Interviews:Young Thug や Trippie Redd らを魅了する19歳の日本人デジタルアーティスト K2/Sora Aota

写実的でありながらスペーシーな独自のクリエイションでUSヒップホップシーンにセンセーションを起こす謎多きアーティストに迫る

アート 
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今やインターネットとSNSは、花を咲かせる前の若きアーティスト/クリエイターを見つけ出すダウジングマシンと化しているが、また1人、日本は福島県のベッドルームで眠っていた才能が見つけ出された。現在19歳のデジタルアーティスト K2ことSora Aotaだ。

彼はTwitterにアップしたTravis Scott(トラヴィス・スコット)のファンアートをきっかけに、Young Thug(ヤング・サグ)やTrippie Redd(トリッピー・レッド)らUSラッパーたちのアルバムアートワークの数々を手掛けており、シーンの新定番に3段飛びの勢いで駆け上がっている。写実的でありながらスペーシーな独自のクリエイションを武器に、予算がなくても、大人や企業の後ろ盾がなくても、アートで世界と日本に橋を架けトップラッパーたちと仕事ができることを世界に示したK2/Sora Aota。その謎多き素顔に迫る。

HYPEBEAST:まず、簡単なプロフィールから教えてください。

Sora Aota:19歳で、デジタルアーティストとして動いてます。出身は福島県の上の方で、今も実家暮らしです。

K2という名前の由来は?

めちゃくちゃゲームが好きで、ユーザー名をよく下ネタ系にしてたんですけどBANされることが多くて、ギリギリを攻めた結果が“おしり”だったんですよ。それからデザインをやっていくことになった時に、“おしり”を名乗るのは嫌だったので“ケツ”からK2になりました。だから昔からの知り合いには未だに“おしり”って呼ばれます(笑)。ただ、K2って2文字だから全然ネットで検索しても僕のことがヒットしないし、さらに有名な山の名称でもあるので(世界で2番目に高い山)、今ちょっと名前を変えようと考えてます。本名がソラで兄がリクなんですけど、それをYoung Thugのグループチャットで言ったら「『キングダム ハーツ』じゃん!」って盛り上がってましたね。

高校を卒業されたばかりですが、どのような学生でしたか?

小学校は常にはしゃいでるような子どもだったんですけど、中学校は思春期でカッコつけて目立ちたくなくて、ただただ絵を描いてる影が薄い存在でした。部活は兄の影響で柔道部に入って、高校でも続けてたんですけど柔道場で遊んでたら地面に頭を打ち付けたことでドクターストップがかかって、途中で辞めてしまったんです。ちょうどデザインにドハマりした時期でもあったので、朝まで絵を描いて学校で寝る生活でした。

現在、ヒップホップシーンのアーティストのアートワークを手掛けることが多いですが、学生時代はどんな音楽を聴いていましたか?

小学校の時は親が家で流していたSEKAI NO OWARIとかMr.Childrenで、中学2年生でスマホを持ち始めてから自分の好きな音楽を探すようになり、BIG BANGを中心にK-POPを聴いてましたね。ヒップホップは高校生になってからで、「高校生ラップ選手権」を観て音源を探したりしてました。ただ具体的に好きなアーティストはいなくて、それぞれに好きな曲がちょっとずつある感じです。本当に時々で好きな曲が全然違うし、1度ハマったら繰り返し聴いちゃうタイプで、聴きすぎて飽きたら他の曲を探すみたいな。この頃に自分が描いた絵から好きな音楽が流れてくるのがいいな、って思いはじめてファンアートを描くようになりました。

そもそも絵を描き始めたのはいつ頃から?

幼稚園からで、ちょっと大きくなっても家にゲーム機がほとんどなかったし、地元には何もないので絵を描くことが最大の娯楽だったんですよ。書いてるうちにどんどん好きになって、先生や友達に見せたら褒めてもらえるから嬉しくなってまた書いての繰り返しでした。小学校の頃はONE PIECE(ワンピース)が好きで、よく模写してましたね

いわゆるアナログからデジタルに移行したきっかけは?

iPadでゲームがしたいから高校2年生の時に買ったんですけど、1年くらい経ってから絵が描けることを知って(笑)。やってたゲームはCall of Duty Mobileですね。

MacBookではなくiPadで描かれてるんですね。

高校卒業後に専門学校に入って、PhotoshopもIllustratorも学んだんですけど機械音痴すぎて全然ダメで、2カ月くらいで辞めてiPadに落ち着きました。使えたら使いたいんですけどね、学校でいちから学んでもダメだったので向いてないんだと思います。

iPadではどのアプリを使用されていますか?

もともと『ibisPaint』を使ってたんですけど、誰かに『Procreate』を教えてもらってからずっと使ってます。紙に描いてるくらい書き易くて感覚的に使えるし、月額制じゃなくて1,220円の買い切りなんですよ。PhotoshopとIllustratorは月額制だし、それまでアナログでやってきたからどうしても違和感があって。それにパソコンを開く行為がめんどうくさいって思っちゃうんですよね(笑)。

今の作風にはどう行き着きましたか?

電車での登下校が暇だからとにかくPinterestでいろいろな絵を見てたんですけど、気付いたら今の作風になってました。確実に影響を受けているのは、海外のSam Spratt(サム・スプラット)ってアーティストですね。Logic(ロジック)とかKid Cudi(キッド・カディ)のアートワークを担当していて、日本だとあまり見ないテイストだと思います。あとはTravis Scottの3rdアルバム『Astroworld』で、この作品に出会ってから宇宙っぽい世界観とか色味が好きになりました。日本だとGUCCIMAZEさんがめっちゃ好きですね。影響されたっていうよりも尊敬していて、スタイルが確立されてるじゃないですか。自分はまだ確立できてない中で描いてる状況だから、今後はGUCCIMAZEさんみたいに一目で分かるくらいスタイルを確立していきたいです。

趣味で絵を描いていた中で、どのように仕事に繋がっていったんでしょうか?

高校3年生の時にゲームが好きだったからeSPORTSのデザインを趣味でやるようになって、Twitterでばら撒いてたら5,000フォロワーくらいになったんですよ。そしたらeSPORTS系の会社から少しづつ仕事をお願いされ始めて、小遣い稼ぎの感覚で1つ2,000~3,000円くらいで受けてました。でもヒップホップ系の仕事をしたくなって、このまま待っててもゲーム系の依頼しか来ないと思ったから自分で動くことにしたんです。この時、ラッパーの人に声を掛けても今のタイムラインを見られたら「ゲーム系の人じゃん」って思われると考えたので、とりあえずTravisの『Astroworld』をイメージしたファンアートをアップしてそれっぽさを醸し出したんです。

そしたら結構Twitterで伸びたので、思いきって9forさんにDMを送ったら返事をいただけてロゴを制作しました。これがヒップホップシーンでは最初の仕事ですね。その次に空音さんにDMしたら一緒に仕事させていただくことになり、3rdアルバム『TREASURE BOX』のアートワークを描きました。既に空音さんの頭の中にあった構図を僕が形にする感じで、コラージュとイラストをミックスしています。

それでは、K2さんの名前が世界的になった理由でもあるTrippie Reddの『Neon Shark vs Pegasus』を手掛けることになったきっかけを教えてください。

ファンアートを描いてるうちにいろんな海外アーティストと繋がるようになって、そのうちの1人がTrippie Reddの作品をアップしてたんですよ。それが誰でも参加できるアルバムのアートワークを懸けたコンテンストだと知り、チャンスだと思って描いたんです。それで海外の3DCGデザイナーと一緒に作ったんですけど、完成したら締め切りに間に合わなくて……。でもとりあえず提出したら後日、Trippie ReddのマネージャーからDMで「採用したよ」って連絡がきたんです。ただ、僕が英語ができないから3DCGデザイナーにやりとりを全部お願いしてたんですけど、いきなり「Trippie Reddサイドにギャラの話を切り出したら連絡が途絶えた」って言われて(笑)。持ち逃げされたんだと思いますけど、とにかく実績がほしかったので全然気にしてないです。

Trippie以降、多くのアートワークを手掛けるようになったイメージです。

この1年で20作くらい制作したと思います。Iann Diorの楽曲 “Still Here”をやることになったのは、Trippieとの作品なので彼から紹介があったんだと思います。結構修正があったんですけど、20時間くらいで完成しましたね。あとは、Lil Tjay(リル・ティージェイ)のマーチャンダイズとか、LEXくんの4thアルバム『LOGIC』とか、NGeeYL(エヌジーワイエル)& Lil Uzi Vert(リル・ウージー・ヴァート)の楽曲 “Off-White”とかですね。“Off-White”は、写真に文字を入れておでこにビームを描いただけですけど(笑)。

作品を描く時は、事前に曲を聴いてから取り掛かるんでしょうか?

言えばもらえると思うんですけど、もらうことは少ないですね。Juice Wrld(ジュース・ワールド)の“Already Dead”は聴いてから描きました。

これまで手掛けてきた中で最も大変だったアートワークは?

やっぱりYoung Thugですね。彼が好きな絵画を元ネタに制作する流れだったんですけど、2日しか制作期間がないし、大勢の人に依頼してたから自分が選ばれるか分からなかったし、1回ラフを送ったら10個くらい修正点が来たんですけど全部長文で、やり直して送ったらまた10個くらい修正点が来て、みたいな。というか、もともとアートディレクターからDMで仕事の依頼がきた時はGunna(ガンナ)の作品を制作する予定でした。コンセプトを聞いて2時間くらいで返したら「お前めちゃくちゃ仕事はえーな」って言われて、そのままYoung Thugの仕事もお願いされることに(笑)。海外ってYoung Thugみたいに大勢の人に依頼した中で良いものを採用する場合が多いので、今まで選ばれなかったことも結構あって、Chief Keef(チーフ・キーフ)のアートワーク、Trippie ReddとDrakeのマーチャンダイズ、Lil Durk(リル・ダーク)のアルバムタイトルとかは採用されなかったですね。

将来的にアートワークを手掛けたいアーティストはいますか?

Lil Nas X(リル ナズ X)ですね。曲が好きってのもあるし、SNSに投稿する画像とか映像とかビジュアル全てのクオリティーが高いんですよ。多分彼自身アートに対する造形が深いから、一緒に仕事ができたらレベルが1つ上がる気がします。ファンアートには1回だけ反応をもらったことがあって、すごい反響が良かったですね。

今後はいろいろと動き出すそうですね。

これまで1人で仕事をこなしてきたから自分がどれだけのことをしてるか分からなくて、実感が湧いたのも今月とか先月くらいなんですよ。Young Thugのアートワークを描いたっていっても、別に直接会ってるわけではないし、ビデオで顔を合わせたわけでもないし、周りに言っても知らないし(笑)。でも最近いろいろな人と直接会うようになって、1人じゃ出来なかったことがめちゃくちゃ見つかって一気に変わりましたね。その1つがアパレルブランドです。2022年4月のローンチをメドに動いていて、ニューヨークでのポップアップを皮切りに、東京を含めたアジアでのグループ展なども考えています。コラボ予定してるんですけど、詳細はまだ言えなくて……。

最後に、商売道具を3つ挙げるなら?

iPad、Apple Pencil、iPhoneです。

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