コロナ危機がもたらすリセールや古着市場への影響は?

『eBay』『StockX』『Round Two』などの事例をもとに紐解く

ファッション 
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、様々な業界を苦境に立たせ、経済に与える影響の甚大さは計り知れない。もちろんファッション業界も例外ではなく、経済が事実上ストップした状況下で、収益損失を抱える企業は経費削減へと駆り立てられている。実店舗を休業せざる負えない状況で、eコマースが伸びているのは想像に容易いが、本稿ではその実情を運営側のインタビューを交えて掘り下げる。

現在、外出自粛により、自宅で過ごす時間が長引いている中、『eBay(イーベイ)』『StockX(ストックX)』『Depop(ディポップ)』などのオンライン商品取引市場のプラットフォームは、出品者と購入者といった両方のユーザーによる取引が増加傾向にあり、サイトのトラフィックも以前と変わらない状態である。「このような状況ではあるが、売上高やサイトへのアクセス数にはほとんど影響は及んでいない。スニーカーの価格に関しては、価格変動の幅が実際の株式市場よりはるかに小さくなった」とスニーカー専門のマーケットプレイス『StockX』の代表者は明かした。また「株式市場の株価は、マクロ経済指標や特定の企業のキャッシュフローによって影響を受けるのに対し、スニーカーのリセール価格は、特定の商品への需要と供給によって決定される」と述べた。自宅での生活が習慣化するにつれ、消費者の購買行動にも変化が出てきており、このような傾向にあるのは、フットウェアのリセール業界だけではない。「eBay」では、新品と中古品問わず、“ホーム”、“エンターテイメント”、“ヘルスケア&ビューティ”のカテゴリーが最も検索されている。具体的には、ウェブカメラの検索数は2020年の4月の第1週の時点で、前年比10倍増加しており、パズルの検索数も同様に、前年比14倍増加したという。

“このような状況ではあるが、売上高やサイトへのトラフィックにはほとんど影響は及んでいない”

ロンドン初のフリマアプリ『Depop』において、アメリカ国内でのアクセス数は、記録的な成長を遂げ、ターゲットとしていた数値をはるかに超えたという。また、出品者数もサイトのトラフィックと同様に、前年比から1.8倍の増加。この傾向は、デジタルマーケティング業界に参入したばかりの新興会社にも同じような増加傾向が見られた。アメリカ国内のブティックからキュレーションされたヴィンテージや古着のアイテムをオンラインで販売するスタートアップ会社「Thrilling(スリリング)」の最高経営責任者 Shilla Kim-Parker(シーラ・キム=パーカー)によると、3月と4月の間、売上は急上昇し、代理手数料を無料にしていたにもかかわらず、2020年初頭ですでに2019年の総売上金額を越しているという。

「IBISWorld(イビスワールド)」の発表によると、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生する以前の2月の時点で、衣類・服飾品およびブランド品のリユース市場規模は2021年までには約360億ドル(約4兆円)に登ることが予想されていた。また、同サイトで公開されている2019年のBCG調査では、ブランド品のリユース市場の規模が、年間ごとに12%程度広がっており、ラグジュアリー市場を追い抜かすペースで上昇傾向にあることが裏付けられた。このムーブメントの要因には、ミレニアル世代(1981年から1996年に生まれた世代)とZ世代(1990年代後半から2010年に生まれた世代)の消費動向の変化が大きな原動力になっているといえるだろう。“低価格“から“エコ”へと意識が変化したと同時に、外出自粛が生活の一環として習慣づけられてきた状況下で、全体的に若者の周囲への関心が低くなってきたことが挙げられるという。

リセールマーケット『Grailed』の出品者の一人 Justin Hanson(ジャスティス・ハンソン)は、購入者から除菌への強化について質問されるかという問いに対し、「ユーザーの年齢層がとても低い分、身の回りで起こっていることについて鈍感であると共に、そこまで危機感を持っていないと感じた」と述べた。一方、オークションサイト「eBay」については、ユーザーの年齢層が少し高いため、安全性を考慮した上で、取引を行う購入者が多いという印象を受けたと語った。とはいえ、現状として、以前より早いペースで商品は完売しているという。

『The Atlantic(ザ・アトランティック)』に掲載されている記事では、“ロストジェネレーション”と題したミレニアル世代は、前世代と比べ、消費は少ないものの、商品を購入する大半の場合、環境への配慮を重要視している傾向があることを明かした。現在の状況も踏まえ、ブランドものにはとらわれず、古着屋やヴィンテージなどのリサイクル商品にお金を費やすという購買行動として捉えられるだろう。

前述のとおり、衣類・服飾品およびブランド品のリユース市場規模は広がっており、ECプラットフォームでの売上高も上昇傾向にはあるが、『Round Two(ラウンド・ツー)』や『Beacon’s Closet(ビーコンズ・クローゼット)』などといった実店舗を主力とするリテーラーは多大な影響を受けているという。アメリカ・ニューヨークを拠点とする古着屋チェーン『Beacon’s Closet』の創設者 Carrie Peterson(キャリー・ピーターソン)によると、「店舗の賃料や健康保険の支払いで負債が積もる一方で、社員を休業にせざるおえない状況に追い込まれた」という。だが、「リセール業界は、いかなる状況下でも需要と供給はあり、このような状況でも、大量の服を売り込む供給者はいるため、在庫を増やすことができる」とポジティブに捉えている。また、ECサイトへの強化を試みるようになり、需要に追いつく頻度で更新していく必要があることを実感したという。

“オンラインサイトは、需要に追いつく頻度で更新していく必要がある”

一方で、Sean Wotherspoon(ショーン・ワザーズプーン)率いるアメリカ・LAのヴィンテージストア『Round Two』は、臨機応変な対応により、すぐさまオンラインストアを開設した。また、『Grailed』上で『Round Two』のポップアップを発表したばかりの協同オーナーの一人 Luke Fraser(ルーク・フレイザー)は「考えてもみなかったECサイトでの販売といった新たな領域への進出は、よりその価値を実感させてくれた。これまではLA、ニューヨーク、シカゴ、マイアミ、バージニア州など実店舗があるところでしか購入することが出来なかったので、世界各地のお客さんがオンライン上で商品を購入できることを楽しみにしている」とコメント。

現在の困難な状況において、明るい兆しを実感しているのはリセール業界の供給者だけではなく、消費者の購買行動にも見受けられる。『Thrilling』のKim-Parkerは「人々は、自宅で過ごせるような着心地が良いベーシックなものを欲しがると思っていたが、ロックダウンから解放されて外出する際に着るであろう、とても鮮やかな斬新なデザインのアイテムを手に取っているので、驚きを隠せないと同時に励まされている」と語った。また、同様に『Beacon’s Closet』のPetersonも「人々は、自宅隔離から解放された人生を楽しみに、オンラインでショッピングをしているのだろう。先日、“Disco is Not Dead(ディスコは絶えることはない)”と称した煌びやかなラペルが特徴の鮮やかなオレンジを纏ったブレザーを購入したお客さんがいた。本当にそうだと願う」というエピソードを明かした。

“人々は、自宅隔離から解放された人生を楽しみに、オンラインでショッピングをしているのだろう”

最後に『Round Two』のFracherは以下のように結論付ける「フットウェア市場や古着屋市場は崩壊すると思う?と多くの人から質問されたが、私が言えることはまだ市場の位置づけは変わっていないということ。今はそこまで影響されていないと思っている。あと1ヶ月で全ての店が営業を再開し、人々が職場に戻れるという状況になるかもしれないし、それが逆転する可能性もある。誰もどうなるかは予測することが出来ない」

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