プリントマガジンか Instagram か…フォロワー8000人のスケーターの決断

“THE WILSHIRE OLLIE BEEF”

スポーツ
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先月、Reefのニックネームで知られる若手スケートボーダー「Shareef Grady」が、L.Aにあるスケートスポット“Wilshire Rails”でエピックなオーリーをメイク。15段のステアを見事に飛び越えランディングした。アトランタ出身のReefは、友人たちと〈Pretty SB〉というアパレルラインを主催しており、スケートビデオ“Pretty #3”のフィルミングのためにL.Aに訪れていた。そしてこの時フッテージ(以下の映像参照)とともに、Reefの友人「Brent O’Donnell」によって撮影され写真も、スケートボードマガジンの表紙にふさわしい素晴らし出来栄えだった。実際、Reefたちはこの歴史的とも言えるスポットでのトリックの成功と、この写真が雑誌の表紙になるかもしれないという期待に胸を膨らませていた。プロスケーター「Clint Walker」が、4ヶ月前に既にこのスポットで15段の“Wilshire Rails”オーリーを成功させていたことを知るまでは……。

翌日Reefが知らない番号からかかってきた電話を取ると、それはClintだった。難しいスポットだっただけに、それぞれがお互いの成功を賞賛してはいるものの、どちらも自分の写真を『Thrasher』の表紙にしたいのは事実。そして先にメイクしていたClint自身は、〈Birdhouse〉のスケートフィルムのためにこれまでその写真やフッテージビデオを発表していなかったのだ。ClintはReefに、次の表紙に自分の写真が採用されるまで待ってから、Reefの写真やビデオをどこかで発表してほしいと伝えたが、若手スケーターであるReefにとっても今回はどうしても逃したくない表紙のチャンスだったのだ。しかしプロであるClintの写真を撮影したのは『Thrasher』のフォトグラファー「David Broach」。もはやどちらが媒体との強いコネクションを持っているかを考えれば、フリーランスの若手フォトグラファーによるヤングスケーターの写真が選ばれないであろうことは、Reef自身も感じていただろう。しかし、Reefが自分のフッテージや写真を先にインターネットで公開してしまえば、Clintの写真が表紙になる意味合いも半減してしまう。Reefは考えた末Clintに電話。”I respect you, but I’m sorry. I’m ‘bout to upload that bitch to Insta.(尊敬してるよ、でもごめん、僕はこれから自分のをインスタグラムに公開するよ)”と話した。この言葉を聞いたClintは、あの15段のオーリーをメイクしたクレジットをReefに奪われまいと、Reefが投稿したかを確認することなく、友人たちと一緒に表紙候補だった写真をInstagramに投稿したのだった。Reefは電話を切ってから数時間後、Clintの投稿を確認したうえで、自分の写真を公開した。Reefは、“If I can’t have the cover, nobody can.(僕が表紙になれないなら、誰にもなれないよ)”と話していたという。

もしこれが5年前だったら、Reefの写真は多くの人の目に触れることはなかったかもしれない。しかしソーシャルメディアの発展とともに、その絶対的な紙媒体の存在の捉えられ方は変化している。スケートボードに限らず、自分の実績をより早く不特定多数の人々へ伝える手段として、(媒体など)第三者を介せず個人の意思で公開できるという強みを持ったソーシャルメディア。その時代に生まれたReefは、他のスケートキッズ同様、そのメリットを巧みに利用しようとしたに過ぎない。一方Clintもスポンサーがついたプロスケーターとして、ビデオの公開のため表紙になるだろうという可能性を信じ、4ヶ月間待っていたのだ。
両者のファンの間でも様々な意見が飛び交っているが、Reef、Clint、そしてBrentとBroachもこんな揉め事は望んでいなかったはず。Clintを撮影したBroachは、「実はあのスポットで(Clintよりも前に)Lizard Kingもトライしていたんだ。いっそのこと、あの時Lizardが成功してくれていたら、こんな厄介なことにならなかったのにとさえ思うよ」と話している。

この一連の流れで、プリントマガジンの表紙の可能性を蹴ってまでInstagramへの投稿をした事に、紙媒体の存在価値を問う声もある。確かにプリントは、速さ、そして拡散性の上ではインターネットに敵わないと言えるだろう。しかしプリントというオーセンティックさ、実在性、触れられる重みに若者から大人までが絶対的な価値を感じているのは事実。画面上のピクセルの光でしかないデータでの写真と、物質としてプリントされた写真の違いは、人工知能と実在する人間ほど違うと感じる人も少なくないのではないだろうか。今回のReefとClintの騒動も、インターネットとプリントそれぞれの強みがいっそう明確になる一方で、時代とともに変化する人々の価値観を問うさらなるきっかけとなる出来事だったと言えそうだ。

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