Interviews: 写真家、小浪次郎
現在最も注目される日本人フォトグラファー
写真という文化に於いて、オールドスクールな銀塩写真という概念は、あらゆるものがデジタル化する現代社会の中で、10年ほど前までは失われつつあるものとして捉えられてきた。しかし、プリント雑誌のオーセンティックさと同様に、19世紀、あるいは16世紀から続く長い写真の歴史の中で人々の内側に育まれてきた、「時を切りとり記録する」という行為には、作者の感情や意図というエモーショナルな要素が含まれている。そしてその切り取った瞬間の感情的、情緒的、あるいは個人的で詩的な魅力を最大限に第三者に訴えかけられるのは、不思議とデジタルではなくフィルムで撮影された写真であるのが常ではないだろうか。
世界的に速さと利便性が重視されている世の中だが、ファッションや芸術といった、生活や心にに豊かさとゆとりをもたらす分野のクリエイティブに於いて求められるのは、見る者の想像力に訴えかけるメッセージ性やストーリー性。そしてその媒介としてフィルム写真が選ばれ、またスポットライトを浴びているのも、近代化社会の中のヒューマニティを感じる事象と言える。
ということで、日本のアートやファッションシーンでここ数年活躍し続け、延いては世界からも注目を浴びる若き写真家・/小浪次郎に『HYPEBEAST』がインタビュー。フィルムでの撮影を続ける彼は、(当たり前であはるが、)’00年代の日本のフォトグラファーブームの写真家とも往年の巨匠たちとも違う独特な世界観で、今改めて多くの人をフィルム作品で魅了している。自身の作品『父をみる』、『GIMATAI』のほか、〈VAINL ARCHIVE(ヴァイナル・アーカイヴ)〉、〈WACKO MARIA(ワコマリア)〉、〈Supreme(シュプリーム)〉、〈THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)〉、〈Shu Uemura(シュウ ウエムラ)〉、「トヨタ」、『Vogue』といったブランドや企業、媒体との作品作りで、幅広い観衆に知られる彼。影響を受けた人物として、どことなくクリーンでありながらもセンセーショナルな作品で知られるWolfgang Tillmans(ヴォルフガング・ティルマンス)と、コアなファンの多い漫画家・前田俊夫の名を挙げる30歳の写真家は、2016年に活動拠点をニューヨークに移したばかりだ。自身の作品や今後の活動、そして写真家を目指す人々へのアドバイスを語ってくれたインタビューを以下よりご紹介しよう。
- 写真に興味を持ったきっかけは何ですか?
20歳の時に美術の好きな友達にWolfgang Tillmansの写真展に誘われて、それを見てから写真をやろうと思いました。展示のタイトルは“Freischwimmer”でした。そこに飛び込みたいと思って写真を始めたんです。
- フィルムで撮影する理由とは?
写真は撮られるものと撮るものの対話であり、希望と推測から僕の全ての写真行為は始まっていました。撮った時に感じるものと何日か経ち写真を見たとき、それらのイメージはどこか違います。それは遠ざければ遠ざける程、願望や希望から自らを切り離す事が出来る。フィルムの良さはそこにあると思っています。撮影した瞬間と現像プロセスを経て生まれる魔法みたいなものを信じているので、僕はフィルムで撮るのだと思います。
- 作品の作りかた、そして作品のスタイルについての特徴を教えてください。
見た事のあるようなモノを写真により違う景色に変換すること、またその逆にファンタジーな世界を日常のような景色に見せる事が好きです。人や物、風景、植物……全てのモノをそのように捉えること。それはダイナミックなヴィジュアルになることもあれば静寂な印象にも、時には激情みたいなものを感じることがあるかもしれません。
僕は撮影には制約が欲しいタイプです。限られた時間、限られた場所、そういった環境で写真を撮っていたからかな。例えば写真を撮る為に庭の草取りをしなくちゃいけなかったし、ここで撮りたいっていう指示も聞いてくれやしない中、汗だくになって草取りを終えて、カメラを手に取り一言も発さずにシャッターを切って、「もういいだろ」って言われてからが勝負だったんです。チャンスはごく僅かしかなくて、でもその少ないチャンスに胸が踊るんです。感情だけ自由をもらえれば泳げる人間なんだと思います。
- これまでたくさんのブランドやクライアントと仕事をする機会があったと思いますが、一番思い出に残るプロジェクトは何ですか?
VAINL ARCHIVEとの仕事。僕がデビューしてから今まで、沢山のヴィジュアルを作ってきました。世界的に評価されるべきブランドだと思います。
-〈Supreme〉と〈Sasquatchfabrix.(サスクワッチファブリックス)〉のコラボレーションルックはパワフルなイメージが特徴的ですが、どのようにプロジェクトに取り組まれたのですか? また、撮影期間はどれくらいでしたか?
サスクワッチの横山さんとスタイリストの林道雄さんから連絡をもらい。土台はお2人に作ってもらいました。その土台を自分なりに崩し再構築していく作業です。舞台は東京。撮影は僕が普段撮っている、新宿、渋谷、駒沢、下北沢、浅草、高円寺、あと首都高を走りながら。僕なりに泥臭く、モダンなモノをセレクトし撮影しました。東京モダンです。撮影は3日でした。その勢いが本に出ていると思います。
- 最近ニューヨークに引っ越されたそうですが、もう新しい街に落ち着き、改めて何か気づいたことなどはありますか?
はい。自分ははごちゃごちゃしている場所が好きなんだと再認識しました。
- 2017年に向けたプロジェクトを教えてください。
現在ニューヨークに暮らし制作しています。コニーアイランドというブルックリンの南端の小さな海沿いの街をテーマに制作してしています。ストリップバーで働く中年男性がこのストーリーの主人公で、2017年に発表出来るかと思います。それと、『父をみる』という写真集の展示を東京で行います。これは自分の父親を8年間撮りためたものです。自分の今のスタイルの基盤になっている写真です。このシリーズはしっかり展示したことがないのでこのタイミングでみさなんに見せたいなと思って。まぁなにより、この写真は自分が一番近くで見たいかもしれません。写真集を発表して3年が経ちますが、今でもそのイメージに引っ張られている気がしてならないんです。客観的に見れる日がくれば良いなと思っていました。楽しみです。
- フォトグラファーを目指す人々へアドバイスを是非。
自分だけの視点を持ち続ける事。師匠なんていりません。教わらなくて良い。何を撮りたいか分からなかったら、自分の生きてきた道を振り返り、嫌いだったやつ、好きだった子、なんでもいい。なぜ撮るのか、なんて疑問は未来に必ず解決します。自分はそれが父親でした。自分にしか関われない者、物、モノ。それを見つけるべきです。あたたとだれかとの小さい世界だったものがいずれ誰かを巻き込んで大きな世界に変わるかもしれません。そしたらまた違う見え方になるかもしれない。嫌いだったやつも好きになるかもしれません。