なぜ FRGMT のロゴが入っているのか!? 日産キャラバンの謎に迫る!
@kentatokyodriveという『Instagram』のアカウントに、藤原ヒロシがデザインしたらしき「日産」キャラバンの画像が投稿されていた。『Hypebeast』編集部はこの謎を解明するため、発信者のKentaにコンタクトを取った──












めっちゃクールだけど、謎に包まれた1台
ことの発端は、〈Tokyo Drive Car Club(トーキョードライブカークラブ)〉のKENTA氏がインスタに投稿した3点の写真だった。〈Tokyo Drive Car Club〉とは、クールなアパレルで東京のクルマ文化を盛り上げる集団で、たとえば〈LOOPWHEELER(ループウィラー)〉とコラボしたフーディはあっという間に完売するほど、尖ったクルマ好きの間で存在感を放っている。
で、KENTA氏が投稿したのが、3点の「日産」キャラバン(CARAVAN)の写真だった。もちろんただのキャラバンではなく、ボディサイドには〈FRGMT(フラグメント、fragment design)〉のロゴが! インテリアは謎にエスニック&ラグジュアリーな雰囲気で、3枚目の写真、「日産」キャラバンのリアビューにも〈FRGMT〉のロゴが入っている。なぜこのロゴが! 聞いていないよ! と、クルマ好きの間で話題となったのだ。
ただしインスタの投稿に具体的な説明はなく、「エクステリアのカラーはクールで、インテリアにはヴィンテージのペルシアン・ラグを使っている」という主旨の簡単な説明が記されているのみ。しかも3枚目の写真には、背中に“STOP MAKING SENSE”とプリントされたジャケットを羽織る人物の後ろ姿が写っている。“STOP MAKING SENSE”とはトーキング・ヘッズのライブ映画のタイトルであるけれど、つまり、意味を見つけようとするな、というメッセージか……。
けれども、意味を見つけようとするなと言われれば、意味を探したくなるのが性というもの。われわれ『Hypebeast』取材班は、ツテを頼ってKENTA氏とコンタクトすることに成功、「日産」キャラバンと〈FRGMT〉の関係について話を聞く確約を得た。
KENTA氏が取材場所に指定したのは、超高級車の販売やメンテ、カスタマイズを全国で展開する「bond」の東京支店だった。大田区の『bond TOKYO』に到着すると、そこにはKENTAさんと「bond」の飯村洋平さんが、「日産」キャラバンとともにわれわれを待ち受けていた。
さて取材開始、というところで、『bond TOKYO』の前にタクシーが停まり、見覚えのある女性が降りてきた。だれかと思えば、タレント活動のほかに、企画会社の経営者兼クリエイティブディレクターとして大活躍中の水沢アリーさんだった。アリーさんもこの件に関係しているのか!? 「日産」キャラバンの謎を解くために開始した取材活動であったけれど、思わぬ方向に話は展開する。
とりあえず、『bond TOKYO』の瀟洒なラウンジで話を聞くことになった。
スーパーカーをカスタマイズするノウハウを注入
そもそもは、アリーさんが経営する企画会社に、こんな相談があったことが出発点だったという。相談とは、「日産自動車」と一緒に何かおもしろい、そして新しい取り組みができないか、というものだった。アリーさんは振り返る。
「相談を受けた時に、私の頭に真っ先に浮かんだのが、KENTA君と(藤原)ヒロシさんでした。私はプロデュース案件のプロジェクトチームを作る時に、必ずその分野が好きで好きでたまらない、エキスパートを入れるようにしています。そうすることで、愛にあふれたプロジェクトになるからです。クルマだったらKENTA君だし、デザインだったらヒロシさん。このふたりに参加してもらうことからスタートしました。さて何をやろうかとアイデアを考えていたところ、ヒロシさんが日産キャラバンのデザインに興味を持たれていたことがわかったので、特別な1台のキャラバンを製作しようとプロジェクトの方向性が決まりました」
こうして、キャラバンの新たな可能性を表現するべく、キャラバンのカスタマイズのプロデュースが始まりました。藤原ヒロシさんとKENTAさんの間で最初に決まったのは、カスタマイズを「bond」に依頼するということだった。KENTAさんは、「キャラバンみたいな商用車としても使われるクルマを、スーパーカーを扱うbondでカスタマイズするのがおもしろいとヒロシさんはおっしゃっていましたね」と振り返る。
「bond」の飯村さんによれば、「キャラバンを扱うのは初めてでした」とのことだ。
ヒロシさん、KENTAさん、飯村さんの間でまず話し合われたのは、ボディカラーについてだった。KENTAさんによれば、キャラバンの8色のボディカラーのうち、白羽の矢が立ったのが“ステルスブルー(P)”という色だった。“(P)”とはパール塗装の意味で、光沢感のある塗装だ。
KENTAさんによれば、「最初、ヒロシさんはパールではなく、ソリッド塗装がいいと言ってたんですね」とのことだ。
ただし、“ステルスブルー(P)”の実車を見て、ヒロシさんは考えを改めたという。KENTAさんは、その時の様子をはっきりと覚えていた。
「この色は悪くないので、これを活かして、代りに下半分を黒のマットで塗って、2トーンにしよう、とヒロシさんがおっしゃったんです。Mac Bookでさらさらっとデザインして、それがすごく格好よかった」
ボディカラーとともに頭を悩ましたのが、グリルだった。KENTAさんはヒロシさんとともに埼玉県川口市の板金屋さんへ足を運び、グリルを探したという。KENTAさんによれば、グリル探しは試行錯誤の連続だったという。
「ベントレーっぽいメッシュのグリルとか、何種類も試してみましたが、どうもしっくりこない。だったら、と思って、オリジナルのグリルのメッキ部分をマットに塗ったらぴたっとハマったんです。ヒロシさんと、これだ!と盛り上がりました」
オリジナルを生かしたのは、ホイールも同様だった。当初はホイールキャップを外して“鉄ちんホイール”にしたり、何通りも試した。けれどもそうすると、どうしても“働くクルマ”っぽくなってしまったという。
「そこでオリジナルのホイールを塗装してみたらいい感じになって、でも塗料でNISSANのロゴが埋もれてしまったのでロゴだけ作りました。ええ、細かいところまでこだわっているんです」
テールゲートの「日産」のエンブレムを外して、代わりに「NISSAN」の文字を大きく入れることや、メッキ処理が施されていたドアミラーをボディと同じ色に塗るアイデアも、ヒロシさんの提案だった。
床にペルシア絨毯!?
ペルシア絨毯を用いた、エキゾチックなラグジュアリー感があるインテリもヒロシさんのアイデア。ヒロシさんが指定するインテリアメーカーから生地を取り寄せ、型をとってワンオフで製作した。こうした加工や、ボディ、グリル、ホイールなどの塗装は、「bond」の担当。普段、スーパーカーや超高級車を扱うノウハウを、飯村さんをはじめとするスタッフが日産キャラバンに注ぎ込んだのだ。
最後に全員が悩んだのが、〈FRGMT〉のロゴを入れるかどうか。けれども意外とあっさり決着したのは、ヒロシさんから「入れといたから〜」と、完成図がメールで送られてきたからだった。試行錯誤の結果、ペイントするよりも、ステッカーを貼ってその上からクリアを吹くほうがロゴはきれいに見えることがわかった。細かいことだけれど、こういうところにも「bond」の経験と技術が効いている。
こうして、〈FRGMT〉な日産キャラバンは完成した。水沢アリーさんは、完成車を見て心から感心したという。
「大きく変えているわけではないのに、すごくカッコよくなっていることに驚きました。盛ったり飾ったりするのではなく、削ぎ落とした表現のほうがインパクトはあることを知って、すごく勉強になります。デザインってこういうことなのか、と目からウロコが落ちる思いでした」
数カ月間、モヤモヤしていた「日産」キャラバンの謎が解けた。世界にたった1台、〈FRGMT〉のロゴが入った「日産」キャラバンを見かけたら、そこにはこんなストーリーがあったことを思い出してほしい。