On The Rise:KOWGA デザイナー 甲賀加純
〈MAGIC STICK〉のPRも務める甲賀氏が2021年秋冬シーズンに始動させた新鋭ウィメンズブランドのルーツとは
次代を切り拓くアーティスト、クリエイター、デザイナー、ミュージシャンらにスポットライトを当てる新企画 “On The Rise”の第2回目では、〈KOWGA(コウガ)〉のデザイナー 甲賀加純をフィーチャー。
今野直隆の手掛けるストリートブランド〈MAGIC STICK(マジック スティック)〉でPRを務める甲賀氏。幼い頃から音楽と洋服に興味を持ち、好奇心の赴くまま、未知な世界へと足を運び続けてきた彼女が、2021年秋冬シーズンに自身の手掛けるブランド〈KOWGA〉をデビューさせた。〈Jordan Brand(ジョーダン ブランド)〉のプロジェクト “Unexpected Creativity”において、世界で活躍する女性4人のうちの1人として選出されるなど、まさに“On The Rise(上昇中)”という言葉が似合わしい甲賀氏に、メンズ特有のストリートな雰囲気とウィメンズらしい上品なディテールを融合させる本ブランドの設立の背景やインスピレーション源などについて訊いた。
HYPEBEAST:まず改めて、ブランド名の由来を教えていただけますか?
ブランド名のKOWGAは、「気品高い」とか「雅やか」っていう意味を持つ “高雅”に由来しています。というのも、私自身がストリートマインドなので、その中に品のあるものが作れたらいいなっていう思いを込めていて。自分の苗字と同じ響きっていうのもあるんですけど(笑)。
現在もメンズウェアのPRをされていますが、メンズに興味を持ったきっかけは?
高校生の頃、そもそも音楽、洋服が好きだったんですけど、当時Virgil Abloh(ヴァージル・アブロー)のBEEN TRILL(ビーントリル)とか“COMME des FUCKDOWN”ってあったじゃないですか。そのキャップがすごく欲しくて、地元・静岡のメンズセレクトショップに買いに行ったんです。そしたら、お店でその他にも色々と教えてもらえて。そこから楽しくなっちゃって、そのお店でお手伝いするようになったんです。小さい頃から洋服は好きだったんですけど、それをきっかけにメンズの洋服に触れるようになって、そこからもMAGIC STICKのPRとして声をかけていただいたので、ずっとメンズ畑にいます。
もともと海外の文化がお好きなんですね。
影響は受けています。自分が高校生の時、2013年くらいのアメリカのシーンが新鮮でかっこよくて、そこから興味を持ち始めたと思います。
当時、音楽やファッションの情報はどこで手に入れてたんですか?
高校の友達より、洋服が好きな友達と遊ぶことが多かったので、洋服の話をしていたり、周りの先輩と遊んでもらったり。ファッション雑誌も買っていましたが、2013年頃、ちょうどInstagramも流行り始めたくらいの時期だったので、そういうところから収集していました。
服作りがしたいという思いはずっと持っていらっしゃったんですか?
思ってました。文化服装学園での学生時代、架空のブランドを作る授業があって、それが楽しすぎて。それだけを目的に学校に行ってましたね。
先ほど、声をかけてもらってPRとして働くようになったとおっしゃってましたが、どういった経緯で?
私が文化(服装学園)を卒業するタイミングで、直さん(MAGIC STICKの今野直隆)から「卒業後どうするの?うちにPRで入ってみない?」って声をかけていただいたんです。就職で悩んでいた時期で、「PRってそもそも何をするの?」ていうところからだったのですが、こんなチャンスないなと思い働かせていただきました。
ご縁がすごいです。
感謝しています。高校生の時に手伝っていたセレクトショップでMAGIC STICKの取扱いがあったので、直さんはその頃から良くしていただいています。
そんな中で、メンズではなくウィメンズブランドを立ち上げようとした理由はなんですか?
メンズの洋服は、ミリタリーだったり、スポーツだったり、レディースにはないテイストやデザインが多く落とし込まれている気がして、アイテム1つ見るにしてもすごく面白いなと感じていて。女性が着てもかっこいいし、メンズの感覚があることで新鮮なスタイルが生まれると思っているんです。でも、メンズの洋服だとどうしてもサイズ感が大きかったり、女性の体型にジャストフィットするわけではないので、段々と大人になっていくにつれて、メンズをずっと着てる訳にもいかないかなって思ったんです。サイズ感の他にも、私自身、ヒールも好きだし、スカートも好きだし、ワンピースも気分だったり。メンズの洋服屋さんにずっといるんですけど、やっぱり女性にしかわからないシルエットもあると思うし、自分自身も女性として相応な格好もしたいなって思ったので、ウィメンズだけに絞ってやることに決めました。
KOWGAのアイテムは、メンズとウィメンズの要素が程よいバランス感で取り入れられているように感じますが、どういった視点でデザインされていますか?
メンズの要素からヒントを得て、女性らしいディテールに落とし込むようにしています。感覚的な部分もあるのですが、例えば、今ベースボールシャツをブランドの定番にしようと思っていて。定番のベースボールシャツはデザインもものすごく好きなのですが、女性が普通に着たいと思ってもなんかちょっとゴリゴリ感というか、女性のスタイルには取り入れにくさもあると思います。なのでKOWGAでは、前身頃だけ長くして、ウエスト丈で絞れるようにしていて。もともと、スポーツテイストのウィメンズアイテムってあんまりないなと思っていたのもありますし、メンズ畑にいたのでメンズのデザインも活かしたものを作れたらいいなと思っています。
素材感も女性らしいですよね。
そうなんです。ベースボールシャツでよくあるコットンベースのゴツゴツした素材だと、日常的に取り入れにくいと思って。あえて光沢感のあるサテンや、透け感のある梨地(梨の皮のような細かい凹凸感を出した織物)を使ったベースボールシャツを作ってみました。素材選びはこだわっています。メンズのデザインを大切にはしていますが、詰め込みすぎないバランス感は自分の中では大事にしてます。
ブランドをローンチするまでに、影響受けた人やモノはありますか?
色々な人やモノから影響は受けていますが、まず私のボス、直さんは1番お世話になっていて私の人生において影響を受けています。色々教えていただき、仕事の仕方とか、背中を見て学んでいます。あと、ブランドロゴは、PHENOMENON(フェノメノン)のオオスミ(タケシ)さんにデザインしてもらって、Akeem the Dream(アキーム・ザ・ドリーム)さんに描いていただいた大事なロゴなのですが、オオスミさんは地元が一緒で高校生の頃から知っていて。実際にオオスミさんが携わったランウェイなどを見させていただいたこともあって、影響を受けています。 当時のPHENOMENONの洋服は今でも大切にしています。
PHENOMENONから影響を受けて“長く着れる服”を作っていらっしゃる?
PHENOMENONだけに限らずですが、色んな洋服を着て自分なりにそう思っています。前のシーズンのアイテムでも合わせられたり、大事にしたい1着になればいいなと思います。素材の話だと、次のシーズンでは、リアルレザーを使ったものも考えています。洋服が好きだし、リアルレザーってやっぱりかっこよくて憧れだと思うので。サステナブル問題などありますが、フェイクレザーのアイテムを何度も買い換えるよりもリアルなものを大事に着込む方が自分的にはいいかなと思っているので、挑戦してみようかなと思っています。ファブリックの点でも次のシーズンはもう少しレベルを上げて、長く着れるアイテムを作れたらなと思っています。
楽しみです。2022年春夏コレクションでのポイントを教えてください。
バスケタンクを活かしたワンピースを作ったのですが、そのアイテムはシーズンの中でもキーアイテムです。その他に、テーラードジャケットとトラウザーズのセットアップも製作したのですが、ジャケットはドレッシーな仕上がりを目指して3mm幅の肩パッドを入れたり。女性の体型に合ったパターンメイキングで作り込んだアイテムも並びます。ファーストシーズンよりも大人なかっこいい女性像が浮かぶようなスタイル提案ができるのではないかなと思います。
メンズの洋服屋さんにずっといるんですけど、やっぱり女性にしかわからないシルエットもあると思うし、自分自身も女性として相応な格好もしたいなって思ったので、ウィメンズだけに絞って
女性らしさがベースにあると、シルエットがかなり重要になってくる気がします。
そうですね。例えば2021年秋冬シーズンでジャンプスーツを作ったのですが、全体的に細身のシルエットで作りました。US ARMYのジャンプスーツを着ようと思っても、サイズ感がどうしても大きくて身体のラインが見えなくて、良い意味でもありますが野暮ったいイメージがあります。なので、可能な限りジャストフィットを目指して女性らしいラインが出るような綺麗めなジャンプスーツとして作りました。
女性だから理解できるところもありますよね。
今、女の子がメンズブランドを着るっていうのは普通じゃないですか。でもメンズアイテムしか着ないのも、せっかく女性なのに勿体ないと思ったり。メンズぽいけど女性らしさを感じるスタイル提案ができたら良いなと思います。逆に男の子が着たいなと思ってくれるアイテムも展開できたらいいな(笑)。
ユニセックスのブランドも今は増えてきていると思うんですが、そんな中でもウィメンズに絞って?
そうですね、今後もウィメンズしかやらないと思います。私は女なので、メンズの服を作るのは体型的にも分からない部分があるから。でも、男の子がKOWGAのスウェットパンツやベースボールシャツを着てくれることもあって。ウィメンズ向けに作ってるけど、メンズも着てくれてるっていうことが私的には嬉しいです。この間、Clarks Originals(クラークス オリジナルス)とのアイテムを出させていただいたのですが、メンズイメージのブランドと一緒に、女性に向けたアイテムをリリースできたことはブランドとしてもすごく大きいことでした。
Clarks Originalsとのコラボもレディースサイズのみでしたよね。
レディースサイズのみです。嬉しいことにメンズサイズの問い合わせも結構いただいたのですが。初めは、スタートしたばかりのこんな小さいブランドとコラボさせていただいて、実際にClarksを履いている周りの友達を思い返してみても一部の人に限られるので、「コケたらどうしよう」って内心ビクビクしていたのですが、お陰様で即完したのでホッとしています。メンズイメージのブランドさんとコラボの機会をいただけて、KOWGAらしい打ち出し方ができたのではないかと思うので本当に感謝しています。Clarks Originalsとのコラボの記事をHYPEBEASTの本国でもアップしていただいて、そこから海外からも問い合わせもあったりリアクションを感じました。次回もお楽しみに(笑)。
今後の展望は?
東京コレクションに出したいです。PHENOMENONとかMISTERGENTLEMANも毎シーズン出してるし、オオスミさんは尊敬してる人物なので。今の目標としては日本のブランドとして東コレ出れたらいいなと思います。パリとかは夢のまた夢ですけど。話来ないかな、これで(笑)。
あとは、洋服作りをもっと追求してKOWGAの洋服をあらゆるタイプの人たちに楽しんでいただけたら最高です。若い女性から大人の女性までKOWGAの服、いいよねって言ってもらえるように頑張ります。