部分は、某メーカーが調べた日本人の平均の〇〇の長さっていう(一同、大爆笑)。今回の靴紐もそれと同じような感じで、しかも表と裏でインチとセンチになってるんだよ。普通のデザインがシンプルで一番履きやすいから、それからどうやってアップデートするかっていうか、デザイン的に手を加えたのは、自分の中ではスタビライザーを同色にしないで差し色に使ったぐらい。それ以外は素材の色だったりするからね。靴紐のメジャーもあったら便利じゃん、外すの面倒だけど。(※ちなみに、靴紐メジャーは本当に使用可能なしっかりした作りで、現場に忘れるという実体験からのアイデアだったそう)

野村訓市が偏愛する Vans Authentic のタイムレスな魅力と TRIPSTER コラボの裏側  | Sole Mates

以前に自分の気に入ってるものだったら、特にいじる必要はないという話をされてましたが。

ないけど、じゃあ何か作るかってなった時に、「これだったら、このブランドにはないから有りかな」っていう物が思い付いた時に、機会があったら、やらしてもらってる。その文脈でいくと、今回も自分なりのアップデートにはなったかなって。

この3色にしたのは?

黒を作るのはつまらないけど、自分が一番黒を履くから黒は必要。白い服も着るから白も必要。あと何色にしようかなって時に、なんとなく赤にした。本当は他にも水色とか考えていたんだけど、サンプルをまた作ると発売が延びるのがわかってたから、最初の条件から動かさないっていうのが大事だなって(笑)。

販路はどう決めたんですか?

Vault(ボルト)を扱うようなセレクトショップとかはやめて、箱も特別に作ると値段が上がるから普通のにしてもらって、ABCの普通の路面店で平積みにしてくれって言った。その方が面白いじゃん(笑)。別に普段靴だからさ、普通に買えるようにしたかった。

今回採用されたComfyCushはいつから履いてるんですか?

最初に出たのは5〜6年前だと思うんだけど、俺も始めは気付いてなくて。たまたま靴擦れを起こしたっていう連れがいたんだけど、Ron Herman(ロンハーマン)の近くにいたから、店入って、Authenticの黒を薦めたんだよね、安いし。そしたら、店員に「これ実は違うモデルで、野村さんあんまり好みじゃないかもしれないんですが、すごく軽いんですよ」って申し訳なさそうに言われて、持ったら「軽っ!」みたいな。すぐ俺のサイズも用意してもらって、履いたら柔らかいし、歩く仕事が多い人にはすごい楽で、普通のAuthenticを全部入れ替えたよ。その後、すぐにLAに行くことがあって、Vansの友達たちに聞いたら「オンラインでなかなか売れないんだよね」って言われて、ぱっと見一緒なのに20〜30ドル高いから売れないみたいで。だから“Pick Me”みたいなタグを付けて「1回持ってみろ」ってお店に置いてみたら、みんな買うよって話したんだよ。LAの自分の周りにもComfyCushを布教活動したら、40オーバーはみんな履き始めるっていう(笑)。これがComfyCushとの出会い。俺にとっては待ちに待った機能性スニーカーだったわけよ。いろんな物をもらうから、夜中の散歩で試しに最新のスニーカーも履いてみるんだけど、今の俺の服装には合わないって。ComfyCushは昔の形してるけど、要はハイテクシューズなわけじゃん。こういうのを待ってた。側だけ昔のランクルなんだけど、新型エンジンとサスペンションが入ってるようなもんじゃない。

その靴擦れの出来事がなければ、ComfyCushを知らなかったかもしれないですね(笑)。

そう、超偶然(笑)。気付かないぐらいさりげない登場だったんだよ。もしかしたら、今頃まだ知らずに重たいコラボ物とかを喜んで履いてたかしれない(笑)。

他にVansにまつわるエピソードとか、どんな人に履いてもらいたいとかありますか?

履くようになってから40年ぐらい経ってるからね。何足履き潰したことか。最初の方の取材とかってタクシーも乗れないから、すげー歩いてた。1回の旅行で1足履き潰してたから。「もう少し歩きやすい靴でやれば?」って言われたこともあるけど(笑)。でも、これだったら歩けるぜ(笑)。立ち仕事で、工場にいる人で車が好きとかバイクが好きって人で、Vans履きたいって人はこれの方が楽だと思う。絶対に。あとは40オーバーのグルコサミンが足りなくなってきた人にお勧め(笑)。

野村訓市が偏愛する Vans Authentic のタイムレスな魅力と TRIPSTER コラボの裏側  | Sole Mates

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インタビュアー
Yuki Abe / Hypebeast
フォトグラファー
Yuji Kaneko / Hypebeast
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