人気のストリートファッションのスタイリングはどこからやってきたのか?
ピンロールカフスや靴ヒモベルトの由来? シャツの第一ボタンだけを留めるのはメキシカンギャングの証?
ファッションの歴史、そしてトレンドの生まれ方に少し目を向けてみよう。オシャレをすることは、豊かな生活の証であり、着飾るということは社会的地位を誇示できる人のみに許された特権だった(実際それは現代にもあてはまるが)。しかもちろん、世界にはそんな一握りの富裕層よりはるかに多くの「ワーキングクラス/一般庶民」的人々が存在する。彼らは生活の中で、環境に応じた服の着方を見つけ、それをそれぞれ独特の習慣として自分の属するコミュニティーの中で浸透させていった。それはファッションである以前に彼らのライフスタイルなのだが、ご存知の通り情報化社会を生きる現代人にとって、出会ったこともないコミュニティーの情報を調べるなんて朝メシ前。起きた瞬間から寝る直前まで、SNSを眺めるだけで地球の裏側のことまでわかるのだ。そしてアーバンコミュニティーに暮らす独特の感度を持った人々によって、さまざまな時代のサブカルチャーが今、コーディネートのキーエレメントとしてストリートからランウェイの舞台にまで登場している。そんな「今」の人々が注目する着こなしとそのルーツとは一体どんなカルチャーなのか、以下より一部をまとめてみた。みなさんは全て知っていただろうか?
シューレースベルト
スケーターの間で生まれた靴ヒモをベルト代わりにするスタイル。スケート中にパンツが落ちないように留められるだけでなく、トリック中や転んだ時の衝撃が、金属のバックルに比べはるかに少ないことから広まったDIYスタイルだ。そしてスペアのシューレースを腰に巻いておけば、スケート中に靴ヒモが切れてしまってもすぐに交換可能、という安心感も。ストリートでは定番と化したスタイルだが、〈Acne〉もランウェイでラグジュアリーバージョンを披露している。
ピンロールカフス
80年代半ばから後半にストリートで多く見られた、パンツの裾を絞ってロールアップするスタイル。裾を折ってから捲り上げるので、足首まわりがタイトになったシルエットが出来上がる。現在スニーカーヘッズたちにとっては、自分のキックスのカラー部分まで自慢するにはもってこいのロールアップ方法だが、80年代のグラフィティ/タギングブームでは、アーティストたちもこのロールアップを多用。バギーなパンツの内側にスプレー缶を収納し、裾をタイトにロールアップすることで、手ぶらで人知れずタギングツールを携帯していたのだ。
シャツの第一ボタン留め
シャツの一番上のボタンだけを留めるというスタイルは、現代のチョロ(カリフォルニア州イーストLAエリアを中心に暮らすラテンアメリカンを指すスラング)カルチャーに由来する。90年代に台頭したメキシカン・アメリカンのギャングライフを表すスタイルとして、シャツの一番上のボタンのみを留めている人物はギャングの関係者だとされていた。そんなジェスチャーが『American Me』や『ブラッド・イン ブラッド・アウト』といった映画によって各地の若者に取り沙汰され、ギャングスタイルファッションとして模倣され今日に至るというわけだ。
たばこのパックがロールインされた袖
第二次世界大戦の戦場で登場したというスタイル。GIたちがたばこを潰さないよう持ち歩くために思いついた方法が、20世紀最高の俳優と称される「Marlon Brando(マーロン・ブランド)」によってスタイリッシュに大衆に広められた。現在でもロカビリーカルチャーを中心に、このようにたばこを持ち歩くスタイルは健在だ。
タックインされたシャツ
「James Dean(ジェームズ・ディーン)」のような往年のファッショナブルさを連想するか、コンサバティブな「お父さんスタイル」を想像するかは人によるが、かつては洗練さを象徴するスタイルであり、現在でもフォーマルさを表す着方。人々が当たり前のようにしていたスタイルだが、70年代のユースによって一気に加速したすべてのルールにアンチなムーブメントの一端として、タックインがストリートの若者から消えていった。やがて80年代のプレッピーシーンで復活し、現在ではストリートが注目するシーンでも、「Virgil Abloh」の〈OFF-WHITE™〉などが採用しているスタイルだ。
ウォレットチェーン
50年代のバイカーサブカルチャーの先駆けシーンに出現したウォレットチェーン。そのファンクションからして当然のごとく浸透して行き、70年代のパンクムーブメントに飛び火した。アクセサリーとしてはもちろん、スリの被害を回避できるうえ、モッシュピットでどれだけ暴れても財布をどこかに飛ばしてしまうということも避けられるパンクキッズには願ったり叶ったりのアイテム。〈Gosha Rubchinskiy〉の2016年秋冬のランウェイにも登場している。
小指の指輪
日本女性たちが着用するいわゆる「ピンキーリング」的なフェミニンなものではなく、組織犯罪集団のボスや幹部などがつけている小指の指輪。実際のところは別として、『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』や『ゴッドファーザー』の「Al Pacino(アル・パチーノ)」など、ハリウッドドラマや映画で描かれるのがこの犯罪を匂わす小指の指輪である。日本人からすると「ゆびきり」の約束だけでなくヤクザや遊女の文化にも繋がるため意味深ではあるが、欧米でも家系を表す紋章を使用した指輪を小指につける習慣もある。危険な印象を孕みながらも、家族や繋がりを連想するためか、90年代のヒップホップアイコンである「Diddy」や「JAY Z」、「Master P」、「Birdman」らはミュージックビデオで小指に付けた豪華な指輪を披露。現在も〈AMBUSH〉などによりモダンに提案されているスタイルだ。
ステッカーを付けたままのキャップ
言わずと知れた〈New Era〉キャップで確立されたスタイル。特に「59Fifty」モデルは有名だが、これはステッカーを残すことでブート品との違いを示し、オリジナルに敬意を表すと同時に、ホンモノを買っている自身のソーシャルステータスを示すもの。ブリムの上下に貼られたステッカーは、指紋の汚れさえつかないように細心の注意を払って取り扱われる。未だに続くこのスタイルは、国や地域を超えて世界中の若者に見られるスタイルだ。
切りっぱなしデニム
70年代のパンクシーンから続くもう一つのスタイルが切りっぱなしのデニムだ。ファッションシーンから消えることなく長く息づくこのスタイルは、80年代にはロックやメタルの全盛期にも台頭し、90年代のグランジからそれ以降のリバイバルのサイクル全てに登場していると言える。当初は問題児のスタイルとして捉えられていたが、様々な過程を経て現在ではダメージ加工独特の美しさが認知され、〈Fear of God〉、〈DENIM BY VANQUISH〉などのスタイルが広く人気を博している。