環境を生かしたコンセプチュアルアートの巨匠 Christo が死去
享年84歳
歴史的建造物などをまるごと布で包む作品で知られるコンセプチュアルアーティスト Christo(クリスト)が、5月31日(現地時間)にアメリカ・ニューヨークの自宅で死去したことが報じられた。享年84歳。死因は自然死だという。
Christoは1935年6月13日ブルガリア生まれのアーティスト。同年同日生まれの妻 Jeanne-Claude(ジャンヌ=クロード)とともに“Christo and Jeanne-Claude(クリスト アンド ジャンヌ=クロード)”の名義で共同で創作を続け、布で公共施設や景観を一時的に包むアートプロジェクトに取り組んできた。フランス・パリのセーヌ川に架かる橋を布で覆った『梱包されたポン・ヌフ』(1985年)や、ドイツ・ベルリンの『梱包されたライヒスターク』(1995年)などの作品が有名だ。1991年には、日本の茨城県とアメリカ・カリフォルニア州で同時に屋外に大量の傘を立てるプロジェクト 『アンブレラ 日本=アメリカ合衆国1984-91』を披露している。
2009年にJeanne-Claudeが74歳で逝去してからは、Christoは妻と計画していたプロジェクトを実現するため、単独で活動を続けることになる。2016年に発表した『The Floating Piers』では、イタリア北部・ロンバルディア州にあるイゼーオ湖上で、ポリエチレンのキューブ22万個を使用し、その上に10万平方メートルの黄色い布を敷き詰めて黄金の道を出現させた。また、2018年にはイギリス・ロンドンのサーペンタイン湖上に、7,500個以上の樽をつなぎ合わせて作った台形の造形物を浮かばせた『The London Mastaba(ロンドン・マスタバ)』を公開した。
Christo(とJeanne-Claude)の作品はすべて一時的なものだった。彼は過去に「アーティストや建築家は、(自身の手がけた作品に)永続性を求めます。私にはそのような想いはありません。何も残さないのが好きです。そのことには勇気が必要なのです」と語っている。しかし、Christoのオフィスが彼の死に際して発表した声明を読むと、テンポラリーな作品であることによって、逆説的に彼の作品の永続性を証明していることがわかる。「Christoは自分の人生を最大限に生かし、不可能だと思われていたことを、夢見るだけでなく実際に実現してきました。ChristoとJeanne-Claudeのアートワークは、世界中の人々に共有体験をもたらすことにより、私たちの心と思い出の中で生き続けるでしょう」。
Christoは生前に新作 『L’Arc de Triomphe, Wrapped(包装された凱旋門)』を構想中だったという。この作品は故人の遺志を継いで、2021年9月にはパリで披露される予定だ。