Interviews: 田中凛太郎氏が語る、本作りと『True OG Streetwear』
エディトリアル・フォトグラファーの「 田中凛太郎」氏に、彼の本作りに対する姿勢と『True OG Streetwear』についてインタビュー
〈XLARGE®〉が、2016年でブランド設立から25周年。そんな歴史あるストリートブランドの歩んできた軌跡を撮影・編集した『True OG Streetwear』がリリース。今回、そのヒストリーブックの制作を手がけたエディトリアル・フォトグラファーの「 田中凛太郎」氏に、彼の本作りに対する姿勢と発売された『True OG Streetwear』について伺った。
— 1998年にカリフォルニアに行ったきっかけはなんだったのでしょうか?
1991年、二十歳のときに音楽を勉強しに初めてアメリカに行ったんです。子どものころからとにかくアメリカが好きで。というのも、僕は横浜の出身なのですが、近くに米軍基地があったので、アメリカ人たちがデカいキャデラックとか乗っているのを小さいときから見ていたんですよ。僕は1970年生まれなのですが、そのころはまだ、アメリカに行ったことがある人なんて親戚にいなくて。それで、90年代に大きな変化があったんですよ。まず、1985年にプラザ合意で円高になっていって、日本にバブル期が来て、どんどん円高になっていったわけですよ。僕が大学に入ったのは1990年なんですけど、そのころはまたさらに円高になっていて。そのあともさらに円高になっていって、多分1995年ぐらいまで1ドル80円ぐらいっていう円高が続いたと思います。そういうこともあって、僕が大学生だった頃ぐらいから日本人がアメリカに行くっていうことが、可能になっていったんですね。
それで日本に一度戻ってきて、月間の黒人音楽専門雑誌『Black Music Review(ブラック・ミュージック・リヴュー)』でライターの仕事をするようになりました。400字の原稿を書くということからスタートしましたね。ほかにもさまざまなアルバイトをして、お金を貯めてアメリカに行くということを大学在学中に4回くらいしていました。
— 大学卒業後はどういう生活をしていたのですか?
ライターとして働き続けることもできたんですが、そのとき、すでに音楽業界が徐々に縮小しちゃっていたんですよね。なので、サラリーマンでもやるかと思って電通に入社。そして28歳のとき、4年間働いて辞めました。
— その後にアメリカに行って、そこからのお仕事っていうのは?
そこからは、また仕事がなくなってしまったので(笑)。またライターの仕事をやり始めました。
— アメリカは西海岸に昔から行っていたのですか? 東海岸や他の地域には行かなかったのですか?
もちろんNYも行きました。実際は、ニューオリーンズからシカゴにかけての真ん中あたりも多かったですね。未だにあのエリアはアメリカの中でも本当に好きなエリア。黒人音楽を聴くには最高のところだから。でも結論から言うと、カリフォルニアに落ち着いちゃったね。天気もめちゃめちゃ良いし、女の子もいい感じだなーみたいな(笑)。僕、サーフィンもやるから、仕事もないプータロウだったし、しばらくサーフィンでもやるかっていう感じでもあったんですよね。あと、LAだとNYとかに比べたら日本からも近いし。それで、1998年の4月にLAに行きました。その後、1998年の9月に雑誌『Free&Easy』が立ち上がったのですが、編集者の「石川次郎」さんが『Free&Easy』を紹介してくださって、西海岸担当として5年ぐらいライターを続けました。すごくいい勉強もたくさんさせてもらった媒体なので、休刊になることは僕個人としてはすごく残念ですね。
— 革ジャンの本も出されていますよね。
もともと僕が会社を辞めてアメリカに来た目的が、革ジャンの本を作ることだったんですよ。当時革ジャンの本なんて世界中を見ても誰も作ってなくて。それでまず日本で『革ジャン物語』という本を出して、その次にアメリカの出版社「Schiffer」から2000年に『Motorcycle Jacket』って本を出したんですよ。その『Motorcycle Jacket』から派生する形で『Motorcycle Helmet』とそのパート2もアメリカで出しました。あとは『Free&Easy』の別冊として『ライダースジャケットを着る人生』も出版。革ジャンの本を通して世界中の人が僕を知るようになっていって友達も増えていって。このあたりが僕の革ジャン評論家としてのファーストステップですね。
あとは当時革ジャンの本のための取材に出歩いたりしてると、やっぱりTシャツもたくさんあって目につくんですよ。天気が良くて暖かい西海岸だから。それで革ジャンの取材にいった先にカッコいいTシャツもあるから、ついでにその撮影とかもやり始めて。そのうち本格的にTシャツも革ジャンと一緒に撮り始めちゃって(笑)。 それで5年続けた『Free&Easy』を卒業して、それから自費出版で『My Freedamn! 1』というTシャツ特集の本を出したんですね。今だったらTシャツはどこのブランドでもTシャツを作っているけど、当時は全然そんな状況じゃなくて、そういうのを特集する本っていうのもあまりなくて。そんな感じだったので、『My Freedamn! 1』はニッチなものだったけれど、結構反響を呼んだんですよ。それで、そのあとも『My Freedamn!』シリーズは10まで出版しました。
— 田中さんが本を作るっていうことにこだわる理由ってなんですか?
当時は単純に、出版ってすごくいい仕事だったんですよ。こだわるっていうよりも、最初はただひたすら執筆作業から始めて、そのうちページ丸ごとを任されるようになって、レイアウトとか撮影とかまでやっていたらこれしかできなくなっちゃったんだよね(笑)。 僕は今まで、22冊本を作っているんだけど、特にベストセラーはないんですよ。そうなると悔しいから、作り続けているということもありますね。ただ、本はなくなりはしないけれど、あと5年ぐらいでスタイルが大きく変わると思うんですよね。それが今の一番の悩みかな。
—『True OG Streetwear』を今回作ってみて、どうでしたか?
僕がそんなに馴染み深いブランドではなかったんですが、すごくおもしろかったですね。「Spike Jones(スパイク・ジョーンズ)」のところがすごく印象に残っているんだけれど、やっぱり写真を見ていて彼は抜群の才能を持っているなと思います。アイデアも見せ方もさすがだなと思って。この本を作るにあたっても彼は快く協力してくれましたし。あと、〈XLARGE®〉創設者である「Eli Bonerz(イライ・ボナーツ)」と「Adam Silverman(アダム・シルバーマン)」は当時20代前半の若者で、そういう彼らが新しいセンセーショナルな風を吹き込んだということはすごいことだったんですよ。それが、この本を作ることでさらに感じましたね。今みたいに情報を簡単に手に入れられる状況でもないわけですから……。
—「Adam Silverman」は今、陶芸家としての道を進んでいますね。
やっぱり、感度の高い人たちなんだと思います。成功する人って、感性が豊かで、新しいものにも敏感。当時は限られた情報の中で生活していたわけですから、今以上にそれが必要だったんだと思います。アイデアをすぐカタチにするんですね。それで、Adamは今、陶芸家としての道を進んでいるのでしょう。
—『True OG Streetwear』をどんな人たちに読んで欲しいですか?
服作りとかブランドを始めたい人たちに読んで欲しいですね。そういう夢を持っている人にとっては、〈XLARGE®〉という1つの成功例として、興味深いものになっていると思います。最初はTシャツ作りから始めて、オープンしたセレクトショップには〈adidas〉も置いていて、そのうち映像とかも作ったりして。今は簡単にできるようなことだけれども、当時はなかなかできることではないですから。彼らにももちろん辛い時期があったと思うんですよね。会社経営のやり方が変わったり、メンバーが入れ替わったり。そういったことも含めて〈XLARGE®〉というブランドの成功までの道のりを知ることで、そこから得られるヒントはあると思いますね。
— 田中さんがこれから予定していることなどを教えてください。
もう出版業界の衰退を見ても、僕のこの業界での寿命はあともう5年ぐらいかなと思っていて(笑)。今は〈Lewis Leathers〉というイギリスの革ジャンのメーカーの本をvol.2まで2冊作っていて、あとは〈Wesco〉のワークブーツについての本も作っているところです。ほかにも何冊かは予定していますが、そうこうしているうちに、5年経ってしまいますね(笑)。
将来のことも考えますが、お金はもちろん大切だけれど、1日の終わりにビールが飲めて美味しいと思えればいいなと思っているので、最終的に答えはシンプルに考えるようにしています。今手がけているLAでの合同展示会「INSPIRATION」も続けていきたいですしね。
『True OG Streetwear』は、全国の『XLARGE® STORE』、オンラインサイトで発売中。