Sole-Searching:Nike Air Huarache 特集
誕生30周年を迎えた〈Nike〉のフィッテングシステムに革命をもたらした名作にフォーカス

毎月1足、歴代の名作スニーカーの歴史を紐解く企画 “Sole-Searching”の第5回目では、今年で発売30周年を迎えた〈Nike(ナイキ)〉の名作ランニングシューズの1つ Air Huarache(エア ハラチ)を特集する。
Air Huaracheの歴史について掘り下げる前に、まず同モデルが誕生した時代背景から説明したい。1980年代、アメリカでは多くのスポーツメーカーがアスリートやランナーのパフォーマンスを高めるため、凌ぎを削ってランニングシューズにおける独自のクッショニングテクノロジーを開発していた。〈Nike〉は1987年に同社初となるビジブルAirユニットが採用されたAir Max 1を発売し、その他のメーカーも各社の代表作となるモデルをこの時期に続々と発表。そんな中、1989年に〈Reebok(リーボック)〉がポンプシステムを搭載したモデル THE PUMP(ザ ポンプ)をリリースした。このシステムはシュータンに配されたコンプレッサーを使い、空気圧でフィットを調整するという画期的なもの。このモデルが大ヒットしたことをきっかけに、1990年代に入るとスポーツメーカーの開発の焦点がソールの“クッショニング”から、アッパーの“フィッテング”へと移行することになる。
新たなフィッテングシステムの開発に着手していた〈Nike〉は1991年、革新的なハラチシステムを初導入したランニングシューズ Air Huaracheを発表。このシューズは伝説的なシューズデザイナー Tinker Hatfield(ティンカー・ハットフィールド)によって生み出された。ハラチシステムはマヤ文明の時代からメキシコで継承されている伝統的なサンダル “ワラチ”から着想を得て、その構造を応用したもの。レザーの補強部とヒールのラバーストラップを繋ぐことでヒールカウンターを排除した斬新なデザインに加え、アッパーにウェットスーツにも使用される伸縮性に優れたネオプレン素材を採用することで、足を包み込むようなフィット感を実現。Air Huaracheはそのビジュアルだけでなく、履き心地を含めてリリース直後から多くの人々に支持されることになった。また、このシューズの特徴を端的に表現した“Have you hugged your foot today?(今日はもう足をハグした?)”というキャッチコピーが印象的な発売時のキャンペーンも大きな話題に。同モデルはOGカラーとしてホワイト/ブルー/グリーンの“Scream Green”がまず発売され(2000年、2014年、2021年に復刻)、次いでホワイト/ブラック/パープルが、1992年にはホワイト/グリーン/イエローなどのカラーウェイが登場した。
このハラチシステムはその後、ランニングシューズだけでなくさまざまなカテゴリーに応用されている。1992年には同システムを採用したバスケットボールシューズとしてAir Flight Huarache、Air Jordan 7が相次いでリリース。また同年には、アメリカのプロテニスプレイヤー Andre Agassi(アンドレ・アガシ)のシグニチャーモデル Air Tech Challenge Huaracheが登場。このモデルはアッパーのカラーはホワイトを基調としながらも、ヒールカウンターにイエローとブラックのグラフィックを使用し、ミッドソールにも独特の柄を採用。さらにトゥボックスやサイドパネルに補強パーツを備え、トゥ部分に北米のタイヤブランドのネームを配置するなど凝った作りの1足だ。Agassiは同モデルを着用して1992年のウィンブルドンで優勝を果たしている。ちなみに、Air Tech Challenge HuaracheのAgassi着用カラーは当時一般販売されなかったが、時を経て2013年にオリジナルモデルと若干仕様を変更して復刻された。1993年にはクロストレーニング用シューズ Air Trainer Huarache、新たなランニングシューズとしてAir Huarache Lightがリリースされている。
発売以来高い人気を誇っていたAir Huaracheだったが、ストリートシーンで再び大きな注目を浴びるきっかけになったのは、2000年に発表された〈STÜSSY(ステューシー)〉とのコラボレーションモデルだろう。グリーン/イエロー/ホワイトとブラウン/ベージュ/グリーンの2種類のカラーウェイでリリースされたこのシューズは、実は〈STÜSSY UK〉のキーパーソン Michael Kopelman(マイケル・コッペルマン)とFraser Cooke(フレイザー・クック)の2人が企画した“非公式”なコラボモデル。当時発売後瞬く間に完売してプレミア化したものの、今年2月にオフィシャルで復刻モデルがリリースされた。また、〈STÜSSY〉とは2003年にもコラボモデルとしてグリーン/ブラック、グレー/オレンジのAir Huarache Lightを発表しており、こちらもいまだ探し続けているコレクターも多い。このコラボレーション以降、Air Huaracheは数多くのカラーバリエーションや、世界中のさまざまなショップから別注モデルが発表されるなど、その人気は誕生から30年を経た今もなお衰えることを知らない。これからも〈Nike〉シューズのフィッテングに革命をもたらした名作として、次世代にも語り継がれていくだろう。