Studio Visits:井野将之 | doublet デザイナー

「LVMH Prize 2018」を受賞した世界一のデザイナーのクリエイティブ現場に潜入

デザイン 
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英語版『HYPEBEAST』で不定期連載されてきた、デザイナーやアーティストの制作現場に訪問し、カルチャーの限界値を押し上げる人々のクリエイションの源に迫るオリジナル企画“HYPEBEAST Studio Visit”が遂に日本版でも始動。その記念すべき第1弾では、「LVMH Prize 2018」でグランプリ受賞という日本人初の快挙を成し遂げた〈doublet(ダブレット)〉の井野将之のアトリエにお邪魔させていただいた。

NIGO®️(ニゴー)や〈UNDERCOVER(アンダーカバー)〉の高橋盾らと同じく群馬県に生まれた井野氏は、〈MIHARAYASUHIRO(ミハラヤスヒロ)〉で様々なノウハウを習得し、自身のブランドを設立してから早くも6年という歳月を重ねた。ファッションの基盤をなす服作りや古き良きカルチャーへの敬意と造詣から生まれるアイディアを基にデイリーウェアへと落とし込まれる“違和感”は、『colette(コレット)』や『Dover Street Market(ドーバー ストリート マーケット)』といった名門バイヤーたちをも虜にし、同氏が「職人たちの技術があってこそのもの」と語る刺繍など、巧みなエフェクトの数々は唯一無二のブランドカラーとして世界中に認知、そしてストリートへと定着している。

そんな今もっとも熱い〈doublet〉のクリエイション現場は、お世辞にもミニマルとは言えない。だが、その雑多な空間には360°、四方八方にサンプルやメモなどが点在しており、まるで井野氏の頭の中を覗いているかのようなアイディアの巣窟であった。そんなクリエイティブの原点であるアトリエで恩師・三原康裕との思い出や「LVMH Prize 2018」の裏側など、我々『HYPEBEAST』にしか聞けない突っ込んだ質問にいつものフランクなトーンで答えてくれた。

〈MIHARAYASUHIRO〉で企画生産として経験を積んだ井野さんですが、今1番生きている三原さんの“教え”は何ですか?

工場/取引先様に対してのリスペクトですね。職人/バイヤーさんとブランドはビジネスでの繋がりだけでなく、友達や仲間みたいな何でも言い合える関係性が大切だと。そこのコミュニケーションがうまく取れていれば、ブランドがいくら無理難題を提案しても、職人さんたちは「この人とだからやってみよう」って気持ちになってくれるんです。そういった周りへの気遣いとリスペクトが素晴らしいモノ作りに繋がるんだと思い、僕もブランド発足当時から気を付けるようにしています。

独立はいつぐらいから考えていたんですか?

入社当初から独立は考えてはいましたが、実力がないのに独立したところでやはり三原さんや他ブランドさんには敵わないと思って……。でもそこから経験を積んでやっと自分が納得いくデザインを三原さんに提案した際に、「これじゃ駄目だね」って即突っ返されてモヤモヤが残った時に「そろそろかな」って正直思いました(笑)。まぁそのデザインは今考えても即ドロップレベルの作品でしたけどね。

〈doublet〉を始動してから約6年が経ちますが、壁にぶち当たったことはありますか? また、その時の対処法は何かありますか?

毎シーズン壁だし、常に崖っぷち。先シーズンは良かったけど、今シーズンは世に受けないエゴまみれのモノかもしれない……、という不安もあったり。doubletを好きでいてくれるお客さんたちやショップさんの期待を裏切ってしまうかもしれない、と恐怖に怯える日もあったり。解決方法はシンプルですが、僕をサポートしてくれるスタッフに「俺はもうダメだ、デザインをしてください」って頼んで知恵をもらうことです。

オフの過ごし方は?

丸一日オフってのはあまりないですが、気分転換に飲み行ったりはしますよ。よく飲みに行くデザイナー友達だと、BED j.w. FORD(ベッドフォード)の慎平さんやANREALAGE(アンリアレイジ)の森永さんとかですね。あとはセレクトショップの方々やフィッティングモデルをやってくれる友達とか。立場が異なるいろんな方々と意見交換をしていると、やはりエネルギー源にはなりますよね。僕の考えよりも正しい答えややる気を持っているので、俺も負けずにやらなければと奮い立たされます。

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群馬出身の著名デザイナーが多いのはなぜだと思いますか?

どうなんですかね〜。でもUNDERCOVER(アンダーカバー)の高橋盾さん、SHINICHIRO ARAKAWA(シンイチロウアラカワ)の荒川さん、HYKE(ハイク)の大出さんとか、なぜか売れっ子は桐生側が多い。でも僕は前橋出身なんですよ。群馬にはジャンルを度外視した変わり種のセレクトショップや古着屋があって、その型にはまらないカオスな感じがデザイナーの育成に役立っているのかもしれませんね(笑)。

デザイナーとしての道を志したのはいつ頃からですか?

昔から洋服は好きでしたが、決心したのは高校生の時ですかね。古着ブームがあって、その後にDCブームがきて、まんまと飲み込まれてみたいな。小さい頃からイラストレーターや漫画家にもなりたかったし、ファッションデザイナーになったら両方できるじゃん的な軽いノリで目指し始めました。でも実際にデザイナーになってみたらそんなに絵も描かないし、ましてや手作業での色付けもほぼ無し。今思うとそれはそれで良かったと思います(笑)。

デザインインスピレーション源やストロングポイントは何ですか?

やはりベースは古着かな。古着は嘘をつかないし、それが現に何十年経った今でもこうやって愛され続けている。洋服の教科書みたいなもんですよ。そこからデザインを引っ張ってきて、職人さんたちと新しいものを生み出す。なので僕ら(doublet)のストロングポイントは、シーズンによって違いますし、定番と呼ばれる刺繍や3Dプリントもほんの一部であって、この先どのようなアプローチで行くのかは僕もわかりません。

主役アイテムを数多く生み出す過程で失敗はありますか? そして感性までにどれくらいの期間がかかりますか?

毎回失敗だらけですよ。刺繍やパターンも何十回とやり直して、最終形に持っていく過程で失敗を潰しておく。そして、今工場にデザインを送らないと間に合わないって時に依頼して今できる最高度の形にまとめる様にしています。途中過程でよくならないものは、即ドロップになることもありますね。製作期間はものによってマチマチですが、3Dデザインの作品は知識ゼロの段階からスタートしました。まずはじめに3Dデザイナーに相談してデータを工場に持っていってダメ出しをくらって、再度作り直すみたいな。その技術を習得してからはポンポンとアイデアが浮かんでカタチに出来ましたね。何年もアイデアを寝かせて今シーズンで世に放とうっていう考えはなくて、僕はガス欠状態にならないと次のデザインが浮かんでこないんですよ。

来シーズンで挑戦したい新たな技術やデザインはありますか?

今はもう出し尽くしちゃったので、まだわからないですね。この考えているときは楽しいんだけど、切羽詰まってくると本当にキツイんですよ。日本の技術やデザインをうまく取り入れようとは考えているけど、あのビックリマンシールのキラキラのやつとかね。

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LVMH Prizeでグランプリを受賞できた要因は何だと思いますか?

1番はタイミングだと思いますね。Virgil Abloh(ヴァージル・アブロー)がLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン)のデザイナーになったり、Burberry(バーバリー)がGosha Rubchinskiy(ゴーシャ・ラブチンスキー)とコラボしたり、ファッション業界は変革期を迎えているなかで今までと違った角度を持ったdoubletが目についたのかなと。あとは、若手デザイナーが多いなかで僕だけおっさんデザイナーだったからかな(笑)。有名ファッションスクール卒の気鋭デザイナーたちと比べても僕は少し年齢的にも上だし、地に足が着いていると思う。たぶんその経験の差もあったのかな?

世界的デザイナーたちに実際お会いしてみていかがでした? 会場の雰囲気はどのような感じでした?

Karl Lagerfeld(カール・ラガーフェルド)さんに2019年春夏で展開する圧縮技術を応用したカップラーメン/ハンガーTシャツを見ていただき、笑ってもらえたのは嬉しかったですね。あとファイナルで初めて会ったMarc Jacobs(マーク・ジェイコブス)も実在する人物なんだって思いました。審査会場は大型の展示会みたいな感じで、ふらっとブースに審査員たちが来てアイテムを見るだけのシンプルな作り。ファッションショー形式じゃなかったのもグランプリを取れた要因のひとつかもしれませんね。

憧れのファッションデザイナーやアーティストはいますか?

デザイナー像として明確なビジョン創り上げてくれた三原さんは憧れの存在ですね。心の寛大さもそうですが、現場や周囲のスタッフに気遣いを欠かさないところは“すごい”としか言えないですよ。仕事に対してもストイックでショートスリーパーなので、常に洋服(デザイン)のことを考えている。あとちょっと毛色は違いますが、Virgilの移動距離は信じられないですよね。LVやOff-White™️(オフホワイト)のショー直前にクラブでDJやって、世界中飛び回ってるっておかしいですよ。彼と同じく『ジョジョの奇妙な冒険』を描いている荒木飛呂彦さんも頭の中がどうなっているのか理解できないですね。30年以上同じ作風を突き通して、新ネタを入れてくる、そして『少年ジャンプ』全盛期で別の作品を同時に進行するってのがもうわからないですね。とにかく僕は自分の頭で理解できない超人ならぬ変態系超人たちに惹かれるみたいですね(笑)。

最後に日本人デザイナーたちが世界的メゾンで活躍されてますが、個人的な野望はありますか?

僕はあまり他のブランドでデザインをするってことは今考えてないですね。自分が興味の湧くことだったらやりたいですが、自ら率先して“変態系超人”たちに挑むのは無謀かと(笑)。僕は自称・世界一デザインが遅いデザイナーなのでね。もちろんいいお話があれば、そのとき考えます。doubletとしてはコラボレーションのお誘いは頂いたりしますが、ユーザーたちが「doubletってやっぱ面白いな」って思ってくれるブランドとやりたいと思います。乞うご期待って感じですかね。

その他、『HYPEBEAST』がこれまでお伝えしてきた〈doublet〉関連のトピックもお見逃しなく。

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