Arto Saari:スケーターとして、フォトグラファーとして

スケート界のレジェンドが教えてくれた2つのキャリア

アート
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「ダメな人物写真ってあると思う?」という質問に、「もちろん……大概のセルフィーさ」と笑った「Arto Saari」。長きにわたり有名プロスケーターとして世界中で活躍した彼は現在、スケートボードの代わりにカメラを手にストリートに訪れる。昨今ではマルチに活動する人々は少なくないが、彼も同様に、気持ちさえあれば実現できるということを体現するかのように、キャリアの垣根を越えて活躍している人物だ。彼はロサンゼルスの自宅にて、スケートボード、写真、そして彼の人生観について語ってくれた。

フィンランドのセイナヨキで、若くしてスケーターとしての頭角を現したSaari。16歳で出場したドイツの大会で世界から注目を浴び、有名スケーターである「Danny Way」と世界ツアーを回ることになった。以降彼はスケーターとしての才能を伸ばし続けプロとして活躍。2001年には『Thrasher』が選ぶ名誉ある“Skateboarder of the Year”に選ばれ、あの「Tony Hawk」と名を連ねた。

しかし、常に危険と隣り合わせというスケーターの宿命のように、彼は度重なる怪我によりプロスケーターとしてのキャリアから退くこととなる。「スケートボーディングをして多くの見返りが手に入るようになるまでには、長い時間が必要なんだ。辛くて苦しい時間がね」と、彼は自分の「Leica M」をはじめとする自身の撮影ギアを我々に見せながら話した。引退はしたものの、スケートボードは彼に世界中を飛び回る機会を与えてくれた。彼はそこでカメラを手にし、行く先々をドキュメントしていった。趣味だった写真に夢中になり、その情熱によってみるみる上達していったが、スケートボーダーであるという彼の経歴から、プロフェッショナルなフォトグラファーになるという道は簡単ではなかった。写真が趣味のスケーターは今では数多く存在し、うまく撮れた写真が雑誌に載ったり、ZINEとして自分で発表する術のある現代において、このキャリアチェンジは簡単に思えるが、「スケート写真は本当にシックで純粋なドキュメンタリー写真なんだ。 – 被写体を思い通りに操作することなんて不可能だし、編集だってできない。全てその撮影現場で完成させなきゃいけないんだ。ただ、ハイエンドな写真を撮ろうと思ったら、しっかりした準備とクリエイトしたいイメージを持っていないといけない。ただ目の前にあるものを撮ればいいわけじゃないんだ」と語った。

そしてその意識こそが、スケードボーダーであると同時にフォトグラファーであるSaariを特徴付けるものと言えそうだ。彼のInstagramのプロフィールに書かれる“Skateboarder/Photographer”の文字は、かつてのプロスケーターとしてのキャリアと同じくらい、フォトグラファーとしてのキャリアを突き詰めたいという熱意の現れなのだ。「ハイエンドな写真業界に入っていくことはまだすごく大変だよ。でも挑戦し続けたいし、ものすごく楽しいんだ。だから今後もっと見せられるものがあると思うよ」。

スケートボードなどのアクションショットをメインに撮り始めた彼だが、のちに“off-the-board”と呼べるスタイルのポートレート写真も得意とするようになる。「人を撮るのが好きなんだ。感慨深い思い出がいくつかあるよ。あのLance MountainとSteve Olsonを『TSM』のカヴァーで撮った時は、素晴らしいアクション写真が撮れた。Jay Adamsと会って、彼のポートレートを撮ることができた時も、ものすごくラッキーだったよ」と話す彼の作品は、ほとんどが白黒だ。それについて彼は、「白黒写真のシンプルさが好きなんだ。写っているもののラインや配置の関係性にだけ集中出来るだろ? それに白黒の方が見ている人の想像力を膨らますっていうところも好きだ。それに人はだいたい白黒の方がかっこよく映るんだ」と笑った。

フォトグラファーとしてのキャリアを築く一方で、自身のルーツであるスケートボードに関してこう語る。「意志を持つことと、クリエイティブでいるということはスケートボードが教えてくれた。スケートボードは人生に役立つことをたくさん教えてくれるよ。俺は写真を始めるまで怪我のことをずっとネガティブに見ていたけど、写真にどんどん惹かれていくうちに、またスケートで滑るのが楽しくなったんだ。」そう言って案内された彼のバックヤードには、スケートボウルになったスイミングプールがあった。この元プールは、「Lance Mountain」、「Stefan Janoski」、「Anthony Van Engelen」といった彼の友人である著名なスケータたちも訪れスケートを楽しむスポットとなっていた。

我々はよく、何か1つ夢中になれるものを見つけ、その分野のプロになりなさいと耳にするが、それを2つもこなしてしまう人物が自分の周りにどれだけいるだろうか? レンズの向こうの世界に魅せられた彼が、新しいキャリアを歩む中で学んだのは、「君の心が望む場所に在ろうとすれば、素晴らしい出来事はついてくる」というマインドセットだった。

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Aaron Miller/Hypebeast
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