Interviews: Nothing の CEO カール・ペイに訊く開発秘話とその先にあるもの

今最も注目を浴びる英国発テックメーカーの次なる戦略は?

テック&ガジェット 
7,071 Hypes

デザインに対して独自の哲学を持つ、英デジタルプロダクトブランド「Nothing(ナッシング)」は、今最も注目を浴びるテックメーカーの1つと言っていいだろう。2021年に発売し話題を呼んだ透明素材のワイヤレスイヤホン ear(1)は、その美しいアピアランスと性能の高さがあいまって、日本でも大きな反響を呼んだ。それに続いて噂となっていた独自開発のスマートフォン Phone(1)が、7月13日(現地時間)に英国にてローンチ。現地では早速レビュー合戦が始まり、今のところ期待通りの高評価を得ている。

「Nothing」のCEOを務めるCarl Pei(カール・ペイ)は、スウェーデン出身の起業家で、「GV(旧:Google Ventures)」をはじめとした著名投資家の支援を受けて2020年10月に同社を立ち上げた。ここではCarlにear(1)やPhone(1)の開発秘話と、彼の思い描く唯一無二のエコシステム、そして次に考えているヴィジョンなどを語ってもらった。


Hypebeast:7月のPhone(1)ローンチイベントはオンラインで見させていてだきましたが、とてもユニークなものでした。あれからどのように貴方の周りの環境が変化しましたか?

はい、Phone(1)を発売して以来、私を支えてくれる周りの人々や消費者の方々、そして私たちの製品を販売しているパートナー企業から、ものすごい数のフィードバックがありました。そしてまた、テック業界は変化の準備ができていると感じました。大手企業が出す製品はどれも同じようなものばかりで、消費者はこのマーケットのすべての製品に対して食傷気味なのだ、ということです。

そうですね、多くの人がスマートフォンを使ってますが、最近はちょっとしたアップデートや、色が加わるなどが繰り返されるだけで、仰るとおり初期の頃のようなエキサイティングな体験は無いかもしれません。ではNothingというブランドの始まりはどういうことから起こったのでしょう、きっかけは何ですか?

私は子供の頃からテックファンとして育ちました。日本製の携帯音楽プレーヤーを始め、iPodやiPhone、Android(アンドロイド)Phoneが出るたびに興奮していましたが、それ以上の驚きを与える商品は出て来なくなりました。そこで周りにいるさまざまな才能ある人達、Dyson(ダイソン)、Apple(アップル)、SUMSUNG(サムスン)などで働いていた仲間が集まって、こんなことを話し始めたわけです。「私たちは皆、大企業に勤めながら、つまらない製品を作っている」。つまり、スペックや機能を重視するあまりデジタルデバイスによって生活をより豊かにするという目的がおざなりになっている、と。そしてこの問題を解決するために、何か変革をもたらそうということになったんです。小さなチームを結成し、本当のテクノロジーの意味をより多くの人に知ってもらえるよう、出来ることから一緒にやり始めました。

なるほど、そういうところからスタートし、最初のプロダクトに着手したわけですね。Nothingブランドで初めて発売したear(1)は、全世界で56万台を出荷し、好調に推移していると聞いています。この成功の理由をどのように分析していますか?

我々だけでなく、市場も新しいものに飢えていたという証拠でしょう。ワイヤレスイヤホンはAppleが発明し、そしてAirPods、AirPods Proを発売すると、あらゆる企業が白いワイヤレスイヤホンをコピーし始め、似たようなデザインの製品がたくさん出てきましたよね、それらはすべてAppleワールドの中で生きているのです。でも我々は、他のみんなとは違うものを求める消費者がいると確信してました。それは毎日同じ服を着たくないと思ったり、人と被りたくない、自分らしさを表現したい、という気持ちと一緒です。そして彼らは自分らしさを表現するために他の人とは異なるイヤホンを持ちたいと考えていたのだと思います。

そうですね、ear(1)はパッケージもかっこいいですし、透明の素材パーツなどのデザインもモダンで、これを付けて街に出ると誰かがその存在に気づいてくれる、そう思わせるデザインです。「あれ、どこのだろう?」と。

ありがとうございます。ear(1)は間違いなく際立っているし、私たちのデザイナーは、とても良い仕事をしたと思います。

インタビュー:ナッシング CEO, Carl Pei に聞く開発秘話とその先にあるもの Interview: Interview with Carl Pei CEO of Nothing on the iPhone1 Development and Beyond

今度はPhone(1)について聞かせて下さい。今回発売されたPhone(1)の背面にあるLEDのパターンというか、配置には、何か意図があるのでしょうか?もしあれば、その意味を教えてください。また、その背景にはどのような秘密があるのでしょうか?

スマートフォンの多くは、前面がスクリーンで、背面にはカメラ機能以外は何もないと思います。そうすると、表面積の半分しか使っていないことになります。背面にはほぼ何の機能もない。そこで私たちは、50%のスペースに機能がないのだから、何かできることはないだろうかと考えました。そしてデザインチームが出した答えがこの“Glyph Intaface(グリフ・インターフェイス)”で、電球のフィラメントにインスパイアされた特徴的なデザインが施されています。ここには900個のLEDが配置され、例えば通話の認証、充電中の通知、また照明として使うことができるというものです。“Glyph Intaface”では、もっと多くの未来的システムに取り組んでいて、より多くの豊かなインタラクティブ、つまり色んなものとの繋がりを持てるようにするつもりです。私たちは任天堂の製品にも多くの影響を受けましたし、彼らは、パワフルで超高性能な製品でなくても、人と人との楽しい相互作用を作り出すことができることを証明したからです。初期の頃のゲームなどは正にそれです。

任天堂といえば、私たち日本人は子供の頃から知っているブランドです。他にもSonyにも影響を受けたと聞いています。特に印象に残っている製品はありますか?その製品にまつわる思い出をお聞かせください。また、それらはあなたの作品にどのような影響を与えましたか?今までで一番記憶に残るゲームは?

まずすぐに頭に浮かぶのはSonyのWalkman(ウォークマン)。あのカセットプレイヤーはとてもかっこよかったですし、思い出深い製品です。最近のものだと任天堂のWii(ウィー)はとても好きです。友人や家族と一緒に遊べる。そのように新しい遊びの体験ができるようになったことには感動しました。ゲームは初代ファミコンの頃からからやっていて、その頃一番好きだったのは“コントラ”というシューティングゲームですが、一番熱心にやったのは“ポケモン”です。私の製品のコードネームはすべてポケモンのキャラクターで呼ばれてるんですよ、Phone(1)は“Abra(アブラ、和名ケーシィ)”と社内で呼ばれています。

そんなところに日本のカルチャーの影響が出ているのは面白いですね。次は独自開発したNothing OSについて教えてください。他のOSとの違いなど。

今現在、多くのAnbdroid OSは重く、多くのフィーチャーとカスタマイズ機能があり、見た目も大きく異なります。しかし私たちのNothing OSはよりシンプルに、人々が使う本質的なものに焦点を当てたいと考えているのです。将来的には、スマートフォンと他の製品とのシームレスなエコシステム構築に時間とエネルギーを投資していくことになると思います。例えば、Phone(1)はear(1)と一緒に使うことでより良く機能しますし、Phone(1)のウィジェット機能から他のプロダクトもコントロール出来るようになる予定です。最近は自動車メーカーのTesla(テスラ)とも仕事をしていますが、彼らの車に接続してその機能をサポートしたり、人々の生活や周りにある他の製品でも、Phone(1)でコントロールできるようにするなど、より多くの製品と繋がれる物作りをしたいと考えています。

Phone(1)の広告画像にオウムを選んだのはなぜですか?

まず第一に、この製品は美しいものであり、同時にオウムもまた美しい動物だと思います。その美しさを視覚的に訴えたかった。でも、製品の作りはもっとエモーショナルなもので、大企業であればいつもとても急がされますし、多くの数字が絡み、多くの分析をして、とても建設的な方法で製品を作ると思います。しかし私たちはもっと動物的で、本能や感情、フィーリングを利用して製品を作っており、その本能的な製品づくりを訴えたかったので、それ応えるために象徴的な動物を使いたいと思ったのです。それが今回は、オウムであったというわけです。

インタビュー:ナッシング CEO, Carl Pei に聞く開発秘話とその先にあるもの Interview: Interview with Carl Pei CEO of Nothing on the iPhone1 Development and Beyond

Nothingは現在世界中に6つの拠点があると聞いています。各拠点の役割は何でしょうか?

本社はここ英国ロンドンにあり、デザインオフィスもあります。ここには、DysonのデザイナーだったAdam Bates(アダム・ベイツ)がいます。また、マーケティングや財務の部署もここにあります。スウェーデンのストッククホルムにもオフィスがあり、長期的なクリエイティブ・ビジョン、つまり今後3〜5年の明確なビジョンを組んでいます。インド・デリーのオフィスでは、インド国内の販売とマーケティングに取り組んでいます。中国の深圳にはR&D(研究開発部)とロジスティック部があり、台北にはソフトエンジニアリングのオフィスを開設したばかりです。台湾には多くのソフトウェア開発人材がいますし、ほかではロサンゼルスに特別なプロジェクトチームがあります。そうそう、じつは近々に日本に行くことを計画しているんです。友人であるAMBUSH®(アンブッシュ®)のVERBAL(バーバル)を訪ねようと思っています、ご存知ですよね?じつは私たち、アメリカでは結構よく会っているんです。

意外な繋がりで驚きです。近々に日本にくるということは、こちらにも拠点を作る計画などもあるのですか?

そうですね、考えてますよ。製品を発売するためには、現地でのサービス、顧客サービス、セールス・マーケティングを充実させる必要があります。日本でのユーザー層は急速に広がっていますから。

今後、どのようなデバイスを想定していますか?もちろん、Nothingの製品づくりに関わることなので、秘密もあると思いますが、抽象的でもよいので教えてください。

正確なこと申し上げられませんが、私たちは消費者にとってAppleに代わる“選択肢”となるべき製品を作ろうとしています。Appleは私もNothingの次にお気に入りの製品ですし、iPhone、Macシリーズ、Airpods、iPadなどすべての製品が互いにうまく機能しています。しかし私たちはまだ2年も経っていない小さな会社ですから、一歩一歩、着実にマーケットに適用させて進めて行かなければなりません。今後どのような製品が発売されるのか、楽しみにしておいて下さい。

最後に、Nothing製品のファンやHypebeastの読者にメッセージをお願いします。

昨年のear(1)では、日本の消費者からの関心が非常に高かったです。そして今、次のPhone(1)の日本での発売に向けて、私達のチームはこの国が重要な市場のひとつであると考えています。ですので、私たちのブランドへのサポートに感謝したいと思いますし、今後の動向を見守ってもらえれば嬉しいです。最初の取り組みとして、渋谷のセレクトショップ KITH(キス)にて8月2日(火)にPhone(1)の限定販売を行う予定です。

そして今後、Nothing製品についてのより多くの意見を聞きたいと思っています。日本市場についてはまだ経験が少ないので、製品の一部機能は日本でのユーザーエクスペリエンスに適していないものもあるかもしれませんが、フィードバックを得て、より良い製品に更新していくつもりです。期待して下さい。

Read Full Article

次の記事を読む

Tiffany & Co. がブランド初の NFT コレクション NFTiff を発表
NFT

Tiffany & Co. がブランド初の NFT コレクション NFTiff を発表

人気のNFTコレクション “CryptoPunks”を象ったカスタムペンダントも製作

SUGARHILL 2022年秋冬コレクション
ファッション

SUGARHILL 2022年秋冬コレクション

1960年代から1990年代にかけて人気を博したロックバンド 裸のラリーズの故水谷孝へ捧ぐ、本バンドを象徴するサイケデリックでインディーロックな当時のスタイルを現代風に解釈したコレクション

TOYOTA が新型 CROWN をワールドプレミア
オート

TOYOTA が新型 CROWN をワールドプレミア

4モデルのバリエーションからまずはクロスオーバーがデビュー

“AI に感情がある”と主張した Google のエンジニアがついに解雇される
テック&ガジェット

“AI に感情がある”と主張した Google のエンジニアがついに解雇される

有給休職処分から約1カ月

DSMG と京都藤井大丸に新鋭ブランド ERL のショップスペースが国内初オープン
ファッション

DSMG と京都藤井大丸に新鋭ブランド ERL のショップスペースが国内初オープン

内装デザインはデザイナーであるイーライ・ラッセル・リネッツが担当


Thundercat が来日中に『週刊少年ジャンプ』編集部を訪問
ミュージック

Thundercat が来日中に『週刊少年ジャンプ』編集部を訪問

コラムページ “巻末解放区!WEEKLY週ちゃん”初のゲストとしてインタビューを敢行

上野伸平によるスケートビデオ LENZ Ⅲ の完成披露試写会が開催
アート

上野伸平によるスケートビデオ LENZ Ⅲ の完成披露試写会が開催

最新のスタイルとスキルをあわせ持ったスケートボーダー100人以上を撮影

那須川天心と武尊の一戦を収録した THE MATCH 2022 の公式写真集が発売
スポーツ

那須川天心と武尊の一戦を収録した THE MATCH 2022 の公式写真集が発売

フォトグラファー 新田桂一の撮り下ろしによる全対戦カードの名場面を余すことなく収録した永久保存版の一冊が登場

Lexus が IS500 F SPORT Performance の日本導入を発表
オート

Lexus が IS500 F SPORT Performance の日本導入を発表

V型8気筒5.0Lエンジンを搭載したハイパフォーマンスセダン

BYD が EV 3車種を引っ提げ日本市場への参入を発表
オート

BYD が EV 3車種を引っ提げ日本市場への参入を発表

中国・深圳に本社を構えるNEV世界販売台数No.1企業

More ▾
 
ニュースレターに登録して、“最新情報”を見逃さないようにしよう。

購読ボタンをクリックすることにより本サイトの利用規約プライバシーポリシーに同意するものとします。