ファッションフォトグラファー Nick Knight が考える “写真の死”

「僕達はいま何か大きなものが変わろうとしている時代の中にいながら、一部の人は未だに古い考え方や時代遅れの概念を押し付けようとしてくる。」

アート
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イギリス・ロンドン生まれの「Nick Knight(ニック・ナイト)」は、ユニークでエレガントな写真を撮影するファッションフォトグラファーとして、ファション界においてはその名をよく知られた人物である。また、彼はフォトグラファーという肩書以外にもファッションメディア『SHOWstudio』の代表という顔も持っており、そんな彼は近頃、形式としての写真という媒体の限界を感じているようだ。そして今回、ファッションビジネスについての情報を幅広く発信するWebマガジン『The Business of Fashion』のエディター・アット・ラージ「Tim Blanks(ティム・ブランクス)」と「Nick Knight」が、ファッションフォトの今後についてのことや、21世紀におけるテクノロジーやメディアのあり方についてディスカッションを行った。

言語は英語のみとなるが、そのディスカッションのフルバージョンはこちらよりチェック。まずは我々がピックし日本語訳した下のテキストから、画像編集やInstagram、また社会とテクノロジーの関係性について「Nick Knight」が考えるそのマインドを覗いてみてはいかがだろう。

Tim Blanks(以下TB): 人と人を繋げる上で写真というものが持つ役割についてどう考えていますか?

Nick Knight(以下NK): そうだね、まず初めに言っておきたいのは、僕は写真というものはもう既に死んでいるものだと思っているんだ。写真というものはもう数年前から終止しているものであって、僕たちはその古臭い概念や考え方を新たな媒体に押し付けるべきではない。いまの時代、僕たちは「Eadweard Muybridge」や「Richard Avedon」、「Robert Mapplethorpe」たち(3人とも過去に活躍したレジェンド級のフォトグラファー)が決して出来なかったことを楽に行うことが出来る。例えばMuybridgeとMapplethorpeの作風を組み合わせ、「Eugène Atget」とAvedonの作風を組み合わせるパラーメーターを設定することは今やとても簡単なことなんだ。カメラが発明されてから150年もの間、フォトグラファーたちは試行錯誤し、お互いに切磋琢磨していた。それから1980年代の終わりごろに写真業界に大きな波が到来し、それまでは有り難く貴重であったことが容易くチープなものとなり、そして現在、それは更に拙劣なものとなっている。つまりiPhoneさえ持っていれば目の前の瞬間を指一本で切り撮ることが出来る。そして多くの人はそれも“写真”と呼んでいるんだ。

TB: ではNickはそれをなんと呼んでいるのですか?

NK: もっと良い呼び名を誰かが考えてくれないかなとは思っているけど、僕はそれを“イメージメイキング”と呼んでいる。そのままイメージ(画像)をメイクする(作る)行為だからね。僕の言う“イメージ”とはどちらかというと立体的なものに近く、それはそれで新たなアートの形のひとつだと思う。それに“イメージ”は真実を切り撮ったものではなく、逆に真実から遠いところにあるものだと考えている。写真というものは真実をそのまま切り撮る役割を持つ媒体として長い間存在してきた。そこが時に批判の的となることもあるんだけどね。“これはヤラセで、捏造された真実だ”っていう批判とか。『New York Times』ではレタッチされた写真は一切使用しないって聞いたことがあるよ。画像レタッチはときに真実を捻じ曲げるからね。“イメージメイキング”がそういったしがらみから解放された新たな形のアートであるという点には喜びを感じるよ。それは完璧にこれまでの時代には存在しなかった新たな形のメディアだしね。

TB: 我々は3次元の中に生きているとされていますが、物理学的な視点から見ると我々の周りにはもっと多くの次元が存在し、我々は脳の一部のみを使用して3次元を認知しているとされています。これから先、テクノロジーはその他の次元に我々が到達するためのパスポートに成りうると思いますか?

NK: ある意味で既に僕は3次元ではない新たな次元を見つめているよ。そしてそこにはもっと多くの次元がある。それらは僕達が生きる地平線からは考えられないほど遠くにあり、そして異なるものなんじゃないかな。なにより僕たちは過去に囚われていてはいけない。将来を見据えて、その将来をハッピーなものにしなければならないんだ。世間から一歩離れたところにある自分自身の精神世界や、何か他のものにコントロールされていないところでのコミュニケーション、頭と同じくらい心でものを考えること、そういったことが僕たちがクリエーションマインドを使って何か物事について考えるときに必要なことなんだ。

TB: 映画監督「James Cameron(ジェームズ・キャメロン)」は映画『Avatar(アバター)』の公開時に「やっと映像テクノロジーが私のイマジネーションに追いついた」と発言しましたが、Nickも同じようなことを“イメージメイキング”に感じますか?

NK: むしろ僕はその逆のことを感じたよ。僕たちはテクノロジーに置いてきぼりにされてるって。昔に夢見た多くのことが既に可能となり、テクノロジーはもうほとんど出尽くしたのかもしれない。ただそれを利用するには単純に時間と器量が必要なんだ。僕は生きたスカルプチャーを作ってみたいと思っていた。文字通り生命を持った像をね。そしてそれはもう既に実現可能のものとなっている。やろうと思えば臓器だって耳だって“プリントアウト”することが出来る。テクノロジーが僕らより遅れを取った場所にいるとはもう思えないよ。僕達がそれを利用する器量を持ち合わせていないだけであって、テクノロジーは今や我々の前を走っているんだ。

TB: テクノロジーの発展により世界とファッションは更に繋がりを深めたと思いますか?

NK: 僕がInstagram上でフォローした全ての人々は、他の人が見たら憧れて真似したくなるような、とてもエキサイティングなことをそれぞれが創り出したイメージを使って表現している。僕はそういったものこそがファッションであると思うんだ。そしてそれはもはやグローバルトレンド化されたシンプルなものではない。君はファッションにおいて、スカートの丈が急激に変化していった時代の衝撃を覚えているかい?いまや地球上の様々な場所において様々な異なる変化が起こり続けている。そして僕はそのすべての人が明確に示された同じ道を辿ったとは考えていない。例えば西洋のメディアはやはり西洋の常識のもとにおけるファッションやトレンドにフォーカスする。だから女性のファッションについて語るとき、“西洋の女性だから”という理由で着る洋服が限られていくんだ。でもそれは例えばモスクワとかメキシコじゃ意味を持たない。その地理的な意味だけではなく、いま僕たちが扱っているファッションというものは非常に大きなものなんだ。そしてファッションはそれを身に纏う人々の“声”でもある。かつて人々はメディアを通して“声”を得て自分のものにしていた。しかし現在ではテクノロジーの進歩によりそれは誰にでもアクセス可能な開かれたものとなっている。だからこそ僕たちは社会の中にあるその“声”に耳を傾けなければならない。今の時代、多くの人々が子供の時から多くのものを持ち合わせている。だから彼らは若くしてその感情やフィーリングを強いスタイルで他の人々に発信できているんだと思うよ。若者特有の悩みやフラストレーションの高まりをネットの中で見かけることが出来たとしたら、それは正しい道中にあると思っていいんじゃないかな。

TB: 今ではジェンダーやアイデンティティなど、多くのものが以前よりフレキシブルで流動的なものになったように感じます。あなたが人々を様々なしがらみから更に解放するとしたら、どんなことが起きるでしょうか?

NK: エキサイティングなことがたくさん起こるだろうね。僕はこれまでの時間の多くを人々の写真を撮ることに割いて来た。人々が持つ感情表現をその中で大きく拡大させて、それを切り撮ってきたんだ。いまやオンラインでは自分が見たいものがなんでも見れてしまう。人々を同性愛者と異性愛者で区別を付けることは以前ほど簡単なことじゃなくなった。それこそ昔は人々に本当の自分の姿でいることを許さない悪しきモラルや常識が人々の間に根付いてしまっていたんだ。そして現在そういうものは大きく変わりつつある。僕達はいま何か大きなものが変わろうとしている時代の中にいながら、一部の人は未だに古い考え方や時代遅れの概念を押し付けようとしてくる。でも時にそれが大いに役立つこともあるから否定はしないけどね。この大きな変化の時代の中で、人々が漠然とした恐怖を持つことは自然なことだと思う。人は過去を振り返って安心したがるものであり、その過去を振り返って得た何かで物事を定義するものだからね。

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