Interviews:21歳の俊英プロデューサー Mura Masa が音楽に対する純粋な想いから日本への愛までを語る
2018年グラミー賞では2部門にノミネートされた、才気溢れる“ベッドルーム・プロデューサー”のルーツを垣間見る

イギリスとフランスの中間に浮かぶ小さな島、ガーンジー島出身の音楽プロデューサー・Mura Masa(ムラマサ)ことAlex Crossan(アレックス・クロッサン)。2013年頃よりSoundCloudに自身のベッドルームで作った音楽をアップロードし、2014年にはアルバム『Soundtrack to a Death』をリリース。その才気とセンスの良さはすぐに注目を集め、2016年にはイギリスの名門フェス「Glastonbury(グラストンベリー)」などの世界的音楽フェスに出演するほか、2017年7月には、Gorillaz(ゴリラズ)/Blur(ブラー)のフロントマンDamon Albarn(デーモン・アルバーン)やラッパーのA$AP Rocky(エイサップ・ロッキー)をはじめとする豪華アーティスト陣を招聘したデビューアルバム『Mura Masa』をリリースし、世界各地の音楽シーンを瞬く間に席巻した。弱冠21歳の若き俊英は、同アルバムで2018年第60回グラミー賞の最優秀ダンス/エレクトロニックアルバム賞だけでなく、アートワークのディレクションを務めたことで最優秀レコーディングパッケージ賞にもノミネートされており、ミュージシャン/クリエイティブディレクター両方で選ばれるのは史上初のことだという。
多方から称賛を獲得したそのデビューアルバムを提げて、“この世で最も好きな場所の一つである”という日本に再び戻ってきたMura Masa。1月5日(金)に単独では初となる来日公演を敢行。小さな島のベッドルームに原点を持つ彼にとって、間違いなくクレイジーで目まぐるしかったであろう数年を経てもなお、放つその柔らかな空気の中にどこかあどけなさを感じさせる21歳のMura Masaが抱く音楽に対するピュアな想いやクリエイティブな姿勢までを垣間見た。
ーガーンジー島って行ったことがないんだけど、どんな島? そんな小さな島で曲作りを始めて、今ツアーで世界中を飛び回っているのはどんな感じ?
ガーンジーに行ったことのある人なんてほとんどいないよね(笑)。だけどみんな、どこか静かで小さいけれど美しい場所には行ったことがあると思うんだ。ガーンジーには音楽シーンはあまりなくて、いくつかのパンクバンドとフォークがあるくらい。そんな所で育って、エレクトロニック音楽をやってるのはちょっと変わってるかもしれない。それで今日本にいるなんてクレイジーすぎるね。ツアーに慣れるのには結構時間がかかったんだ。自分のベッドルームで曲を作っていて、いつも部屋の中にいたからね。それに、僕は都会に行ったことすらなかったんだ。18歳くらいだったかな、初めてロンドンに行った時は電車の乗り方もわからなくて、迷いそうで怖かったよ。
ーGorillazやThe Smithsのようなバンドに影響をされてると聞いたけど、Mura Masaっていうステージネームからも明らかなように日本にも影響されているよね?
すごい小さな街にいて、日本を見ていると、日本が一番遠くにあるような気持ちになるんだよね。だから僕にとってはそれが面白くて。僕はポケモンや宮崎駿の映画を見て育って、名前も日本の文化が好きになったことがきっかけだけど、ただ“ムラマサ”っていう言葉がクールだなと思ってそこからとったんだ。
ー日本語の響きが好きなんだね。曲にもたまに日本語のニュースとかがサンプルされていたりするけど、どこで見つけるの?
ああ!そうだったね。ホテルの部屋にいた時に誰かが録音したんだと思う。バックグラウンドで流れているようなニュースを使うのは面白いかなと思って。日本語だからほとんどの人がわからないし、英語を話す人には面白く聞こえるんだ。ただの天気予報だけどね(笑)。どこでもサンプルを見つけるけどインターネットのことが多いよ。
ー好きな日本人アーティストや日本語の曲があれば教えて?
BABYMETALが好き。きゃりーぱみゅぱみゅも僕のアイドルだよ。パンクが好きだった頃には、マキシマムザホルモンやFACTを聴いてたな。あと、BUMP OF CHICKENの“車輪の唄”も昔聴いてた。どうやって見つけたか覚えてないけどね。
ー2016年はGlastonbury、Reading/Leeds、Fuji Rock…って大きなフェスが続いていたよね。
実はReadingは、2015年に観客として初めて行ったフェスなんだ。そこでBombay Bicycle Clubのライブを見て、少し泣いてしまったんだよね。ガーンジーっていう小さな場所から出てきて、それまでライブなんて見たことがなかったからさ。それでその翌年にステージに立って演奏して…クレイジーだよ。もちろんGlastonburyも伝説的なフェスティバルだから良い経験だった。Fuji Rockも本当に素晴らしかったよ。あの時初めて日本に来て、日本は僕が思っていた通りの場所で嬉しかった。日本のオーディエンスも素晴らしくて、日本にやっと来れたって感じた。
ー“Shibuya”っていう曲があるくらいだもんね。
本当にね(笑)。今も渋谷に泊まってるんだ。不思議だよ。お母さんも電話で「4年前に“Shibuya”って曲を作ってたよね」って言ってたよ(笑)。実は“Harajuku”っていう曲も前に作ったんだ。
ー今回のグラミー賞にAlexはミュージシャン/クリエイティブディレクターとしてノミネートされてるけど、アートワークやミュージックビデオ(MV)は全部アートディレクションしているの?
本当クレイジーすぎるよね。アートディレクションはほとんどやっているよ。音楽に、アートワークにって、何でもかんでも手を出したくはないから、ただディレクションするって感じだけど。Yoni Lappin、Matt De Jong、Salim Adamと僕の4人でクリエイティブを手がけてる。
ーMura MasaのMVについて聞かせて欲しいんだけど、人間関係や愛にフォーカスしているのはどうして? “What If I Go?”ではゲイのカップルや異なる人種同士のカップルが出てくるよね。
音楽って結局のところ“人間”に関することだと思うんだ。僕は人が人とどう関わるかについて考えるのが好きだから。どんな類の芸術でもそれってすごいクールなテーマだと思う。それに僕はロマンティックなタイプだと思うから(笑)。愛っていいものだよ。「ゲイのカップルを使わないと」とか決して意図的にそういう要素を入れたわけでなくて、僕の世代では特にロンドンではそれが普通なんだよね。自然と起きたことだけど、良いメッセージを発信していると思う。
ーデビューアルバム『Mura Masa』ではDamon AlbarnやA$AP Rockyといった大物アーティストがフィーチャリングされているけど、コラボレーターはどうやって選ぶのか聞きたいな。これから先にコラボしたい人はいるの?
正直、僕が大ファンだっていう理由かな。レーベルがミュージシャンをこうペアリングしてどうなるかってやったりしてるけど、いつも断ってきたんだ。僕はいつも一緒に曲を作りたいなって人のリストを作っていて、僕から声をかけたり、ラッキーだったら向こうから声をかけてくれることもある。だけどそこに気持ちがないと意味がないから、彼らが僕の音楽を好きでいてくれることも重要だね。これから一緒に作りたいなっていう人はいるけど今は内緒にしておくよ。
ーそうだよね。じゃあ、Alexが普段よく聴いているアーティストは?
今はもっぱらRadioheadをよく聴いてる。“Motion Picture Soundtrack”とか“Ideoteque”が好き。ちょっとSpotifyを見てみよう、恥ずかしいけど(笑)。他には、Night Slugsっていうレーベル所属のロンドンのプロデューサーのJam City、Oneohtrix Point Never、Burial、Rihanna…とかほとんどエレクトロニック音楽だね。
ークールなプレイリストだね。そういえば、RadioheadのJonny Greenwoodの昔のインタビュー映像をInstagramに投稿してたけど。
今、それぐらいRadioheadにハマってるんだ。彼が「クソみたいな音楽を作ってるなっていつも思うんだ」って話すところが好きでね。僕もそんな気持ちになるからさ。去年CoachellaでRadioheadを初めて見て…彼らは本当に素晴らしい作曲家だよ。特にJonny Greenwoodは音楽教育を受けた人で、彼が音楽家として野望を持って色んなことに取り組んでいるのはすごいと思う。是非彼に会ってみたいよ。
ー21歳っていう若さで成功して、その一定のクリエイティブのレベルを保つためにはどうしてるの?
なんて答えたらいいだろう。自分では安定してないと思ってるから。クリエイティブでいるためにはいつも自分自身と戦って、より良くなろうと必死になる。多分それが答えかな。落ち着くことはせずに、いつも何か改善できるものがあるっていう姿勢を持っていると思う。興味を持ち続けて、いつも新しいことを探すよ。
ーAlexのアイドル的存在の、Damon Albarnに初めて会った時はどんな感じだった?
間違いなく彼は僕のアイドルの一人だね。会う前は、彼は怖い人なんじゃないかと思ってたんだ。だけど、実際はすごく良い人で安心した。僕らはGorillazのアルバムについて話していたんだけど、彼の考えを理解したくて一気に質問を投げかけたんだ。次に同じ部屋にいられることなんてあるかわからないって思ったからね。そしたらDamonが僕を止めて、僕の膝に手を置いて、「僕らはまた会うよ」って言ってくれたんだ。それで僕は「OK, cool(そっか、よかった)」って。
ー最後に、2018年にプロデューサー/ミュージシャンとして成功するためのアドバイスがあれば教えてほしい。
考え方のアドバイスとしては、自分が心からクールだと思う音楽を作ること。最近はよく、どういうのが求められてるかを考えて音楽をやってる人も多いけど、聴く人は新しいものを聴きたがってると思うんだ。実践的なアドバイスとしては、ブログをフォローしたりして、新しい音楽を聴いて、最新の音楽に触れること。特にポッププロデューサーはアンダーグラウンドで何が起きているかってのを知る必要があると思う。
1月28日(現地時間)に授賞式が行われる第60回グラミー賞にノミネートされたMura Masaのデビューアルバムを未だ聴いていないという方はこちらより。